高血圧に低カリウムが重なったら―アルドステロンの「出どころ」を追え
第103回医師国家試験 A問題 第14問
国試問題にチャレンジ
低カリウム血症を示すのはどれか。2つ選べ。
- a.褐色細胞腫
- b.糖尿病性腎症
- c.腎実質性高血圧
- d.腎血管性高血圧
- e.原発性アルドステロン症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高血圧に低カリウム血症を伴うときは、アルドステロン(鉱質コルチコイド)作用の過剰を第一に考えます。副腎が自律的に分泌する原発性アルドステロン症ではレニンが低値、腎動脈狭窄によりレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系全体が亢進する腎血管性高血圧ではレニン・アルドステロンともに高値となり、いずれも集合管でのカリウム排泄亢進から低カリウム血症を示します。一方、腎実質性高血圧や糖尿病性腎症では糸球体濾過量の低下や低レニン性低アルドステロン症により高カリウム血症に傾き、褐色細胞腫ではカテコールアミン過剰による症状が中心で低カリウム血症は典型的ではありません。甘草による偽性アルドステロン症やLiddle症候群なども含め、カリウムとレニンの値から高血圧の原因を逆算する考え方は、二次性高血圧を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はd, eです
本問は高血圧を伴う疾患のうち、低カリウム血症を示すものを選ぶ問題である。血清カリウム(K)の基準値はおおむね3.5〜5.0mEq/Lであり、3.5mEq/L未満を低カリウム血症とよぶ。 高血圧と低カリウム血症が同時にみられるとき、まず考えるべきはアルドステロン作用の過剰である。アルドステロンは副腎皮質球状層から分泌される鉱質コルチコイドで、腎臓の遠位尿細管から集合管に作用し、ナトリウム(Na)の再吸収を増やす代わりにKと水素イオン(H+)を尿中へ排泄させる。そのため、アルドステロンが過剰になると、Naと水の貯留による高血圧と、Kの喪失による低カリウム血症(さらに代謝性アルカローシス)が生じる。 アルドステロンが過剰になる機序は大きく2つある。一つは副腎自体がアルドステロンを自律的に過剰産生する場合(原発性アルドステロン症。レニンは抑制される)、もう一つは腎臓からのレニン分泌が増え、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)全体が亢進した結果アルドステロンが増える場合(続発性アルドステロン症。腎血管性高血圧やレニン産生腫瘍など)である。 一方、腎機能が低下する疾患ではKの排泄能が落ちるため、むしろ高カリウム血症になりやすい。この違いに注目して選択肢を判断すると、腎血管性高血圧と原発性アルドステロン症が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 褐色細胞腫
褐色細胞腫は副腎髄質などのクロム親和性細胞から発生し、カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)を過剰に分泌する腫瘍である。発作性または持続性の高血圧、頭痛、動悸、発汗、高血糖などを示す。カテコールアミンはβ1受容体を介して腎臓からのレニン分泌を刺激するため、RAA系がある程度亢進することはあるが、腎血管性高血圧や原発性アルドステロン症ほどのアルドステロン増加は起こらず、低カリウム血症は本症の典型的な所見ではない。したがって本問では選ぶべきではない。なお、カテコールアミンはβ2受容体を介してKを細胞内へ移動させる作用もあり、一過性に血清Kが下がることはありうるが、特徴的な検査所見としては扱われない。
- ×b. 糖尿病性腎症
糖尿病性腎症が進行して糸球体濾過量(GFR)が低下すると、Kの尿中排泄が減るため高カリウム血症になりやすい。さらに糖尿病では、腎臓の傍糸球体装置の障害などによりレニンの分泌が低下し、それに伴ってアルドステロンも低下する低レニン性低アルドステロン症(Ⅳ型尿細管性アシドーシス)を合併しやすく、腎機能の低下が比較的軽い段階でも高カリウム血症がみられることがある。加えて、腎保護のために用いられるACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)もKを上げる方向に働く。低カリウム血症ではなく高カリウム血症を示すのが典型であり、誤りである。
- ×c. 腎実質性高血圧
腎実質性高血圧は、慢性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、多発性嚢胞腎などの腎実質の病気によって生じる高血圧で、二次性高血圧の中で最も頻度が高い。腎機能の低下によりNaと水を十分に排泄できなくなり、体液量が増えることが主な機序である。体液量が増えるとRAA系はむしろ抑制される方向に働き、またGFRの低下でKの排泄も障害されるため、高カリウム血症をきたしやすい。低カリウム血症は示さないので誤りである。尿検査(蛋白尿、血尿)や血清クレアチニンなど一般的な検査で気づかれやすい。
- ○d. 腎血管性高血圧
腎血管性高血圧は、腎動脈の狭窄(中高年では動脈硬化、若年女性では線維筋性異形成、そのほか大動脈炎症候群〈高安動脈炎〉など)によって腎臓への血流が減り、腎臓が「血圧が低い」と感知して傍糸球体細胞からレニンを多量に分泌することで起こる。レニンの増加によってアンジオテンシンⅡが増え、血管収縮で血圧が上がるとともに、副腎からのアルドステロン分泌が増える(続発性アルドステロン症)。増えたアルドステロンにより集合管でNaの再吸収とKの排泄が促進され、低カリウム血症を示す。血漿レニン活性が高いことが原発性アルドステロン症との鑑別点である。腹部の血管雑音や、ACE阻害薬・ARB投与後の急な腎機能悪化も手がかりとなる。正しい。
- ○e. 原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は、副腎皮質のアルドステロン産生腺腫や両側の副腎過形成(特発性アルドステロン症)により、アルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。集合管でのNa再吸収とK・H+の排泄が亢進し、高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシスを示す。低カリウム血症が強いと、筋力低下、四肢麻痺(周期性四肢麻痺様の発作)、多尿(腎臓の尿濃縮力の低下による)などが現れる。アルドステロンが高いのに体液量増加のためレニンは抑制されており、アルドステロン/レニン比の上昇がスクリーニングに用いられる。高血圧患者の数%〜10%程度を占めるとされる頻度の高い二次性高血圧であり、低カリウム血症を示さない例も少なくないことに注意が必要である。正しい。
アルドステロン過剰の分類
・原発性アルドステロン症: 副腎の自律的なアルドステロン過剰。レニン低値、アルドステロン高値。 ・続発性アルドステロン症(レニン高値、アルドステロン高値): 腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍、悪性高血圧など高血圧を伴うものと、うっ血性心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、利尿薬使用、Bartter症候群・Gitelman症候群など高血圧を伴わないものがある。
アルドステロンは正常〜低値なのに鉱質コルチコイド作用が過剰になる病態(高血圧+低カリウム血症)
・Cushing症候群(コルチゾールの大量分泌) ・偽性アルドステロン症(甘草〈グリチルリチン〉の摂取でコルチゾールを不活化する酵素が阻害される) ・Liddle症候群(集合管のNaチャネルの機能亢進) ・11β-水酸化酵素欠損症、17α-水酸化酵素欠損症(先天性副腎過形成の一部)
高カリウム血症をきたしやすい病態
・腎不全(GFR低下)、低レニン性低アルドステロン症(糖尿病に多い)、副腎不全(Addison病) ・薬剤: ACE阻害薬、ARB、抗アルドステロン薬(スピロノラクトンなど)、K保持性利尿薬、NSAIDs
二次性高血圧を疑う手がかり
若年発症の高血圧、治療抵抗性の高血圧、急な発症や悪化、低カリウム血症、腹部血管雑音などがあれば二次性高血圧の検索を行う。低カリウム血症は内分泌性・腎血管性の高血圧を見つける重要な手がかりである。
POINT
・高血圧+低カリウム血症 → アルドステロン(鉱質コルチコイド)作用の過剰を考える。 ・原発性アルドステロン症: レニン低値、アルドステロン高値。 ・腎血管性高血圧: レニン高値、アルドステロン高値(続発性アルドステロン症)。 ・腎機能低下(腎実質性高血圧、糖尿病性腎症)はK排泄が減り高カリウム血症になりやすい。 ・褐色細胞腫の主な所見はカテコールアミン過剰による症状であり、低カリウム血症は典型的ではない。
