鎖骨下静脈穿刺のあとに息苦しさ―「鼓音」が指し示す合併症
第102回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
35歳の男性。潰瘍性大腸炎のため中心静脈栄養を開始することとなった。右鎖骨下静脈を穿刺して中心静脈路を確保した後,確認のため胸部エックス線撮影を行おうとしたところ呼吸困難を訴えた。右胸部で打診上鼓音であり,呼吸音が減弱している。 考えられるのはどれか。
- a.気胸
- b.血胸
- c.肺水腫
- d.空気塞栓
- e.縦隔気腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
鎖骨下静脈のすぐ後下方には胸膜頂があるため、鎖骨下静脈穿刺では気胸が代表的な合併症となり、穿刺直後でなく数十分〜数時間後に症状が明らかになることもあります。打診では気胸が鼓音、血胸や胸水は濁音を呈し、患側の呼吸音減弱は両者に共通するため、打診所見が鑑別の鍵になります。空気塞栓は血管内の空気による病態で手技中〜直後に急激に起こり、縦隔気腫は皮下気腫やHamman徴候を伴うなど、いずれも片側胸部の鼓音と呼吸音減弱は説明できません。呼吸困難を伴う気胸では胸腔ドレナージを行い、低血圧や頸静脈怒張を伴う緊張性気胸では直ちに脱気が必要です。中心静脈カテーテル挿入後の胸部エックス線は先端位置と合併症の確認のために行うものであり、穿刺部位ごとの合併症を理解しておくことが安全な手技と急変時の迅速な判断につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・35歳男性。潰瘍性大腸炎の治療として中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition、高カロリー輸液)を行うため、右鎖骨下静脈を穿刺して中心静脈カテーテルを留置した。 ・留置位置の確認のため胸部エックス線撮影をしようとした時点、すなわち穿刺からしばらく時間がたってから呼吸困難が出現した。 ・右胸部(穿刺と同じ側)で打診上鼓音があり、呼吸音が減弱している。
考え方
直前まで呼吸状態に問題のなかった患者が、侵襲的な手技の後に急変した場合は、まずその手技の合併症を考える。鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を通り、そのすぐ後下方には胸膜頂(肺尖部を覆う壁側胸膜)がある。そのため穿刺針が深く入りすぎたり角度がずれたりすると胸膜と肺を貫き、気胸を起こしやすい。気胸は鎖骨下静脈穿刺の合併症として最も頻度が高いものの一つである。 身体所見の解釈では、打診音が鍵になる。正常な肺野は空気を含んだ肺組織のため「清音(共鳴音)」を呈するが、胸腔内に空気が貯まると、太鼓をたたいたような「鼓音」になる。逆に液体(血液・胸水)が貯まると「濁音」になる。また、肺がしぼむ(虚脱する)と、その側の呼吸音は減弱・消失する。穿刺側の鼓音と呼吸音減弱がそろっていることから、穿刺に伴って胸腔内に空気が漏れた気胸と判断できる。 気胸は穿刺直後に起こるとは限らず、小さな胸膜損傷から徐々に空気が漏れて、数十分〜数時間後に症状が明らかになることもある。中心静脈カテーテル挿入後に胸部エックス線撮影を行うのは、カテーテル先端の位置確認とともに、気胸などの合併症を見つけるためである。本例のように呼吸困難を伴う気胸では胸腔ドレナージが必要になることが多く、血圧低下や頸静脈怒張を伴えば緊張性気胸として直ちに脱気しなければならない。
選択肢考察
- ○a. 気胸
鎖骨下静脈の後下方には胸膜頂があり、穿刺針が胸膜・肺を傷つけると胸腔内に空気が漏れて気胸となる。胸腔内の空気は打診で鼓音を呈し、肺が虚脱するため患側の呼吸音が減弱する。穿刺側(右)にこれらの所見がそろい、呼吸困難を伴っていることから気胸が最も考えられる。胸部エックス線写真で虚脱した肺の辺縁(臓側胸膜の線)と、その外側の肺紋理のない領域を確認する。症状を伴う場合は胸腔ドレーンを挿入して脱気する。
- ×b. 血胸
鎖骨下静脈穿刺では、並走する鎖骨下動脈や静脈自体を損傷して血胸を起こすことがある。しかし胸腔内に血液が貯まると打診は濁音となり、鼓音にはならない。呼吸音の減弱は共通するが、鼓音の所見から否定できる。なお、空気と血液が同時に貯まる血気胸では、上方が鼓音、下方が濁音となる。
- ×c. 肺水腫
肺水腫は肺胞や間質に水分が貯まる病態で、聴診では水泡音(coarse crackles)を聴取し、打診で鼓音を呈することはない。鎖骨下静脈穿刺そのものが肺水腫の原因となることも考えにくく、輸液過剰などによる肺水腫なら通常両側性である。
- ×d. 空気塞栓
空気塞栓は、穿刺針やカテーテルの接続を外した瞬間などに、吸気時の胸腔内陰圧によって静脈内に空気が引き込まれて起こる。脱水で中心静脈圧が低いときや座位で起こりやすく、予防のため頭低位(Trendelenburg位)で穿刺する。発症は手技中から直後にかけて突然で、呼吸困難・胸痛・低血圧・意識障害などを起こし、心臓聴診で水車様雑音を聴くことがある。空気は血管内にあるため、片側胸部の鼓音と呼吸音減弱という胸腔内の所見は生じない。
- ×e. 縦隔気腫
穿刺針を深く進めすぎた場合や気胸に続発して縦隔に空気が入ることがある。胸痛や呼吸困難、頸部の皮下気腫(握雪感)、心拍に一致した捻髪音(Hamman徴候)などを呈するが、空気は縦隔にとどまるため、片側の胸部全体での鼓音と呼吸音減弱という所見は説明できない。
中心静脈カテーテル挿入の主な合併症
・穿刺時の合併症:気胸、動脈穿刺(血腫、血胸)、空気塞栓、神経損傷(腕神経叢など)、胸管損傷(左側穿刺で乳び胸)、カテーテル先端による血管・心臓穿孔(心タンポナーデ)、不整脈(ガイドワイヤーの心内刺激)。 ・留置中の合併症:カテーテル関連血流感染症(CRBSI)、静脈血栓症、カテーテルの位置異常・閉塞。
穿刺部位ごとの特徴
・内頸静脈:超音波ガイド下で穿刺しやすく、気胸のリスクは鎖骨下静脈より低い。頸動脈穿刺に注意。 ・鎖骨下静脈:感染や血栓のリスクが比較的低く患者の不快感も少ないが、気胸のリスクが高い。動脈を誤穿刺しても鎖骨があるため圧迫止血が難しい。 ・大腿静脈:気胸の心配はなく緊急時に確保しやすいが、感染・血栓のリスクが高い。 近年は超音波ガイド下穿刺が推奨され、合併症の減少が図られている。
打診音の違い
・清音(共鳴音):正常な含気肺。 ・鼓音:胸腔内の空気(気胸)、胃泡など。 ・濁音:胸水、血胸、無気肺、肺炎による浸潤影、心臓・肝臓の部位。
気胸の治療
軽度で症状がなければ安静・経過観察や酸素投与もありうるが、呼吸困難を伴う中等度以上の気胸では胸腔ドレーンを挿入する。緊張性気胸(患側胸腔内圧の上昇で縦隔が健側へ偏位し、静脈還流が障害されて低血圧・頸静脈怒張を来す状態)では、エックス線撮影を待たずに第2肋間鎖骨中線(または第4〜5肋間中腋窩線)で針による緊急脱気を行い、続けてドレーンを留置する。
POINT
・鎖骨下静脈穿刺では、すぐ後下方にある胸膜頂を損傷して気胸を起こしやすい。 ・打診:気胸は鼓音、血胸・胸水は濁音。患側の呼吸音減弱は両者に共通する。 ・空気塞栓は手技中〜直後に急激に起こり、胸腔内の所見を伴わない。 ・中心静脈カテーテル挿入後は、先端位置と気胸などの合併症確認のため胸部エックス線撮影を行う。
