StudyMed医師国家試験

腎臓と耳が同時に悲鳴を上げる―IV型コラーゲンでつながるAlport症候群

第102回医師国家試験 A問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第43問

21歳の男性。難聴を主訴に来院した。10歳ころから両側難聴があったが原因不明と言われていた。3年前から両側難聴が進行し,昨年から補聴器を装用している。時々,浮動性めまいを自覚している。また,家族性腎炎の診断で7歳から透析を受けている。オージオグラムを別に示す。  考えられる疾患はどれか。

第102回 A問題 第43問の問題画像
  1. a.Alport症候群
  2. b.Bartter症候群
  3. c.Goodpasture症候群
  4. d.Treacher Collins症候群
  5. e.von Recklinghausen病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、若い男性の進行性難聴を、全身の病歴と結びつけて診断する問題だ。耳鼻咽喉科の問題だけれど、カギは耳の外にある。難聴の性状と、もう一つの重要な既往の組み合わせに注目してほしい。まず、オージオグラムからどんな難聴だと読み取れるかな。
医学生医学生
両側とも気導と骨導が同じくらい下がっていて、気骨導差がないので感音難聴ですね。高い音ほど悪くなっています。
ドクタードクター
その通り。両側性・高音域優位の感音難聴で、小児期に始まって徐々に進んでいる。外耳や中耳の問題ではなく、内耳から先の障害ということだ。では、もう一つのヒントは何だろう。
医学生医学生
家族性腎炎で小さいころから透析を受けていることです。でも、透析患者さんの難聴って、薬の副作用なども考えてしまいます。
ドクタードクター
いい疑問だね。確かにアミノグリコシドなどの耳毒性薬による難聴は鑑別に挙がる。ただ今回は、腎炎が家族性、つまり遺伝性で、しかも若くして末期腎不全に至っている。遺伝性の腎炎と進行性の感音難聴が一緒にある、という組み合わせで真っ先に思い浮かべたいのがAlport症候群なんだ。
医学生医学生
腎臓内科の講義で、遺伝性腎炎の代表として習いました。でも、なぜ腎臓と耳が一緒に悪くなるんですか。
ドクタードクター
そこが一番大事なところ。Alport症候群はIV型コラーゲンの遺伝子異常で起こる。IV型コラーゲンは基底膜の主成分で、糸球体基底膜だけでなく、内耳の蝸牛や眼の基底膜にも存在する。だから同じ遺伝子の異常で、腎臓・耳・眼に病変が出るんだ。
医学生医学生
なるほど、共通の部品が壊れているから複数の臓器に症状が出るんですね。男性なのもポイントでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。最も多いのはX連鎖型で、COL4A5という遺伝子の異常による。男性は重症化しやすく、血尿から始まって蛋白尿が加わり、若いうちに末期腎不全に進む。女性は多くが保因者で、軽い血尿程度のことが多いけれど、腎機能が悪くなる例もある。ほかに常染色体劣性型や優性型もあるよ。
医学生医学生
病理実習で、電子顕微鏡で基底膜が網目状になっている写真を見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。糸球体基底膜が薄くなったり厚くなったりして層状に裂け、網目のように見えるのが特徴だ。眼では、水晶体の前面が円錐状に突出する前円錐水晶体や網膜の斑点状病変がみられる。では、ほかの選択肢も確認しよう。Bartter症候群はどうかな。
医学生医学生
Henleループの太い上行脚の輸送体異常で、低カリウム血症と代謝性アルカローシスが出る病気ですよね。腎臓の病気ではあるけれど、腎炎ではない気がします。
ドクタードクター
その通り。尿細管の塩分再吸収の異常で、レニン・アルドステロンが高いのに血圧は正常というのが典型だ。実は一部の病型では感音難聴を合併するけれど、糸球体腎炎ではないし、若くして透析になるような経過はふつうとらない。次にGoodpasture症候群は?
医学生医学生
これもIV型コラーゲンが関係する病気だったので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだ。Goodpasture症候群はIV型コラーゲンのα3鎖に対する自己抗体、つまり抗GBM抗体による自己免疫疾患で、急速進行性糸球体腎炎と肺胞出血を起こす。後天性で遺伝性ではなく、難聴も起こさない。面白いことに、Alport症候群の患者さんに腎移植をすると、それまで体になかった正常なIV型コラーゲンに対して抗GBM抗体ができ、移植腎に腎炎が起こることがあるんだ。
医学生医学生
同じIV型コラーゲンでも、遺伝子異常と自己抗体という全く違う仕組みなんですね。Treacher Collins症候群は耳の奇形の病気でしたっけ。
ドクタードクター
そう、第1・第2鰓弓の発生異常による常染色体優性遺伝の病気で、頬骨や下顎の低形成、垂れ下がった目尻、小耳症、外耳道閉鎖などがある。難聴は外耳・中耳の奇形による伝音難聴で、生まれつきだ。腎疾患は伴わない。von Recklinghausen病はどうだろう。
医学生医学生
神経線維腫症1型で、カフェオレ斑と神経線維腫ですね。両側の聴神経腫瘍で難聴になるのは2型のほうだったと思います。
ドクタードクター
完璧だ。NF1は遺伝性腎炎を起こさず、難聴も通常は伴わない。両側の前庭神経鞘腫で感音難聴を起こすのはNF2で、ここはCBTでも国試でもよく狙われる。
医学生医学生
遺伝性腎炎と進行性の両側感音難聴がそろったらAlport症候群、そしてそのつながりはIV型コラーゲン、という理解でいいですか。
ドクタードクター
その理解で十分だ。最後に臨床での注意点。Alport症候群には根本的な治療はないけれど、ACE阻害薬やARBを早めに使って蛋白尿を減らし、腎機能の低下を遅らせることが大切だ。末期腎不全になれば透析か腎移植になる。難聴に対しては補聴器、眼の異常には眼科でのフォローが必要になる。
医学生医学生
小児の血尿をみたときに、家族歴や聴力のことまで聞く意味がよくわかりました。
ドクタードクター
まさにそこ。持続する血尿の子どもを診たら、家族に腎不全や難聴の人がいないかを必ず聞く。耳鼻科医も、原因不明の進行性感音難聴の若い患者さんを診たら、尿検査や腎疾患の家族歴を確認する視点を持っておきたいね。遺伝性の腎疾患と難聴を伴う病気には、鰓弓耳腎症候群やFabry病などもあるので、あわせて覚えておこう。

まとめ

遺伝性の腎炎が若年で末期腎不全に進み、小児期から両側性・高音域優位の感音難聴が進行する場合は、Alport症候群を第一に考えます。原因は基底膜を構成するIV型コラーゲンの遺伝子異常で、最も多いX連鎖型(COL4A5)では男性が重症化しやすく、糸球体基底膜の網目状変化や前円錐水晶体などの眼病変も特徴です。同じIV型コラーゲンが関わっても、Goodpasture症候群は抗GBM抗体による後天性疾患であり、Bartter症候群は尿細管の輸送体異常、Treacher Collins症候群は伝音難聴を伴う顔面奇形、NF1はカフェオレ斑と神経線維腫が特徴で、いずれも本例の組み合わせを説明できません。治療は根本的なものがなく、ACE阻害薬やARBで腎機能低下を遅らせ、末期腎不全では透析や腎移植を行います。「共通の構造タンパクの異常が複数臓器の症状をつなぐ」という視点は、腎臓と耳のように一見無関係な所見を一つの診断にまとめる力につながります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・21歳の男性。10歳ころから両耳の難聴があり、原因はわからないと言われていた。3年前から悪くなり、昨年から補聴器を使っている。 ・ときどき、ふわふわする感じのめまい(浮動性めまい)がある。 ・「家族性腎炎」と診断され、7歳から透析を受けている。つまり家族に同じ腎臓病があり、子どものうちに末期腎不全になっている。 ・オージオグラム:両耳の感音難聴(内耳から脳までの障害による難聴)で、高い音ほど悪い(高音域優位)。気導閾値と骨導閾値が同じように上がり、両者の差(気骨導差)はない。

診断への考え方

本例の特徴は次の3つである。 1. 遺伝性で、末期腎不全まで進む腎炎がある。 2. 両耳の感音難聴が小児期に始まり、高音域から徐々に悪くなっている。 3. 若い男性である。 遺伝性の腎炎と感音難聴が一緒に起こる病気として、最も代表的なのはAlport症候群である。Alport症候群はIV型コラーゲン(糸球体の基底膜や内耳・眼の基底膜をつくるタンパク質)の遺伝子異常で起こる。多くはX染色体上の遺伝子の異常によるため(X連鎖型)、男性で症状が強く、若いうちに末期腎不全になる。以上から、Alport症候群が最も考えられる。 他の選択肢も遺伝性の病気や腎臓・耳の病気だが、「進行性の遺伝性腎炎」と「感音難聴」の両方をまとめて説明できるものはない。

選択肢考察

  1. ○a.  Alport症候群

    Alport症候群は、IV型コラーゲンの遺伝子(COL4A5、COL4A3、COL4A4)の異常で起こる遺伝性の腎炎である。最も多いのはX連鎖型(COL4A5の異常)で、男性では血尿から始まり、蛋白尿が加わって、腎機能がしだいに悪くなり末期腎不全に至る。IV型コラーゲンは内耳(蝸牛)や眼の基底膜にもあるため、高音域から始まって進行する両側の感音難聴や、眼の異常(水晶体の前面が円錐状に突出する前円錐水晶体、網膜の斑点状病変など)を伴う。家族性腎炎で透析を受けている若い男性に、進行性の両側感音難聴があるという本例に最もよく合い、正しい。

  2. ×b.  Bartter症候群

    Bartter症候群は、Henleループの太い上行脚で塩分(NaCl)を再吸収する仕組み(Na-K-2Cl共輸送体など)に遺伝的な異常がある病気である。低カリウム血症、代謝性アルカローシス、尿を濃くする力の低下、レニン・アルドステロンが高いのに血圧は正常、といった特徴がある。一部の病型(IV型、バルチンの異常)では感音難聴を合併するが、糸球体腎炎ではなく、ふつうは若いうちに末期腎不全となって透析が必要になることもない。本例には合わず、誤りである。

  3. ×c.  Goodpasture症候群

    Goodpasture症候群は、糸球体と肺胞の基底膜(IV型コラーゲンのα3鎖)に対する自己抗体(抗GBM抗体)ができて起こる自己免疫疾患である。急速進行性糸球体腎炎(数週〜数か月で腎機能が急に悪くなる腎炎)と肺胞出血(血痰、喀血)を起こす。遺伝性の病気ではなく、難聴も起こさない。したがって誤りである。なお、Alport症候群の患者に腎移植をすると、それまで体になかった正常なIV型コラーゲンに対して抗GBM抗体ができ、移植した腎臓に腎炎が起こることがある。

  4. ×d.  Treacher Collins症候群

    Treacher Collins症候群(下顎顔面異骨症)は、胎児期の第1・第2鰓弓(顔や耳のもとになる組織)がうまく発達しないために起こる常染色体優性遺伝の病気である。頬骨と下顎の低形成(小顎症)、下向きにつり下がった目尻、小耳症、外耳道閉鎖、耳小骨の奇形などがみられる。難聴は主に外耳・中耳の奇形による伝音難聴で、生まれたときからある。腎臓の病気は伴わず、本例の感音難聴や家族性腎炎を説明できないので、誤りである。

  5. ×e.  von Recklinghausen病

    von Recklinghausen病は神経線維腫症1型(NF1)のことで、常染色体優性遺伝の病気である。皮膚のカフェオレ斑(茶色の色素斑)、多数の神経線維腫、虹彩の小結節(Lisch結節)、雀卵斑(そばかす)様の色素斑などが特徴である。遺伝性腎炎は起こさず、難聴も通常は伴わない。したがって誤りである。両側の聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)によって感音難聴を起こすのは、別の病気である神経線維腫症2型(NF2)である。

Alport症候群の要点

・原因:IV型コラーゲンの遺伝子異常。  X連鎖型(COL4A5):最も多い。男性は重症となりやすく、若いうちに末期腎不全になる。女性は多くが保因者で、軽い血尿程度のことが多いが、腎機能が悪くなる例もある。  常染色体劣性型(COL4A3、COL4A4):男女とも重症となる。  常染色体優性型:比較的軽い経過をとることが多い。 ・腎臓の症状:子どもの頃から続く血尿(最初の症状)→蛋白尿(ネフローゼ症候群になることもある)→腎機能がしだいに低下して末期腎不全。 ・腎生検の電子顕微鏡所見:糸球体の基底膜が薄くなったり厚くなったりし、層に分かれて網目のように見える(網目状変化、basket-weave appearance)。免疫染色ではIV型コラーゲンα5鎖が見えなくなる。 ・耳:両耳の感音難聴。高音域から始まり、しだいに進行する。 ・眼:前円錐水晶体、網膜の斑点状病変など。 ・治療:根本的な治療はない。蛋白尿を減らして腎機能の低下を遅らせるため、ACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬を早めに使う。末期腎不全には透析または腎移植を行う。

遺伝性の腎臓病と難聴を伴う主な病気

・Alport症候群:遺伝性腎炎と感音難聴、眼の異常。 ・鰓弓耳腎症候群(BOR症候群):頸部の瘻孔・嚢胞、耳の奇形と難聴、腎臓の形の異常。 ・Bartter症候群IV型:塩分再吸収の異常と感音難聴。 ・Fabry病:腎障害に加えて、感音難聴を伴うことがある。

POINT

・遺伝性の腎炎と、進行性の両側感音難聴がそろえばAlport症候群を考える。 ・原因はIV型コラーゲンの遺伝子異常で、X連鎖型(COL4A5)が最も多く、男性で重症化しやすい。 ・腎臓は血尿で始まって末期腎不全に進み、電子顕微鏡では糸球体基底膜の網目状変化がみられる。眼の異常(前円錐水晶体など)も伴う。 ・Goodpasture症候群は抗GBM抗体による後天性の病気、Treacher Collins症候群は顔面・耳の奇形による伝音難聴、von Recklinghausen病(NF1)はカフェオレ斑と神経線維腫が特徴である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。