「ストレスも多いので…」の続きを聴く―医療面接で患者の言葉を引き出す一言
第102回医師国家試験 H問題 第29問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性。前胸部痛を主訴に来院した。1か月前から毎日2,3時間,前胸部に何となく重苦しい感じが続いていた。全身倦怠感を認めたが,不眠はなかった。症状に関して確認し,さらに患者の考えを聞いたところ,「最近いろいろストレスも多いので…」と話した。 これに続く医師の発言として適切なのはどれか。
- a.「それは問題ないと思います」
- b.「ストレスが原因だと思います」
- c.「お仕事はストレスになりますか」
- d.「ほかに原因として心当たりはありますか」
- e.「よろしければもう少し詳しく教えていただけますか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医療面接で患者が症状の原因について自分の考えを述べかけたときは、評価や判断を挟まず、「もう少し詳しく教えていただけますか」といった促しや開かれた質問で、続きを患者自身の言葉で語ってもらうのが基本です。身体疾患を評価する前に「問題ない」「ストレスが原因」と決めつけるのは、虚血性心疾患などの見逃しにつながり危険です。医師の推測で話題を限定する閉じた質問や、患者が出した話題を掘り下げずに別の話題へ移ることも、この段階では適切ではありません。解釈・懸念・期待を丁寧に聴き取りつつ、胸部症状では命に関わる疾患の除外を優先し、心因性の判断は身体的評価のあとに行います。傾聴と医学的評価を両立させる姿勢は、OSCEだけでなく日々の診療の信頼関係と安全の土台になります。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
・35歳の女性。1か月前から毎日2〜3時間、前胸部に「何となく重苦しい感じ」が続いている。全身倦怠感はあるが不眠はない。 ・医師はすでに症状について確認し、さらに患者自身がこの症状をどう考えているか(解釈モデル)を尋ねた。その答えが「最近いろいろストレスも多いので…」という、言葉を濁した発言である。
医療面接での考え方
患者の解釈を尋ねる目的は、患者が何を原因と考え、何を心配し、何を期待しているかを理解することにある。本症例の患者は「ストレス」という言葉を出したが、文末が「…」で途切れており、まだ言い尽くしていない内容があると考えられる。この段階で医師がすべきことは、評価や判断を下すことでも、話題を変えることでも、医師側の推測で内容を狭めることでもなく、患者が話しやすいように促し、続きを患者自身の言葉で語ってもらうことである。 そのために有効なのが、「はい/いいえ」では答えられず自由に話せる開かれた質問(オープンクエスチョン)や、「それで?」「もう少し教えてください」といった促し(ファシリテーション)である。
医学的な観点
一方で、前胸部の重苦しさは、狭心症などの虚血性心疾患、心膜炎、肺疾患、消化器疾患(胃食道逆流症など)、筋骨格系の痛みなど、多くの身体疾患でも起こりうる。35歳の女性でも、冠攣縮性狭心症、甲状腺機能異常、貧血などを考える必要がある。また全身倦怠感は、うつ病などの精神疾患の徴候である可能性もある。身体疾患の検索を行う前に「ストレスが原因」と結論づけたり、「問題ない」と保証したりすることは、重大な疾患の見逃しにつながる。 以上から、患者の話を深める促しの言葉が、この場面で最も適切な応答である。
選択肢考察
- ×a. 「それは問題ないと思います」
身体診察も検査もまだ行っておらず、ストレスと症状との関係も、身体疾患の有無も判断できる段階ではない。根拠なく「問題ない」と言うことは、心疾患などの重大な疾患を見逃す危険があるうえ、患者が打ち明けようとしたストレスの話を打ち切ってしまい、不安や悩みを受け止めない態度になる。
- ×b. 「ストレスが原因だと思います」
身体疾患を除外しないまま心因性と決めつけることは、虚血性心疾患などの見逃しにつながり危険である。心理社会的要因が関与する症状と判断するには、まず器質的疾患を適切に評価する必要がある。また、患者の言葉をそのまま医師の結論として返すと、患者が語ろうとしていた内容(何がストレスなのか、どんな心配があるのか)を聞く機会も失われる。
- ×c. 「お仕事はストレスになりますか」
「はい/いいえ」で答える閉じた質問(クローズドクエスチョン)であり、しかもストレスの原因を仕事と医師側で限定してしまっている。ストレスの内容は家庭、人間関係、健康不安など様々であり、医師の推測で話題を狭めると、患者が本当に話したいことを引き出せなくなる。また、ストレスの話題に面接全体を誘導してしまい、身体症状の評価がおろそかになるおそれもある。閉じた質問は、開かれた質問で情報を集めたあとに、細部を確認する段階で用いるのがよい。
- ×d. 「ほかに原因として心当たりはありますか」
開かれた質問の形ではあるが、患者がせっかく口にした「ストレス」の話題を掘り下げないまま、別の原因へと話を移してしまう。患者は「ストレスの話は聞いてもらえなかった」と感じる可能性があり、患者の解釈モデルを十分に理解できない。他の心当たりを尋ねることは面接の後の段階では有用であるが、この直後の応答としては最適ではない。
- ○e. 「よろしければもう少し詳しく教えていただけますか」
患者が言いかけた内容を、患者自身の言葉で続けてもらうための促し(ファシリテーション)であり、開かれた質問である。話題を限定しないため、ストレスの具体的な内容、症状との関係についての患者の考え、心配していること(例:心臓病ではないか)や受診に際しての期待などを幅広く引き出すことができる。「よろしければ」と話すかどうかを患者に委ねる言い方は、話しにくい内容に配慮した丁寧な姿勢でもある。得られた情報は、その後の身体疾患の評価や心理社会的な支援に役立つ。
医療面接の質問法
・開かれた質問(オープンクエスチョン):「どうなさいましたか」「どのような痛みですか」など、患者が自由に答えられる質問。多くの情報を得られ、患者の考えや感情を引き出しやすい。面接の初めや、新しい話題に入るときに用いる。 ・焦点を絞った質問:「痛みの性状について教えてください」など、話題をある程度限定しつつ自由に答えてもらう質問。 ・閉じた質問(クローズドクエスチョン):「はい/いいえ」や一語で答える質問。特定の情報の確認に適するが、多用すると患者の話を狭める。 ・誘導的な質問:「〜ですよね」のように、医師の想定する答えへ導く質問。不正確な情報を招くため避ける。
面接を円滑にする技法
・促し(ファシリテーション):うなずき、相づち、「それで」「もう少し詳しく」などで話の続きを促す。 ・繰り返し:患者の言葉の一部をそのまま返し、話の続きを促す。 ・要約・確認:聞いた内容をまとめて伝え、誤りがないか確認する。 ・共感:患者の感情を言葉にして受け止める(「それはおつらいですね」)。 ・沈黙:患者が考えをまとめる時間を与える。
解釈モデルの聴取
患者が症状の原因をどう考えているか(解釈)、何を心配しているか(懸念)、医療に何を期待しているか(期待)を把握することは、患者中心の医療の基本である。これらを聴取する際には、医師が評価や否定をせず、まず受け止めることが大切である。
心因性の判断について
症状を心理的要因によるものと判断するのは、必要な身体疾患の評価を行ったうえでである。胸部症状では、虚血性心疾患、肺塞栓症、大動脈解離など生命に関わる疾患の除外が重要である。また、身体疾患と心理的要因が併存していることもまれではない。
POINT
・患者が言いかけた内容や解釈を述べたときは、開かれた質問・促しで続きを患者自身の言葉で語ってもらう。 ・身体疾患を評価する前に「問題ない」「ストレスが原因」と決めつけない。 ・医師側の推測で話題を限定する閉じた質問(例:仕事がストレスか)は、この段階では避ける。 ・患者の出した話題を掘り下げずに別の話題へ移ることも、傾聴の観点から適切でない。
