温かいのにショック―血圧の式で読み解く warm shock の正体
第102回医師国家試験 E問題 第29問
国試問題にチャレンジ
血圧は低下し,皮膚は温かく紅潮している。心拍出量は増加し,末梢血管抵抗は低下している。 この病態に当てはまるのはどれか。
- a.出血性ショック
- b.心原性ショック
- c.敗血症性ショック
- d.神経原性ショック
- e.アナフィラキシーショック
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血圧はおおよそ心拍出量と末梢血管抵抗の積で決まり、心拍出量が増えているのに血圧が低い場合は、末梢血管抵抗の著しい低下、すなわち血液分布異常性ショックを考えます。そのうち、頻脈を伴って心拍出量が増加し皮膚が温かく紅潮する warm shock は、サイトカインや NO による全身の血管拡張が起こる敗血症性ショックの初期像に典型的です。出血性・心原性ショックは心拍出量低下と血管抵抗上昇による cold shock、神経原性ショックは徐脈で心拍出量が増えず、アナフィラキシーは血漿漏出で心拍出量が低下し皮膚・気道症状を伴う点で区別されます。敗血症性ショックも進行すれば cold shock に移行するため、皮膚温だけで否定しないことが重要です。血行動態の式から病態を読み解く考え方は、救急・集中治療の現場で輸液や血管収縮薬を選ぶ判断の土台になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・血圧低下:ショックの状態である。 ・皮膚が温かく紅潮している:末梢の血管が拡張し、皮膚への血流が保たれている(いわゆる warm shock)。 ・心拍出量の増加:心臓のポンプ機能は保たれ、むしろ亢進している(高心拍出量状態、hyperdynamic state)。 ・末梢血管抵抗の低下:血管が過度に拡張している。
考え方
血圧は「心拍出量 × 末梢血管抵抗」でおおよそ決まる。心拍出量が増えているのに血圧が下がっているのは、末梢血管抵抗が大きく下がったためと考えられる。これは血液分布異常性ショック(distributive shock)の特徴である。 一方、循環血液量減少性ショック(出血など)と心原性ショックでは心拍出量がまず低下する。これを補うために交感神経が緊張して末梢血管が収縮するので、皮膚は冷たく湿って蒼白になる(cold shock)。 血液分布異常性ショックには、敗血症性・アナフィラキシー・神経原性が含まれる。このうち、皮膚が温かく心拍出量が増加した状態が典型的にみられるのは、敗血症性ショックの初期(warm shock、hyperdynamic 期)である。感染に対する過剰な炎症反応で NO(一酸化窒素)などの血管拡張物質が大量に産生され、血管抵抗が大きく下がる。それを代償するように頻脈となり、心拍出量が増加する。
選択肢考察
- ×a. 出血性ショック
外傷や消化管出血などで循環血液量が減る、循環血液量減少性ショックである。心臓に戻る血液(前負荷)が減るため心拍出量が低下する。代償として交感神経が緊張し、カテコラミンが分泌されて末梢血管抵抗が上昇する。皮膚は蒼白で冷たく湿り(冷汗)、頻脈がみられる。心拍出量の増加と末梢血管抵抗の低下という本問の所見とは逆である。
- ×b. 心原性ショック
急性心筋梗塞、重症の不整脈、心筋炎、弁膜症の急な悪化などで心臓のポンプ機能が落ちて起こるショックである。心拍出量が低下するため、代償として末梢血管抵抗は上昇し、皮膚は冷たく湿って蒼白になる。さらに左心室にかかる圧(肺動脈楔入圧)が上がり、肺うっ血を伴うことが多い。高心拍出量と低い末梢血管抵抗という本問の所見には当てはまらない。
- ○c. 敗血症性ショック
敗血症は、感染に対する生体の反応が制御できなくなり、命に関わる臓器障害が生じた状態である。グラム陰性桿菌のエンドトキシン(内毒素)などの病原体の成分が引き金となり、TNF-α や IL-1・IL-6 などのサイトカインが大量に放出される。さらに補体・キニン・凝固系も活性化され、誘導型 NO 合成酵素による NO の過剰な産生などで、全身の血管が強く拡張する。初期には末梢血管抵抗が著しく下がり、頻脈で心拍出量が増えるため、皮膚は温かく紅潮する(warm shock)。これは本問の所見とよく一致する。病態が進むと、血管の透過性が高まって血漿が血管外へ漏れ出し、敗血症に伴う心筋障害も加わって心拍出量が低下する。すると末梢の血管が収縮し、皮膚が冷たくなる cold shock に移る。なお、Sepsis-3(2016 年の国際定義)では、敗血症性ショックを「十分に輸液しても平均血圧 65 mmHg 以上を保つのに血管収縮薬を必要とし、かつ血清乳酸値が 2 mmol/L を超える状態」と定義している。
- ×d. 神経原性ショック
頸髄や上位胸髄の損傷、高位の脊髄くも膜下麻酔などで交感神経の働きが途絶えて起こる、血液分布異常性ショックの一つである。血管が拡張して末梢血管抵抗が下がり、皮膚は温かく乾燥していることが多い点は本問と似ている。しかし、心臓への交感神経の働きも失われるため徐脈となり、頻脈による代償が起こらない。加えて静脈に血液がたまって心臓に戻る血液が減るので、心拍出量は増加せず、むしろ低下する。「低血圧なのに徐脈」が特徴であり、心拍出量の増加という所見に合わない。
- ×e. アナフィラキシーショック
薬剤・食物・ハチ毒などに対する即時型(Ⅰ型)アレルギーで、肥満細胞や好塩基球からヒスタミンやロイコトリエンなどが放出されて起こる。血管が拡張して末梢血管抵抗が下がり、皮膚が紅潮することも多いので、血液分布異常性ショックに分類される。しかし、同時に血管の透過性が急激に高まり、短時間で大量の血漿が血管外に漏れ出す。そのため心臓に戻る血液が大きく減り、心拍出量は低下するのが普通である。蕁麻疹・血管性浮腫、喉頭浮腫、喘鳴などの呼吸器症状、腹痛・嘔吐を伴うのが特徴であり、それらの記載がなく心拍出量が増加している本問の病態には当てはまらない。治療の第一選択はアドレナリンの筋肉内注射である。
ショックの病態による分類
① 循環血液量減少性ショック(hypovolemic):出血、脱水、熱傷など。心拍出量は低下、末梢血管抵抗は上昇、中心静脈圧は低下、皮膚は冷たい。 ② 心原性ショック(cardiogenic):心筋梗塞、不整脈、心筋症など。心拍出量は低下、末梢血管抵抗は上昇、中心静脈圧と肺動脈楔入圧は上昇、皮膚は冷たい。 ③ 閉塞性ショック(obstructive):心タンポナーデ、緊張性気胸、広範な肺血栓塞栓症など。心臓の外の原因で血流が妨げられる。心拍出量は低下、末梢血管抵抗は上昇、頸静脈は怒張する。 ④ 血液分布異常性ショック(distributive):敗血症性、アナフィラキシー、神経原性。末梢血管抵抗は低下し、皮膚は温かいことが多い。
血液分布異常性ショックの 3 つの見分け方
・敗血症性(初期):頻脈、心拍出量の増加、発熱(または低体温)、感染巣の存在 ・アナフィラキシー:頻脈、皮膚・粘膜症状(蕁麻疹など)、気道症状、心拍出量は多くの場合低下 ・神経原性:徐脈、脊髄損傷の病歴、四肢の麻痺、心拍出量は増加しない
敗血症性ショックの初期治療の要点
血液培養を採取したうえで、できるだけ早く広域抗菌薬を投与する。細胞外液を急速に輸液し、それでも血圧が上がらなければ血管収縮薬を使う(第一選択はノルアドレナリン、目標は平均血圧 65 mmHg 以上)。感染源の制御(膿瘍のドレナージなど)も行う。乳酸値は組織の低灌流の指標として経過を追う。
POINT
・「低血圧+温かい皮膚+心拍出量の増加+末梢血管抵抗の低下」は、敗血症性ショックの初期(warm shock、hyperdynamic 期)である。 ・出血性(循環血液量減少性)と心原性は、心拍出量の低下、末梢血管抵抗の上昇、冷たい皮膚(cold shock)。 ・血液分布異常性ショックは敗血症性・アナフィラキシー・神経原性。神経原性は徐脈、アナフィラキシーは皮膚・気道症状と血管外への血漿漏出が特徴。 ・敗血症性ショックも進行すると cold shock に移行する。
