褥瘡ができたら施設へ?―「在宅で支える」を選ぶための判断軸
第102回医師国家試験 B問題 第41問
国試問題にチャレンジ
74歳の男性。殿部の潰瘍を主訴に来院した。3か月前から殿部に潰瘍ができている。20年前に水泳の飛び込みで頸部を損傷し,C7以下に麻痺がある。日中は自宅で電動車椅子を自ら運転し,坐位で生活をしている。殿部の写真を別に示す。 適応とならないのはどれか。

- a.訪問診療
- b.訪問看護
- c.在宅介護
- d.訪問リハビリテーション
- e.特別養護老人ホーム入所
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
脊髄損傷の患者さんは感覚障害と運動麻痺、自律神経障害のために除圧が行われにくく、坐位生活では坐骨結節部や尾骨部に褥瘡を生じやすくなります。ただし褥瘡があることは、そのまま施設入所の理由にはなりません。電動車椅子で自宅生活が成り立っている人では、訪問診療による定期的な評価、訪問看護による局所処置と指導、在宅介護による日常生活の支援、訪問リハビリテーションによる除圧動作や座位環境の調整を組み合わせ、在宅で治療と再発予防を行うのが基本です。特別養護老人ホームは常時介護を要し自宅生活が困難な高齢者(原則要介護3以上)のための生活の場であり、本例は適応となりません。「今の生活を続けるために何を支援として加えるか」という視点は、高齢者や障害をもつ人の療養を考えるうえでの土台になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・74歳の男性。20年前に頸髄損傷を負い、第7頸髄(C7)以下の麻痺がある。 ・3か月前から殿部に潰瘍がある。 ・日中は自宅で電動車椅子を自分で操作し、坐位で生活している。 ・写真では、殿部の下方(殿溝付近)に境界明瞭な潰瘍を認め、潰瘍底には赤色の肉芽がみられ、周囲の皮膚は白くふやけて硬くなっている。
診断
脊髄損傷では損傷レベル以下の運動麻痺に加えて感覚障害があり、痛みやしびれを感じないため自分で除圧(体重を移すこと)が行われにくい。さらに自律神経障害による皮膚の血流調節の低下、失禁による皮膚の湿潤なども加わる。長時間の坐位では坐骨結節部や仙骨・尾骨部に体重が集中するため、この部位に褥瘡(持続的な圧迫による皮膚・皮下組織の阻血性壊死)が生じやすい。本例は脊髄損傷に伴う殿部の褥瘡と考えられる。
設問の考え方
この患者は重い障害をもちながらも、電動車椅子を自分で操作して自宅で生活できており、在宅生活が成り立っている。今回の問題は褥瘡であり、必要なのはその治療・局所ケア、除圧・体位変換の指導、再発予防のための生活環境の調整などである。これらはすべて在宅医療・在宅サービスで対応できる。したがって、自宅での生活を継続する前提で、医療・看護・介護・リハビリテーションを組み合わせて支援するのが適切であり、施設入所は現時点で適応とならない。
選択肢考察
- ×a. 訪問診療
訪問診療は、通院が困難な患者の自宅などへ医師が計画的・定期的に出向いて行う診療である(患者の求めに応じて臨時に出向く「往診」とは区別される)。在宅療養支援診療所などが担い、月2回程度の定期訪問が一般的である。本例は褥瘡の治療が必要で、電動車椅子で生活していて通院の負担も大きいため、医師による定期的な評価と処置の方針決定は適応となる。
- ×b. 訪問看護
訪問看護は、主治医の指示書に基づいて看護師などが自宅を訪れ、療養上の世話や医療処置を行うサービスである。本例では、創部の洗浄・被覆材の交換などの褥瘡の局所処置、皮膚の観察、除圧・体位変換や排泄ケアの指導、栄養状態の確認など、褥瘡の治療と再発予防の両面で重要な役割を担うため、適応となる。
- ×c. 在宅介護
在宅介護は、要介護者が住み慣れた自宅で生活を続けられるよう、家族やホームヘルパー(訪問介護員)が入浴・排泄・更衣などの身の回りの世話を行うことである。頸髄損傷による四肢の麻痺があり、日常生活動作の一部に介助を要すると考えられるうえ、褥瘡予防のための体位変換や清潔保持にも人手が必要であるため、適応となる。
- ×d. 訪問リハビリテーション
訪問リハビリテーションは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅を訪れ、実際の生活環境で機能訓練や日常生活動作の練習、介助方法の指導、住環境の整備に関する助言を行うサービスである。本例では、車椅子上での除圧動作(プッシュアップや体幹の前傾・側屈による体重移動)の練習、車椅子クッションや座位姿勢の調整、残存機能の維持など、褥瘡の再発予防と生活機能の維持に役立つため、適応となる。
- ○e. 特別養護老人ホーム入所
特別養護老人ホーム(介護保険法上の介護老人福祉施設)は、心身に著しい障害があって常時介護を必要とし、自宅で適切な介護を受けることが困難な高齢者が入所して生活する施設である。現在は新規入所の対象が原則として要介護3以上に限られている。本例は電動車椅子を自ら操作して自宅で日常生活を送れており、今回の褥瘡も在宅医療・在宅サービスで十分に対応できるため、自宅での生活が困難な状態とはいえない。したがって、現時点で施設入所は適応とならない。
褥瘡の基礎
・定義:骨の突出部に持続的な圧迫やずれの力が加わり、局所の血流が途絶えて皮膚・皮下組織が壊死した状態。 ・好発部位:仰臥位では仙骨部・踵部・後頭部・肩甲部、側臥位では大転子部・腸骨部、坐位では坐骨結節部・尾骨部。 ・危険因子:可動性の低下(麻痺・寝たきり)、知覚障害、低栄養(低アルブミン血症)、皮膚の湿潤(失禁・発汗)、摩擦とずれ、骨の突出、浮腫など。 ・深さの分類:NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)分類ではステージⅠ(消退しない発赤)、Ⅱ(真皮までの部分欠損)、Ⅲ(皮下組織までの全層欠損)、Ⅳ(筋・腱・骨に達する)などに分ける。日本では DESIGN-R(深さ・滲出液・大きさ・炎症/感染・肉芽組織・壊死組織・ポケット)による評価が広く用いられる。
褥瘡の予防と治療の要点
・除圧:臥床時は体位変換(2時間ごとが目安、体圧分散マットレス使用時はそれより間隔を延ばせる)、坐位では15〜30分ごとの除圧動作と車椅子用クッションの使用。 ・スキンケア:皮膚を清潔・乾燥に保ち、失禁への対策を行う。 ・栄養管理:エネルギーとたんぱく質を十分に補う。 ・局所治療:壊死組織の除去(デブリドマン)、感染の制御、湿潤環境を保つ被覆材や外用薬の使用。深い褥瘡では皮弁などの外科的治療も検討する。
脊髄損傷のレベルと機能の目安
C7レベルが最下位の残存髄節であれば、肘の伸展や手関節の運動がある程度可能で、手動車椅子の操作や上肢を使った移乗・プッシュアップが目指せる。ただし手指の細かい動きは障害され、感覚障害と自律神経障害を伴うため、褥瘡・起立性低血圧・自律神経過反射・尿路感染症などの合併症に注意が必要である。
主な在宅・施設サービス
・在宅サービス:訪問診療(医師)、訪問看護(看護師)、訪問介護(ホームヘルパー)、訪問リハビリテーション(理学療法士・作業療法士など)、訪問入浴、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所(ショートステイ)など。 ・介護保険施設:介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:生活の場、原則要介護3以上)、介護老人保健施設(在宅復帰を目指すリハビリテーション中心の施設)、介護医療院(長期の医療と介護を一体的に提供)。
POINT
・脊髄損傷患者は知覚障害と運動麻痺のため褥瘡をきたしやすく、坐位生活では坐骨結節部・尾骨部が好発部位である。 ・褥瘡の治療・予防は、訪問診療・訪問看護・在宅介護・訪問リハビリテーションを組み合わせて在宅で行える。 ・特別養護老人ホームは常時介護が必要で自宅での生活が困難な高齢者(原則要介護3以上)が対象であり、自宅で自立して生活できている人は適応とならない。
