「人数」に惑わされるな―割合・差・比・NNTで測る本当の治療効果
第102回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
疾病と治療の5つの組合せについて,報告された治療群と対照群との改善者数は表のようであった。 疾病と治療の 組合せ 治療群 対照群 人数 改善者数 人数 改善者数 ① 200 100 200 80 ② 400 120 400 100 ③ 500 300 500 200 ④ 1,000 600 1,000 500 ⑤ 2,000 800 2,000 600 治療によって最も改善するのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
治療効果を比較するときは、改善者の実数ではなく各群の改善率に直してから比べることが出発点です。本問では、改善率の差(寄与改善度・ARR)、比(相対改善度・RRR)、治療必要数(NNT)のいずれで評価しても、治療群60%・対照群40%の組合せが最も効果が大きく、NNTは5と最小になります。実数の差が最大でも対象人数が多いだけの組合せや、治療群の改善率が高くても対照群も高い組合せは、効果が大きいとは言えません。ARR=CER-EER、RRR=ARR÷CER、NNT=1÷ARRの関係を押さえ、RRRはベースラインリスクを反映しないためARRやNNTと併せて評価することが重要です。これらの指標を正しく読み解く力は、論文やエビデンスを臨床判断に生かすための基本となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
治療群と対照群を比べる介入研究の結果から、治療効果の大きさを評価する問題である。組合せごとに対象人数が異なるため、改善者の「数」ではなく「割合(改善率)」に直してから比較することが出発点となる。
手順1:改善率を求める
改善率=改善者数÷人数 ・①:治療群 100/200=0.50、対照群 80/200=0.40 ・②:治療群 120/400=0.30、対照群 100/400=0.25 ・③:治療群 300/500=0.60、対照群 200/500=0.40 ・④:治療群 600/1,000=0.60、対照群 500/1,000=0.50 ・⑤:治療群 800/2,000=0.40、対照群 600/2,000=0.30
手順2:治療効果の指標を計算する
(1)差でみる指標(寄与改善度・絶対的な効果)=治療群の改善率-対照群の改善率 ①0.10、②0.05、③0.20、④0.10、⑤0.10 (2)比でみる指標(相対改善度)=治療群の改善率÷対照群の改善率 ①1.25、②1.20、③1.50、④1.20、⑤約1.33
手順3:「改善しなかった人」を事象として臨床疫学の指標で確かめる
治療効果の指標は、本来「好ましくない事象(ここでは非改善)」の割合がどれだけ減るかで表すことが多い。非改善率を対照群 CER(control event rate)、治療群 EER(experimental event rate)とすると、 ・絶対リスク減少 ARR(absolute risk reduction)=CER-EER ・相対リスク減少 RRR(relative risk reduction)=(CER-EER)÷CER ・治療必要数 NNT(number needed to treat)=1÷ARR これを当てはめると、 ・①:CER 0.60、EER 0.50 → ARR 0.10、RRR 約17%、NNT 10 ・②:CER 0.75、EER 0.70 → ARR 0.05、RRR 約7%、NNT 20 ・③:CER 0.60、EER 0.40 → ARR 0.20、RRR 約33%、NNT 5 ・④:CER 0.50、EER 0.40 → ARR 0.10、RRR 20%、NNT 10 ・⑤:CER 0.70、EER 0.60 → ARR 0.10、RRR 約14%、NNT 10
結論
差(寄与改善度・ARR)、比(相対改善度・RRR)、NNTのいずれの指標で評価しても③が最も治療効果が大きい。どの指標でも結論が一致するため、③が正解と判断できる。
注意点
改善者の実数の差だけをみると⑤(800-600=200人)が最大に見えるが、これは対象人数が多いためにすぎない。治療効果は必ず割合に換算して比較する。
選択肢考察
- ×a. ①
改善率は治療群0.50、対照群0.40で、差は0.10、比は1.25である。非改善を事象とするとARR 0.10、RRR約17%、NNT 10となる。いずれの指標でも③(差0.20、比1.50、NNT 5)に及ばない。
- ×b. ②
改善率は治療群0.30、対照群0.25で、差は0.05、比は1.20にとどまる。ARR 0.05、RRR約7%、NNT 20と、5つの組合せの中で治療効果は最も小さい。1人の改善を上乗せするのに20人を治療する必要がある。
- ○c. ③
改善率は治療群0.60、対照群0.40で、差は0.20、比は1.50と、どちらも5つの中で最大である。非改善を事象としてもARR 0.20、RRR約33%で最大、NNTは5と最小であり、5人治療すれば対照に比べて1人多く改善が得られる。絶対的な指標・相対的な指標のいずれでみても最も治療効果が大きい。
- ×d. ④
改善率は治療群0.60で③と同じだが、対照群も0.50と高いため、差は0.10、比は1.20にとどまる。ARR 0.10、RRR 20%、NNT 10である。治療群の改善率だけでなく、対照群との比較で評価しなければならないことを示す例である。
- ×e. ⑤
改善者数の差は200人と最大だが、各群2,000人と対象が多いためであり、改善率は治療群0.40、対照群0.30で差は0.10、比は約1.33である。ARR 0.10、RRR約14%、NNT 10となり、③より効果は小さい。実数ではなく割合で比較する必要がある。
治療効果の指標
・絶対リスク減少(ARR)=CER-EER:治療によって事象の発生割合が何ポイント下がったか。公衆衛生・臨床上のインパクトを直接表す。 ・相対リスク減少(RRR)=(CER-EER)÷CER=1-相対危険(EER÷CER):対照群に比べて事象が何割減ったか。 ・治療必要数(NNT)=1÷ARR:1人の事象を防ぐ(1人多く改善させる)ために何人を治療する必要があるか。小さいほど効果的である。有害事象についての同様の指標は害必要数(NNH: number needed to harm)という。
ARRとRRRの使い分け
RRRは同じでも、もともとの事象率(ベースラインリスク)が低い集団ではARRは小さくなり、NNTは大きくなる。例えば、事象率が20%から10%に下がる場合と、0.2%から0.1%に下がる場合は、どちらもRRRは50%だが、ARRは10%と0.1%、NNTは10と1,000で大きく異なる。RRRは効果を大きく印象づけやすいため、臨床的・公衆衛生的な意義を判断する際にはARRやNNTも合わせて確認することが重要である。
コホート研究の指標との対応
曝露の影響を評価する相対危険(リスク比)・寄与危険(リスク差)は、介入研究における相対的な効果(RRRや相対改善度)・絶対的な効果(ARRや寄与改善度)とそれぞれ同じ発想の指標である。比は「関連の強さ」、差は「集団への影響の大きさ」を表す。
実際の評価で考慮すること
実際の臨床研究では、効果の点推定値だけでなく信頼区間や統計学的有意性、観察期間の長さ、有害事象、費用なども総合して治療の価値を判断する。
POINT
・治療効果は改善者の実数ではなく、各群の割合に直して比較する。 ・差で評価する指標(寄与改善度、ARR)と比で評価する指標(相対改善度、RRR)がある。 ・ARR=CER-EER、RRR=(CER-EER)÷CER、NNT=1÷ARR。 ・NNTは小さいほど治療効果が大きい。 ・RRRはベースラインリスクの大小を反映しないため、ARR・NNTと併せて評価する。
