最期まで「その人らしく」―ホスピスが担う終末期医療の本当の姿
第102回医師国家試験 C問題 第1問
国試問題にチャレンジ
我が国のホスピスで正しいのはどれか。
- a.対象疾病は悪性腫瘍に限られる。
- b.保険診療の対象とならない。
- c.宗教的行事は禁止される。
- d.筋弛緩薬を多用する。
- e.終末期医療を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ホスピスは、治癒が見込めず死が近づいている人とその家族に対し、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛をやわらげる全人的ケアを行う終末期医療の場です。我が国では主に緩和ケア病棟として制度化され、健康保険の対象であり、対象疾患も悪性腫瘍に限らずAIDSや末期心不全が含まれます。信教の自由は尊重され、症状緩和の中心はオピオイドなどの鎮痛薬で、筋弛緩薬による延命や死期を早める行為は目的としません。緩和ケアは診断時から治療と並行して行う広い概念であり、ホスピスはその中で終末期に焦点を当てたケアの場と位置づけられます。遺族へのグリーフケアまで含めたホスピスの理念を理解することは、どの診療科でも患者と家族に寄り添う医療を実践する基盤になります。
解答・解説
正解はeです
ホスピスとは、治癒が見込めない病気により死が近づいている人とその家族に対し、苦痛をやわらげ、その人らしく最期の時間を過ごせるよう支える施設、あるいはそのケアの考え方を指す。治療による延命や治癒を目標とする一般病棟の医療と異なり、ホスピスでは痛みなどの身体症状の緩和、不安や抑うつへの精神的支援、家族や仕事の問題への社会的支援、生きる意味や死への恐れといったスピリチュアル(霊的)な苦痛への支援を包括的に行う。これを全人的ケアという。 我が国では、ホスピスは主に「緩和ケア病棟」として医療制度に位置づけられており、健康保険が適用される。本問は、このホスピスの目的(終末期医療・緩和ケア)と、制度上の扱い、患者の尊厳の尊重という基本理念を理解していれば解ける。
選択肢考察
- ×a. 対象疾病は悪性腫瘍に限られる。
ホスピスの理念は、治癒困難で死が迫っている疾患をもつ人すべてを対象とするものであり、悪性腫瘍に限らない。我が国の緩和ケア病棟の診療報酬上の対象も、末期の悪性腫瘍に加え、後天性免疫不全症候群(AIDS)が以前から含まれ、2018年度の診療報酬改定では末期心不全も加えられている。実際の利用者は悪性腫瘍の患者が大多数を占めるが、「限られる」は誤りである。
- ×b. 保険診療の対象とならない。
我が国では1990年に緩和ケア病棟入院料が新設され、施設基準を満たした緩和ケア病棟での入院医療は健康保険の対象となっている。高額療養費制度も利用できる。したがって保険診療の対象とならないというのは誤りである。
- ×c. 宗教的行事は禁止される。
信教の自由は憲法で保障された権利であり、ホスピスでも宗教的行事が禁止されることはない。ホスピスは死への恐れや生きる意味への問いといったスピリチュアルな苦痛のケアを重視しており、キリスト教や仏教を背景にもつ施設もある。本人が望めば祈りや宗教者の訪問などを受けることができ、逆に宗教を強制されることもない。
- ×d. 筋弛緩薬を多用する。
筋弛緩薬は呼吸筋を麻痺させるため、人工呼吸器管理なしに用いれば呼吸停止を招く。ホスピスは人工呼吸器による延命も、死期を早める行為(安楽死)も目的とせず、残された時間を苦痛少なく過ごせるよう支える場であるから、筋弛緩薬を多用することはない。ホスピスで中心となる薬物は、がん性疼痛に対するオピオイド(モルヒネなどの医療用麻薬)や、非オピオイド鎮痛薬、鎮痛補助薬、制吐薬などの症状緩和薬である。
- ○e. 終末期医療を行う。
ホスピスは、治癒が見込めず余命が限られた患者を対象に、疼痛をはじめとする症状の緩和と、精神的・社会的・スピリチュアルな支援を行う終末期医療(ターミナルケア)の場である。家族へのケアや、患者が亡くなった後の遺族への支援(グリーフケア)も含まれる。
語源と歴史
ホスピス(hospice)はラテン語の hospes(客人、客をもてなす人)や hospitium(歓待、宿泊所)に由来し、中世ヨーロッパでは巡礼者や病人を休ませる宿泊施設を意味した。hospital(病院)や hotel(ホテル)も同じ語源である。近代ホスピスは1967年にシシリー・ソンダース(Cicely Saunders)がロンドンに開設した聖クリストファー・ホスピスに始まるとされる。我が国では1981年に聖隷三方原病院に最初のホスピスが開設され、1990年に緩和ケア病棟入院料が制度化された。
緩和ケアとの関係
世界保健機関(WHO)の定義では、緩和ケアは生命を脅かす疾患に直面する患者と家族のQOL(生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出して対処することで改善するアプローチである。現在の緩和ケアは終末期に限らず、診断の時点から治療と並行して行うものとされる。ホスピスはその中でも特に終末期に焦点を当てたケアの場といえる。
がん性疼痛の治療
WHO方式がん疼痛治療法では、痛みの強さに応じて非オピオイド鎮痛薬、オピオイドを用い、鎮痛補助薬を併用する。経口投与を基本とし、時間を決めて定期的に投与することが原則である。
POINT
・ホスピスは治癒困難な患者に対する終末期医療(緩和ケア)を行う。 ・対象は悪性腫瘍に限らない(我が国の緩和ケア病棟入院料の対象は悪性腫瘍、AIDS、末期心不全)。 ・緩和ケア病棟は保険診療の対象である。 ・身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛に対する全人的ケアを行い、宗教的活動も尊重される。 ・症状緩和の中心はオピオイドなどの鎮痛薬であり、延命や安楽死を目的としない。
