薬を飲んだら胸が苦しい―PTP誤飲を繰り返さないための「一包化」という処方箋
第118回医師国家試験 A問題 第39問
国試問題にチャレンジ
86歳の男性。胸部の違和感を主訴に来院した。夕食後,薬を内服する際に違和感があった。その後も違和感が持続し軽快しないため受診した。高血圧症,脂質異常症,高尿酸血症,前立腺肥大症,脊柱管狭窄症による腰痛,不眠症および逆流性食道炎に対して内服加療中である。両眼の白内障手術を予定している。一人暮らしで,身の回りのことは自分で行っている。意識は清明。身長160cm,体重50kg。体温36.6℃。脈拍80/分,整。血圧146/88mmHg。呼吸数14/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,圧痛を認めない。腸雑音に異常を認めない。上部消化管内視鏡検査では食道内に異物があり,胃内に落としたのち把持鉗子を用いて回収した。上部消化管内視鏡の胃体部像を示す。 再発防止のために適切な対応はどれか。

- a.胃瘻造設
- b.経鼻胃管留置
- c.処方する内服薬の一包化
- d.内服薬の注射薬への変更
- e.PTP(錠剤やカプセル剤の包装)を1錠ずつ切り離す
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高齢者が内服直後から胸部違和感や咽頭痛を訴えた場合は、PTPシートごと薬を飲み込んだ食道異物を考えます。PTPは単純エックス線写真で写りにくくCTや内視鏡で診断し、鋭い角による食道損傷や穿孔を避けるため工夫しながら内視鏡で摘出します。誤飲の背景には高齢、多剤内服、視力低下、服薬の自己管理といった要因があり、患者がPTPを扱わずに済む一包化が最も適切な再発防止策です。胃瘻や経鼻胃管、注射薬への変更は過剰であり、PTPを1錠ずつ切り離すことはかえって誤飲の危険を高めます。事故の原因を分析して対策を選び、薬剤師など多職種と連携して服薬環境を整える視点は、高齢者診療全般で欠かせない力です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・86歳の男性(後期高齢者)。夕食後に薬を飲んだ際から胸部の違和感が生じ、持続している。 ・高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症、前立腺肥大症、脊柱管狭窄症による腰痛、不眠症、逆流性食道炎の7疾患で内服治療中であり、少なくとも7種類程度の薬を毎日服用していると推測される(多剤併用、ポリファーマシー)。 ・両眼の白内障手術を予定しており、視力が低下していると考えられる。 ・一人暮らしで日常生活は自立しており、服薬も自分で管理していると考えられる。 ・意識清明で、血圧がやや高い以外はバイタルサイン・身体所見に異常はない。発熱・頻脈・頸部や胸部の異常所見がなく、食道穿孔や縦隔炎を疑わせる所見はない。 ・上部消化管内視鏡検査で食道内に異物を認め、胃内に落としてから把持鉗子で回収した。胃体部の内視鏡像では、錠剤を包んだ状態のPTP(press through package)シート片が写っている。
診断へのプロセス
胸部違和感は心疾患・肺疾患・縦隔疾患・消化管疾患・筋骨格系疾患・心因性など幅広い鑑別を要する症状である。しかし本例では症状が「薬を内服した際」に始まっており、内服行為と関連した上部消化管の異常がまず疑われる。内視鏡所見と合わせると、PTPシートごと薬を飲み込んだことによる食道異物(PTP誤飲)と診断できる。 PTP誤飲の背景として、本例には(1)高齢、(2)多剤内服で1回に開封する薬が多いこと、(3)白内障による視力低下で包装の有無を目で確認しにくいこと、が挙げられる。さらに、1回分を準備するためにPTPシートをはさみなどで1錠ずつ切り離していた可能性もある。
設問への考え方
問われているのは「再発防止策」である。誤飲の原因は嚥下機能障害ではなく、PTPシートから薬を取り出す過程にある。したがって、患者が自分でPTPシートを扱わなくて済むようにする対策、すなわち薬剤師が1回に服用する複数の薬をPTPから取り出して1袋にまとめる「一包化」が最も適切である。嚥下障害を前提とした経管栄養(胃瘻・経鼻胃管)や、投与経路の変更(注射薬)は過剰で不適切であり、1錠ずつ切り離すことはむしろ誤飲の危険を高める。
選択肢考察
- ×a. 胃瘻造設
胃瘻は、腹壁から胃内へ瘻孔をつくりカテーテルを通して栄養や薬剤を注入する方法で、脳血管障害後や神経筋疾患などで経口摂取が長期に困難な場合に適応となる。本例はADL(日常生活動作)が自立し、嚥下機能の障害を示す情報もない。誤飲の原因はPTPシートの取り扱いにあり、侵襲的な処置である胃瘻造設の適応はない。
- ×b. 経鼻胃管留置
経鼻胃管は、鼻から胃内へ管を挿入・留置し、経口摂取できない患者への栄養・薬剤投与や、腸閉塞などでの胃内容の減圧に用いる。本例は経口摂取に問題がなく、腸閉塞などの減圧を要する病態もない。長期留置は不快感、鼻腔・咽頭の潰瘍、誤嚥性肺炎などの合併症もあり、PTP誤飲の再発防止策としては不適切である。
- ○c. 処方する内服薬の一包化
一包化とは、同じ時点(朝食後、夕食後など)に服用する複数の薬を、薬剤師がPTPシートから取り出して1回分ずつ1つの袋にまとめる調剤方法である。患者はPTPシートから薬を押し出す作業をしなくてよくなるため、PTPごと飲み込む事故を根本的に防げる。また、多剤内服の高齢者で起こりやすい飲み忘れ・重複服用・取り違えの防止にも役立つ。視力が低下し、多剤を自己管理している一人暮らしの高齢者である本例に最も適した対応である。
- ×d. 内服薬の注射薬への変更
薬物投与は経口投与が基本であり、注射は経口投与ができない場合、経口では十分な効果が期待できない場合、迅速な効果が必要な場合などに選択される。本例の薬はいずれも慢性疾患に対する長期の維持療法であり、注射への変更は通院負担・痛み・感染リスクを伴い現実的でない。一人暮らしで自己注射を行う必要が生じれば負担もさらに大きい。PTPの取り扱いを改善する一包化でまず対応すべきである。
- ×e. PTP(錠剤やカプセル剤の包装)を1錠ずつ切り離す
PTPシートは1錠ずつに切り離された状態になると、小さく硬い包装片をそのまま口に入れて飲み込んでしまいやすくなる。そのため、現在の多くのPTPシートは、ミシン目を一方向のみに入れて1錠ずつには切り離せない構造になっており、1錠ずつ切り離さないよう注意喚起もされている。本例のように視力が低下した多剤内服の高齢者では、切り離しによって誤飲の危険はかえって増し、また自分で開封する薬の数も減らないため、再発防止にならない。
PTP誤飲の特徴
・PTP(press through package)は錠剤やカプセルをプラスチックとアルミ箔で包んだ包装で、指で押して薬を取り出す。誤飲は高齢者に多く、多剤内服、認知機能低下、視力低下、自分で1錠ずつ切り離す習慣などが危険因子となる。 ・PTPは角が鋭く硬いため、食道粘膜を傷つけ、潰瘍、出血、さらには食道穿孔から縦隔炎を起こすことがある。腸管まで進むと腸管穿孔の原因にもなる。 ・食道には生理的狭窄部が3か所ある(食道入口部、大動脈弓と左主気管支の交差部、横隔膜貫通部)。異物はこれらの部位、特に食道入口部に停滞しやすい。 ・PTPは単純エックス線写真では写りにくく、見逃されやすい。CTは検出に有用である。 ・治療は原則として内視鏡による緊急摘出である。抜去時に鋭い角で食道粘膜を傷つけないよう、オーバーチューブや先端フードを用いる、いったん胃内に落としてから向きを整えて回収するなどの工夫が行われる。
ポリファーマシーと服薬支援
・高齢者は複数の慢性疾患を抱えるため多剤内服になりやすく、薬物有害事象、飲み忘れ、過量服用、誤飲などの服薬過誤が増える。 ・対策として、処方の見直しによる薬剤数の削減、一包化、服薬カレンダーやお薬ケースの利用、服用回数の統一、家族や訪問薬剤師・訪問看護による服薬管理支援などがある。 ・一包化の袋に服用日や服用時点を印字すれば、取り違えや飲み忘れの確認も容易になる。
POINT
・高齢者の内服直後からの胸部違和感・咽頭痛では、PTP誤飲による食道異物を考える。 ・PTPは単純エックス線写真では写りにくく、診断・摘出は内視鏡で行う。鋭い角による食道損傷・穿孔に注意する。 ・再発防止の基本は一包化(患者自身がPTPを扱わずに済むようにする)である。 ・PTPシートを1錠ずつ切り離すと、かえって誤飲の危険が高まる。
