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「率」と「比」は似て非なるもの―分子と分母の関係で読み解く保健統計

第103回医師国家試験 E問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第17問

医学統計で誤っているのはどれか。

  1. a.率の算出では分子は分母に含まれる。
  2. b.比の算出では分子と分母とは独立である。
  3. c.率の算出には時間的な概念が入ることがある。
  4. d.比の算出には時間的な概念が入ることがある。
  5. e.率と比は同じ意味で使用できる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、保健統計でよく使う「率」と「比」の違いを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので注意しよう。着眼点はただ一つ、「分子が分母に含まれているかどうか」。これさえ押さえれば迷わないよ。
医学生医学生
正直、死亡率も性比もなんとなく割り算、くらいの認識でした。公衆衛生の講義でも区別をあまり意識していなかったです。
ドクタードクター
多くの人がそうなんだ。じゃあ具体例で考えよう。ある町の死亡率を出すとき、分子の死亡者は分母の人口に含まれているかな。
医学生医学生
亡くなった人も、もともとその町の住民なので含まれています。
ドクタードクター
その通り。率は「全体のうちどれだけが該当するか」を表す指標で、分子は分母の一部なんだ。罹患率や有病率も同じ考え方だね。では、性比はどうだろう。
医学生医学生
男性数を女性数で割るので、分子の男性は分母の女性に入っていません。だから比では分子と分母が独立している、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。比は性質の異なる、互いに独立した2つの量を割り算で比べる指標。オッズ、つまり起こる数を起こらない数で割ったものも、分子と分母が重ならないから比の仲間なんだ。
医学生医学生
では時間の概念はどうでしょう。率には時間が入るイメージがありますが、比に入るとは思っていませんでした。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。まず率から。罹患率や死亡率は「一定期間内に新たに起こった数」を数えるから、分母に観察期間が入る。人年法では各人の観察年数を合計して分母にするんだ。一方、有病率はある一時点で病気をもつ人の割合だから、期間の概念は含まない。だから率には時間の概念が「入ることがある」というのが正確な言い方になる。
医学生医学生
CBTの対策で、罹患率と有病率の違いを何度も問われたのを思い出しました。
ドクタードクター
頻出の論点だね。そして比について。比はあくまで割り算の形をとるだけなので、比べる2つの量が期間をもつものなら、比にも時間の概念が入る。たとえば標準化死亡比は、一定期間の観察死亡数と、基準集団の死亡率から計算した期待死亡数を比べたものだ。
医学生医学生
相対危険も、曝露群と非曝露群の罹患率どうしの比なので、時間の要素を含むわけですね。
ドクタードクター
その通り。ここまでで、分子が分母に含まれる率、独立した2量を比べる比、そしてどちらにも時間の概念が入りうる、という記述はすべて正しいとわかった。残る「率と比は同じ意味で使用できる」はどうかな。
医学生医学生
分子と分母の関係が根本的に違うので、同じ意味では使えません。これが誤りの記述ですね。
ドクタードクター
正解。同じ町のデータでも、男性の割合、つまり男性を全人口で割ったものと、性比、つまり男性を女性で割ったものは値も意味もまるで違う。例えば男女同数なら、割合は0.5、性比は1になる。
医学生医学生
同じデータから全然違う数字が出るなら、混同すると解釈を誤りそうです。
ドクタードクター
そうなんだ。発展として、厳密な疫学用語の整理も知っておこう。分子が分母に含まれ0から1の値をとるものを「割合」、分母に人年などの時間を含み発生の速さを表すものを「率」、独立した2量の割り算を「比」と呼び分ける。日本語では有病率や致命率のように、厳密には割合のものにも慣用的に「率」が使われている。本問の「率」はその広い意味で使われていると考えればいい。
医学生医学生
論文を読むときは、その数字が割合なのか率なのか比なのかを意識して読むべきですね。
ドクタードクター
まさにそれが大事。コホート研究なら人年法で罹患率を出して相対危険を求め、症例対照研究ならオッズ比を相対危険の近似として使う。SMRなら100を超えれば基準集団より死亡が多い。指標の成り立ちを理解していれば、臨床研究の結果を正しく読み取れるようになるよ。

まとめ

保健統計でいう「率」は分子が分母に含まれる指標(死亡率、罹患率、有病率など)で、「比」は互いに独立した2つの量を比べる指標(性比、オッズ、標準化死亡比、相対危険など)です。罹患率や死亡率は人年法などで観察期間を分母に含むため時間の概念をもち、有病率は時点の指標です。比も、期間をもつ量どうしを比べれば時間の概念を帯びます。率と比は分子と分母の関係が根本的に異なる別の概念であり、同じ意味では使えません。厳密には割合・率・比を区別するという疫学の整理を理解しておくと、論文や統計データを正しく解釈する力につながります。

解答・解説

正解はeです

本問は、保健統計・疫学で用いる「率」と「比」という指標の違いを問う一般問題である。「誤っているもの」を選ぶ形式であることに注意する。

率(本問でいう率)

分子が分母の一部分となっている指標である。たとえば「ある集団のうち病気になった人の数 ÷ その集団の人数」のように、分子に数えられる人は必ず分母の集団にも含まれる。死亡率・罹患率・有病率などがこれにあたる。罹患率や死亡率のように、一定の観察期間の中で新たに起こった出来事を数える指標では、分母に観察期間(人年など)が組み込まれ、時間の概念をもつ。

比

性質の異なる、互いに独立した二つの量を割り算で比べる指標である。分子が分母に含まれる必要はない。性比(男性数 ÷ 女性数)が典型例であり、分子の男性は分母の女性に含まれない。比は割り算の形をとるだけなので、比べる二つの量が時間を含む指標であれば、比も時間の概念を帯びる。標準化死亡比(SMR)や相対危険(罹患率比)がその例である。 このように、率と比は分子と分母の関係がまったく異なる別の概念であり、同じ意味として扱うことはできない。これを押さえれば正解は明らかである。

選択肢考察

  1. ×a.  率の算出では分子は分母に含まれる。

    正しい記述である。率は「全体のうちどれだけが該当するか」を示す指標であり、分子(該当者)は分母(観察集団)の一部である。たとえば死亡率では、死亡した人はもともと分母の人口の中に含まれている。したがって誤りを選ぶ本問では、正解にならない。

  2. ×b.  比の算出では分子と分母とは独立である。

    正しい記述である。比は、別々の二つの量の大きさを比べる指標であり、分子と分母は互いに重ならない。性比(男性人口 ÷ 女性人口)では、分子の男性は分母の女性に含まれない。オッズ(ある事象が起こる数 ÷ 起こらない数)も、分子と分母が重ならない比の一種である。

  3. ×c.  率の算出には時間的な概念が入ることがある。

    正しい記述である。罹患率や死亡率は「一定期間内に新たに発生した数」を分子とし、分母には観察した人口とその期間(人年法では「人数×観察年数」)を用いるため、時間の概念を含む。一方、有病率(ある一時点で病気をもっている人の割合)のように、時点で測る指標は期間の概念を含まない。このように、時間的概念が入る場合と入らない場合があるので、「入ることがある」という表現は正しい。

  4. ×d.  比の算出には時間的な概念が入ることがある。

    正しい記述である。比の分子・分母に、期間をもつ量を用いれば、比にも時間的な概念が入る。たとえば標準化死亡比(SMR:観察された死亡数 ÷ 基準集団の死亡率から計算した期待死亡数)は、一定期間の死亡数どうしを比べている。また相対危険(曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率)も、人年を用いた罹患率どうしの比であり、時間の要素を含む。

  5. ○e.  率と比は同じ意味で使用できる。

    誤った記述であり、本問の正解である。率は分子が分母に含まれる指標、比は互いに独立した二つの量を比べる指標であり、分子と分母の関係が根本的に異なる。例として、ある町の「男性の割合(男性 ÷ 全人口)」と「性比(男性 ÷ 女性)」は同じデータから計算しても値も意味も異なる。したがって両者を同じ意味で使うことはできない。

指標の区別(疫学での整理)

・割合(proportion):分子が分母に含まれ、値は0〜1(0〜100%)の範囲をとる。単位はない。例:有病率、致命率、累積罹患率(一定期間に発症した人の割合)。 ・率(rate):厳密な疫学用語としては、一定期間あたりの発生の速さを表し、分母に「人年」などの時間を含む。例:罹患率(発生率)、死亡率。 ・比(ratio):独立した二つの量の割り算。例:性比、オッズ、標準化死亡比、相対危険、オッズ比。 日本語の保健統計では「有病率」「致命率」のように、厳密には割合である指標にも「率」という語が慣用的に使われる。本問における「率」は、この広い意味(分子が分母に含まれる指標)で用いられていると考えればよい。

代表的な指標の例

・罹患率=一定期間の新規発症数 ÷ 観察した人年(時間の概念あり) ・有病率=ある時点の有病者数 ÷ その時点の人口(時点の指標) ・標準化死亡比(SMR)=観察死亡数 ÷ 期待死亡数(×100で表すことが多い)。100を超えれば基準集団より死亡が多いことを示す。 ・相対危険(リスク比)=曝露群の罹患率(またはリスク) ÷ 非曝露群の罹患率(またはリスク)。主にコホート研究で求める。 ・オッズ比:症例対照研究で相対危険の近似値として用いる比。

人年法

観察期間の長さが人ごとに異なるとき、各人の観察年数を合計して分母とする方法である。例えば10人を2年間ずつ観察すれば20人年となる。コホート研究で罹患率を求める際に用いられる。

POINT

・率(割合):分子は分母の一部。 ・比:分子と分母は独立(性比、オッズ、SMR、相対危険など)。 ・罹患率・死亡率は期間を含む(人年を用いる)。有病率は時点の指標。 ・比でも、期間をもつ量どうしを比べれば時間の概念が入る(SMR、相対危険)。 ・率と比は別概念であり、同じ意味では使えない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。