冷たい汗が教える意識障害の正体―「まず血糖」が救急の鉄則である理由
第102回医師国家試験 C問題 第22問
国試問題にチャレンジ
中年の男性。意識がないため搬入された。呼名に反応はない。呼吸は規則的。脈拍108/分,整。血圧160/94mmHg。頸動脈と橈骨動脈とは触知可能。四肢体幹の皮膚には冷感と著明な湿潤とがある。浮腫は認めない。 まず行う検査はどれか。
- a.血糖
- b.心電図
- c.胸部単純CT
- d.動脈血ガス分析
- e.腹部超音波検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
意識障害に頻脈・血圧上昇・冷汗が伴う場合、血圧が保たれていることからショックではなく、カテコラミン放出による交感神経緊張と解釈でき、低血糖を強く疑います。低血糖は見逃すと不可逆的な脳障害を残しうる一方、簡易血糖測定で即座に診断でき、ブドウ糖静注で速やかに治療できるため、ABCの安定を確認したら原因がはっきりしなくてもまず血糖を測るのが救急の原則です。心電図・動脈血ガス分析・画像検査はその後の原因検索として位置づけられ、アルコール多飲者や低栄養者ではWernicke脳症予防のためブドウ糖と同時か先にビタミンB1を投与します。高齢者やβ遮断薬服用者では交感神経症状を欠く無自覚性低血糖や、片麻痺を呈して脳卒中と紛らわしい例もあるため注意が必要です。「確認のコストが小さく、見逃しの代償が大きいものから調べる」という発想は、救急診療全般に通じる考え方です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・呼名に反応しない重度の意識障害がある。 ・呼吸は規則的で、気道閉塞や明らかな呼吸不全を示す記載はない(A:気道、B:呼吸はおおむね保たれている)。 ・脈拍108/分・整、血圧160/94mmHgで、頸動脈・橈骨動脈とも触知できる。収縮期血圧が低下したショックではなく、循環(C)も保たれている。 ・四肢・体幹の皮膚が冷たく、著明に湿っている(冷汗)。浮腫はない。
考え方
頻脈、血圧上昇、冷汗は、いずれも交感神経が強く緊張しているときにみられる所見である。血圧が保たれているのに皮膚が冷たく湿っているのは、循環不全よりもカテコラミン(アドレナリン)の大量放出による皮膚血管の収縮と発汗を考えるべきである。意識障害に交感神経緊張症状が加わった場合、真っ先に疑うべきは低血糖である。血糖が下がると、それを上げようとしてアドレナリンなどのインスリン拮抗ホルモンが分泌され、冷汗・動悸・振戦・頻脈が起こり(交感神経症状)、さらに下がると脳のエネルギー不足による意識障害やけいれんを生じる(中枢神経症状)。 意識障害の患者では、気道・呼吸・循環の安定を確認したうえで、原因検索に入る。このとき血糖測定は、ベッドサイドで指先の血液一滴から1分以内に結果が得られる簡便な検査であり、低血糖であればブドウ糖の静注で速やかに回復させられる。低血糖は放置すると不可逆的な脳障害を残しうる一方で、治療は容易であるため、意識障害をみたら原因がはっきりしなくても最初に血糖を確認するのが救急診療の原則である。本例は既往歴が示されていないが、糖尿病治療中(インスリンやスルホニル尿素薬の使用)の患者、アルコール多飲者、インスリノーマなどでは特に低血糖を起こしやすい。
選択肢考察
- ○a. 血糖
意識障害に冷汗・頻脈・血圧上昇という交感神経緊張症状を伴っており、低血糖を最も疑う。簡易血糖測定器を用いればベッドサイドで即座に結果が得られ、低血糖であれば50%ブドウ糖液の静注によってその場で治療できる。見逃すと脳に後遺症を残す可能性がある一方、診断・治療とも容易であるため、意識障害患者でまず行う検査として最も適切である。なお、低血糖の原因としては、インスリンやスルホニル尿素薬の過量、アルコール、インスリノーマ、副腎不全などがある。アルコール多飲者や低栄養者ではWernicke脳症を防ぐため、ブドウ糖投与と同時かそれより前にビタミンB1(チアミン)を投与する。
- ×b. 心電図
心電図は不整脈による脳血流低下(Adams-Stokes症候群)や急性冠症候群の評価に役立ち、意識障害患者でも実施されることが多い。しかし本例は脈拍が整で血圧も保たれ、両動脈とも触知可能であり、不整脈による循環不全を示す所見はない。冷汗・頻脈・高血圧を伴う意識障害で最優先となるのは、短時間で測定でき直ちに治療に結び付く血糖である。
- ×c. 胸部単純CT
胸部由来で意識障害を起こしうる疾患(大動脈解離、肺血栓塞栓症など)の評価には造影CTが必要であり、単純CTでは情報が限られる。また患者の移動と撮影に時間がかかり、バイタルサインが安定している本例でまず行う検査ではない。意識障害の原因検索として画像を撮るなら、頭部CTの方が優先度は高い。
- ×d. 動脈血ガス分析
動脈血ガス分析は、低酸素血症、CO2ナルコーシス(高二酸化炭素血症による意識障害)、代謝性アシドーシス(糖尿病ケトアシドーシス、乳酸アシドーシスなど)の評価に有用で、意識障害患者でもよく行われる。しかし本例は呼吸が規則的で呼吸不全を疑う所見に乏しい。動脈穿刺が必要で侵襲もあり、交感神経症状を伴う意識障害で最初に確認すべきは血糖である。
- ×e. 腹部超音波検査
腹部超音波検査はベッドサイドで行え、腹部大動脈瘤破裂や腹腔内出血の検索に有用である。しかし本例は血圧が高く保たれ、出血性ショックを示す所見はない。腹部の診察所見の記載もなく、意識障害の原因検索として最初に行う検査ではない。
意識障害の原因(AIUEOTIPS)
A:Alcohol(急性アルコール中毒、Wernicke脳症) I:Insulin(低血糖、高血糖〔糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態〕) U:Uremia(尿毒症) E:Encephalopathy(肝性脳症、高血圧性脳症)、Endocrine(甲状腺・副腎疾患)、Electrolytes(Na・Ca異常) O:Opiate/Overdose(薬物中毒)、O2(低酸素血症)、CO2ナルコーシス T:Trauma(頭部外傷)、Temperature(低体温・高体温) I:Infection(髄膜炎、脳炎、敗血症) P:Psychiatric(心因性)、Porphyria S:Stroke(脳卒中)、Seizure(てんかん)、Shock、Syncope
意識障害患者への初期対応
1. 気道(A)・呼吸(B)・循環(C)の評価と安定化。 2. 意識レベルの評価(JCS:Japan Coma Scale、GCS:Glasgow Coma Scale)、瞳孔、麻痺の有無。 3. 簡易血糖測定。低血糖なら50%ブドウ糖液20〜40mLを静注。アルコール多飲や低栄養が疑われる場合はビタミンB1を併用。 4. 血液検査(電解質、腎・肝機能、アンモニアなど)、動脈血ガス、心電図、頭部CTなどで原因を検索する。
低血糖の症状
・交感神経症状(血糖おおむね70mg/dL未満で出現しやすい):発汗(冷汗)、動悸、頻脈、振戦、不安感、顔面蒼白。 ・中枢神経症状(おおむね50mg/dL未満):頭痛、集中力低下、異常行動、意識障害、けいれん、昏睡。 ・高齢者やβ遮断薬服用者、低血糖を繰り返す患者では交感神経症状が出にくく、いきなり意識障害で発症することがある(無自覚性低血糖)。 ・片麻痺を呈することもあり、脳卒中と誤認しないよう注意が必要である。
POINT
・意識障害をみたら、A・B・Cの安定化を確認し、まず血糖を測る。 ・冷汗・頻脈・血圧上昇を伴う意識障害は、交感神経緊張を示し低血糖を強く疑う。 ・低血糖は診断も治療(ブドウ糖静注)も簡単で、見逃すと脳障害を残すため最優先で除外する。 ・アルコール多飲者ではビタミンB1をブドウ糖投与前(または同時)に投与する。
