PaO2は正常なのに酸素が足りない―「運ぶ力」と「流す力」で見抜く組織低酸素
第102回医師国家試験 G問題 第17問
国試問題にチャレンジ
PaO2が正常でも組織低酸素をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.肝不全
- b.腎不全
- c.循環不全
- d.一酸化炭素中毒
- e.高二酸化炭素血症
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
PaO2は血漿に溶けた酸素の圧力を示すにすぎず、組織への酸素運搬量は主に心拍出量とHb量、SaO2で決まります。そのためPaO2が正常でも、血流が不足する循環不全(循環性低酸素)や、COがHbに強く結合して酸素運搬を妨げ解離曲線も左方移動させる一酸化炭素中毒(貧血性低酸素)では組織低酸素が生じます。CO中毒ではSpO2も見かけ上正常となりやすく、COオキシメトリーでのCO-Hb測定が診断に必要です。一方、高CO2血症はボーア効果でむしろ組織への酸素放出を促し、肝不全・腎不全はそれ自体が直接の機序とはなりません。低酸素症を低酸素性・貧血性・循環性・組織中毒性の4つに分けて整理することは、SpO2や血液ガスの数値に惑わされず病態を見抜く臨床判断の土台になります。
解答・解説
正解はc, dです
問われていること
動脈血酸素分圧(PaO2)は「血漿に物理的に溶け込んでいる酸素の圧力」を示す指標にすぎず、組織に実際に届く酸素の量をそのまま表すものではない。本問は、肺での酸素の取り込み(PaO2)には問題がないのに、組織が酸素不足に陥る病態を選ばせる問題である。
組織への酸素供給を決める因子
組織への酸素運搬量(DO2)は、おおよそ次の式で表される。 DO2 = 心拍出量 × 動脈血酸素含量(CaO2) CaO2 = 1.34 × Hb(g/dL)× SaO2 + 0.003 × PaO2(mmHg) (CaO2の単位はmL/dL。1.34はHb 1gが結合できる酸素量、0.003は酸素の溶解係数) 式から分かるように、血液中の酸素の大部分はヘモグロビン(Hb)に結合した形で運ばれ、溶解酸素はごく一部にすぎない。したがって、PaO2が正常でも、(1) Hbが酸素を運べない(Hb量の減少、Hbの機能異常)、(2) 血液を送り出す量や組織への血流が減る、(3) 組織が酸素を利用できない、のいずれかがあれば組織低酸素が起こる。
考え方
選択肢のうち、上記(2)に当たるのが循環不全、(1)のHb機能異常に当たるのが一酸化炭素中毒である。肝不全・腎不全・高二酸化炭素血症は、それ自体が「PaO2正常のまま組織への酸素供給を断つ」典型的な機序をもたない。
選択肢考察
- ×a. 肝不全
肝不全は肝臓の合成・解毒機能が破綻した状態で、黄疸、凝固障害、肝性脳症、低アルブミン血症などを呈する。Hbの酸素運搬能や組織への血流、組織の酸素利用を直接損なう病態ではないため、「PaO2正常でも組織低酸素をきたす」典型例には当たらない。なお、肝硬変に合併する肝肺症候群では肺内シャントによりPaO2自体が低下するので、本問の条件(PaO2正常)とは異なる。
- ×b. 腎不全
腎不全は老廃物・水・電解質の排泄障害を主体とする病態で、腎不全そのものがHbの酸素結合や組織の酸素利用を妨げるわけではない。長期経過で腎性貧血(エリスロポエチン産生低下)を合併すれば酸素含量は下がりうるが、それは貧血による二次的なものであり、本問で問われている直接的な機序ではない。
- ○c. 循環不全
ショックや心不全などの循環不全では、肺での酸素化は保たれPaO2もHb量も正常でありうるが、心拍出量や末梢組織への血流が減るため、単位時間あたりに組織へ届く酸素量(DO2)が不足する。これを循環性(停滞性)低酸素と呼ぶ。血流が遅い末梢では酸素が過剰に抜き取られて還元Hbが増え、末梢性チアノーゼとして現れる。組織では嫌気性代謝が進み、乳酸上昇(乳酸アシドーシス)が組織低酸素の指標となる。
- ○d. 一酸化炭素中毒
一酸化炭素(CO)はHbに対して酸素の約200〜250倍の親和性をもつため、少量でもHbと強く結合して一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)を形成し、酸素と結合できるHbが減る。さらに残ったHbの酸素解離曲線を左方移動させ、組織で酸素を放しにくくする。一方、血漿に溶ける酸素には影響しないためPaO2は正常であり、パルスオキシメータ(SpO2)もCO-HbとO2-Hbを区別できず見かけ上正常値を示しやすい。このため酸素含量が著しく低下していても見逃されやすく、診断にはCOオキシメトリーでCO-Hb濃度を測定する必要がある。
- ×e. 高二酸化炭素血症
高二酸化炭素血症(PaCO2上昇)は肺胞低換気の指標であり、低換気が強ければ肺胞気酸素分圧が下がってPaO2も低下するが、PaO2が正常に保たれている条件下では組織への酸素供給は損なわれない。むしろCO2上昇とアシドーシスは酸素解離曲線を右方移動させ(ボーア効果)、組織でHbが酸素を放しやすくなる方向に働く。したがって、それ自体が組織低酸素の原因とはならない。
低酸素症(組織低酸素)の4分類
(1) 低酸素性低酸素症(hypoxemic hypoxia):PaO2が低下するもの。高地、肺胞低換気、換気血流比不均等、拡散障害、シャントなど。 (2) 貧血性低酸素症(anemic hypoxia):PaO2は正常だが、Hbが少ない、または機能しないもの。貧血、一酸化炭素中毒、メトヘモグロビン血症など。 (3) 循環性(停滞性)低酸素症(circulatory / stagnant hypoxia):PaO2もHbも正常だが、血流が不足するもの。ショック、心不全、動脈閉塞など。 (4) 組織中毒性低酸素症(histotoxic hypoxia):酸素は十分届いているが、細胞が利用できないもの。シアン化合物中毒(ミトコンドリアのシトクロム酸化酵素を阻害)、硫化水素中毒など。 (2)〜(4)はいずれも「PaO2正常でも組織低酸素」となりうる病態である。
一酸化炭素中毒の補足
・原因:不完全燃焼(練炭、火災、換気不良の暖房器具、車の排気ガス)。 ・症状:頭痛、悪心、意識障害など。皮膚の鮮紅色(チェリーレッド)は教科書的だが実際には目立たないことも多い。 ・治療:高濃度酸素投与(CO-Hbの半減期は室内気で約4〜5時間、100%酸素で約1時間程度に短縮)。重症例では高気圧酸素療法を考慮する。 ・回復後数日〜数週で認知障害などが出現する間欠型一酸化炭素中毒(遅発性脳症)に注意する。
SpO2とPaO2の限界
PaO2は溶解酸素、SpO2は(パルスオキシメータの原理上)酸素化Hbと還元Hbの比を見ているにすぎない。CO中毒ではどちらも見かけ上正常となりうるため、臨床状況から疑うことが重要である。
POINT
・PaO2は溶解酸素の指標であり、組織への酸素運搬量は「心拍出量 × Hb量 × SaO2」で大きく決まる。 ・PaO2正常でも組織低酸素となるのは、貧血性(貧血、CO中毒、メトHb血症)、循環性(ショック、心不全)、組織中毒性(シアン中毒)の低酸素症である。 ・CO中毒ではPaO2もSpO2も正常にみえるため、CO-Hb測定(COオキシメトリー)で診断する。 ・高CO2血症はボーア効果で酸素解離曲線を右方移動させ、組織での酸素放出を促す。
