StudyMed医師国家試験

その札、誰が切る?―トリアージタッグの4色と「医師に限らない」選別の原則

第102回医師国家試験 B問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第5問

トリアージタッグ〈識別札〉について誤っているのはどれか。

  1. a.規格は統一されている。
  2. b.患者選別のために使用する。
  3. c.死亡の場合は黒タッグになる。
  4. d.タッグの種別の判断は医師に限られる。
  5. e.多数の傷病者が同時発生したときに使う。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の基本、トリアージタッグについての問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、トリアージの目的、使う場面、色分け、そして誰が実施するのか、という4つの観点で一つずつ確認していこう。まず、そもそもトリアージは何のために行うのかな。
医学生医学生
重症な人から順番に治療するため、でしょうか。
ドクタードクター
半分正解。普段の救急外来でも重症者を優先するけれど、トリアージの本質は「限られた医療資源で最大多数の命を救う」ことにある。傷病者の数が人手や救急車、病院の受け入れ能力を上回ったとき、通常の「目の前の一人に最善を尽くす」という原則を切り替えるんだ。語源はフランス語の「選別する」だよ。
医学生医学生
だから多数の傷病者が同時に出たときに使う、という記述は正しいんですね。逆に、医療側に余裕があれば使わなくていいと。
ドクタードクター
その通り。大地震や列車事故、多重交通事故など、需要が供給を一時的に上回る状況が前提になる。患者を選別するために使う、という記述も目的そのものだから正しい。タッグには色だけでなく、氏名や年齢、実施日時、実施者、傷病名なども書けて、搬送先へ情報を引き継ぐ役割もあるんだ。
医学生医学生
救急医学の講義で4色あると習いました。黒は死亡ですよね。
ドクタードクター
そう、黒は死亡、あるいは気道を確保しても呼吸が戻らないなど現状では救命困難な人に付ける。赤は最優先治療群で、ただちに処置すれば助かる人。黄は待機的治療群で、治療は要るけれど数時間の遅れは許容できる人。緑は歩ける軽症者だ。ただ注意してほしいのは、黒タッグは法的な死亡確認そのものではないということ。
医学生医学生
えっ、黒が付いたらもう終わりだと思っていました。
ドクタードクター
資源に余裕が出てくれば、黒とされた人も再評価して赤として治療対象になりうる。トリアージは一度きりではなく、状況の変化に応じて繰り返し行うものなんだ。では、規格が統一されているという記述はどう思う?
医学生医学生
組織ごとにバラバラだと困りそうなので、統一されている気がします。
ドクタードクター
正解。阪神・淡路大震災のとき、機関ごとに様式の違う札が使われて混乱した。その教訓から1996年に国の主導で様式が統一され、大きさや色の並び、記載項目が共通化された。消防、医療機関、自治体が協働する災害現場では欠かせない仕組みだね。
医学生医学生
となると残るのは、種別の判断が医師に限られるという記述ですね。確かに、災害現場で医師が来るまで待っていたら間に合わなさそうです。
ドクタードクター
まさにそこがポイントで、これが誤りの記述だ。現場に最初に到着した救急隊員、救急救命士が一次トリアージを行うことが多いし、危険な現場では消防隊員が担うこともある。救護所や病院の入口では、訓練を受けた看護師が実施することもよくある。むしろ医師は治療に専念させ、トリアージは経験のある別の人に任せるという考え方もあるくらいなんだ。
医学生医学生
医師以外でも素早く判断できる方法があるんですか。
ドクタードクター
一次トリアージで広く使われるSTART法がそれだ。まず歩ければ緑。歩けなければ呼吸を見て、気道確保しても呼吸がなければ黒。呼吸数が30回/分以上か10回/分未満なら赤。橈骨動脈が触れない、または毛細血管再充満時間が2秒を超えれば赤。簡単な指示に従えなければ赤。どれにも当てはまらなければ黄。短時間で誰でも同じ判断ができるよう設計されているんだ。
医学生医学生
OSCEで練習したバイタルの取り方が、そのまま使えるような項目ですね。
ドクタードクター
そうだね。救護所ではさらに生理学的・解剖学的評価を加えた二次トリアージ、いわゆるPAT法で区分を見直す。実務的な点も覚えておこう。タッグは下端がもぎり式で、該当する色より下を切り取り、一番下に残った色が区分を示す。付ける場所は原則右手首で、衣服や靴には付けない。脱がせたときに失われてしまうからね。
医学生医学生
複写式になっているのも、現場、搬送機関、収容病院でそれぞれ控えを持つためでしょうか。
ドクタードクター
その通り。1枚目が災害現場用、2枚目が搬送機関用、3枚目が収容医療機関用だ。災害はいつ起こるか分からないし、研修医になれば病院の災害訓練でトリアージ役を任されることもある。職種を問わず、平時から訓練しておくことが大切なんだ。

まとめ

トリアージは、多数の傷病者が同時に発生し医療資源を上回る状況で、最大多数の命を救うために治療・搬送の優先順位を決める選別であり、その結果を示すのがトリアージタッグです。わが国では阪神・淡路大震災の教訓から1996年に様式が統一され、黒(死亡・救命困難)、赤(最優先治療)、黄(待機的治療)、緑(軽症)の4区分が用いられます。トリアージの実施者は医師に限られず、救急隊員や消防隊員、訓練を受けた看護師なども担い、START法のように誰でも短時間で判断できる方法が整備されています。黒タッグは死亡確認そのものではなく、トリアージは状況に応じて繰り返し行う点も重要です。災害医療の基本原則を理解しておくことは、将来どの診療科に進んでも災害訓練や実際の災害対応で役立ちます。

解答・解説

正解はdです

テーマ

大規模災害や多数傷病者事故(MCI: mass casualty incident)では、傷病者の数が医療資源(人手、医療器材、救急車、病院の受け入れ能力)を上回る。このとき「目の前の一人に最善を尽くす」通常診療の原則ではなく、「限られた資源で最大多数の命を救う」ことを目標に、治療・搬送の優先順位を決める。この選別作業をトリアージ(triage、フランス語の「選別する」に由来)といい、その結果を傷病者に付けて誰が見ても分かるようにする札がトリアージタッグ(識別札)である。

解き方

本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。トリアージの目的(選別)、使う場面(多数傷病者の同時発生)、色分け(黒・赤・黄・緑)、様式の統一は、いずれもトリアージタッグの基本的な性質として正しい。一方、トリアージは災害現場で最初に到着した救急隊員や、訓練を受けた看護師なども実施するものであり、「医師に限られる」とする記述が誤りである。災害時に医師の到着を待っていては選別が遅れ、救える命を失うことを考えれば判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  規格は統一されている。

    正しい記述である。わが国では阪神・淡路大震災(1995年)の際に、機関ごとに異なる様式の札が使われ混乱したことを教訓に、1996年に国(当時の厚生省)の主導で様式が統一された。大きさ、色の並び(黒・赤・黄・緑)、記載項目などが共通化されており、消防・医療機関・自治体など異なる組織の間でも情報を正しく引き継げる。災害現場では多くの機関が協働するため、規格の統一は不可欠である。

  2. ×b.  患者選別のために使用する。

    正しい記述である。トリアージタッグは、傷病者を緊急度・重症度に応じて分類(選別)し、その結果を明示するために用いる。タッグには色の区分のほか、氏名、年齢、トリアージ実施日時・場所・実施者、症状・傷病名などを記入でき、搬送先での診療にも情報を引き継ぐ役割がある。

  3. ×c.  死亡の場合は黒タッグになる。

    正しい記述である。黒(カテゴリー0)は、すでに死亡している者、または呼吸がなく気道確保をしても自発呼吸が戻らないなど、現在の状況下では救命の可能性がきわめて低い者に付ける。注意点として、黒タッグは「死亡確認」そのものではない。法的な死亡確認は医師が行うもので、医療資源に余裕が出てくれば、黒とされた傷病者でも再評価のうえ赤として治療対象になりうる。トリアージは状況に応じて繰り返し行うものである。

  4. ○d.  タッグの種別の判断は医師に限られる。

    誤った記述であり、これが正解である。トリアージの実施者は医師に限定されていない。多数の傷病者が発生した現場では、最初に到着した救急隊員(救急救命士を含む)が一次トリアージを行い、危険で医療者が立ち入れない現場では消防隊員が担うこともある。現場救護所や病院の入口では、訓練を受けた看護師が行うことも多い。むしろ、医師は治療に専念させ、トリアージは経験のある別の者が担当するという考え方もある。一次トリアージで広く用いられるSTART法(Simple Triage And Rapid Treatment:歩行の可否、呼吸、循環〔橈骨動脈触知や毛細血管再充満時間〕、意識〔簡単な指示に従えるか〕で短時間に分類する方法)は、医師以外でも短時間で実施できるように作られている。正確なトリアージのためには、職種を問わず平時からの訓練が重要である。

  5. ×e.  多数の傷病者が同時発生したときに使う。

    正しい記述である。トリアージは、大地震、列車事故、多重交通事故、テロなど、傷病者の数が医療資源を一時的に上回る状況で行う。裏を返せば、傷病者数に対して医療側の対応能力が十分にあれば、全員に通常どおりの診療を行えばよく、トリアージタッグを用いた選別は必要ない。

トリアージタッグの色区分

・赤(区分I、最優先治療群):生命にかかわる重篤な状態で、ただちに処置すれば救命できる者。例:気道閉塞、ショック、緊張性気胸など。 ・黄(区分II、待機的治療群):すぐに生命の危険はないが、治療や入院が必要な者。数時間程度の治療の遅れは許容される。例:バイタルサインが安定した骨折など。 ・緑(区分III、保留群):歩行可能で、専門医の治療をほとんど必要としない軽症者。例:擦り傷、打撲など。 ・黒(区分0、死亡群・救命困難群):死亡している者、または現状では救命が困難な者。

タッグの構造と使い方

・下端がもぎり式になっており、黒・赤・黄・緑の順に並んでいる。該当する色より下の部分を切り取ることで、最も下に残った色が区分を示す(例:赤なら黄と緑の部分を切り離す)。 ・原則として右手首に付け、困難なら左手首、右足首、左足首、頸部の順に付ける。衣服や靴には付けない(脱がせたときに失われるため)。 ・複写式で、1枚目は災害現場用、2枚目は搬送機関用、3枚目は収容医療機関用として使われる。

一次トリアージ(START法)の流れ

1. 歩ける → 緑 2. 気道を確保しても呼吸がない → 黒 3. 呼吸数が30回/分以上、または10回/分未満 → 赤 4. 橈骨動脈を触れない、または毛細血管再充満時間(CRT)が2秒を超える → 赤 5. 簡単な指示に従えない → 赤 6. 上記のいずれにも該当しない → 黄

二次トリアージ

救護所などで、より詳しい生理学的・解剖学的評価(PAT法:physiological and anatomical triage)により、区分を見直す。トリアージは一度で終わらず、状態の変化に応じて繰り返し行う。

POINT

・トリアージは多数傷病者発生時に、限られた医療資源で最大多数を救うための選別である。 ・トリアージタッグの様式はわが国で統一されている(黒・赤・黄・緑の4区分)。 ・黒は死亡または救命困難、赤は最優先治療、黄は待機的治療、緑は軽症。 ・トリアージは医師に限らず、救急隊員(救急救命士)、消防隊員、看護師なども実施する。 ・トリアージは状況の変化に応じて繰り返し行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。