鶏卵大・前傾前屈・卵巣は触れない―内診の「正常」を知ることが異常に気づく第一歩
第103回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
非妊女性の正常診察所見はどれか。
- a.腟分泌物は淡緑色泡沫状である。
- b.子宮は後傾後屈である。
- c.子宮は鶏卵大に触れる。
- d.子宮頸部の可動性は体部に比べて良好である。
- e.卵巣はくるみ大に触れる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
非妊成熟女性の正常な内診所見は、子宮が鶏卵大(長さ約7〜8cm)で表面平滑・弾性硬、位置は前傾前屈、付属器は通常触れない、というものです。子宮頸部は基靱帯・仙骨子宮靱帯・膀胱子宮靱帯で骨盤壁に固定されているため、可動性は体部の方が大きく、頸部を動かしたときの強い痛みは骨盤内炎症性疾患や異所性妊娠を示唆します。腟分泌物は正常では無色透明〜乳白色で、淡緑色泡沫状ならトリコモナス腟炎、酒粕状ならカンジダ腟炎、魚臭なら細菌性腟症を考えます。卵巣が腫瘤として触れれば付属器腫瘤を、固定性後屈なら子宮内膜症などによる癒着を疑います。正常像を正確に知っておくことが、内診や超音波で異常に気づくための前提となります。
解答・解説
正解はcです
妊娠していない成熟女性に対して内診(双合診:一方の手指を腟内に入れ、もう一方の手を下腹部に置いて、両手の間で内性器を触れる診察法)や腟鏡診を行ったときに、どのような所見が「正常」かを問う問題である。 押さえるべき正常像は次のとおりである。 ・腟分泌物:無色透明〜白色で、においはほとんどない。量は排卵期に増える。 ・子宮の位置:前傾前屈(子宮全体が腟の軸に対して前に傾き、さらに体部が頸部に対して前方へ折れ曲がる)が標準である。 ・子宮の大きさ:鶏卵大(長さ約7〜8cm)で、表面平滑、弾性硬に触れる。 ・子宮の可動性:頸部は靱帯で骨盤壁に固定されているため動きにくく、体部のほうがよく動く。 ・付属器(卵巣・卵管):通常は触れない。 これらと照らし合わせると、正常所見として当てはまるのは「子宮は鶏卵大に触れる」だけである。逆に言えば、ほかの選択肢はいずれも感染症、位置異常、腫瘤などを疑うきっかけになる所見である。
選択肢考察
- ×a. 腟分泌物は淡緑色泡沫状である。
誤り。正常の腟分泌物は、腟壁からの滲出液と子宮頸管から出る透明な粘液(頸管粘液)が主体で、無色透明〜乳白色である。頸管粘液はエストロゲンの作用で排卵前に量が増え、卵白のように透明で糸を引く性状になる。淡緑色〜黄緑色で泡沫状の帯下は、原虫である腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)によるトリコモナス腟炎に特徴的な所見で、悪臭や外陰の瘙痒感を伴うことが多い。
- ×b. 子宮は後傾後屈である。
誤り。正常な子宮の位置は前傾前屈である。後傾後屈そのものは成人女性の一部にみられ、単独では病的意義がないことも多いが、「標準的な正常所見」とはいえない。また、子宮内膜症やクラミジアなどによる骨盤内の癒着で子宮が後方(ダグラス窩側)に引き込まれ、後屈のまま動かなくなっている場合(固定性後屈)は、病的所見として重要である。
- ○c. 子宮は鶏卵大に触れる。
正しい。非妊時の成熟女性の子宮は、長さ約7〜8cm、幅約4cm、厚さ約3cm程度の洋梨形の臓器で、双合診では鶏卵大に触れる。子宮筋腫や子宮腺筋症、妊娠などでは、これより大きく(手拳大、小児頭大など)触れる。閉経後はエストロゲンの低下により萎縮して小さくなる。正常の大きさを知っておくことが、内診や超音波検査で子宮の腫大に気づくための前提になる。
- ×d. 子宮頸部の可動性は体部に比べて良好である。
誤り。子宮頸部(子宮の下約1/3)は、基靱帯(主靱帯)、仙骨子宮靱帯、膀胱子宮靱帯によって骨盤壁に固定されている。このため頸部の可動性は小さく、体部のほうが前後によく動く。体部は子宮円索(円靱帯)や子宮広間膜で緩やかに支えられているだけなので、膀胱や直腸の充満状態によっても位置が変わる。なお、内診で頸部を動かしたときに強い痛みが出る場合(子宮頸部可動痛)は、骨盤内炎症性疾患(PID)や異所性妊娠などを疑う所見である。
- ×e. 卵巣はくるみ大に触れる。
誤り。成熟女性の卵巣は約3×2×1cm程度で、大きさとしては母指頭大〜くるみ大と表現されることがある。しかし、骨盤の深部にあって柔らかく可動性もあるため、通常の双合診では触れないのが普通である。触れるのは、腹壁が非常に薄い人や麻酔下で筋肉が弛緩している場合に限られる。したがって、内診で付属器が腫瘤として明らかに触れる場合は、卵巣腫瘍や卵管留水腫、卵管卵巣膿瘍などの付属器腫瘤を疑う。
女性内性器の正常解剖の要点
・子宮:非妊時は長さ約7〜8cm、重さ約50g前後の鶏卵大。上2/3が体部、下1/3が頸部。位置は前傾前屈が標準。 ・卵巣:約3×2×1cm。骨盤側壁の卵巣窩に位置し、卵巣提索(骨盤漏斗靱帯)と固有卵巣索で支えられる。通常の内診では触れない。 ・卵管:長さ約10〜12cm。正常では触れない。
子宮の支持組織
・基靱帯(主靱帯):頸部を骨盤側壁に固定する最も重要な支持組織。子宮動脈や尿管がこの近くを走る。 ・仙骨子宮靱帯:頸部を後方の仙骨側へ引く。 ・膀胱子宮靱帯:頸部と膀胱をつなぐ。 ・子宮円索(円靱帯):体部から鼠径管へ走り、前傾を保つのに関与する。 頸部はしっかり固定され、体部は比較的自由に動く、という構造が可動性の違いを説明する。
腟の自浄作用
腟内にはデーデルライン桿菌(乳酸桿菌)が常在し、上皮のグリコーゲンを分解して乳酸をつくるため、腟内は pH 約3.8〜4.5 の酸性に保たれ、雑菌の増殖が抑えられている。エストロゲンが低下する小児期や閉経後にはこの作用が弱まる。
帯下の性状と主な原因
・淡緑色〜黄色、泡沫状、悪臭:トリコモナス腟炎 ・白色、酒粕状・カッテージチーズ状、強い瘙痒:カンジダ腟炎(外陰腟カンジダ症) ・灰白色、均一、魚臭:細菌性腟症 ・膿性帯下:淋菌やクラミジアによる子宮頸管炎 ・血性帯下:子宮頸癌、子宮体癌、萎縮性腟炎など
画像での確認
経腹超音波では、膀胱に尿をためた状態で下腹部にプローブを当てると、膀胱の背側に子宮が描出される。正常の大きさを知っていれば、子宮筋腫などによる腫大に気づくことができる。
POINT
・非妊成熟女性の正常子宮は鶏卵大(長さ約7〜8cm)で、前傾前屈が標準。 ・子宮頸部は基靱帯などで固定されており、可動性は体部より小さい。 ・正常卵巣は通常の内診では触れない。触れれば付属器腫瘤を疑う。 ・正常の腟分泌物は無色〜白色。淡緑色泡沫状はトリコモナス腟炎を示唆する。
