目の前で止まらないけいれん―最初の一手はベンゾジアゼピン
第102回医師国家試験 C問題 第30問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
72歳の女性。突然の頭痛のため搬入された。 現病歴:2時間前に突然の後頭部痛と嘔気とが出現した。 既往歴:40歳代から高血圧症で降圧薬を服用中である。 生活歴:特記すべきことはない。 家族歴:父親が高血圧。母親が大腸癌。 現症:意識は清明。身長150cm,体重49kg。体温37.2℃。脈拍68/分,整。血圧164/88 mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。 神経学的に異常はない。 検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤血球415万,Hb 13.0g/dL,Ht 38%,白血球17,700(桿状核好中球4%,分葉核好中球78%,好酸球1%,好塩基球0%,単球5%,リンパ球12%),血小板18万。血液生化学所見:血糖181mg/dL,総蛋白6.9g/dL,アルブミン4.2 g/dL,尿素窒素14.0mg/dL,クレアチニン0.4mg/dL,総コレステロール194mg/dL,総ビリルビン1.2mg/dL,AST 23IU/L,ALT 20IU/L,LDH 223IU/L(基準176~353),ALP 243IU/L(基準260以下),Na 141mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 102mEq/L。
診察中に全身のけいれんが起こり,持続している。 投与すべき薬剤はどれか。
- a.モルヒネ
- b.ジアゼパム
- c.アトロピン
- d.プレドニゾロン
- e.サクシニルコリン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
持続する全身けいれんに対しては、気道確保・酸素投与・静脈路確保と並行して、ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)を静注するのが第一選択です。止まらなければホスフェニトインやレベチラセタムなどへ、さらに難治なら全身麻酔薬による管理へと段階的に進めます。モルヒネ・アトロピン・プレドニゾロンには抗けいれん作用がなく、筋弛緩薬のサクシニルコリンは体の動きを消すだけで脳の異常放電は止めない点が重要な落とし穴です。突然の頭痛で発症したくも膜下出血では、けいれんが頭蓋内圧上昇や再出血の誘因となるため、速やかな頓挫が特に重要になります。救急の現場で迷わず動けるよう、重積治療の段階的な流れとあわせて身につけておきたい知識です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・72歳女性、40歳代からの高血圧症で降圧薬を内服中。 ・2時間前に「突然」出現した後頭部痛と嘔気。発症の瞬間がはっきりした頭痛(突発性頭痛)である。 ・来院時、意識清明で神経学的な局所症状(片麻痺・失語など)はない。血圧164/88 mmHgと高値。 ・白血球17,700/μL(好中球優位)、血糖181 mg/dLはいずれも上昇しているが、体温37.2℃で感染を示す所見に乏しく、急性の強いストレスに伴う反応(カテコールアミンやコルチゾールの分泌増加による白血球増多・高血糖)と解釈できる。
診断の考え方
高血圧を背景とする高齢者に、突然の後頭部痛と嘔気が起こり、局所神経症状を伴わない。この組み合わせでまず考えるべきは、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血(SAH: subarachnoid hemorrhage)である。SAHの頭痛は「これまでに経験したことのない激しい頭痛」「突然バットで殴られたような頭痛」と表現されることが多い。出血は脳実質ではなくくも膜下腔に広がるため、通常は片麻痺などの局所症状が出にくく、頭痛・嘔吐・項部硬直といった髄膜刺激症状が前面に立つ。重症例では意識障害やけいれんを伴い、本例でも診察中に全身けいれんが生じている。
設問の考え方
問われているのは、目の前で持続している全身けいれんをまず止めるための薬剤である。けいれんが続くと、脳の酸素消費量の増大・低酸素・血圧上昇・頭蓋内圧上昇を招き、SAHでは動脈瘤の再破裂(再出血)の危険も高まる。したがって気道確保・酸素投与・静脈路確保と並行して、速効性の抗けいれん薬を静注し、できるだけ早くけいれんを頓挫させる必要がある。その第一選択がベンゾジアゼピン系薬であり、選択肢中ではジアゼパムが該当する。
選択肢考察
- ×a. モルヒネ
モルヒネはアヘンアルカロイドに属するオピオイド鎮痛薬(麻薬)で、μオピオイド受容体を介して強い鎮痛作用を示すが、抗けいれん作用はなく、けいれんを止める目的では用いない。むしろ呼吸抑制による高二酸化炭素血症から脳血管が拡張し、頭蓋内圧を上昇させるおそれがあるため、頭蓋内疾患でけいれんしている患者に安易に投与すべきではない。
- ○b. ジアゼパム
ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬で、GABA-A受容体に作用して抑制性神経伝達を増強し、静注すると数分以内に抗けいれん効果を発揮する。持続する全身けいれん(てんかん重積状態を含む)に対する初期治療の第一選択薬であり、本例で最初に投与すべき薬剤である。成人では5〜10 mgをゆっくり静注するのが一般的で、静脈路が確保できない場合は注腸などの経路もある。副作用として呼吸抑制・血圧低下があるため、呼吸状態を監視し、必要に応じて補助換気を行える準備をしておく。ベンゾジアゼピン系ではほかにロラゼパムやミダゾラムの静注も用いられる。
- ×c. アトロピン
アトロピンはムスカリン受容体を遮断する抗コリン薬(副交感神経遮断薬)で、迷走神経反射による徐脈、有機リン中毒、麻酔前投薬(気道分泌抑制)などに用いる。抗けいれん作用はない。本例は脈拍68/分で徐脈もなく、使用する根拠がない。心拍数増加により循環動態をかえって不安定にする可能性もある。
- ×d. プレドニゾロン
プレドニゾロンは副腎皮質ステロイド薬で、抗炎症・免疫抑制作用を目的に用いる。けいれんを速やかに止める作用はなく、けいれん発作の治療薬ではない。SAHの治療においてもステロイド投与は標準的治療に含まれず、高血糖を増悪させるなどの不利益が考えられる。
- ×e. サクシニルコリン
サクシニルコリン(スキサメトニウム)は脱分極性筋弛緩薬で、効果発現が速いため迅速導入による気管挿管などの際に用いる。骨格筋を弛緩させるので外見上のけいれん運動は消えるが、脳内の異常放電そのものは抑えないため、抗けいれん薬の代わりにはならない(けいれんが見えなくなるだけで、脳へのダメージは続く)。また自発呼吸が停止するため人工呼吸管理が必須であり、高カリウム血症や悪性高熱症、頭蓋内圧の一過性上昇などの副作用もある。
けいれん重積への初期対応
・けいれんが5分以上持続する、または発作間に意識が回復しないまま発作を繰り返す場合は、てんかん重積状態として直ちに治療を開始する(30分以上続くと神経損傷が生じうるとされる)。 ・まず気道確保・酸素投与・モニター装着・静脈路確保を行い、低血糖があればブドウ糖を投与する(アルコール多飲者などではビタミンB1を先行させる)。 ・第一段階:ベンゾジアゼピン系薬の静注(ジアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム)。 ・第二段階(ベンゾジアゼピンで止まらない場合):ホスフェニトイン(またはフェニトイン)、レベチラセタム、フェノバルビタールなどの静注。 ・第三段階(難治性の場合):気管挿管・人工呼吸管理下でミダゾラム持続静注、プロポフォール、チオペンタールなどの全身麻酔薬を用い、脳波モニタリングを行う。
くも膜下出血の初期管理の要点
・最大の危険は発症早期の再出血であり、これを防ぐため安静・鎮静・鎮痛・十分な降圧を行い、刺激を避ける。 ・けいれんは血圧や頭蓋内圧を上昇させ再出血を誘発しうるため、速やかに止める。 ・頭部単純CTで診断し、CTアンギオグラフィーや脳血管撮影で動脈瘤を検索したうえで、開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術により再出血を予防する。 ・発症後4〜14日ごろには脳血管攣縮による遅発性脳虚血、また急性期・慢性期には水頭症にも注意が必要である。
POINT
・持続する全身けいれんの第一選択はベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムなど)の静注である。 ・止まらなければホスフェニトイン・レベチラセタムなど、さらに難治ならば全身麻酔薬へ進む。 ・筋弛緩薬はけいれん運動を見えなくするだけで、脳の異常放電は止めない。 ・突然の頭痛+嘔気、局所神経症状なし、高血圧歴 → まずくも膜下出血を疑う。SAHではけいれんが再出血の誘因となるため速やかに頓挫させる。
