痔瘻と飛び石状の小腸病変―Crohn病の内視鏡像を「似た所見」と比べて覚える
第103回医師国家試験 D問題 第37問
国試問題にチャレンジ
17歳の女子。下痢と肛門部痛とを主訴に来院した。6か月前から37℃前後の発熱と軟便とを認めた。2週前から6,7回/日の下痢を認めた。体温37.6℃。肛門周囲に瘻孔と腫脹とを認める。血液所見:赤血球310万,Hb 9.1g/dL,白血球9,800。CRP 6.8mg/dL。小腸造影写真を別に示す。 この疾患の下部消化管内視鏡検査でみられるのはどれか。2つ選べ。

- a.敷石像
- b.偽膜形成
- c.輪状潰瘍
- d.非連続性病変
- e.血管透見像消失
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の慢性下痢に痔瘻などの難治性肛門病変と小腸病変を伴う場合は、Crohn病を強く疑います。Crohn病は全層性の炎症を特徴とし、内視鏡では縦走潰瘍、敷石像、そしてそれらが正常粘膜を挟んで飛び石状に分布する非連続性病変(skip lesion)がみられます。一方、血管透見像消失や直腸からの連続性病変は潰瘍性大腸炎、輪状潰瘍は腸結核、偽膜は偽膜性腸炎、打ち抜き様潰瘍は腸管Behçet病の所見であり、潰瘍の向きと病変の分布が鑑別の軸になります。病理での非乾酪性類上皮細胞肉芽腫や、栄養療法・生物学的製剤を含む治療、切除を最小限にとどめる外科方針もあわせて押さえておきましょう。腸疾患ごとの特徴的所見を対比して整理することは、内視鏡像の読影と臨床での鑑別診断の両方に直結します。
解答・解説
正解はa, dです
所見の整理
・17歳の女子という若年者である。 ・6か月にわたる微熱と軟便があり、最近は1日6〜7回の下痢に増悪している。慢性に経過する腸炎である。 ・肛門周囲に瘻孔と腫脹があり、肛門部痛を訴えている。痔瘻や肛門周囲膿瘍などの難治性肛門病変は、Crohn病の診断の重要な手がかりである。 ・血液検査では白血球 9,800/μL、CRP 6.8 mg/dL と炎症反応が上昇し、Hb 9.1 g/dL の貧血を伴う。慢性炎症による貧血や、腸管からの出血・吸収障害による鉄欠乏が考えられる。 ・小腸造影では、腸管の長軸方向に沿った縦走潰瘍と、腸管の片側(腸間膜付着側)に偏った変形・狭小化がみられ、病変部の間に正常な腸管が介在している(skip lesion)。
診断へのプロセス
若年者の慢性下痢と炎症反応からは炎症性腸疾患を考え、Crohn病、潰瘍性大腸炎、腸結核、腸管Behçet病などが鑑別に挙がる。 ・潰瘍性大腸炎:直腸から連続性に広がる大腸の粘膜病変が主体で、小腸病変や痔瘻などの肛門病変は通常みられない。 ・腸結核:回盲部に好発し、腸管を取り巻く輪状(帯状)潰瘍や、萎縮瘢痕帯を特徴とする。 ・腸管Behçet病:回盲部の深い打ち抜き様潰瘍が特徴で、口腔内アフタや外陰部潰瘍、眼病変などを伴う。 本症例は、若年発症、痔瘻などの肛門病変、小腸の縦走潰瘍と非連続性(区域性)病変・偏側性変形がそろっており、Crohn病と診断できる。
設問の考え方
Crohn病の下部消化管内視鏡所見として代表的なものは、縦走潰瘍、敷石像(cobblestone appearance)、不整形潰瘍・アフタ、そしてそれらが非連続性(skip lesion)に分布することである。他の腸疾患に特徴的な所見と区別して覚えておくことが求められる。
選択肢考察
- ○a. 敷石像
敷石像(cobblestone appearance)は、縦走潰瘍と、それと交わる小潰瘍に囲まれた粘膜が、浮腫と炎症細胞浸潤によって島状に盛り上がり、石畳を敷き詰めたように見える所見である。Crohn病の全層性炎症を反映する特徴的所見で、縦走潰瘍とともに診断基準の主要所見に含まれる。回腸末端から回盲部、大腸に認められることが多い。
- ×b. 偽膜形成
偽膜は、フィブリン、炎症細胞、壊死上皮などが粘膜表面に付着して形成される黄白色の膜様・小隆起状の病変で、Clostridioides difficile(旧名 Clostridium difficile)の毒素による偽膜性腸炎に特徴的である。広域抗菌薬投与後に発症することが多く、直腸からS状結腸を中心に多発する。Crohn病でみられる所見ではない。
- ×c. 輪状潰瘍
輪状潰瘍(帯状潰瘍)は、腸管の短軸方向(円周方向)に広がる潰瘍で、腸結核の代表的所見である。結核菌がリンパ流に沿って腸管を取り巻くように病変をつくるためと説明される。治癒後には萎縮瘢痕帯を残し、回盲弁の開大・変形を伴うこともある。Crohn病の潰瘍は腸管の長軸方向に沿う縦走潰瘍であり、方向が異なる。なお、NSAIDs起因性腸病変でも輪状潰瘍や膜様狭窄がみられることがある。
- ○d. 非連続性病変
Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも病変が生じうるが、その分布は区域性・非連続性で、病変部の間に正常な粘膜が介在する(skip lesion)。これは、直腸から口側へ連続性・びまん性に病変が広がる潰瘍性大腸炎との重要な鑑別点である。本症例の小腸造影でも、正常部を挟んで病変が飛び石状に存在している。
- ×e. 血管透見像消失
正常な大腸粘膜では、粘膜下の血管網が透けて見える(血管透見像)。粘膜全体にびまん性の浮腫・炎症があるとこれが見えなくなり、潰瘍性大腸炎で最も早期から認められる代表的所見となる。潰瘍性大腸炎は粘膜・粘膜下層を主座とする浅い炎症が直腸から連続性に広がる疾患で、血管透見像消失、粘膜の顆粒状変化、易出血性、びらんなどを示す。Crohn病では病変間の粘膜は正常で、血管透見像は保たれることが多い。
Crohn病の概要
原因不明の慢性肉芽腫性炎症性疾患で、口腔から肛門までの全消化管に非連続性に病変を生じうる。好発部位は回腸末端から回盲部で、小腸型、小腸大腸型、大腸型に分けられる。10〜20歳代の若年者に多く、男性にやや多い。
病理
腸管壁の全層に及ぶ炎症(全層性炎症)と、乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が特徴である。全層性の炎症のため、瘻孔(腸管-腸管、腸管-皮膚、腸管-膀胱など)、狭窄、膿瘍を形成しやすい。
症状
腹痛、下痢、発熱、体重減少、全身倦怠感、貧血が多い。痔瘻や肛門周囲膿瘍などの肛門病変の頻度が高く、初発症状となることもある。腸管外合併症として、関節炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、虹彩炎・ぶどう膜炎、口腔内アフタなどがある。回腸末端の病変ではビタミンB12や胆汁酸の吸収障害が起こりうる。
内視鏡・造影所見
・縦走潰瘍(腸間膜付着側に沿って長軸方向に走る潰瘍) ・敷石像 ・不整形潰瘍、アフタ(縦列することがある) ・非連続性(区域性)病変 ・小腸造影での偏側性変形、狭窄、瘻孔 生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が得られれば診断の助けとなる。
潰瘍性大腸炎との比較
・病変範囲:Crohn病は全消化管/潰瘍性大腸炎は大腸(直腸から連続性) ・分布:Crohn病は非連続性/潰瘍性大腸炎は連続性・びまん性 ・炎症の深さ:Crohn病は全層性/潰瘍性大腸炎は粘膜・粘膜下層が主体 ・内視鏡:Crohn病は縦走潰瘍・敷石像/潰瘍性大腸炎は血管透見像消失・易出血性・びらん・偽ポリポーシス ・病理:Crohn病は非乾酪性肉芽腫/潰瘍性大腸炎は陰窩膿瘍、杯細胞減少 ・肛門病変・瘻孔:Crohn病で多い/潰瘍性大腸炎ではまれ
治療の概要
栄養療法(成分栄養剤など)、5-アミノサリチル酸製剤、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬(アザチオプリンなど)、生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)を病勢に応じて用いる。狭窄、瘻孔、膿瘍などには外科治療を行うが、再発が多いため腸管切除は最小限にとどめる。
POINT
・若年者の慢性下痢+痔瘻などの肛門病変+小腸病変 → Crohn病を考える。 ・Crohn病の内視鏡所見:縦走潰瘍、敷石像、非連続性(skip lesion)。 ・潰瘍性大腸炎:直腸から連続性の病変、血管透見像消失。 ・腸結核:輪状(帯状)潰瘍、萎縮瘢痕帯。 ・偽膜性腸炎:偽膜(抗菌薬投与後、C. difficile)。 ・腸管Behçet病:回盲部の打ち抜き様潰瘍。
