僧帽弁が開いた「その直後」―圧曲線で読み解くIII音のタイミング
第103回医師国家試験 E問題 第15問
国試問題にチャレンジ
心電図と左心の心周期とを図に示す。 Ⅲ音を聴取するのはどこか。

- a.
- b.
- c.
- d.
- e.
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
左心系の圧曲線では、左室圧が左房圧を上回る点で僧帽弁が閉じてI音、大動脈圧の重複切痕で大動脈弁が閉じてII音、左室圧が左房圧を下回る点で僧帽弁が開きます。III音は僧帽弁開放の直後、左房から左室へ血液が急速に流入する拡張早期の急速充満期に生じる低調な音で、若年者では生理的なこともありますが、中高年では心不全や容量負荷を示唆します。これに対しIV音はP波に続く心房収縮期に生じ、心室壁が硬い状態で聴かれ、心房細動では消失します。拡張早期の過剰心音は、II音に近い順に僧帽弁開放音、心膜ノック音、III音と区別できます。圧の交点を弁の開閉と結びつけて理解することは、聴診所見から病態を推定する臨床力の土台になります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
心電図・左心系の圧曲線(大動脈圧・左室圧・左房圧)・心音のタイミングの対応関係を問う一般問題である。心音は弁の開閉や血流の急な変化に伴って生じるので、圧曲線上で「どの圧がどの圧を上回ったか・下回ったか」を読み取れば、各時点で何が起きているかがわかる。
図の読み方
図の縦の点線 a〜e が示す時点を、心周期の流れに沿って整理する。 ・a:心電図のP波の後、左房圧が小さく盛り上がっている(左房圧のa波)。拡張末期の心房収縮の時点である。 ・b:QRS波の直後に左室圧が急上昇し、左房圧を上回る点。ここで僧帽弁が閉鎖し、心室収縮期(等容性収縮期)が始まる。 ・c:大動脈圧曲線に小さな切れ込み(重複切痕:dicrotic notch)がみられる点。T波の終わりごろで、大動脈弁が閉鎖し駆出期が終わる時点である。 ・d:等容性弛緩期に左室圧が急低下し、左房圧を下回る点。ここで僧帽弁が開放する。 ・e:僧帽弁開放の直後、左房から左室へ血液が勢いよく流れ込み、左室圧がいったん最低点をつけた後に上昇に転じる時期。拡張早期の急速充満期にあたる。
III音の成り立ちと正解の考え方
III音は、拡張早期の急速充満期に、左房から流れ込んだ大量の血液が心室壁に当たり、心室が急に拡張を止められることで生じる低調な音である。II音から約0.12〜0.18秒遅れて聴かれる。したがって、僧帽弁開放(d)の直後の急速充満期に相当する e が III音を聴取する時点となる。
選択肢考察
- ×a.
a はP波に続く左房圧の上昇(a波)の時点で、拡張末期に心房が収縮して血液を心室へ押し込む時期である。ここで聴かれることのある過剰心音はIV音(心房音)である。IV音は、心室壁が硬くなって伸びにくい状態(高血圧による左室肥大、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞など)で、心房収縮による流入が心室壁にぶつかって生じる。心房収縮が必要なため、心房細動では聴かれない。III音の時点ではない。
- ×b.
b はQRS波の直後に左室圧が左房圧を上回る点で、僧帽弁(および三尖弁)が閉鎖する時点である。これはI音の発生に相当し、心室収縮期の始まりを示す。この後、大動脈弁が開くまでの間が等容性収縮期となる。III音の時点ではない。
- ×c.
c は大動脈圧曲線に重複切痕がみられる点で、左室圧が大動脈圧を下回り大動脈弁が閉鎖する時点である。これはII音(の大動脈成分:IIA)の発生に相当し、駆出期の終わり、拡張期の始まりを示す。III音はこれより後の拡張早期に聴かれるので、この時点ではない。
- ×d.
d は左室圧が左房圧を下回り、僧帽弁が開放する時点である(ここまでが等容性弛緩期)。正常の僧帽弁は開放しても音を出さないが、僧帽弁狭窄症では硬くなった弁尖が開くときに高調で鋭い僧帽弁開放音(OS:opening snap)が聴かれる。OSはII音の直後(約0.04〜0.12秒後)で、III音よりも早い時点に出現する。III音は僧帽弁が開いた後、血液が急速に流入する時期に生じるので、d ではない。
- ○e.
e は僧帽弁開放の直後で、左房に溜まっていた血液が左室へ一気に流れ込む急速充満期にあたる。III音は、この急速な流入によって心室壁が急に伸展され、その動きが急に止められることで生じる低調な心音である。したがって、III音を聴取するのは e の時点である。
左心系の心周期
1. 等容性収縮期:心室収縮開始から、僧帽弁が閉じ大動脈弁が開くまで。容積は変わらずに左室圧だけが急上昇する。I音はこの初めに生じる。 2. 駆出期:左室圧が大動脈圧を上回って大動脈弁が開き、血液が大動脈へ送り出される期間。 3. 等容性弛緩期:大動脈弁閉鎖(II音)から僧帽弁開放まで。容積は変わらずに左室圧が急低下する。 4. 急速充満期:僧帽弁開放直後、左房から左室へ血液が急速に流入する。III音の時期。 5. 緩徐充満期:流入が緩やかになる拡張中期。 6. 心房収縮期:拡張末期に心房が収縮し、残りの血液を心室へ送り込む。IV音の時期。
心電図との対応
P波(心房の脱分極)→心房収縮、QRS波(心室の脱分極)→心室収縮の開始(I音はQRS波の直後)、T波(心室の再分極)の終わりごろ→大動脈弁閉鎖(II音)。
心音のまとめ
・I音:房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖音。心尖部で大きく聴かれる。 ・II音:半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖音。心基部で大きく聴かれる。吸気時には右心への静脈還流が増えて肺動脈弁の閉鎖が遅れるため、II音が分裂して聴こえる(生理的分裂)。 ・III音:拡張早期の急速充満期に生じる低調な音。小児・若年者やスポーツ心臓では生理的に聴かれることがあるが、中高年では心不全(左室の容量負荷・拡大)、僧帽弁閉鎖不全症などを示唆する病的所見となる。心不全ではIII音による奔馬調律(gallop)が特徴的である。 ・IV音:拡張末期の心房収縮に伴う低調な音。心室のコンプライアンス(伸びやすさ)が低下した状態(高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、虚血性心疾患など)で聴かれ、健常成人では通常聴かれない。心房細動では消失する。 ・III音とIV音はいずれも低調なので、聴診器のベル型を心尖部に軽く当て、左側臥位にすると聴きやすい。 ・I音・II音以外の心音は過剰心音と呼ばれ、III音・IV音のほか、僧帽弁開放音(OS:僧帽弁狭窄症)、駆出音(大動脈弁狭窄症や大動脈拡張など)、収縮中期クリック(僧帽弁逸脱症)、心膜ノック音(収縮性心膜炎)などがある。
III音と紛らわしい拡張早期の過剰心音
II音からの間隔が短い順に、僧帽弁開放音(OS、高調)→心膜ノック音(収縮性心膜炎で心室の拡張が急に制限されて生じる)→III音(低調)の順と覚えると区別しやすい。
POINT
・心周期の各点を圧曲線の交点で読む:左室圧>左房圧で僧帽弁閉鎖(I音)、大動脈圧の重複切痕で大動脈弁閉鎖(II音)、左室圧<左房圧で僧帽弁開放(僧帽弁狭窄症ではOS)。 ・III音は僧帽弁開放直後の急速充満期(拡張早期)に生じる。 ・IV音は拡張末期の心房収縮期(P波の後)に生じ、心房細動では消失する。 ・III音は若年者では生理的なこともあるが、中高年では心不全・容量負荷を示唆する。IV音は心室壁が硬い状態を示唆する。 ・III音・IV音は低調音であり、ベル型で心尖部を左側臥位で聴く。
