体重70kgでも「52.9kg」で計算する―糖尿病食事療法のエネルギー量は目標体重から
第103回医師国家試験 B問題 第40問
国試問題にチャレンジ
45歳の女性。健康診断で尿糖を指摘され来院した。身長155cm,体重70kg。血液生化学所見:空腹時血糖156mg/dL,HbA1c 7.6%。 1日当たりの摂取エネルギー量で適切なのはどれか。
- a.1,000kcal
- b.1,400kcal
- c.1,800kcal
- d.2,000kcal
- e.2,400kcal
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
同一採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型であれば1回の検査で糖尿病と診断でき、肥満を伴う中年発症例では2型糖尿病として食事療法・運動療法が治療の基本となります。1日の総エネルギー摂取量は「目標体重×エネルギー係数」で求め、65歳未満の目標体重は身長(m)²×22、エネルギー係数は軽い労作25〜30、普通の労作30〜35、重い労作35以上(kcal/kg目標体重)です。本例では目標体重約52.9kgに軽い労作の係数を掛けて約1,320〜1,590kcalとなり、1,400kcalが適切です。実際の体重で計算すると肥満者ほど過剰な量になるため、必ず目標体重を基準にすることが重要です。高齢者ではフレイル予防のため目標体重や係数を柔軟に設定するなど、数値を個々の患者に合わせて調整する視点が日常診療で求められます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・45歳女性、健康診断で尿糖を指摘 ・身長155cm、体重70kg → BMI=70÷(1.55×1.55)=70÷2.4025≒29.1(肥満1度) ・空腹時血糖156mg/dL(基準値は110mg/dL未満、糖尿病型は126mg/dL以上) ・HbA1c 7.6%(糖尿病型は6.5%以上)
診断
同一採血で空腹時血糖(126mg/dL以上)とHbA1c(6.5%以上)がともに糖尿病型を示しているため、この1回の検査で糖尿病と診断できる。中年期発症で肥満を伴い、急激な高血糖や体重減少・ケトーシスをうかがわせる所見がないことから、2型糖尿病と考えられる。
設問の考え方:食事療法のエネルギー量
2型糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法であり、特に肥満例では適正なエネルギー摂取による減量がインスリン抵抗性を改善させる。1日の総エネルギー摂取量は、実際の体重ではなく目標体重(標準体重)をもとに、次の式で求める。 総エネルギー摂取量(kcal/日)=目標体重(kg)×エネルギー係数(kcal/kg目標体重) ①目標体重:65歳未満では[身長(m)]²×22とする。 1.55×1.55×22=2.4025×22≒52.9kg ②エネルギー係数:身体活動レベルに応じて決める。軽い労作(大部分が座位の静的活動)で25〜30、普通の労作(座位中心だが通勤・家事・軽い運動を含む)で30〜35、重い労作(力仕事や活発な運動習慣)で35以上である。本例では職業や活動量の記載がなく、肥満を伴い減量が必要なことから、軽い労作の25〜30kcal/kgを用いる。 ③計算:52.9×25≒1,320kcal、52.9×30≒1,590kcal したがって適切な1日摂取エネルギー量は約1,320〜1,590kcalであり、選択肢の中ではこの範囲に入る1,400kcalが最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 1,000kcal
目標体重52.9kgあたりに換算すると約19kcal/kgとなり、軽い労作の係数(25〜30kcal/kg)の下限を大きく下回る。急激なエネルギー制限は筋肉量の減少、ビタミン・ミネラルなど栄養素の不足を招きやすく、長期の継続も難しい。外来で開始する標準的な食事療法としては少なすぎ、不適切である。
- ○b. 1,400kcal
目標体重52.9kg(1.55²×22)に軽い労作のエネルギー係数25〜30kcal/kgを掛けた約1,320〜1,590kcalの範囲に入る。約26kcal/kgに相当し、肥満を伴う2型糖尿病患者が減量と血糖改善を目指しつつ、必要な栄養を確保して継続できる量として最も適切である。
- ×c. 1,800kcal
目標体重あたり約34kcal/kgに相当し、普通の労作(30〜35kcal/kg)の上限寄りの量である。活動量の記載がなく、BMI 29.1で減量が必要な本例には多すぎ、体重の減少や血糖の改善が期待しにくい。
- ×d. 2,000kcal
目標体重あたり約38kcal/kgに相当し、重い労作(35kcal/kg以上)の人に用いる水準である。本例にはそのような身体活動の情報はなく、肥満と高血糖をさらに助長するおそれがあり不適切である。
- ×e. 2,400kcal
目標体重あたり約45kcal/kgに相当し、本例には明らかに過剰である。現在の体重70kgを基準に計算してもおよそ34kcal/kgとなり、糖尿病の食事療法としては不適切である。エネルギー量は実際の体重ではなく目標体重をもとに算出する点に注意する。
糖尿病の診断基準(要点)
糖尿病型の判定基準は、①空腹時血糖126mg/dL以上、②75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、③随時血糖200mg/dL以上、④HbA1c 6.5%以上のいずれかである。 ・血糖値(①〜③のいずれか)とHbA1c(④)が同一採血で糖尿病型なら、1回の検査で糖尿病と診断できる。 ・血糖値が糖尿病型で、口渇・多飲・多尿・体重減少などの典型的症状または確実な糖尿病網膜症があれば、1回で診断できる。 ・それ以外は別の日に再検査し、再び糖尿病型であれば診断する(ただしHbA1cのみの反復では診断できない)。
総エネルギー摂取量の決め方
・目標体重(kg):65歳未満は[身長(m)]²×22、65歳以上75歳未満は[身長(m)]²×22〜25、75歳以上は[身長(m)]²×22〜25(フレイル、ADL、合併症、体組成なども考慮)。 ・エネルギー係数(kcal/kg目標体重):軽い労作25〜30、普通の労作30〜35、重い労作35〜。 ・高齢者のフレイル予防では係数を大きめに、肥満で減量が必要な場合は小さめにとるなど、個別に調整する。 ・かつては標準体重を一律に身長²×22とし、「25〜30kcal/kg」を基本としていたが、現在は年齢と病態に応じた目標体重を用いる考え方になっている。
栄養素の配分の目安
一般に、炭水化物40〜60%、たんぱく質20%以下を目安とし、残りを脂質とする(脂質が25%を超える場合は飽和脂肪酸を減らすなど脂肪酸の構成に配慮する)。食物繊維を十分にとり、食品交換表などを用いて栄養バランスよく配分する。
肥満を伴う2型糖尿病
肥満はインスリン抵抗性を高め、血糖コントロールを悪化させる。減量によりインスリン抵抗性が改善し、血糖・血圧・脂質も改善するため、まず現体重の3%程度の減量を目標とする。
POINT
・同一採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型なら、1回の検査で糖尿病と診断できる。 ・総エネルギー摂取量=目標体重×エネルギー係数。 ・目標体重(65歳未満)=[身長(m)]²×22。本例は1.55²×22≒52.9kg。 ・エネルギー係数:軽い労作25〜30、普通の労作30〜35、重い労作35〜(kcal/kg目標体重)。 ・本例は52.9×25〜30≒1,320〜1,590kcal → 1,400kcalが適切。 ・計算には実際の体重ではなく目標体重を用いる。
