柔らかい先進部と触れる「あご」―反屈の極み、顔位を見抜く
第102回医師国家試験 E問題 第60問
国試問題にチャレンジ
28歳の経産婦。妊娠37週時に破水と下腹部痛とを主訴に来院した。Leopold診察法では,第1段で浮動感を認めない大きな塊,第2段では左手に不規則な凹凸状の抵抗を触れた。胎児心音を最も強く聴取できる部位は臍と右上前腸骨棘の中間である。内診で子宮口は6cm開大し,先進部は軟で母体右側に頤部を触れる。 胎児の胎勢はどれか。
- a.顔位
- b.額位
- c.後頭位
- d.頭頂位
- e.前頭位
対話形式の解説
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医学生まとめ
胎勢とは胎児の頭・体幹・四肢の相互の姿勢を指し、正常の屈位である後頭位から、反屈が強まるにつれて頭頂位・前頭位、額位、顔位へと先進部が移ります。Leopold診察法で子宮底に殿部、検者の左手(母体右側)に小部分を触れれば、頭位で児背は母体左側と判断できます。通常は児背側で聞こえる胎児心音が小部分側で最もよく聞こえるのは、反屈で胎児の胸部が前方に張り出すためで、顔位を示唆します。内診で軟らかい先進部と頤部を触れれば顔位と確定でき、前方頤位なら経腟分娩が可能なことがある一方、後方頤位のままなら帝王切開の適応となります。先進点(小泉門・大泉門・額・頤)と通過径を胎勢ごとに整理しておくことは、分娩の進み方を予測し、異常に早く気づくための基本になります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
28歳の経産婦が、妊娠37週で破水と下腹部痛(陣痛)を主訴に来院した。胎児の位置関係を、外診(Leopold診察法・胎児心音の聴取部位)と内診の結果から組み立てる問題である。 ・Leopold診察法第1段(子宮底部の胎児部分を調べる):浮動感(バロットマン)のない大きな塊を触れる。児頭であれば硬く球形で浮球感を示すはずであり、浮動感のない大きく柔らかめの塊は殿部と考えられる。→ 子宮底に殿部があるので、先進部は頭側であり頭位である。 ・Leopold診察法第2段(子宮の左右側壁を調べ、児背と小部分の位置を知る):検者の左手に不規則な凹凸(小部分=四肢)を触れる。検者は妊婦の右側に立ち、頭側を向いて診察するため、検者の左手は母体の右側に当たる。→ 小部分は母体右側、児背は母体左側にあり、第1胎向である。 ・胎児心音の最良聴取部位:臍と右上前腸骨棘の中間(母体の右下腹部)。通常の後頭位では心音は児背側(本例なら左側)で最もよく聞こえるはずだが、本例では小部分側で聴取される。顔位では児頭が強く反屈し胎児の胸部が前方(小部分側)に張り出して子宮壁に接するため、心音は小部分側で強く聞こえる。この所見は反屈位、特に顔位を示唆する。 ・内診:子宮口6cm開大、先進部は軟らかく、母体右側に頤部(おとがい、下あご)を触れる。→ 先進部が硬い頭蓋骨ではなく柔らかい顔面であり、頤部を触知できることから顔位と確定できる。
設問への考え方
胎勢とは、胎児の頭部・体幹・四肢の相互の姿勢(屈曲しているか反屈しているか)を指す。正常な胎勢は屈位で、児頭が前屈して顎を胸につけ、後頭部が先進する(後頭位)。児頭が反り返る(反屈する)につれて、先進部は大泉門付近(前頭位)、額(額位)、顔面(顔位)へと移る。反屈が最も強く、頤部が内診で触れる本例は顔位である。設問は胎勢を問うており、胎向(第1・第2)の区別までは求められていない。
選択肢考察
- ○a. 顔位
正しい。顔位は児頭が最大限に反屈し、顔面が先進する胎勢で、分娩進行の指標(先進点)は頤部である。内診では柔らかい先進部として口、鼻、眼窩縁、頤部などの顔面の構造を触れる。本例は先進部が軟らかく頤部を触れること、さらに胎児心音が小部分側(母体右下腹部)で最もよく聴取されることがいずれも顔位に合致する。顔位は頤部が母体の前方(恥骨側)に回旋する前方頤位であれば経腟分娩が可能なことがあるが、後方頤位のまま回旋しない場合は経腟分娩が困難で帝王切開の適応となる。
- ×b. 額位
誤り。額位は反屈が中等度の胎勢で、額(前頭部)が先進する。内診では前頭縫合、大泉門の前方部分、眼窩上縁、鼻根部などを触れるが、頤部までは届かない。産道を通過する児頭の周径が大斜径(約13.5cm)に相当し最も大きくなるため、正期産児ではそのままでは経腟分娩がほぼ不可能であり、顔位または後頭位へ移行しなければ帝王切開となる。本例では頤部を触れており、額位ではない。
- ×c. 後頭位
誤り。後頭位は児頭が十分に前屈した正常の胎勢(屈位)で、後頭部が先進し、内診では小泉門を先進点として触れる。産道を通過する児頭の径は小斜径(約9.5cm)で最も小さく、分娩に最も有利である。先進部は硬い頭蓋骨であり、胎児心音は児背側で最もよく聴取される。本例は先進部が軟らかく頤部を触れ、心音も小部分側で聞こえるため後頭位ではない。
- ×d. 頭頂位
誤り。頭頂位は児頭が屈曲も反屈もしていない中間の状態に近く、頭頂部(大泉門と小泉門の間)が先進する胎勢で、反屈位のうち最も程度の軽いものとして前頭位と並べて扱われる。内診では大泉門・小泉門がほぼ同じ高さに触れ、先進部は硬い頭蓋骨である。頤部を触知することはなく、本例には当てはまらない。
- ×e. 前頭位
誤り。前頭位は軽度の反屈位で、大泉門付近が先進点となる。内診では大泉門が小泉門より低い位置(先進側)に触れる。児頭の通過径は前後径(約11.5〜12cm)となり後頭位より大きいため、分娩が遷延しやすい。先進部は硬い頭蓋骨であり、頤部を触れることはないため本例とは合わない。
胎児の位置を表す用語
・胎位:胎児の縦軸と子宮の縦軸との関係と先進部。縦位(頭位・骨盤位)、横位、斜位に分ける。 ・胎向:児背(横位では児頭)が母体の左右どちらを向いているか。左側が第1胎向、右側が第2胎向。さらに児背が前方か後方かで第1分類(前方)・第2分類(後方)に分ける。 ・胎勢:胎児の各部分の相互の姿勢。屈位(正常)と反屈位に分ける。 ・回旋:分娩の進行に伴い、胎児が産道の形に合わせて行う回転運動。
屈位と反屈位(反屈の程度の順)
・後頭位(屈位、正常):先進点は小泉門。通過径は小斜径(約9.5cm)。 ・頭頂位・前頭位(軽度の反屈):先進点は大泉門付近。通過径は前後径。 ・額位(中等度の反屈):先進点は額。通過径は大斜径(約13.5cm)で最大。経腟分娩はほぼ不可能。 ・顔位(高度の反屈):先進点は頤部。前方頤位なら経腟分娩可能なことがあるが、後方頤位では不可能。
顔位の特徴
・頻度はおよそ数百分娩に1例と少ない。 ・原因:経産婦の腹壁弛緩、児頭骨盤不均衡、狭骨盤、胎児頸部腫瘤(甲状腺腫など)、無脳児、臍帯巻絡、早産児・小さい児など。 ・外診所見:Leopold診察で児背と後頭部の間に深い陥凹(反屈による角度)を触れる。胎児心音は小部分側で最もよく聴取される(反屈で胎児の胸部が前方に出るため)。 ・内診所見:柔らかい先進部として口・鼻・眼窩・歯槽突起・頤部を触れる。骨盤位の殿部と紛らわしいが、口と肛門の区別(口では歯槽突起を触れ、指を吸うことがある)、眼窩の存在などで区別する。内診時に眼球を傷つけないよう注意が必要である。 ・分娩後、児の顔面浮腫・変形がみられることがあるが、多くは数日で改善する。
Leopold診察法
・第1段:両手で子宮底を触れ、子宮底の高さと子宮底にある胎児部分(児頭か殿部か)を知る。児頭は硬く球形で浮球感がある。 ・第2段:両手を子宮の左右側壁に置き、児背(平らで板状)と小部分(不規則な凹凸)の位置から胎向を知る。 ・第3段:片手で恥骨結合上の先進部をつかみ、その種類と可動性を調べる。 ・第4段:検者が妊婦の足側を向き、両手で先進部の骨盤内への進入の程度を調べる。 第1〜3段は検者が妊婦の右側に立って頭側を向いて行うため、検者の右手が母体の左側、左手が母体の右側に当たる。
POINT
・胎勢は屈位(後頭位)と反屈位(頭頂位・前頭位→額位→顔位の順に反屈が強い)に分ける。 ・内診で頤部を触れれば顔位。先進点は後頭位で小泉門、前頭位で大泉門、額位で額、顔位で頤。 ・Leopold第1段で浮動感のない大きな塊は殿部(→頭位)。第2段で検者左手=母体右側。 ・通常、胎児心音は児背側で最もよく聞こえるが、顔位では小部分側で聞こえる。 ・額位は通過径が大斜径で最大となり経腟分娩はほぼ不可能。顔位は前方頤位なら経腟分娩の可能性あり、後方頤位では不可能。
