緑色の嘔吐と高調な腸雑音―3歳児の急性腹症で「まず撮る」一枚
第103回医師国家試験 C問題 第22問
国試問題にチャレンジ
3歳の女児。腹痛と嘔吐のため搬入された。5時間前に腹痛を訴え,無色透明な液を嘔吐した。その後次第に嘔吐が頻回となり,吐物は緑色となってきている。顔色は不良である。上腹部がやや膨満し,腸雑音は高調である。 まず行うのはどれか。
- a.便の細菌培養
- b.吐物のpH測定
- c.腹部エックス線撮影
- d.上部消化管内視鏡検査
- e.上部消化管造影
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
小児で嘔吐が緑色(胆汁性)に変わった場合は、ファーター乳頭より肛門側の通過障害を示唆し、外科的緊急疾患を念頭に置く必要があります。高調な腸雑音は機械的腸閉塞を、上腹部優位の膨満は上部小腸レベルの閉塞を示唆し、腸閉塞を疑ったらまず低侵襲で迅速な腹部エックス線撮影で腸管拡張、鏡面像、遊離ガスを評価します。内視鏡は送気による内圧上昇、上部消化管造影は誤嚥や穿孔時の危険があるため初期検査には適さず、便培養や吐物のpH測定は閉塞の評価に役立ちません。検査と並行して輸液と胃管による減圧を行い、超音波やCTで中腸軸捻転や腸重積などの原因と絞扼の有無を見極めます。「胆汁性嘔吐は外科疾患を疑う」という原則は、小児救急で致死的な疾患を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・3歳女児、急性の腹痛と嘔吐で発症し、5時間の経過。 ・嘔吐は無色透明な液(胃内容)で始まり、次第に頻回となって緑色に変化:緑色の吐物は胆汁の混入を示す(胆汁性嘔吐)。胆汁は十二指腸下行脚のファーター乳頭から分泌されるため、胆汁性嘔吐が続く場合は乳頭より肛門側での通過障害を考える。 ・顔色不良:脱水や循環不全、強い腹痛を示唆し、全身状態が悪化しつつあることを意味する。 ・上腹部がやや膨満:閉塞部位より口側の胃・十二指腸・上部小腸の拡張を考える(下部消化管の閉塞なら腹部全体の膨満が目立つ)。 ・腸雑音が高調:閉塞部位を越えようと腸管が強く蠕動し、拡張した腸管内でガスと液体が動くことで生じる金属音様の音であり、機械的(閉塞性)腸閉塞を示唆する。麻痺性イレウスや腹膜炎では腸雑音はむしろ減弱・消失する。
診断・鑑別
以上から、上部小腸レベルの機械的腸閉塞(イレウス)が最も考えやすい。小児で胆汁性嘔吐を伴う急性腹症では、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転(腸管の血流が途絶して短時間で広範な壊死に至りうる)、腸重積症、内ヘルニア、メッケル憩室関連の索状物による閉塞などを想定し、絞扼(血流障害)の有無を早期に見極める必要がある。顔色不良は重症化のサインとして注意すべきである。一方、細菌性胃腸炎では下痢や発熱を伴うことが多く、胆汁性嘔吐を主体とする閉塞症状は典型的でない。
設問の考え方
腸閉塞を疑ったとき、最初に行うべき検査は、侵襲が少なく迅速に施行できる腹部エックス線撮影(可能なら立位と臥位、立位が困難なら左側臥位)である。拡張した腸管ガス像、鏡面像(ニボー)、閉塞部位の推定、遊離ガスの有無を評価し、その結果と超音波検査・CTなどを組み合わせて原因と緊急手術の要否を判断する。並行して輸液による脱水の補正、胃管による減圧を行う。
選択肢考察
- ×a. 便の細菌培養
便の細菌培養は、発熱・下痢・血便などを伴い細菌性腸炎が疑われる場合に原因菌を特定する目的で行う。結果判明まで数日を要し、緊急性の高い腸閉塞の診断には役立たない。本例は胆汁性嘔吐、上腹部膨満、高調な腸雑音といった閉塞性の所見が前面に出ており、まず行う検査ではない。
- ×b. 吐物のpH測定
吐物のpHを測っても、胃酸を含むかどうかがわかる程度で、閉塞の有無や部位、絞扼の有無の判断にはつながらない。胆汁の混入は吐物の色(緑色)で十分に推定できる。臨床的意義は乏しく、まず行う検査ではない。
- ○c. 腹部エックス線撮影
腹部単純エックス線撮影は、低侵襲・短時間で施行でき、腸閉塞の診断の出発点となる検査である。拡張した小腸ガス像や立位での鏡面像(ニボー)により閉塞の有無を確認し、ガスの分布から閉塞部位を推定できる。十二指腸閉塞では胃と十二指腸球部が拡張した double bubble sign を示すことがあり、消化管穿孔があれば横隔膜下の遊離ガスを認める。できれば立位と臥位の2方向を撮影する。まず行う検査として最も適切である。
- ×d. 上部消化管内視鏡検査
上部消化管内視鏡検査は観察のために胃内へ送気するため、腸閉塞がある場合は消化管内圧をさらに上げ、症状の悪化や嘔吐・誤嚥を招くおそれがある。また3歳児では鎮静や全身麻酔を要することが多く侵襲が大きい。小腸レベルの閉塞は内視鏡の観察範囲外であることも多く、初期検査として不適切である。
- ×e. 上部消化管造影
上部消化管造影は、閉塞を疑う段階でいきなり行う検査ではない。嘔吐が頻回な患児では造影剤の誤嚥の危険があり、バリウムは穿孔時に腹膜炎を悪化させる。まず腹部エックス線撮影や超音波検査で全体像を把握し、全身状態が安定しており腸回転異常症などを確認する必要がある場合に、次の段階として(水溶性造影剤などを用いて)行うことはある。第一選択の検査ではない。
イレウス(腸閉塞)の分類
・機械的(閉塞性):腸管内腔が物理的に閉塞する。血流障害のない単純性(癒着、腫瘍、異物など)と、血流障害を伴う複雑性=絞扼性(軸捻転、内ヘルニア、ヘルニア嵌頓、腸重積など)に分けられる。腸雑音は亢進し金属音を呈する。 ・機能的:腸管の運動障害による。麻痺性(腹膜炎、術後、低カリウム血症など。腸雑音減弱・消失)と痙攣性に分けられる。 ※現在は、機械的閉塞を「腸閉塞」、腸管麻痺など閉塞機転のないものを「イレウス」と呼び分けることが多い。
絞扼性腸閉塞を疑う所見
持続的な強い腹痛、腹膜刺激症状、発熱、頻脈、ショック、白血球増加、CK・乳酸値の上昇、代謝性アシドーシスなど。造影CTでの腸管壁の造影不良、腸間膜の浮腫・腹水が参考になる。疑った場合は緊急手術の適応となる。
小児の胆汁性嘔吐で考える疾患
・腸回転異常症・中腸軸捻転:新生児期に多いが、幼児期以降に発症することもある。超音波で上腸間膜動静脈の位置関係の逆転や whirlpool sign、上部消化管造影で十二指腸空腸移行部の位置異常を確認する。緊急手術(Ladd手術)の対象。 ・腸重積症:生後6か月〜2歳ごろに多いが、3歳でも起こる。間欠的腹痛、嘔吐、イチゴゼリー状血便、右上腹部の腫瘤が特徴で、超音波で target sign を認める。 ・内ヘルニア、メッケル憩室に関連した索状物による閉塞、癒着性腸閉塞(開腹歴がある場合)など。
腸閉塞の初期対応
絶飲食、輸液による脱水・電解質異常の補正、胃管(またはイレウス管)による減圧を行いつつ、腹部エックス線撮影、超音波検査、CTで原因と絞扼の有無を評価する。
POINT
・緑色(胆汁性)嘔吐はファーター乳頭より肛門側の閉塞を示唆し、小児では外科的緊急疾患を念頭に置く。 ・高調な(金属性の)腸雑音は機械的腸閉塞、腸雑音の減弱・消失は麻痺性イレウスや腹膜炎を示唆する。 ・腸閉塞を疑ったらまず腹部単純エックス線撮影(立位・臥位)を行い、鏡面像・腸管拡張・遊離ガスを確認する。 ・閉塞が疑われる段階での内視鏡検査(送気で悪化)や消化管造影(誤嚥・穿孔時の危険)は初期検査として行わない。
