イチゴ舌と口囲蒼白―化膿した扁桃が教える猩紅熱の正体
第102回医師国家試験 I問題 第71問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。発熱と発疹とを主訴に来院した。3日前から38℃台の発熱,咽頭痛および咳があり,2日前から体を痒がっていた。四肢と顔面との皮膚は発赤し,細かな点状出血様の小発疹を多数認める。口の周囲は顔面と比べて蒼白である。舌はイチゴ状に乳頭が腫脹し,咽頭に暗赤色の発赤と点状出血とを認める。扁桃は発赤腫大し,表面に滲出物を認め,綿棒で表面をこすると膿性粘液が得られる。結膜に発赤を認めない。 最も考えられるのはどれか。
- a.風疹
- b.麻疹
- c.川崎病
- d.伝染性紅斑
- e.A群β溶血性レンサ球菌感染症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
発熱と発疹にイチゴ舌を伴う小児では、猩紅熱(A群β溶血性レンサ球菌感染症)と川崎病をまず考えます。口囲蒼白、膿性滲出物を伴う化膿性扁桃炎、軟口蓋の点状出血、紅斑上に密集する細かな丘疹、学童期という年齢は猩紅熱を示し、結膜充血や口唇紅潮を欠く点で川崎病とは区別できます。麻疹(Koplik斑・二峰性発熱)、風疹(耳介後部リンパ節腫脹)、伝染性紅斑(頬の紅斑・レース状紅斑)とも臨床像が異なります。診断は迅速抗原検査や培養で行い、ペニシリン系を10日間投与して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎といった続発症に注意します。口腔内と顔面の所見を系統的に読む習慣は、小児の発熱・発疹を鑑別するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・8歳女児。3日前から38℃台の発熱、咽頭痛、咳。2日前から瘙痒を伴う発疹。 ・皮膚:四肢と顔面がびまん性に発赤し、その上に細かな点状出血様の小丘疹が密集している(紅斑の中に粟粒大の発疹が多数みられ、触るとざらざらする、いわゆる猩紅熱様発疹)。 ・口囲蒼白(口の周囲だけが発赤を免れて白く見える)。 ・イチゴ舌(舌乳頭の腫大・発赤)。 ・咽頭の暗赤色発赤と軟口蓋の点状出血、扁桃の発赤腫大と表面の膿性滲出物(化膿性扁桃炎)。 ・眼球結膜の充血はない。
診断へのプロセス
発熱と発疹をきたす小児疾患(麻疹、風疹、突発性発疹、伝染性紅斑、水痘、伝染性単核症、川崎病、A群β溶血性レンサ球菌感染症など)を鑑別する。 まず「イチゴ舌」がみられる代表的な疾患は、A群β溶血性レンサ球菌(GAS:group A Streptococcus、化膿レンサ球菌)による猩紅熱と川崎病の二つである。次にこの二つを区別する手がかりとして、 ・口囲蒼白:猩紅熱に特徴的で、川崎病では口唇の紅潮・亀裂がみられる。 ・膿性滲出物を伴う化膿性扁桃炎と咽頭・軟口蓋の点状出血:溶連菌性咽頭炎の典型像である。川崎病では口腔咽頭粘膜のびまん性発赤はあっても、扁桃に膿性滲出物は付着しない。 ・眼球結膜充血なし:川崎病の主要症状の一つを欠く。 ・年齢8歳:川崎病は4歳以下が大半を占め、溶連菌感染症は学童期に多い。 これらから、GASが産生する発赤毒素(発熱性外毒素)による猩紅熱、すなわちA群β溶血性レンサ球菌感染症と診断できる。確定には咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査や培養を行う。
選択肢考察
- ×a. 風疹
風疹は風疹ウイルスによる感染症で、発熱とほぼ同時に淡い紅色の小斑状丘疹が顔から全身に広がり、約3日で消える(三日はしか)。耳介後部・後頸部リンパ節腫脹が特徴である。発熱は軽いことが多く、イチゴ舌、口囲蒼白、膿性滲出物を伴う化膿性扁桃炎はみられないため、本例とは合わない。
- ×b. 麻疹
麻疹は麻疹ウイルスによる感染症で、カタル期(発熱、咳、鼻汁、眼球結膜充血)に頬粘膜のKoplik斑が出現し、いったん解熱傾向となった後に再び高熱とともに発疹が出る(二峰性発熱)。発疹は耳後部・顔面から始まる融合傾向のある斑状丘疹で、色素沈着を残して消える。本例では結膜充血がなく、イチゴ舌、口囲蒼白、化膿性扁桃炎は麻疹の所見ではない。
- ×c. 川崎病
川崎病でもイチゴ舌と発熱・発疹がみられるが、主要症状には両側眼球結膜充血、口唇の紅潮、手足の硬性浮腫・掌蹠紅斑(回復期の膜様落屑)、非化膿性頸部リンパ節腫脹が含まれる。本例は結膜充血を欠き、口唇の紅潮ではなく口囲蒼白を示し、扁桃には膿性滲出物がある。これらは川崎病では説明しにくい。また川崎病は4歳以下の乳幼児に多く、8歳での発症は少ない。
- ×d. 伝染性紅斑
伝染性紅斑(リンゴ病)はヒトパルボウイルスB19による感染症で、両頬の平手打ち様紅斑に続き、四肢伸側にレース状(網目状)紅斑が現れる。発疹が出る時期にはウイルス血症は終わっており、発熱はないか軽微で全身症状に乏しい。イチゴ舌、口囲蒼白、化膿性扁桃炎はみられず、本例と合わない。
- ○e. A群β溶血性レンサ球菌感染症
発熱と咽頭痛で始まり、滲出物を伴う化膿性扁桃炎、軟口蓋の点状出血、イチゴ舌、口囲蒼白、全身の紅斑上に密集する細かな点状丘疹(瘙痒を伴うことが多い)という組み合わせは、A群β溶血性レンサ球菌の発赤毒素による猩紅熱に典型的である。学童期に多いことも本例と合う。診断は咽頭の迅速抗原検査や培養で行い、治療はペニシリン系抗菌薬(アモキシシリンなど)を10日間投与する。十分な治療によりリウマチ熱の予防が期待できる。
A群β溶血性レンサ球菌(GAS)感染症
Streptococcus pyogenesによる感染症で、咽頭炎・扁桃炎が最も多く、5~15歳の学童期に好発する。冬から春にかけて流行する。 ・猩紅熱:発赤毒素(発熱性外毒素)により、発熱・咽頭炎に加え全身に発疹が出現したもの。発疹は頸部・腋窩・鼠径部から始まり全身に広がる、紅斑上の密集した細かい丘疹で、皮膚の皺の部分に線状の点状出血(Pastia線)がみられる。口囲蒼白、イチゴ舌(初期は白苔に覆われた白イチゴ舌、数日後に赤いイチゴ舌)が特徴。回復期には手掌・足底を中心に膜様・落屑がみられる。 ・診断:咽頭ぬぐい液の迅速抗原検査、咽頭培養。血清ASO(抗ストレプトリジンO抗体)・ASK上昇は感染後の証明に用いる。 ・治療:ペニシリン系(アモキシシリンなど)10日間内服が基本。ペニシリンアレルギーでは他系統(セフェム系、マクロライド系など)を用いる。 ・続発症:リウマチ熱(感染後2~3週、抗菌薬治療で予防可能)、急性糸球体腎炎(感染後1~2週の潜伏期を経て血尿・浮腫・高血圧)。ほかにPANDAS、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(トキシックショック様症候群)などがある。
イチゴ舌をきたす疾患
猩紅熱(溶連菌感染症)、川崎病、ブドウ球菌性トキシックショック症候群など。
発熱と発疹をきたす主な小児疾患の特徴
・麻疹:カタル症状、Koplik斑、二峰性発熱、色素沈着を残す発疹。 ・風疹:発熱と同時の淡い発疹、耳介後部リンパ節腫脹、約3日で消退。 ・突発性発疹:乳児期、3~4日の高熱が下がった後に発疹が出る(HHV-6、HHV-7)。 ・伝染性紅斑:頬の紅斑とレース状紅斑、発熱は軽微。 ・水痘:紅斑・丘疹・水疱・痂皮が混在する。 ・伝染性単核症:発熱、扁桃炎(白苔付着)、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫。ペニシリン系(特にアンピシリン、アモキシシリン)投与で発疹が出やすい。 ・川崎病:5日以上の発熱(現行の基準では5日未満でも他の主要症状がそろえば診断しうる)、両側眼球結膜充血、口唇紅潮・イチゴ舌、不定形発疹、四肢末端の変化、非化膿性頸部リンパ節腫脹。4歳以下が大半。
POINT
・イチゴ舌をきたす代表疾患は猩紅熱(A群β溶血性レンサ球菌感染症)と川崎病である。 ・口囲蒼白、化膿性扁桃炎、軟口蓋の点状出血、紅斑上の細かい点状丘疹は猩紅熱を示す。 ・川崎病は眼球結膜充血と口唇紅潮を伴い、扁桃に膿は付かず、4歳以下に多い。 ・溶連菌感染症はペニシリン系10日間で治療し、続発症としてリウマチ熱と急性糸球体腎炎に注意する。
