黒く抜けた血管の塊と「早すぎる静脈」―若年女性の発作性症状に潜む脳動静脈奇形
第103回医師国家試験 D問題 第38問
国試問題にチャレンジ
30歳の女性。発作性に起こる頭痛と右下肢のしびれ感とを主訴に来院した。神経学的には異常を認めない。頭部単純MRIのT1強調像(A)と左頸動脈造影写真側面像(B)とを別に示す。 診断はどれか。

- a.もやもや病
- b.静脈洞血栓症
- c.脳動静脈奇形
- d.硬膜動静脈瘻
- e.Sturge-Weber症候群
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
脳動静脈奇形(AVM)は、流入動脈と流出静脈が毛細血管を介さずナイダスで直接つながる先天性の血管奇形で、MRIではflow voidの集簇、脳血管造影ではナイダスと動脈相での流出静脈の早期描出が特徴です。20〜40歳代に多く、出血が最も多い発症様式ですが、てんかん発作や頭痛、盗血現象による一過性の神経症状で見つかることもあり、本例の右下肢のしびれは左頭頂部傍矢状部の病変と対応します。同じ動静脈短絡でも硬膜動静脈瘻は硬膜に短絡があってナイダスを欠き、もやもや病は内頸動脈終末部の狭窄と基底部の異常血管網、静脈洞血栓症は静脈洞の描出欠損、Sturge-Weber症候群は顔面母斑と脳回状石灰化で区別します。症状から病変部位を推定し、画像の意味を血流の生理から理解する姿勢は、若年者の脳卒中やてんかんの鑑別に広く役立ちます。
解答・解説
正解はcです
臨床所見の整理
・30歳の女性で、発作性(一過性・反復性)の頭痛と右下肢のしびれ感を訴えている。 ・受診時の神経学的診察では異常がない。つまり症状は持続性の神経脱落症状ではなく、発作的に出現しては消える性質のものである。 ・右下肢の感覚症状は、左大脳半球の正中近く(傍矢状部、中心後回の内側部から中心傍小葉付近)の障害を示唆する。下肢の感覚・運動野は大脳半球内側面寄りに位置しているためである。
画像所見
・A(頭部単純MRI T1強調像):左頭頂部の正中近傍に、黒く抜けた蛇行する管状・点状の構造が集簇している。これは血流が速いために信号が消失する flow void であり、異常な血管の塊が存在することを示す。明らかな腫瘍実質や出血、占拠効果(周囲を圧排する所見)は目立たない。 ・B(左頸動脈造影側面像):頭頂部付近に異常血管が絡み合った塊(ナイダス nidus)が描出され、動脈相の段階ですでに太い流出静脈(導出静脈)が上矢状静脈洞方向へ造影されている(静脈の早期描出)。これは動脈と静脈の間に毛細血管を介さない短絡(シャント)があることを意味する。
診断へのプロセス
血管造影で動脈相から静脈が描出される病態としては、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、血管に富む腫瘍(膠芽腫など)が挙げられる。 ・脳実質内にナイダスを形成するのは脳動静脈奇形である。 ・硬膜動静脈瘻の短絡は硬膜(多くは静脈洞壁)に存在し、脳実質内にナイダスはつくらない。 ・血管に富む腫瘍であれば、MRIで血管以外に腫瘍の実質成分や周囲の浮腫が認められるはずである。 したがって本症例は、左頭頂部傍矢状部の脳動静脈奇形(AVM)と診断できる。発作性の頭痛・しびれは、ナイダスへ血液が奪われることによる周囲脳の相対的虚血(盗血現象)や、焦点性のてんかん発作(感覚発作)によるものと考えられる。
選択肢考察
- ×a. もやもや病
もやもや病は、両側の内頸動脈終末部から前・中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞し、その代償として脳底部に細い異常血管網(もやもや血管)が発達する疾患である。MRIでは基底核部に多数の小さな flow void がみられ、血管造影では内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と、煙がたなびくようなもやもや血管が描出される。本症例の造影では内頸動脈や主幹動脈の狭窄・閉塞はなく、皮質部のナイダスと早期の静脈描出という所見はもやもや病とは異なる。なお、もやもや病は小児期(10歳以下)と成人期(30〜40歳代)に発症のピークがあり、小児では啼泣や過呼吸を誘因とする一過性脳虚血発作、成人では脳出血での発症が多い。
- ×b. 静脈洞血栓症
静脈洞血栓症は、上矢状静脈洞などの硬膜静脈洞が血栓で閉塞する疾患で、頭痛、けいれん、うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進症状を呈する。妊娠・産褥、経口避妊薬、脱水、血栓性素因などが危険因子である。画像では閉塞した静脈洞が造影されない(血管造影の静脈相やMR venographyで描出欠損)、亜急性期の血栓がT1強調像で高信号を示す、静脈性梗塞や出血を伴う、などの所見がみられる。本症例のように動脈相で異常血管塊や静脈の早期描出を示す疾患ではない。
- ○c. 脳動静脈奇形
脳動静脈奇形(AVM)は、流入動脈と流出静脈が毛細血管を介さずに、異常な血管塊(ナイダス)を通じて直接つながる先天性の血管奇形である。MRIではナイダスや拡張した流入・流出血管が flow void として蛇行した無信号域の集簇に描出され、脳血管造影ではナイダスと、動脈相での流出静脈の早期描出がみられる。本症例のA・Bはこれらの典型像を示している。臨床的には20〜40歳代での発症が多く、破裂による脳内出血・くも膜下出血が最も多い発症様式だが、てんかん発作、頭痛、盗血現象による一過性の神経症状で見つかることもある。右下肢のしびれは、左頭頂部傍矢状部のナイダスの位置とよく一致する。
- ×d. 硬膜動静脈瘻
硬膜動静脈瘻は、硬膜を栄養する動脈(主に外頸動脈の枝である中硬膜動脈、後頭動脈など)と硬膜静脈洞・皮質静脈との間に短絡が生じる後天性の疾患である。静脈洞血栓症や外傷、手術などが誘因となり、中高年に多い。横静脈洞-S状静脈洞部や海綿静脈洞部に好発し、拍動性耳鳴や、海綿静脈洞部では眼球突出・結膜充血・複視を呈する。動静脈短絡を示す点はAVMと共通するが、短絡部位は硬膜にあり、脳実質内のナイダスは形成しない。本症例は内頸動脈系から脳実質内のナイダスが描出されており、硬膜動静脈瘻ではない。
- ×e. Sturge-Weber症候群
Sturge-Weber症候群は神経皮膚症候群の一つで、三叉神経第1枝領域を含む顔面のポートワイン母斑(毛細血管奇形)と、同側の脳軟膜血管腫症を特徴とする。GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異が原因とされる。乳幼児期からのてんかん、片麻痺、精神発達遅滞、緑内障を呈する。画像では脳回に沿った石灰化(頭部単純X線で tram-track sign、CTでの脳回状石灰化)、患側大脳皮質の萎縮、造影MRIでの軟膜の増強効果、深部静脈の拡張などがみられる。本症例には顔面の母斑の記載もなく、画像所見も異なる。
脳動静脈奇形(AVM)の概要
胎生期の血管形成異常により、動脈と静脈が毛細血管床を介さずナイダスで直接つながる病変である。テント上、特に大脳半球の中大脳動脈領域に多い。発症年齢は20〜40歳代が中心である。
症状・発症様式
・出血(脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血):最も多い発症様式である。若年者の脳内出血では AVM を鑑別に入れる。 ・てんかん発作:皮質近傍のAVMで多い。焦点性発作が多いが、二次性全般化することもある。 ・頭痛 ・盗血現象(steal phenomenon):短絡に血流が奪われ、周囲脳が相対的に虚血となって一過性・進行性の神経症状を呈する。
画像診断
・CT:出血、石灰化、造影で蛇行血管の集簇。 ・MRI:flow void の集簇。周囲にヘモジデリン沈着(過去の出血)をみることがある。 ・脳血管造影:確定診断と治療方針決定に必須。流入動脈、ナイダス、流出静脈と、静脈の早期描出を確認する。流入動脈やナイダス内の動脈瘤の合併も評価する。
重症度評価
Spetzler-Martin分類:ナイダスの大きさ(3 cm未満:1点、3〜6 cm:2点、6 cm超:3点)、周囲脳の機能的重要性(eloquent area であれば1点)、深部静脈への導出の有無(あれば1点)を合計し、グレードⅠ〜Ⅴに分ける。点数が高いほど外科的切除のリスクが高い。
治療
外科的摘出、定位放射線治療(ガンマナイフなど、比較的小さな病変に適する)、血管内治療(塞栓術、摘出術前の補助として行うことが多い)を、病変の大きさ・部位・出血の既往などを考慮して選択・組み合わせる。未破裂病変では経過観察を選ぶこともある。
動静脈短絡をきたす疾患の比較
・脳動静脈奇形:脳実質内にナイダス、主に内頸・椎骨脳底動脈系から栄養、若年者に多い。 ・硬膜動静脈瘻:硬膜に短絡、主に外頸動脈系から栄養、中高年に多い後天性疾患。 ・内頸動脈海綿静脈洞瘻:外傷性が多く、拍動性眼球突出、結膜充血、血管雑音。 ・血管に富む腫瘍(膠芽腫など):早期静脈描出を示すことがあるが、腫瘍実質と浮腫を伴う。
POINT
・脳動静脈奇形の画像:MRIで flow void の集簇、脳血管造影でナイダスと流出静脈の早期描出。 ・若年者(20〜40歳代)の脳内出血・くも膜下出血・てんかん発作では脳動静脈奇形を考える。 ・硬膜動静脈瘻は短絡が硬膜にあり、ナイダスはない(主に外頸動脈系から栄養)。 ・もやもや病は内頸動脈終末部の狭窄・閉塞と脳底部のもやもや血管。 ・Sturge-Weber症候群は顔面ポートワイン母斑+脳軟膜血管腫症、脳回状石灰化。
