StudyMed医師国家試験

レーザーが届くのは「見えて浅い」病変だけ―肺門部早期肺癌と光線力学的療法

第103回医師国家試験 B問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第35問

レーザー療法を行うのはどれか。

  1. a.肺動静脈瘻
  2. b.癌性胸膜炎
  3. c.浸潤型胸腺腫
  4. d.肺門部早期肺癌
  5. e.Pancoast型肺癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、呼吸器領域でレーザー療法がどんな病変に使われるかを問う問題だ。ポイントは「レーザー光はどこまで届くのか」という物理的な制約。そこから逆算すると、答えは自然に絞れるよ。
医学生医学生
レーザーというと、皮膚科や眼科のイメージが強いです。呼吸器ではどうやって当てるんですか。
ドクタードクター
呼吸器では気管支鏡を使って、気道の内側から光を当てるんだ。代表的なのは2つ。ひとつは光線力学的療法、PDTと呼ばれるもので、腫瘍に集まりやすい光感受性物質を静注しておき、時間をおいて気管支鏡下で特定波長のレーザーを照射する。励起された薬剤から活性酸素が生じ、腫瘍細胞を選択的に壊死させる仕組みだ。もうひとつは高出力レーザーで腫瘍を焼き切り、狭くなった気道を再開通させる方法だね。
医学生医学生
薬理学の講義で光線過敏症の副作用がある薬として聞いた気がします。あれがPDTの薬だったんですね。
ドクタードクター
そう、PDT後はしばらく遮光が必要になる。さて、ここで大事なのは、レーザー光は組織の表面から浅いところまでしか届かないということ。だから根治目的で使えるのは「気管支鏡で直接見えて、しかも深く浸潤していない病変」に限られるんだ。
医学生医学生
それなら、太い気管支にできた早期の癌が当てはまりそうです。肺門部早期肺癌が正解でしょうか。
ドクタードクター
正解。肺門部早期肺癌は区域支より中枢の太い気管支に発生し、気管支壁内にとどまってリンパ節転移や遠隔転移がない癌だ。気管支鏡で末梢側の辺縁まで観察でき、小さくて気管支軟骨を越える浸潤がなければ、PDTで肺を切らずに根治が期待できる。
医学生医学生
肺門部の癌は扁平上皮癌が多いんでしたよね。でも、早期だと胸部X線で見つかるんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。実は画像には写らないことが多い。喫煙歴の長い人の喀痰細胞診で異型細胞が見つかり、気管支鏡で病変を確認する、という流れが典型だ。では他の選択肢も見ていこう。肺動静脈瘻はどう治療する?
医学生医学生
血管の奇形なので、気管支の中から光を当てても届かなさそうです。カテーテルで詰めるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さず直接つながるため、右左シャントによる低酸素血症や、奇異性塞栓による脳梗塞・脳膿瘍の原因になる。Osler病に合併しやすいことも重要だ。治療は流入動脈をコイルなどで閉塞する経カテーテル塞栓術が第一選択で、難しければ外科切除になる。
医学生医学生
癌性胸膜炎は胸水が溜まる状態ですよね。呼吸器内科の実習で胸腔ドレーンが入っている患者さんを担当しました。
ドクタードクター
貴重な経験だね。癌性胸膜炎は胸膜への播種で、肺癌ならⅣ期にあたる。治療の軸は全身薬物療法で、症状緩和にはドレナージで排液し、タルクなどで胸膜癒着術を行って再貯留を防ぐ。病変は胸膜腔に広がっているから、気管支内腔からのレーザーの対象ではない。
医学生医学生
浸潤型胸腺腫は前縦隔の腫瘍なので、やはり気道の外ですね。
ドクタードクター
そう。被膜を越えて心膜や肺、大血管に浸潤するタイプで、基本は浸潤臓器を含めた完全切除、必要に応じて放射線療法や化学療法を組み合わせる。最後のPancoast型肺癌はどうかな。
医学生医学生
肺尖部の癌で、Horner症候群や腕の痛みが出るものですよね。CBTの過去問でよく見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。腕神経叢や頸部交感神経幹、肋骨や椎体へ浸潤し、病変は気管支内腔ではなく胸壁側に広がっている。切除可能なら術前化学放射線療法のあとに胸壁を含めた拡大切除、切除不能なら化学放射線療法が中心になる。
医学生医学生
整理すると、「気管支鏡で見えて、浅い」という条件を満たすのは肺門部早期肺癌だけ、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、PDTの利点は呼吸機能を温存できることだ。高齢者や心肺機能が低下していて手術に耐えられない人にも選択肢になる。また、肺門部以外では食道癌や胃癌、悪性神経膠腫などにも使われている。一方、進行癌で中枢気道が閉塞して呼吸困難があるときは、高出力レーザーやアルゴンプラズマ凝固、ステント留置で気道を開通させるけれど、これは根治ではなく姑息的治療だと区別しておこう。
医学生医学生
同じレーザーでも、根治を狙うPDTと症状緩和の焼灼では目的が違うんですね。
ドクタードクター
そう、目的と適応をセットで覚えると応用が利くよ。

まとめ

呼吸器領域のレーザー療法は気管支鏡下で行われ、光が届くのは組織の浅い層に限られるため、根治目的の対象は「気管支鏡で辺縁まで観察でき、深部浸潤のない表在性病変」である肺門部早期肺癌が代表です。光線力学的療法(PDT)は腫瘍に集積した光感受性物質にレーザーを照射し、生じた活性酸素で腫瘍を選択的に壊死させる治療で、肺を切除せず呼吸機能を温存できる一方、光線過敏症に対する遮光が必要です。肺動静脈瘻は経カテーテル塞栓術、癌性胸膜炎は全身薬物療法と胸膜癒着術、浸潤型胸腺腫は外科的完全切除、Pancoast型肺癌は化学放射線療法や拡大切除が中心で、いずれも気道内腔からのレーザーの対象ではありません。進行癌の気道狭窄に対する高出力レーザー焼灼は姑息的治療であり、PDTとは目的が異なります。治療手段の物理的な特性から適応を考える視点は、さまざまな局所療法の理解に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

呼吸器領域のレーザー療法

呼吸器領域でレーザーが用いられる代表的な場面は、気管支鏡を用いた気道内腔の病変に対する治療である。主に次の2つがある。 1. 光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT):腫瘍組織に集まりやすい光感受性物質(現在はタラポルフィンナトリウムが主に用いられ、以前はポルフィマーナトリウムが使われた)を静注し、一定時間後に気管支鏡下で特定波長のレーザー光を病変に照射する。光感受性物質が励起されて活性酸素を生じ、腫瘍細胞を選択的に壊死させる。 2. 高出力レーザー(Nd:YAGレーザーなど)による焼灼:気道を狭窄・閉塞させる腫瘍を焼き切り、気道を再開通させる姑息的治療である。

本問の考え方

レーザー光は組織の表面から浅い範囲にしか届かないため、根治目的のレーザー療法が成り立つのは「気管支鏡で直接観察でき、かつ深部浸潤のない表在性の病変」に限られる。肺門部(中枢気道)に発生する早期肺癌はまさにこの条件を満たし、PDTの代表的な適応である。 一方、血管の異常(肺動静脈瘻)、胸膜腔の病変(癌性胸膜炎)、縦隔腫瘍の周囲臓器浸潤(浸潤型胸腺腫)、胸壁・腕神経叢へ進展した肺尖部腫瘍(Pancoast型肺癌)は、いずれも気管支内腔から光を届けて治療する対象ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  肺動静脈瘻

    レーザー療法の対象ではない。肺動静脈瘻は肺動脈と肺静脈が毛細血管を介さずに直接つながる血管奇形で、右左シャントによる低酸素血症・チアノーゼ・多血症や、塞栓子が肺で濾過されずに体循環へ流れることによる脳梗塞・脳膿瘍(奇異性塞栓)の原因となる。遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病)に合併することが多い。治療は、流入動脈をコイルやプラグで閉塞する経カテーテル塞栓術が第一選択であり、塞栓術が困難な例では肺部分切除・区域切除・肺葉切除などの外科的切除を行う。

  2. ×b.  癌性胸膜炎

    レーザー療法の対象ではない。癌性胸膜炎は胸膜への癌の播種により胸水が貯留した状態で、肺癌ではⅣ期(遠隔転移のある病期)に分類される。薬物療法の効果が期待できる場合は原疾患に対する全身化学療法(分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬を含む)を行う。呼吸困難の緩和には胸腔ドレナージで胸水を排液し、再貯留を防ぐためにタルクなどの薬剤を胸腔内に注入して臓側胸膜と壁側胸膜を癒着させる胸膜癒着術を行う。

  3. ×c.  浸潤型胸腺腫

    レーザー療法の対象ではない。胸腺腫は前縦隔に発生する上皮性腫瘍で、被膜を越えて周囲の脂肪組織・心膜・肺・大血管などへ浸潤するものを浸潤型という。治療の基本は胸腺と腫瘍の完全切除であり、浸潤臓器を合併切除することもある。完全切除が難しい例や進行例では、病変の広がりに応じて術後放射線療法や化学療法(シスプラチンを含む多剤併用など)を組み合わせる。

  4. ○d.  肺門部早期肺癌

    レーザー療法(主に光線力学的療法、PDT)の適応となる。肺門部早期肺癌は、区域支より中枢の太い気管支に発生し、気管支壁内にとどまってリンパ節転移や遠隔転移がない癌で、多くは喫煙と関連の強い扁平上皮癌である。胸部X線やCTでは写らないことが多く、喀痰細胞診で発見され気管支鏡で確認される。病変が気管支鏡で観察でき、末梢側の辺縁まで見えること、長径がおおむね1cm以下と小さく、気管支軟骨を越える深部浸潤がないことなどの条件を満たせば、PDTにより肺を切除せずに根治が期待でき、呼吸機能を温存できる。

  5. ×e.  Pancoast型肺癌

    レーザー療法の対象ではない。Pancoast型肺癌(肺尖部胸壁浸潤癌、superior sulcus tumor)は肺尖部に発生して胸壁・第1〜2肋骨・椎体・腕神経叢・鎖骨下血管・頸部交感神経幹などへ浸潤する肺癌である。腕神経叢浸潤による肩から上肢尺側への疼痛・筋力低下、交感神経幹浸潤によるHorner症候群(縮瞳・眼瞼下垂・眼裂狭小・患側顔面の発汗低下)を呈する(Pancoast症候群)。病変は気管支内腔ではなく胸壁側に広がるため、治療は、切除可能例では術前化学放射線療法の後に胸壁などを含めた拡大切除を行い、切除不能例では化学放射線療法を行う。

肺癌の発生部位による特徴

・中枢型(肺門型):太い気管支に発生。扁平上皮癌・小細胞癌に多く、喫煙との関連が強い。早期には画像で捉えにくく、喀痰細胞診や気管支鏡が発見に有用である。咳嗽・血痰、進行すると閉塞性肺炎や無気肺をきたす。 ・末梢型(肺野型):末梢の細い気管支や肺胞領域に発生。腺癌に多く、CT検診で小結節として発見されやすい。

光線力学的療法(PDT)のポイント

・光感受性物質を投与し、腫瘍に集積したところにレーザー光を照射して、生じた活性酸素で腫瘍を壊死させる。 ・正常組織への障害が少なく、気管支や肺を切除しないため呼吸機能が温存できる。高齢者や心肺機能が低下し手術に耐えられない患者にも行える。 ・主な副作用は光線過敏症であり、投与後一定期間は直射日光や強い光を避ける遮光が必要である(タラポルフィンナトリウムでは遮光期間が短くなっている)。 ・肺門部早期肺癌のほか、食道癌、胃癌、脳腫瘍(悪性神経膠腫)などにも用いられる。

気道狭窄に対するその他のインターベンション

進行癌による中枢気道の狭窄・閉塞に対しては、高出力レーザー焼灼、アルゴンプラズマ凝固、ステント留置などで気道を開通させ、呼吸困難の緩和を図る。これは根治ではなく姑息的治療である。

POINT

・肺門部(中枢型)早期肺癌は、気管支鏡下の光線力学的療法(PDT)の適応となる。 ・PDTは光感受性物質+レーザー照射で腫瘍を選択的に壊死させ、肺機能を温存できる。 ・レーザーが届くのは表層のみのため、気管支鏡で辺縁まで見える表在性の小病変が対象。 ・肺動静脈瘻は塞栓術、癌性胸膜炎は化学療法・胸膜癒着術、浸潤型胸腺腫は外科切除±放射線・化学療法、Pancoast型肺癌は化学放射線療法(切除可能例では術前化学放射線療法+拡大切除)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。