6か月前の「違和感」の正体―ゆがんで見えたら黄斑を疑え
第102回医師国家試験 A問題 第40問
国試問題にチャレンジ
83歳の男性。左眼の視力低下を主訴に来院した。3年前に白内障手術を受けた。6か月前から左眼の見え方の違和感を自覚していた。1か月前から視力低下が進行した。視力:右0.8(1.0×-0.75D),左0.6(矯正不能)。眼圧:右14mmHg,左14mmHg。眼内レンズが両眼に挿入されている。眼底写真(A)(B)を別に示す。 6か月前からあったと推定されるのはどれか。

- a.羞明
- b.夜盲
- c.変視症
- d.弓状暗点
- e.マリオット盲点の拡大
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高齢者の片眼の矯正不能な視力低下で、黄斑部に出血や浮腫を認めれば、脈絡膜新生血管による滲出型加齢黄斑変性を考えます。黄斑の浮腫や網膜下液・出血は視細胞の配列を乱すため、視力が大きく落ちる前から物がゆがんで見える変視症を自覚することが多く、Amslerチャートで簡便に検出できます。羞明は角膜・ぶどう膜・水晶体、夜盲は杆体障害、弓状暗点は緑内障、マリオット盲点の拡大は視神経乳頭腫脹を示す症状であり、症状と病変部位を対応させて考えることが鑑別の基本です。滲出型では抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択で、進行が速いため早期発見と禁煙などの危険因子対策が重要です。症状から病変部位を推定する視点は、眼科に限らず神経学的診察にも通じる大切な考え方です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・83歳の男性:加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)の好発年齢であり、日本では男性に多い。 ・3年前に白内障手術を受け、両眼に眼内レンズが入っている:水晶体の混濁(白内障)は現在の視力低下の原因ではない。 ・6か月前から左眼の「見え方の違和感」、1か月前から視力低下が進行:はじめは視力そのものより見え方の質(ゆがみなど)の異常を自覚し、その後に視力が落ちてきたという経過で、黄斑部の病変が徐々に進行したことを示唆する。 ・左視力0.6(矯正不能):レンズで矯正できない視力低下であり、屈折異常ではなく網膜(特に黄斑)や視神経の異常を考える。 ・眼圧は左右とも14 mmHgで正常:緑内障を積極的に疑う所見はない。 ・眼底写真:右眼(A)は黄斑部の下方に小さな白色斑を認めるが、黄斑の中心に大きな異常はない。左眼(B)は黄斑部に出血と浮腫(網膜の腫れ・隆起)を認める。
診断
高齢者の片眼の矯正不能な視力低下で、黄斑部に出血と浮腫を伴うことから、脈絡膜新生血管による滲出型(新生血管型)加齢黄斑変性と考えられる。
設問への考え方
「6か月前からの見え方の違和感」が具体的にどのような症状だったかを推定させる問題である。黄斑部に浮腫や網膜下の液体・出血が生じると、視細胞の並びが乱れ、物がゆがんで見える(変視症)。黄斑疾患の初期症状として最も代表的なのが変視症であり、視力低下や中心暗点はそれに続いて現れることが多い。他の選択肢は、それぞれ別の部位・疾患の症状である。
選択肢考察
- ×a. 羞明
羞明は光を異常にまぶしく感じる症状で、角膜炎、虹彩炎(ぶどう膜炎)、白内障、瞳孔散大などで起こる。白内障手術の直後には眼内に入る光が急に増えてまぶしさを感じることがあるが、手術は3年前であり、6か月前からの症状とは時期が合わない。黄斑部の出血・浮腫で典型的にみられる症状でもない。
- ×b. 夜盲
夜盲は暗い所で見えにくくなる症状で、暗所視を担う杆体の障害を反映する。網膜色素変性やビタミンA欠乏症、小口病などが代表的である。本例は網膜の中心部(黄斑)の病変で、錐体が密集する部位の障害であり、杆体が主に分布する周辺網膜は保たれているため、夜盲は起こりにくい。
- ○c. 変視症
変視症は物がゆがんで見える症状(直線が曲がって見える、物の形がいびつに見えるなど)である。黄斑部に浮腫、網膜下の液体や出血、網膜色素上皮の隆起が起こると、視細胞の配列が乱れて像がゆがむ。滲出型加齢黄斑変性では、視力が大きく落ちる前から変視症を自覚することが多く、本例の「6か月前からの見え方の違和感」はこれにあたると推定できる。Amslerチャート(方眼紙状の検査表)で簡便に確認でき、自己チェックにも用いられる。
- ×d. 弓状暗点
弓状暗点(Bjerrum暗点)は、視神経乳頭から弓状に走る網膜神経線維束が障害されたときに生じる視野欠損で、緑内障の初期〜中期に特徴的である。本例は眼圧が正常で、所見の主体は黄斑部の出血・浮腫であるため、該当しない。黄斑疾患でみられる視野異常は中心暗点である。
- ×e. マリオット盲点の拡大
マリオット(Mariotte)盲点は視神経乳頭に対応する生理的な暗点である。その拡大は、うっ血乳頭などの視神経乳頭腫脹や乳頭周囲の網脈絡膜病変で生じる。本例の病変は視神経乳頭ではなく黄斑部にあり、該当しない。
加齢黄斑変性(AMD)の概要
加齢に伴って黄斑部の網膜色素上皮やBruch膜(網膜色素上皮と脈絡膜の間の膜)が変化し、中心視力が障害される疾患である。欧米では成人の失明原因の上位を占め、日本でも主要な視覚障害の原因の一つである。危険因子として加齢、喫煙(最大の修正可能な危険因子)、遺伝素因、高血圧、食生活などが挙げられる。前駆病変として、網膜色素上皮下に黄白色の沈着物(ドルーゼン)がみられることがある。
病型
・滲出型(新生血管型):脈絡膜から新生血管が網膜色素上皮下や網膜下に伸び、出血、滲出、浮腫、網膜色素上皮剝離を起こす。進行が速く、視力低下が急に進むことがある。日本人ではポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の頻度が高い。 ・萎縮型:網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管が徐々に萎縮する。進行は緩やか。
症状
変視症、中心暗点、視力低下(矯正不能)、色覚の低下など。周辺視野は保たれる。
検査
・Amslerチャート:変視症・中心暗点の検出。 ・光干渉断層計(OCT):網膜の断面を観察し、網膜下液、網膜浮腫、網膜色素上皮剝離を評価。 ・フルオレセイン蛍光眼底造影、インドシアニングリーン蛍光眼底造影:脈絡膜新生血管やポリープ状病巣の検出。OCTアンギオグラフィも用いられる。
治療(滲出型)
・抗VEGF薬(ラニビズマブ、アフリベルセプト、ブロルシズマブ、ファリシマブなど)の硝子体内注射が第一選択である。 ・光線力学的療法(PDT):特にポリープ状脈絡膜血管症で併用されることがある。 ・予防的に禁煙を指導し、ドルーゼンが多い例では抗酸化ビタミン・亜鉛などのサプリメント(AREDS処方)が勧められることがある。 萎縮型には確立された治療が乏しいが、海外では補体阻害薬が承認されている。
視野異常と病変部位の対応
・中心暗点・変視症:黄斑疾患、視神経炎(中心暗点)。 ・弓状暗点・鼻側階段:緑内障。 ・マリオット盲点拡大:うっ血乳頭など視神経乳頭腫脹。 ・輪状暗点・求心性視野狭窄:網膜色素変性。
POINT
・高齢者の片眼の矯正不能な視力低下+黄斑部の出血・浮腫→滲出型加齢黄斑変性。 ・黄斑疾患の初期症状は変視症(物がゆがんで見える)で、Amslerチャートで検出できる。続いて中心暗点・視力低下が現れる。 ・夜盲は杆体障害(網膜色素変性)、弓状暗点は緑内障、マリオット盲点拡大はうっ血乳頭。 ・滲出型AMDの第一選択治療は抗VEGF薬の硝子体内注射。
