StudyMed医師国家試験

何を失い、何が貯まるのか―嘔吐・下痢・腎不全・肺疾患で読み解く酸塩基平衡

第103回医師国家試験 A問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第103回 A問題 第16問

組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.下痢 ―― 代謝性アルカローシス
  2. b.嘔吐 ―― 代謝性アルカローシス
  3. c.過換気 ―― 呼吸性アシドーシス
  4. d.慢性腎不全 ―― 代謝性アシドーシス
  5. e.慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉 ―― 呼吸性アルカローシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代表的な病態とそれが引き起こす酸塩基平衡異常の組合せを問う問題だ。丸暗記に頼らず「体から何が失われるのか、何が貯まるのか」を考えれば、どの組合せも自然に導ける。まずは基本の整理から始めよう。血液のpHは何と何のバランスで決まるか、覚えているかな。
医学生医学生
Henderson-Hasselbalchの式ですよね。生理学の講義で習いました。HCO3−とPaCO2の比で決まる、だったと思います。
ドクタードクター
その通り。分子のHCO3−は腎臓が調節する塩基、分母のPaCO2は肺が調節する酸と考えるとわかりやすい。HCO3−が動けば代謝性、PaCO2が動けば呼吸性。下がる方向がアシドーシス、pHを上げる方向がアルカローシスだ。では嘔吐から考えてみよう。吐いたときに失われるのは何かな。
医学生医学生
胃液なので、塩酸ですね。酸を失うからアルカローシス、つまり代謝性アルカローシスです。
ドクタードクター
正解。しかも胃の壁細胞がH+を分泌するときには、同じ分だけHCO3−が血中に戻される。だから胃液を失うほど血中HCO3−が上がるんだ。さらに脱水でレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系が働き、腎臓でHCO3−の再吸収が増え、H+やK+の排泄も増える。結果として低Cl血症と低K血症を伴うアルカローシスが維持される。
医学生医学生
小児科の実習で、肥厚性幽門狭窄症の赤ちゃんの血液ガスが同じパターンだと教わりました。
ドクタードクター
まさに同じ機序だね。生理食塩液でClと容量を補えば改善するので「Cl反応性」アルカローシスと呼ばれる。では、反対に下痢はどうだろう。
医学生医学生
下痢も消化液を失うので、嘔吐と同じくアルカローシスになるのかと思っていました。
ドクタードクター
そこがよくある引っかけだ。膵液や胆汁、腸液はHCO3−を多く含むアルカリ性の液体なんだ。それを大量に失えば、塩基が減るから代謝性アシドーシスになる。失ったHCO3−の代わりにCl−が保たれるので、アニオンギャップが正常の高クロール性代謝性アシドーシスになるのが特徴だよ。
医学生医学生
上から出るのは酸、下から出るのは塩基、と考えれば整理できますね。慢性腎不全はどうでしょう。
ドクタードクター
腎臓は、硫酸やリン酸のように呼吸では出せない不揮発性酸を、アンモニウムイオンなどとして尿に捨て、同時にHCO3−を作り直している。慢性腎不全ではネフロンが減ってこの働きが落ちるから、酸が貯まって代謝性アシドーシスになる。これも正しい組合せだ。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、透析前の患者さんに炭酸水素ナトリウムが処方されていたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そう。慢性的なアシドーシスは骨からのCa溶出や筋たんぱくの分解を促すので補正するんだ。ちなみに、腎機能低下が軽い段階ではAG正常型が主体で、GFRがかなり下がると陰イオンが貯まってAG増加型の要素が加わる。次は呼吸性の2つ。過換気ではPaCO2はどう動く?
医学生医学生
CO2を吐き出しすぎるので下がります。分母が下がるとpHは上がるから……呼吸性アルカローシスですね。アシドーシスではありません。
ドクタードクター
その通り。過換気症候群のほか、低酸素血症や敗血症、サリチル酸中毒の初期、肝不全、妊娠でも起こる。急性のアルカローシスではイオン化Caが下がって、口のまわりや手指のしびれ、助産師手位のテタニーが出ることもある。では最後にCOPDは。
医学生医学生
息を吐き出しにくい病気なので、CO2が貯まって呼吸性アシドーシスになると思います。
ドクタードクター
正解。進行したCOPDではPaCO2が上がるⅡ型呼吸不全となり、慢性的に経過すると腎臓がHCO3−を保持して代償するので、pHは正常に近づく。だから正しい組合せは、嘔吐と代謝性アルカローシス、慢性腎不全と代謝性アシドーシスの2つだ。
医学生医学生
COPDの急性増悪で酸素を投与するときに注意が必要なのも、CO2貯留が関係していましたよね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。高濃度酸素で低酸素による呼吸刺激が弱まると、さらにCO2が貯まってCO2ナルコーシスで意識障害を来すことがある。最後に臨床での注意点を一つ。代償反応は一次性の変化を打ち消す方向に働くけれど、通常pHを完全には正常化しない。pHが正常なのにHCO3−やPaCO2が大きく外れていたら、混合性障害を疑う習慣をつけておこう。
医学生医学生
嘔吐で脱水がひどくなって乳酸が貯まると、アルカローシスとアシドーシスが混ざることもありそうですね。
ドクタードクター
その発想が大事だよ。実際の患者さんでは複数の病態が重なることが多い。だからこそ、一つ一つの病態について「何が失われ、何が貯まるか」を基本から説明できることが、血液ガスを正しく読む力の土台になるんだ。

まとめ

酸塩基平衡は、腎臓が調節するHCO3−と肺が調節するPaCO2の比でpHが決まるという原則から理解できます。嘔吐では胃酸(HCl)を失って低Cl・低K血症を伴う代謝性アルカローシスとなり、下痢ではHCO3−に富む腸液を失ってAG正常の代謝性アシドーシスとなります。慢性腎不全では不揮発性酸の排泄とHCO3−の再生が障害されて代謝性アシドーシスを来し、過換気はPaCO2低下による呼吸性アルカローシス、COPDはCO2貯留による呼吸性アシドーシスを引き起こします。代償は通常pHを完全には正常化しないため、pHが正常なのに各値が大きく外れていれば混合性障害を考えます。「何が失われ、何が貯まるか」という視点は、暗記に頼らず血液ガス所見を解釈するための基本となる考え方です。

解答・解説

正解はb, dです

代表的な病態と、それによって生じる酸塩基平衡異常の対応を問う基本問題である。 血液のpHはおおむね次の関係(Henderson-Hasselbalchの式)で決まる。 pH = 6.1 + log([HCO3−] ÷(0.03 × PaCO2)) つまり、pHは「分子のHCO3−(重炭酸イオン、腎臓が調節する塩基)」と「分母のPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧、肺が調節する酸)」の比で決まる。基準値はpH 7.35〜7.45、PaCO2 35〜45 Torr、HCO3− 22〜26 mEq/Lである。 異常は4つに分類される。 ・代謝性アシドーシス:HCO3−が低下(酸の蓄積、または塩基の喪失) ・代謝性アルカローシス:HCO3−が上昇(酸の喪失、または塩基の蓄積) ・呼吸性アシドーシス:換気が不足してPaCO2が上昇 ・呼吸性アルカローシス:換気が過剰でPaCO2が低下 各選択肢については、「何が体から失われるのか(あるいは貯まるのか)」を考えれば判断できる。胃液(酸)を失う嘔吐はアルカローシス、腸液(塩基)を失う下痢はアシドーシス、酸を排泄できない腎不全はアシドーシス、CO2を吐き出しすぎる過換気は呼吸性アルカローシス、CO2を吐き出せないCOPDは呼吸性アシドーシスとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  下痢 ―― 代謝性アルカローシス

    下痢では代謝性アシドーシスを来す。膵液や胆汁、腸液はHCO3−を多く含むアルカリ性の液体であり、下痢によってこれらが大量に失われると血中のHCO3−が低下する。失われたHCO3−の代わりにCl−が保持されるため血清Cl−が上昇し、アニオンギャップ(AG = Na+ −(Cl− + HCO3−)、基準はおよそ12 ± 2 mEq/L)が正常の、いわゆる高クロール性代謝性アシドーシスとなる。下痢ではK+も失われるため低カリウム血症を伴いやすい。なお、下痢で脱水が高度になると循環不全から乳酸が蓄積し、AG増加型の要素が加わることもある。

  2. ○b.  嘔吐 ―― 代謝性アルカローシス

    胃液には塩酸(HCl)が含まれるため、激しい嘔吐や胃液の持続吸引では酸(H+)とCl−が体外へ失われ、代謝性アルカローシスとなる。胃の壁細胞がH+を分泌する際にはその分のHCO3−が血中に放出されるので、胃液を失うほど血中HCO3−が上昇する。さらに、脱水による細胞外液量の減少がレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系を活性化し、近位尿細管でのHCO3−再吸収が亢進すること、アルドステロンによって遠位でH+・K+の排泄が増えること、Cl−欠乏そのものがHCO3−の排泄を妨げることから、アルカローシスは維持される。これに伴い低クロール血症・低カリウム血症を呈する(低Cl性代謝性アルカローシス)。生理食塩液の補充(Cl−と容量の補充)で改善する「Cl反応性」アルカローシスの代表である。乳児の肥厚性幽門狭窄症も同じ機序でこの病態を示す。

  3. ×c.  過換気 ―― 呼吸性アシドーシス

    過換気では必要以上にCO2を呼出するため、PaCO2が低下し呼吸性アルカローシスとなる。原因としては過換気症候群(不安・パニックなど心因性)のほか、低酸素血症(肺炎、肺血栓塞栓症、高地など)、発熱、敗血症、サリチル酸中毒の初期、肝不全、妊娠などがある。急性のアルカローシスでは血中のイオン化Ca2+が低下し、口周囲や手指のしびれ、テタニー(助産師手位)などを来す。呼吸性アシドーシスは逆に換気が不足してPaCO2が上昇する状態である。

  4. ○d.  慢性腎不全 ―― 代謝性アシドーシス

    腎臓は、食事や代謝によって毎日生じる不揮発性酸(硫酸、リン酸など、呼吸では排出できない酸)を、アンモニウムイオン(NH4+)や滴定酸として尿中に排泄し、同時にHCO3−を再生している。慢性腎不全ではネフロン数の減少によりアンモニア産生と酸排泄の能力が低下し、HCO3−が不足して代謝性アシドーシスとなる。腎機能低下が比較的軽い段階ではAG正常(高クロール性)のアシドーシスが主体だが、糸球体濾過量(GFR)がさらに低下すると(おおむね15〜20 mL/分程度以下)、硫酸・リン酸などの陰イオンが蓄積してAG増加型の要素が加わる。慢性的なアシドーシスは骨からのCa溶出(腎性骨異栄養症の増悪)や筋たんぱくの異化を促すため、炭酸水素ナトリウムなどによる補正が行われる。

  5. ×e.  慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉 ―― 呼吸性アルカローシス

    COPDでは気流閉塞のため肺胞換気量が低下し、CO2を十分に呼出できなくなるため、進行例ではPaCO2が上昇して呼吸性アシドーシスとなる(Ⅱ型呼吸不全:PaO2 ≦ 60 Torrかつ PaCO2 > 45 Torr)。慢性に経過する場合は、腎臓がHCO3−の再吸収を増やして代償するため、HCO3−が上昇しpHは正常に近づく(代償された慢性呼吸性アシドーシス)。このような患者に高濃度酸素を投与すると、低酸素による呼吸刺激が弱まり、さらにCO2が貯留してCO2ナルコーシス(意識障害)を来すことがあるので注意する。なお、軽症COPDや急性増悪の初期に低酸素のため頻呼吸となり一過性にPaCO2が低下することはあるが、COPDに特徴的な酸塩基異常は呼吸性アシドーシスである。

酸塩基平衡異常の主な原因

代謝性アシドーシス(HCO3−低下) ・AG増加型(酸の蓄積):糖尿病ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス(ショック、敗血症、ビグアナイド薬など)、腎不全の進行期、メタノール・エチレングリコール・サリチル酸中毒 ・AG正常型(HCO3−の喪失):下痢、尿細管性アシドーシス、尿管S状結腸吻合、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)、腎不全の早期 代謝性アルカローシス(HCO3−上昇) ・Cl反応性(生理食塩液で改善、尿中Cl−低値):嘔吐、胃液吸引、ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬の使用後 ・Cl抵抗性(尿中Cl−高値):原発性アルドステロン症、Cushing症候群、Bartter症候群、Gitelman症候群、低カリウム血症の高度なもの 呼吸性アシドーシス(PaCO2上昇) ・COPD、重症喘息発作の末期、神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など)、肥満低換気症候群、鎮静薬・麻薬による呼吸抑制 呼吸性アルカローシス(PaCO2低下) ・過換気症候群、低酸素血症(肺炎、肺血栓塞栓症、間質性肺炎、高地)、敗血症初期、サリチル酸中毒初期、肝不全、妊娠

代償の考え方

一次性の変化に対し、もう一方の系が同じ向きに動いてpHを正常に近づける。代謝性アシドーシスではPaCO2が下がり(Kussmaul呼吸など)、代謝性アルカローシスではPaCO2が上がる。呼吸性の異常に対する腎の代償は数日かけて完成するため、急性と慢性で代償の程度が異なる。代償でpHが完全に正常化することは通常なく、pHが正常であれば混合性障害の可能性も考える。

POINT

・嘔吐:胃酸(HCl)の喪失 → 低Cl性代謝性アルカローシス(低K血症を伴う) ・下痢:HCO3−の喪失 → AG正常の代謝性アシドーシス ・慢性腎不全:不揮発性酸の排泄障害 → 代謝性アシドーシス(早期はAG正常、進行するとAG増加) ・過換気:PaCO2低下 → 呼吸性アルカローシス ・COPD:PaCO2上昇 → 呼吸性アシドーシス(慢性では腎性代償でHCO3−上昇)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。