StudyMed医師国家試験

収縮を強めると悪化する狭窄―閉塞性肥大型心筋症の「抑える」薬物療法

第102回医師国家試験 D問題 第26問

国試問題にチャレンジ

第102回 D問題 第26問

64歳の男性。労作時の息切れと胸部圧迫感とを主訴に来院した。以前から心電図異常を指摘されていたが精査は受けていなかった。呼吸数18/分。脈拍72/分,整。血圧130/80 mmHg。頸静脈の怒張はない。収縮期雑音とⅣ音とを聴取する。呼吸音に異常を認めない。下肢に浮腫を認めない。心エコー図の左室長軸断層像(A)と僧帽弁のMモード像(B)とを別に示す。  治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。

第102回 D問題 第26問の問題画像
  1. a.利尿薬
  2. b.硝酸薬
  3. c.β遮断薬
  4. d.ジギタリス
  5. e.ベラパミル

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心エコー所見から心筋症の病型を見抜き、その病態に合った治療薬を選ぶ問題だ。カギは、狭窄が「固定」ではなく「動的」だという点。まずは身体所見の意味から考えてみよう。Ⅳ音は何を示しているかな。
医学生医学生
Ⅳ音は心房収縮のときに聴こえる音なので、左室が硬くて拡がりにくい、拡張障害のサインだと習いました。
ドクタードクター
その通り。そして以前から心電図異常を指摘されていたことも大事なヒントだ。肥大型心筋症は、健診の心電図で左室肥大や巨大陰性T波、異常Q波を指摘されて見つかることが多い。では心エコーを見ていこう。左室長軸像では、心室中隔が後壁に比べて明らかに分厚くなっている。
医学生医学生
非対称性中隔肥厚、ASHですね。中隔と後壁の厚さの比が1.3以上が目安だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。さらに僧帽弁のMモードでは、収縮期に僧帽弁前尖が中隔側、つまり前方へ引き寄せられる動きが見える。これが収縮期前方運動、SAMだ。
医学生医学生
肥厚した中隔と前尖が近づいて、左室流出路が狭くなるわけですね。だから収縮期雑音が出ている。
ドクタードクター
そう、閉塞性肥大型心筋症、HOCMと診断できる。大動脈弁狭窄症も似た症状と雑音を出すけれど、エコーで弁の石灰化や開放制限ではなくASHとSAMが見える点で区別できる。ここからが本題で、HOCMの流出路狭窄はどんなときに悪化すると思う?
医学生医学生
狭窄なんだから、心臓の力を強めて押し出せばいいような気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが最大の落とし穴だよ。HOCMでは収縮力が強まるほど流出路が締まって圧較差が増す。悪化させる条件は4つ。収縮力の増強、前負荷の減少で左室内腔が小さくなること、後負荷の低下、そして頻脈で拡張期が短くなること。治療はこの逆をねらうんだ。
医学生医学生
収縮を抑えて、心拍数を下げて、左室にしっかり血液をためる薬、ということは……β遮断薬ですか。
ドクタードクター
正解。β遮断薬は陰性変力作用で収縮力を弱め、徐脈にして拡張期を延ばすことで左室の充満を増やす。運動時に強まる圧較差を減らし、心筋の酸素消費も下げるので、胸部圧迫感や息切れが軽くなる。症状改善の第一選択薬だ。
医学生医学生
もう1つはベラパミルでしょうか。でもCa拮抗薬は血管を拡げるので、後負荷が下がって逆効果では?
ドクタードクター
いい疑問だね。ベラパミルは非ジヒドロピリジン系で、心筋への作用が強い。収縮力を抑えて心拍数を下げ、さらに心筋の弛緩を改善して拡張能を助ける。だからHOCMに使えるんだ。一方、ニフェジピンなどのジヒドロピリジン系は血管拡張が主体で後負荷を下げるので、狭窄を悪化させる。同じCa拮抗薬でも系統で正反対になる点が重要だよ。ベラパミルも血管拡張作用はあるから、安静時の圧較差が非常に大きい例では血圧低下に注意する。
医学生医学生
胸部圧迫感があるので、狭心症のつもりで硝酸薬を選びそうになりました。
ドクタードクター
臨床でも起こりがちな誤りだね。硝酸薬は静脈を拡げて前負荷を減らし、動脈も拡げて後負荷を下げる。どちらも左室内腔を小さくして狭窄を強め、血圧低下や失神を招く危険がある。だから原則として避ける。利尿薬も前負荷を減らして内腔を小さくするので、この症例のように明らかなうっ血がない状況では不適切だ。
医学生医学生
ジギタリスは陽性変力作用なので、収縮力が強まって狭窄が悪化しますね。薬理学の講義でNa+/K+-ATPase阻害と習いました。
ドクタードクター
その通り。同じ理由でカテコラミンなどの強心薬も避ける。発展知識として、圧較差が強い例ではシベンゾリンやジソピラミドといったⅠa群抗不整脈薬も陰性変力作用を期待して使われるし、近年は過剰な収縮を抑える心筋ミオシン阻害薬も閉塞性HCMの治療選択肢に加わった。薬で効果が乏しければ、中隔枝にエタノールを注入する経皮的中隔心筋焼灼術や、外科的中隔心筋切除術を検討する。
医学生医学生
循環器内科の実習で、Valsalva手技で雑音が大きくなるのがHOCMの特徴だと教わりました。これも前負荷が減るからですね。
ドクタードクター
まさにそう。立位でも大きくなり、蹲踞やハンドグリップで小さくなる。薬の効き方と雑音の変化が、同じ病態生理で説明できるんだ。臨床で注意したいのは、若年者の突然死の原因として重要なこと。突然死の家族歴や原因不明の失神、非持続性心室頻拍などのリスク因子があれば植込み型除細動器を検討し、激しい競技スポーツは控えてもらう。心房細動を合併すると心房収縮が失われて急に状態が悪くなるうえ、塞栓症のリスクも高いから抗凝固療法も必要になる。

まとめ

心エコーで非対称性中隔肥厚(ASH)と僧帽弁の収縮期前方運動(SAM)を認めれば閉塞性肥大型心筋症(HOCM)と診断できます。HOCMの流出路狭窄は動的で、収縮力の増強、前負荷・後負荷の減少、頻脈によって悪化します。そのため治療には、収縮力を抑え心拍数を下げて拡張期充満を保つβ遮断薬と、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬のベラパミルが適し、圧較差の強い例ではⅠa群抗不整脈薬や心筋ミオシン阻害薬も選択肢になります。ジギタリスなどの強心薬、硝酸薬やジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、過度の利尿は狭窄を悪化させるため避けます。病態生理から薬の可否を導く考え方は、雑音の変化や突然死予防を含めた肥大型心筋症の診療全体を理解する土台になります。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

・64歳男性、労作時の息切れと胸部圧迫感 ・以前から心電図異常を指摘されている(肥大型心筋症では、左室肥大所見、巨大陰性T波、異常Q波などの心電図異常が健診で見つかることが多い) ・収縮期雑音とⅣ音:Ⅳ音は、心房収縮で硬い(拡張しにくい)左室に血液が流れ込むときに生じる音であり、左室の拡張障害を示唆する。 ・頸静脈怒張、下肢浮腫、肺の異常呼吸音はなく、明らかなうっ血性心不全の状態ではない。

画像所見と診断

心エコー図の左室長軸断層像(A)では、心室中隔が左室後壁に比べて著しく厚くなっている(非対称性中隔肥厚;asymmetric septal hypertrophy〈ASH〉)。僧帽弁のMモード像(B)では、収縮期に僧帽弁前尖が心室中隔側(前方)へ引き寄せられる動きがみられる(収縮期前方運動;systolic anterior motion〈SAM〉)。SAMが起こると、肥厚した中隔と僧帽弁前尖の間で左室流出路が狭くなり、圧較差が生じて収縮期駆出性雑音を生む。したがって本症例は閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy;HOCM)と診断できる。 鑑別として大動脈弁狭窄症も収縮期駆出性雑音、Ⅳ音、労作時胸痛・息切れを来すが、エコーで大動脈弁の石灰化・開放制限ではなくASHとSAMがみられる点でHOCMと区別できる。

設問の考え方

HOCMの流出路狭窄は動的な狭窄であり、次の条件で悪化する。 ①心収縮力が強まる(陽性変力作用) ②左室の内腔が小さくなる(前負荷の減少:脱水、利尿、静脈拡張) ③後負荷が下がる(末梢血管拡張) ④頻脈で拡張期が短くなり、左室への充満が減る したがって治療薬には、心収縮力を抑え、心拍数を下げて拡張期の充満時間を延ばす薬剤を選ぶ。β遮断薬と、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬であるベラパミルがこれにあたる。反対に、前負荷・後負荷を下げる薬剤や陽性変力作用をもつ薬剤は狭窄を悪化させるため避ける。

選択肢考察

  1. ×a.  利尿薬

    利尿薬は循環血液量を減らすため、左室に戻る血液(前負荷)が減って左室の内腔が小さくなる。すると肥厚した中隔と僧帽弁前尖がさらに近づいて流出路狭窄と圧較差が強まり、症状の悪化や失神を招くおそれがある。本症例には明らかなうっ血所見もないため適切ではない。なお、肺うっ血などがはっきりある場合に少量を慎重に使うことはあるが、流出路狭窄の治療薬ではない。

  2. ×b.  硝酸薬

    硝酸薬は主に静脈を拡張させて心臓に戻る血液を減らし(前負荷の減少)、動脈拡張によって後負荷も下げる。いずれも左室内腔を小さくし、左室から大動脈への駆出を相対的に速めるため、流出路狭窄を悪化させる。狭心症様の胸部圧迫感があっても、HOCMに硝酸薬を使うと血圧低下や失神を招く危険があるため、原則として避ける。

  3. ○c.  β遮断薬

    β遮断薬は交感神経による心収縮力の増強を抑え(陰性変力作用)、心拍数を下げる(陰性変時作用)。収縮力が弱まると、SAMと流出路の圧較差、とくに運動時に強まる圧較差が減る。徐脈になって拡張期が長くなると左室の充満が増え、内腔が保たれる。さらに心筋の酸素消費が減って、胸部圧迫感や息切れも軽くなる。HOCMの症状改善に用いる第一選択薬である。

  4. ×d.  ジギタリス

    ジギタリスはNa+/K+-ATPaseを阻害して細胞内Ca2+を増やし、心収縮力を強める(陽性変力作用)。収縮力が強まると流出路狭窄は悪化するため、HOCMでは原則として禁忌である。同じ理由で、カテコラミンなどの強心薬も避ける。

  5. ○e.  ベラパミル

    ベラパミルは非ジヒドロピリジン系のCa拮抗薬である。心筋へのCa2+流入を抑えて収縮力を弱め、心拍数を下げる。さらに心筋の弛緩(拡張能)を改善する作用もある。その結果、流出路の圧較差が減り、左室の拡張期充満が改善して症状が軽くなる。β遮断薬が使えない、または効果が不十分な場合によく用いられる。ただし血管拡張作用もあるため、安静時の圧較差が非常に大きい例では血圧低下に注意が必要である。なお、ニフェジピンなどのジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は、血管拡張作用が主体で後負荷を下げるため、狭窄を悪化させ、HOCMには不適である。

肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy;HCM)の概要

高血圧や大動脈弁狭窄症など肥大の原因がないのに、左室(ときに右室)の心筋が肥大する疾患である。約半数以上に家族歴があり、サルコメア(心筋の収縮単位)蛋白をコードする遺伝子(β-ミオシン重鎖、ミオシン結合蛋白Cなど)の変異が原因となる。多くは常染色体顕性(優性)遺伝を示す。主な病態は左室の拡張障害である。

病型

・閉塞性(HOCM):安静時または誘発時に左室流出路に圧較差(おおむね30mmHg以上)がある。 ・非閉塞性:流出路に圧較差がない。 ・心室中部閉塞性、心尖部肥大型(心電図で巨大陰性T波、日本人に多い) ・拡張相肥大型心筋症:経過中に左室の収縮力が落ち、内腔が拡大して拡張型心筋症に似た状態になったもの

心エコー所見

・非対称性中隔肥厚(ASH):心室中隔厚/左室後壁厚が1.3以上を目安とする。 ・僧帽弁の収縮期前方運動(SAM) ・大動脈弁の収縮中期半閉鎖(流出路狭窄のために駆出が途中で減る) ・左室内腔は狭小で、収縮能は保たれる。

身体所見

胸骨左縁下部から心尖部にかけての収縮期駆出性雑音、Ⅳ音、二峰性脈。雑音はValsalva手技(息こらえ)や立位、亜硝酸アミル吸入で前負荷・後負荷が減ると大きくなり、蹲踞(しゃがむ)やハンドグリップで小さくなる。この動的な変化が大動脈弁狭窄症との鑑別点になる。

治療

・薬物療法:β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)。圧較差の強い例には、陰性変力作用をもつⅠa群抗不整脈薬(シベンゾリン、ジソピラミド)を用いる。近年は、心筋ミオシンの働きを抑えて過剰な収縮を弱める心筋ミオシン阻害薬(マバカムテン)も閉塞性HCMの治療薬として使われるようになった。 ・避けるべき薬剤:陽性変力作用薬(ジギタリス、カテコラミン)、前負荷・後負荷を下げる薬剤(硝酸薬、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬など)、過度の利尿。 ・薬物抵抗性の閉塞例:経皮的中隔心筋焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation;PTSMA、肥厚した中隔を栄養する冠動脈枝にエタノールを注入して心筋を壊死させる)、外科的中隔心筋切除術(Morrow手術) ・突然死予防:若年者の突然死の原因として重要である。突然死の家族歴、原因不明の失神、非持続性心室頻拍、著明な左室肥厚(30mm以上)などのリスク因子がある例では、植込み型除細動器(ICD)を検討する。競技スポーツなど激しい運動は控える。 ・心房細動を合併すると、心房収縮が失われて左室充満が大きく減り、血行動態が急に悪くなることがある。塞栓症のリスクも高いため抗凝固療法を行う。

POINT

・心エコーのASH(非対称性中隔肥厚)+SAM(僧帽弁の収縮期前方運動)→閉塞性肥大型心筋症(HOCM) ・流出路狭窄は、収縮力の増強、前負荷の減少、後負荷の減少、頻脈で悪化する。 ・治療薬:β遮断薬、ベラパミル(非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)、Ⅰa群抗不整脈薬(シベンゾリン、ジソピラミド)。近年は心筋ミオシン阻害薬も使われる。 ・避ける薬剤:ジギタリス・カテコラミン(陽性変力作用)、硝酸薬・ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(血管拡張)、利尿薬(前負荷の減少) ・Valsalva手技や立位で雑音が大きくなり、蹲踞で小さくなる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。