StudyMed医師国家試験

頰に広がる青いあざ―太田母斑はなぜ「光で消す」のか

第101回医師国家試験 H問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第101回 H問題 第49問

48歳の女性。顔面の色素斑を主訴に来院した。幼少期から右頰部に色素斑があり,思春期から色調が濃くなってきた。色素斑の写真を別に示す。 処置として適切なのはどれか。

第101回 H問題 第49問の問題画像
  1. a.レーザー照射
  2. b.外科的切除
  3. c.赤外線照射
  4. d.PUVA療法
  5. e.遮光

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔面の色素斑から疾患を見抜き、適切な治療を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、色素斑の「分布」「色調」「出現した時期」の3つ。写真では、右の前額から眼瞼の周り、頰にかけて、境界のはっきりしない青色〜褐色調の色素斑が片側だけに広がっている。この分布から何を連想するかな。
医学生医学生
前額から眼の周り、頰というと、三叉神経の第1枝と第2枝の領域に一致していますね。幼少期からあって思春期に濃くなったというのも気になります。
ドクタードクター
その2点がまさに鍵だ。三叉神経第1・2枝領域に片側性に分布する青褐色斑で、乳幼児期から存在し思春期に増強する、これは太田母斑の典型像なんだ。
医学生医学生
皮膚科の講義で習いました。でも「母斑」というと茶色いほくろのイメージがあって、どうして青く見えるのかがよくわかっていません。
ドクタードクター
いい疑問だね。太田母斑は、本来は表皮の基底層にいるはずのメラノサイトが真皮に存在する「真皮メラノサイトーシス」の一つなんだ。メラニンが皮膚の深い位置にあると、光の散乱の関係で青みがかって見える。蒙古斑が青いのと同じ理屈だよ。
医学生医学生
なるほど、色の違いは色素の深さの違いなんですね。そうすると、顔の色素斑として肝斑と迷うことはありませんか。
ドクタードクター
肝斑は中年女性の両頰に左右対称に出る淡褐色斑で、表皮のメラニンが増えたものだから色は茶色。今回のように片側性で青みを帯び、幼少期からある点で区別できる。成人になってから両頰に対称性に出る灰褐色の小斑なら後天性真皮メラノサイトーシス、出生時からの境界明瞭で均一な茶褐色斑なら扁平母斑を考える。
医学生医学生
では治療です。真皮にある色素なので塗り薬は届かなそうですし、レーザー照射が正解でしょうか。
ドクタードクター
その通り。太田母斑は自然に消えることはなく、治療の目的は整容面の改善だ。第一選択はQスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAGなど)の繰り返し照射。メラニンによく吸収される波長の光をごく短いパルスで当てることで、周囲への熱の広がりを抑えながら真皮のメラニンと色素を含む細胞を選択的に壊す。これを選択的光熱融解という。壊れた色素はマクロファージに処理されて徐々に薄くなっていくんだ。
医学生医学生
1回で消えるわけではないんですね。
ドクタードクター
そう、数か月おきに複数回照射するのが一般的だ。瘢痕をほとんど残さずに色調を大きく改善でき、保険適用もある。では外科的切除はどうだろう。
医学生医学生
確実に取れそうですが、顔のこれだけ広い範囲を切ったら傷が大きくなりますよね。
ドクタードクター
その通り。広範囲の欠損には植皮などが必要になり、目立つ瘢痕や色・質感の違いが残る。整容目的の治療としてはレーザーに大きく劣るので、現在は選ばれない。赤外線照射はどうかな。
医学生医学生
温熱で血流を良くする物理療法だったと思います。色素を壊す作用はなさそうです。
ドクタードクター
正しい。赤外線照射は温熱による血流改善や疼痛緩和が目的で、メラニンを除去する働きはない。次にPUVA療法だ。
医学生医学生
ソラレンを使ってUVAを当てる治療で、乾癬や白斑に使うと習いました。白斑に効くということは、むしろ色素を増やす方向ですか。
ドクタードクター
鋭いね。PUVAはメラニン産生を促す方向に働くから、色素斑に使えば逆効果だ。最後に遮光はどうだろう。
医学生医学生
しみ対策には日焼け止めというイメージがありますが、真皮にメラノサイトがあること自体が原因なら、遮光しても減らないですね。
ドクタードクター
その理解で合っている。遮光が重要なのは、肝斑や雀卵斑のように紫外線で悪化する表皮性の色素斑なんだ。逆に肝斑に強いレーザーを当てると悪化することがあるから、色素斑ごとに治療が正反対になりうる点は臨床で大事だよ。
医学生医学生
色素が表皮にあるか真皮にあるかで、治療の考え方がまったく変わるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展知識も押さえておこう。太田母斑は日本人を含む東アジア人や女性に多く、発症は乳児期と思春期の二峰性をとる。強膜が青く見える眼球メラノーシスや、口蓋・鼻粘膜・鼓膜の色素沈着を伴うことがある。悪性化はきわめてまれだけれど、眼球メラノーシスを伴う例では緑内障や眼の悪性黒色腫に注意して、眼科での経過観察を勧めたい。
医学生医学生
臨床実習で皮膚科を回ったとき、仙骨部以外の異所性蒙古斑の子にレーザーをしているのを見学しました。あれも同じ真皮メラノサイトーシスですね。
ドクタードクター
その通り。仙骨部の蒙古斑は多くが学童期までに自然に消えるけれど、異所性のものは残ることがあってレーザーの対象になる。青色母斑も真皮メラノサイトが集まった青黒色の小結節で、同じグループだ。「青いあざ=真皮のメラノサイト」とまとめて覚えておくと整理しやすいよ。

まとめ

顔面片側の三叉神経第1・2枝領域に分布する青色〜褐色の色素斑で、幼少期から存在し思春期に増強する場合は太田母斑を考えます。太田母斑は真皮にメラノサイトが存在する真皮メラノサイトーシスであり、自然消退しないため、真皮のメラニンを選択的に破壊するQスイッチレーザーの反復照射が治療の第一選択です。外科的切除は瘢痕を残し、赤外線照射には色素除去作用がなく、PUVA療法はむしろ色素沈着を促し、遮光は肝斑や雀卵斑など表皮性色素斑の対策であるため、いずれも適切ではありません。眼球メラノーシスを伴う例では緑内障などに注意した眼科的フォローも必要です。色素の存在する深さによって色調も治療法も変わるという視点は、蒙古斑や青色母斑、肝斑など色素性疾患全般の理解につながります。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・48歳女性、顔面の色素斑が主訴。 ・右頰部の色素斑で、片側性である。 ・幼少期から存在し、思春期に色調が濃くなった。 ・写真では、右の三叉神経第1枝・第2枝の支配領域(前額〜眼瞼周囲〜頰部)に一致して、境界が比較的不明瞭な青色〜褐色調の色素斑が広がっている。

診断へのプロセス

顔面片側の三叉神経領域に分布する青褐色の色素斑で、乳幼児期から存在し思春期に増強した、という経過は太田母斑に典型的である。太田母斑は真皮にメラニンを産生するメラノサイトが存在する病変(真皮メラノサイトーシス)であり、真皮深くのメラニンは光の散乱により青みがかって見える。 鑑別としては、肝斑(中年女性の両頰に左右対称に出る淡褐色斑)、後天性真皮メラノサイトーシス(成人以降に両頰などに対称性に出る灰褐色の小斑)、扁平母斑(出生時からの境界明瞭な均一な茶褐色斑)などがあるが、片側性・三叉神経領域・青色調・幼少期発症という点で区別できる。

設問への考え方

太田母斑は自然に消えることはなく、治療の目的は整容面の改善である。真皮内のメラニンを選択的に破壊できるQスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAGなど)の繰り返し照射が第一選択であり、高い効果が得られ、保険適用もある。

選択肢考察

  1. ○a.  レーザー照射

    Qスイッチレーザーは、メラニンによく吸収される波長の光をごく短いパルスで照射し、周囲の組織への熱の広がりを抑えながら真皮内のメラニン色素とそれを含む細胞を選択的に破壊する(選択的光熱融解)。破壊された色素はマクロファージに処理されて徐々に消えていく。数か月ごとに複数回照射することで、瘢痕をほとんど残さず色調を大きく改善でき、太田母斑の治療の第一選択である。

  2. ×b.  外科的切除

    太田母斑は顔面の広い範囲に広がることが多く、切除すれば大きな欠損が生じ、植皮などが必要になって目立つ瘢痕や色調・質感の違いを残す。整容目的の治療として結果が劣るため、レーザー治療が確立した現在では選択されない。

  3. ×c.  赤外線照射

    赤外線照射は主に温熱効果による血流改善や疼痛の緩和を目的とする物理療法であり、真皮内のメラニンやメラノサイトを除去する作用はない。太田母斑の治療にはならない。

  4. ×d.  PUVA療法

    PUVA療法は光感受性物質ソラレン(psoralen)を投与・外用したのちに長波長紫外線(UVA)を照射する治療で、尋常性乾癬、尋常性白斑、菌状息肉症、掌蹠膿疱症などに用いられる。白斑に用いられることからわかるように、むしろメラニン産生を促し色素沈着を増やす方向に働くため、色素斑の治療としては逆効果である。

  5. ×e.  遮光

    遮光は紫外線で悪化する表皮性の色素斑(肝斑、雀卵斑など)や光線過敏症の対策としては重要である。しかし太田母斑は真皮にメラノサイトが存在すること自体が原因であり、遮光によってこれらが減ることはないため、治療としての効果は期待できない。

太田母斑の特徴

・真皮メラノサイトーシスの一つで、日本人を含む東アジア人に多く、女性に多い。 ・発症時期は乳児期と思春期の二峰性を示し、思春期に色調が濃くなることもある。 ・通常は片側性(まれに両側性)で、三叉神経第1・2枝領域(前額、眼瞼、頰、鼻、こめかみ)に分布する青色〜褐色の色素斑。褐色の小点が混じることがある。 ・眼球メラノーシス(強膜の青色斑)や、口蓋・鼻粘膜・鼓膜の色素沈着を伴うことがある。 ・自然消退しない。悪性化はきわめてまれだが、眼球メラノーシスを伴う例では緑内障や眼の悪性黒色腫に注意して眼科的な経過観察を行う。 ・治療はQスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG)の反復照射。

真皮メラノサイトーシスの比較

・蒙古斑:出生時から主に仙骨部・腰臀部にみられる青色斑。多くは学童期までに自然消退する。仙骨部以外にできる異所性蒙古斑は残ることがありレーザーの対象になる。 ・青色母斑:真皮メラノサイトが集まってできる青黒色の小結節。 ・後天性真皮メラノサイトーシス:成人以降に両頰・額などに対称性に出る灰褐色の小斑。レーザーが有効。

顔面の色素斑の鑑別

・肝斑:中年女性の両頰に左右対称の淡褐色斑。紫外線や女性ホルモンで悪化。遮光、トラネキサム酸内服などが中心で、強いレーザー照射は悪化させることがある。 ・雀卵斑(そばかす):幼少期から出る小さな褐色斑。遮光が重要。 ・老人性色素斑:中高年の日光露光部の褐色斑。

POINT

・顔面片側の三叉神経第1・2枝領域の青褐色斑、乳幼児期または思春期に出現・増強 → 太田母斑。 ・太田母斑は真皮メラノサイトーシスであり、自然消退しない。 ・治療の第一選択はQスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAG)の反復照射。 ・外科的切除は瘢痕を残すため行わない。遮光は表皮性色素斑(肝斑・雀卵斑)の対策であり、太田母斑には無効。 ・PUVA療法は色素沈着を促すため、色素斑の治療にはならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。