「伝染性」の名にだまされない―とびひだけが細菌感染症である理由
第102回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
ウイルスが原因でないのはどれか。
- a.帯状疱疹
- b.伝染性紅斑
- c.伝染性膿痂疹
- d.伝染性軟属腫
- e.尖圭コンジローマ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
皮膚に症状を出す感染症は病名が似ていても病原体が異なり、伝染性紅斑はヒトパルボウイルスB19、伝染性軟属腫はポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルス、帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化、尖圭コンジローマはHPV 6型・11型によるウイルス感染症です。一方、伝染性膿痂疹(とびひ)は細菌感染症で、水疱性は黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素がデスモグレイン1を切断して浅い水疱をつくり、痂皮性は主にA群β溶血性レンサ球菌により厚い痂皮を形成します。水疱性ではMRSAやブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、痂皮性では急性糸球体腎炎の続発に注意が必要です。「伝染性」という名前に惑わされず、疾患と病原体、さらに病態や合併症を結びつけて覚えることが、適切な治療選択や家族・学校への指導につながります。
解答・解説
正解はcです
皮膚に症状が出る感染症の原因微生物を問う問題である。病名に「伝染性」と付く疾患が3つ並んでいるが、原因はそれぞれ異なる。伝染性紅斑はウイルス、伝染性軟属腫もウイルスであるのに対し、伝染性膿痂疹(とびひ)は細菌感染症である。病名の響きにまどわされず、疾患ごとに病原体を正確に対応させておく必要がある。 「ウイルスが原因でないのはどれか」という否定形の問いなので、細菌感染症である伝染性膿痂疹を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 帯状疱疹
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV、ヒトヘルペスウイルス3型)によって起こる。初感染(多くは小児期)で水痘を起こした後、ウイルスは知覚神経節(後根神経節や脳神経節)に潜伏する。加齢・ストレス・免疫低下などをきっかけに再活性化すると、一つの神経の支配領域(皮膚分節)に沿って、痛みを伴う紅斑と小水疱が片側性に帯状に並んで出現する。治療には抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)を用いる。合併症として帯状疱疹後神経痛やRamsay Hunt症候群(顔面神経麻痺・耳介の水疱・難聴やめまい)が重要である。ウイルスが原因である。
- ×b. 伝染性紅斑
伝染性紅斑(りんご病)は、ヒトパルボウイルスB19によって起こる。幼児〜学童に多く、両頬に平手で打ったような鮮やかな紅斑が出た後、四肢に網目状(レース状)の紅斑が広がる。発疹が出る頃にはウイルス血症の時期が過ぎているので、他の人への感染力はほとんどない。成人では関節痛・関節炎が目立つことがある。このウイルスは赤芽球系の前駆細胞に感染して造血を一時的に止めるため、遺伝性球状赤血球症などの溶血性貧血の患者では無形成発作(aplastic crisis)を起こす。妊婦が感染すると、胎児貧血や胎児水腫の原因となる。ウイルスが原因である。
- ○c. 伝染性膿痂疹
伝染性膿痂疹(とびひ)はウイルスではなく細菌による皮膚の浅い感染症である。二つの病型がある。 水疱性膿痂疹:主に黄色ブドウ球菌による。菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin)が、デスモソームの接着分子であるデスモグレイン1を切断する。その結果、表皮の浅い層(顆粒層付近)で細胞同士が離れ、破れやすい弛緩性の水疱やびらんができる。乳幼児に多く、夏に流行しやすい。 痂皮性膿痂疹:主にA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)による。厚い黄褐色の痂皮(かさぶた)を形成し、発熱やリンパ節腫脹を伴うことがある。年齢や季節を問わず発生し、アトピー性皮膚炎に続発することも多い。まれに急性糸球体腎炎を続発する。 治療には抗菌薬(外用・内服)を用いる。水疱性膿痂疹ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の関与にも注意する。
- ×d. 伝染性軟属腫
伝染性軟属腫(みずいぼ)は、ポックスウイルス科に属する伝染性軟属腫ウイルスによって起こる。小児の体幹・四肢などに、中心がくぼんだ(中心臍窩)光沢のある常色〜淡紅色の小丘疹が多発する。丘疹を圧迫すると、ウイルスを含む白色の粥状物質(軟属腫小体)が出てくる。皮膚どうしの接触や、タオル・ビート板などを介して感染し、アトピー性皮膚炎などでバリア機能が低下した皮膚では広がりやすい。多くは数か月〜数年で自然に治るが、ピンセットで摘除することもある。ウイルスが原因である。
- ×e. 尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)の主に6型・11型(低リスク型)によって起こる性感染症である。外陰部・肛門周囲などに、乳頭状〜鶏冠(とさか)状のいぼが多発する。治療にはイミキモド外用、凍結療法、電気焼灼、切除などがある。HPVワクチン(4価・9価)には6型・11型が含まれており、予防効果がある。なお、子宮頸癌などの原因となるのは16型・18型などの高リスク型である。ウイルスが原因である。
皮膚症状を起こす主なウイルスと疾患
ヘルペスウイルス科 ・単純ヘルペスウイルス(HSV-1、HSV-2):口唇ヘルペス、性器ヘルペス、Kaposi水痘様発疹症(アトピー性皮膚炎などにHSVが広がって感染したもの) ・水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV):水痘、帯状疱疹 ・EBウイルス:伝染性単核球症 ・ヒトヘルペスウイルス6型・7型:突発性発疹 ・ヒトヘルペスウイルス8型:Kaposi肉腫 パピローマウイルス科(HPV。かつてはパポバウイルス科に分類されていた) ・尋常性疣贅、青年性扁平疣贅、尖圭コンジローマ、ボーエン様丘疹症 ポックスウイルス科 ・伝染性軟属腫、エムポックス(サル痘) ピコルナウイルス科 ・手足口病、ヘルパンギーナ(コクサッキーウイルス、エンテロウイルス71など) パラミクソウイルス科 ・麻疹 マトナウイルス科(風疹ウイルスは、かつてはトガウイルス科に分類されていた) ・風疹 パルボウイルス科 ・伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19)
皮膚の主な細菌感染症
・伝染性膿痂疹:黄色ブドウ球菌、A群β溶血性レンサ球菌 ・ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS):黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素が血流に乗って全身に作用し、広い範囲で表皮がはがれる。主に乳幼児にみられる ・毛包炎・癤(せつ)・癰(よう):主に黄色ブドウ球菌 ・丹毒:主にA群β溶血性レンサ球菌(真皮浅層の感染) ・蜂窩織炎:黄色ブドウ球菌、レンサ球菌(真皮深層〜皮下脂肪組織の感染)
POINT
・伝染性膿痂疹は細菌感染症。水疱性は黄色ブドウ球菌(表皮剥脱毒素がデスモグレイン1を切断)、痂皮性は主にA群β溶血性レンサ球菌 ・伝染性紅斑=ヒトパルボウイルスB19、伝染性軟属腫=ポックスウイルス(伝染性軟属腫ウイルス) ・帯状疱疹=VZVの再活性化、尖圭コンジローマ=HPV 6型・11型 ・「伝染性」という名前が付いていても病原体は疾患ごとに異なる
