声を残し、飲み込みを守る―頭頸部癌と放射線、甲状腺癌だけが外れる理由
第102回医師国家試験 G問題 第32問
国試問題にチャレンジ
根治的放射線治療の適応とならないのはどれか。
- a.上咽頭癌
- b.中咽頭癌
- c.舌癌
- d.喉頭癌
- e.甲状腺癌
対話形式の解説
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医学生まとめ
根治的放射線治療は、放射線感受性が比較的高く、局所に限局し、手術では機能や形態の損失が大きい、あるいは手術が困難な腫瘍によい適応があります。上咽頭癌・中咽頭癌・舌癌・喉頭癌などの頭頸部扁平上皮癌はこの条件を満たし、上咽頭癌は解剖学的に手術困難なため放射線が第一選択、早期声門癌は音声温存のため外部照射、早期舌癌は密封小線源治療の対象となります。一方、甲状腺癌の大部分を占める乳頭癌・濾胞癌は外部照射への感受性が低く、手術成績が良好なため手術が基本で、術後のヨウ素131内用療法は外部照射による根治治療とは異なる補助療法です。「放射線を使う治療」と「根治的外部照射」を区別し、組織型ごとの感受性と治療方針を整理しておくことが、放射線治療の適応判断の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
根治的放射線治療とは、腫瘍を放射線によって完全に消失させ治癒を目指す治療であり、症状の緩和を目的とする緩和照射と区別される。根治的放射線治療のよい適応となるのは、(1)放射線感受性が比較的高い腫瘍、(2)局所に限局している腫瘍、(3)手術では機能や形態の損失が大きい部位、あるいは解剖学的に手術が困難な部位の腫瘍である。 頭頸部癌(上咽頭・中咽頭・口腔・喉頭など)の大部分は扁平上皮癌で、放射線感受性が比較的高い。さらに頭頸部は発声・嚥下・咀嚼・外見といった生活の質に直結する機能が集中しているため、臓器や機能を温存できる放射線治療(必要に応じて化学療法を併用した化学放射線療法)が根治治療の重要な柱になっている。 これに対し甲状腺癌の大部分を占める乳頭癌・濾胞癌(分化癌)は外部照射に対する感受性が低く、進行も緩やかで手術成績が良好なため、甲状腺切除術が治療の基本である。したがって根治的放射線治療の適応とならないのは甲状腺癌である。
選択肢考察
- ×a. 上咽頭癌
上咽頭癌は非角化型(未分化型を含む)扁平上皮癌が多く、EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)との関連が深い。放射線感受性が高いうえ、頭蓋底に接する深部に位置し手術で切除することが解剖学的に困難である。そのため早期例でも手術は行わず、放射線治療(進行例では化学放射線療法)が根治治療の第一選択となる。
- ×b. 中咽頭癌
中咽頭癌(扁桃・舌根・軟口蓋などに発生)は扁平上皮癌が主体で、放射線感受性が比較的高い。手術では嚥下や構音の機能障害が問題となるため、機能温存の観点から放射線治療や化学放射線療法が根治治療として広く行われる。特にヒトパピローマウイルス(HPV)関連の中咽頭癌は放射線・化学療法への反応が良好で予後がよい。病変によっては手術も選択肢となる。
- ×c. 舌癌
舌癌は口腔癌で最も多く、ほとんどが扁平上皮癌である。早期舌癌では、192Ir(イリジウム192)や198Au(金198)などの線源を舌に刺入する密封小線源治療(組織内照射)によって、舌の形態と機能を保ったまま根治を目指すことができる。現在は部分切除術が選ばれることも多いが、小線源治療は根治的放射線治療の代表的な手段であり、舌癌はその適応となる。
- ×d. 喉頭癌
喉頭癌の多くは扁平上皮癌で、声帯に発生する声門癌が最も多い。早期(I・II期)の声門癌は外部照射による根治的放射線治療で高い局所制御率が得られ、手術と異なり音声を温存できるため第一選択となることが多い。進行例では喉頭全摘出術が行われるが、喉頭温存を目指した化学放射線療法が選択されることもある。
- ○e. 甲状腺癌
甲状腺癌の大多数(乳頭癌が約9割、次いで濾胞癌)は分化癌であり、外部照射に対する放射線感受性が低い。一方で進行が緩徐で手術による予後が良好なため、甲状腺全摘術や葉切除術と所属リンパ節郭清が治療の基本となり、外部照射による根治的放射線治療の適応とはならない。なお分化癌の術後には、残存甲状腺や転移巣に対して放射性ヨウ素(131I)の内服による内用療法が行われることがあるが、これは甲状腺組織のヨウ素取り込み能を利用した補助療法であり、外部照射による根治治療とは異なる。未分化癌は進行がきわめて速く予後不良で、外部照射は化学療法などと組み合わせた集学的治療や局所制御・症状緩和の目的で用いられる。
放射線感受性と治療の目安
・感受性が高い:悪性リンパ腫、セミノーマ、小細胞肺癌、Wilms腫瘍、神経芽腫など ・中等度:扁平上皮癌(頭頸部癌、食道癌、子宮頸癌、皮膚癌など) ・低い:腺癌の多く、腎細胞癌、悪性黒色腫、骨肉腫、軟部肉腫、甲状腺分化癌など
頭頸部癌と放射線治療
頭頸部癌の約9割は扁平上皮癌であり、喫煙・飲酒が主な危険因子である(上咽頭癌はEBウイルス、中咽頭癌はHPVとの関連が重要)。機能・形態の温存が生活の質に大きく関わるため、早期癌では放射線単独治療、局所進行癌ではシスプラチンなどを併用した化学放射線療法が根治治療として用いられる。晩期有害事象として口腔乾燥(唾液腺障害)、放射線性顎骨壊死、甲状腺機能低下症などに注意が必要である。
甲状腺癌の組織型と治療
・乳頭癌:最多。リンパ節転移が多いが予後良好。手術が基本。 ・濾胞癌:血行性転移(肺・骨)をきたしやすい。手術が基本。遠隔転移には131I内用療法。 ・髄様癌:傍濾胞細胞(C細胞)由来でカルシトニンを産生する。多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)との関連がある。ヨウ素を取り込まないため131I内用療法は無効で、手術が基本。 ・未分化癌:高齢者に多く急速に増大し、予後はきわめて不良。手術・外部照射・化学療法・分子標的薬を組み合わせる。 ・悪性リンパ腫:橋本病を背景に発生することがあり、化学療法や放射線治療が有効。
POINT
・根治的放射線治療の適応:放射線感受性があり、局所に限局し、機能温存の利点が大きい腫瘍 ・頭頸部の扁平上皮癌(上咽頭癌・中咽頭癌・舌癌・喉頭癌)は根治的放射線治療の適応となる ・上咽頭癌は解剖学的に手術困難で、放射線(化学放射線療法)が第一選択 ・早期喉頭癌(声門癌)は音声温存のため放射線治療 ・早期舌癌は密封小線源治療(組織内照射)の対象 ・甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)は外部照射の感受性が低く手術が基本。術後の補助として131I内用療法
