「落ち着きがない」の正体は脳の回路―ADHDをドパミンから読み解く
第102回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
注意欠陥多動性障害〈ADHD〉について正しいのはどれか。
- a.小児の約0.5%にみられる。
- b.女児に多い。
- c.知的能力障害〈精神遅滞〉が合併する。
- d.脳内ドパミン神経系の異常がみられる。
- e.副腎皮質ステロイド薬が有効である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ADHDは不注意と多動性・衝動性を中核とする神経発達症で、学齢期小児の約5%にみられ、男児に多い一方、不注意優位の女児は見逃されやすいことが知られています。知的能力は通常正常範囲であり、知的能力障害を特徴とするものではなく、併存しやすいのは学習障害、自閉スペクトラム症、チック症などです。病態には前頭前野と線条体を結ぶ回路の機能不全と、ドパミン・ノルアドレナリン系の神経伝達異常が想定され、再取り込みを阻害するメチルフェニデートの有効性がこれを支持しています。治療は中枢刺激薬や非中枢刺激薬のアトモキセチン・グアンファシンに心理社会的治療を組み合わせて行い、ステロイドは用いません。病態と治療薬の作用機序を結びつけて理解することが、発達障害全体の整理と臨床での適切な支援につながります。
解答・解説
正解はdです
注意欠陥多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD、DSM-5以降は注意欠如・多動症とも呼ぶ)の疫学、病態、併存症、治療を問う一般問題である。 【ADHDとは】年齢や発達段階に見合わない不注意(忘れ物・なくし物が多い、注意が続かない、指示を最後までやり遂げられない)と、多動性・衝動性(じっと座っていられない、しゃべりすぎる、順番を待てない、他人を遮る)の一方または両方が持続する神経発達症である。症状は幼児期〜学童期から現れ、家庭と学校など複数の場面でみられ、生活に支障をきたす。発症年齢の要件は、DSM-IVでは7歳未満、DSM-5では12歳以前に症状が存在することとされている。 【病態】原因は完全には解明されていないが、遺伝要因の関与が大きい(双生児研究による遺伝率は約70〜80%)。脳機能の面では、前頭前野と線条体を結ぶ神経回路の機能低下が想定されている。その背景として、ドパミン系とノルアドレナリン系の神経伝達の異常が考えられている。ドパミンやノルアドレナリンの働きを高める中枢刺激薬が症状を改善することも、この考えを支持している。 【考え方】疫学(頻度、性差)、知的能力との関係、治療薬をそれぞれ正しく押さえていれば、ドパミン神経系の異常(d)が正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 小児の約0.5%にみられる。
誤り。ADHDはよくみられる発達障害であり、学齢期の小児では約5%(おおむね3〜7%、調査によってはさらに幅がある)とされる。20人に1人程度の頻度で、通常の学級に1〜2人いてもおかしくない。選択肢の0.5%は大きく過小である。症状の一部は成人期まで続くことが多く、成人の有病率も約2.5%と報告されている。
- ×b. 女児に多い。
誤り。ADHDは男児に多い。性比は、一般人口の調査では男:女が約2:1、医療機関を受診する例ではさらに男児に偏り、数倍に達するとされる。女児は多動・衝動性よりも不注意が目立ちやすく、周囲に気づかれにくいため、診断が遅れたり見逃されたりしやすいことも知られている。
- ×c. 知的能力障害〈精神遅滞〉が合併する。
誤り。ADHDの中核は不注意・多動性・衝動性であり、全般的な知的能力の低下を特徴とするものではない。多くの患者は知的に正常範囲にある。知的能力障害の子どもに不注意や多動がみられても、それが精神年齢から期待される程度であれば、ADHDとは診断しない。なお、ADHDは学習障害(限局性学習症)、自閉スペクトラム症、チック症、反抗挑発症などとの併存が多いが、知的能力障害を必ず、あるいは通常伴うわけではない。
- ○d. 脳内ドパミン神経系の異常がみられる。
正しい。ADHDでは、前頭前野(注意の制御、行動の抑制、実行機能を担う)と線条体を結ぶ回路の機能不全が想定されている。この回路を調節するドパミン系とノルアドレナリン系の神経伝達の異常が、病態の中心と考えられている。ドパミントランスポーターやドパミン受容体の遺伝子とADHDとの関連が報告されていること、機能画像で前頭部の活動(ブドウ糖代謝など)の低下が示されていることが根拠となっている。さらに、ドパミン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害するメチルフェニデートが症状を改善することも、この仮説を支持している。
- ×e. 副腎皮質ステロイド薬が有効である。
誤り。ADHDは炎症や免疫の異常による疾患ではないため、副腎皮質ステロイド薬は用いない。むしろステロイドは、多幸感、不眠、興奮などの精神症状を起こしうる。薬物療法の中心は、中枢刺激薬のメチルフェニデート(わが国では徐放製剤)やリスデキサンフェタミンと、非中枢刺激薬のアトモキセチン(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やグアンファシン(α2A受容体作動薬)である。薬物療法は、環境調整、ペアレントトレーニング、行動療法などの心理社会的治療と組み合わせて行う。
神経発達症(発達障害)の整理
・知的能力障害(知的発達症):全般的な知的機能の低下(おおむねIQ70未満)と適応機能の障害。 ・自閉スペクトラム症(ASD):対人的相互反応・コミュニケーションの障害と、限定された反復的な行動・興味・こだわり。知的水準はさまざまで、知的障害を伴わない例も多い(かつての自閉症、アスペルガー障害などを統合した概念)。 ・ADHD:不注意、多動性・衝動性。知的水準は通常正常範囲である。 ・限局性学習症(学習障害):知的能力に比べて、読字・書字・計算など特定の学習能力が著しく困難。 DSM-5では、ADHDとASDの併存診断が認められるようになった。
ADHDの臨床像
・病型:不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型。 ・年齢による変化:多動性は年齢とともに目立たなくなることが多い。一方で不注意は成人期まで残りやすい。 ・二次的な問題:叱責や失敗体験が重なることで自尊心が低下し、反抗挑発症、素行症、抑うつ、不安などを生じることがある。
治療薬のまとめ(わが国)
・メチルフェニデート徐放錠:ドパミン・ノルアドレナリン再取り込み阻害(中枢刺激薬)。流通管理の対象である。 ・リスデキサンフェタミン:体内でアンフェタミン系の活性体になる中枢刺激薬(小児に適応)。 ・アトモキセチン:選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(非中枢刺激薬)。 ・グアンファシン:α2A受容体作動薬(非中枢刺激薬)。 中枢刺激薬の主な副作用は、食欲低下、体重増加不良、不眠、頭痛、チックの増悪などである。
POINT
・ADHDは学齢期小児の約5%にみられ、男児に多い(男:女は約2:1以上)。 ・中核症状は不注意・多動性・衝動性であり、知的能力は通常正常範囲である。 ・病態には前頭前野-線条体回路と、ドパミン・ノルアドレナリン系の機能異常が想定されている。 ・治療はメチルフェニデートなどの中枢刺激薬や、アトモキセチン・グアンファシンなどの非中枢刺激薬に、心理社会的治療を組み合わせる。ステロイドは用いない。
