まぶたの裏の「石垣」を見逃すな―かゆみと敷石状乳頭が示す春季カタル
第101回医師国家試験 G問題 第55問
国試問題にチャレンジ
13歳の男子。両眼の強い瘙痒と異物感とを主訴に来院した。視力は右0.7(矯正不能),左0.8(矯正不能)。右上眼瞼を翻転した写真を別に示す。左眼も同様の所見である。 診断はどれか。

- a.花粉症
- b.結膜結石
- c.春季カタル
- d.流行性角結膜炎
- e.クラミジア結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
強い瘙痒はアレルギー性結膜疾患を示す最も特徴的な症状であり、学童期の男児で上眼瞼結膜に巨大な乳頭が石垣状に増殖していれば、増殖性変化を伴う重症型である春季カタルと診断できます。春季カタルはアトピー素因を伴うことが多く、点状表層角膜症やシールド潰瘍といった角膜合併症によって異物感や視力低下をきたしうる点が重要です。結膜の隆起は、中心に血管をもつ乳頭ならアレルギー、血管のない濾胞ならアデノウイルスによる流行性角結膜炎やクラミジア結膜炎を示唆し、花粉症では巨大乳頭はみられません。治療は抗アレルギー点眼薬と免疫抑制点眼薬が中心で、重症例のステロイド点眼では眼圧上昇に注意します。症状の性質と結膜所見の形態を組み合わせて読む力は、日常診療で頻繁に出会う結膜炎の鑑別の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・13歳の男子(学童期〜思春期の男性)。 ・両眼性で、強い瘙痒(かゆみ)と異物感がある。 ・視力は右0.7、左0.8で、いずれも眼鏡で矯正できない。屈折異常では説明できない軽度の視力低下であり、角膜に何らかの病変が及んでいる可能性を考える。 ・右上眼瞼を翻転した写真では、上眼瞼結膜に扁平で大小不揃いの隆起が敷石を敷き詰めたように密に並ぶ、石垣状(敷石状)乳頭増殖を認める。左眼も同様である。
診断へのプロセス
強い瘙痒はアレルギー性結膜疾患を示す最も特徴的な症状である。細菌性・ウイルス性結膜炎では、かゆみよりも眼脂、充血、流涙、眼痛が前景に立つ。 次に眼瞼結膜の隆起の性状をみる。結膜の隆起には「乳頭」と「濾胞」がある。乳頭は中心に血管をもつ上皮と結合組織の増殖で、アレルギー性結膜疾患などでみられる。濾胞はリンパ球が集まってできる半球状で透明感のある隆起で、中心に血管がなく、アデノウイルスやクラミジアによる結膜炎でみられる。本例では上眼瞼結膜に巨大な乳頭が石垣状に増殖しており、これはアレルギー性結膜疾患の中でも重症型である春季カタルの典型所見である。 春季カタルは学童期の男児に好発し、アトピー性皮膚炎などのアトピー素因を伴うことが多い。巨大乳頭の機械的刺激や好酸球由来の組織傷害物質により角膜上皮が障害されると、点状表層角膜症や、上方角膜の楕円形の潰瘍(シールド潰瘍)を生じ、異物感や視力低下の原因となる。本例の異物感と矯正不能の軽度視力低下も、角膜病変の合併で説明できる。 以上から、年齢・性別、両眼性の強い瘙痒、上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖を満たす春季カタルと診断する。
選択肢考察
- ×a. 花粉症
花粉症による結膜炎は季節性アレルギー性結膜炎であり、瘙痒・充血・流涙・眼瞼腫脹を起こすが、眼瞼結膜に増殖性変化は生じない。乳頭増殖があっても細かく軽度であり、本例のような巨大な石垣状乳頭増殖はみられない。花粉飛散の季節に一致し、くしゃみ・鼻汁などの鼻症状を伴うことが多い。
- ×b. 結膜結石
結膜結石は、眼瞼結膜の上皮下に変性した上皮細胞や分泌物が沈着したもので、結膜内に黄白色〜白色の小さな点状の硬い沈着物としてみられる。高齢者や慢性結膜炎の患者に多い。結膜表面に突出すると異物感の原因となるが、強い瘙痒は起こさず、石垣状の乳頭増殖もない。
- ○c. 春季カタル
春季カタルは結膜に増殖性変化を伴うアレルギー性結膜疾患の重症型で、学童期の男児に好発し、アトピー素因を伴うことが多い。上眼瞼結膜の巨大乳頭による石垣状乳頭増殖(眼瞼型)や、角膜輪部の堤防状の隆起・Horner-Trantas斑(輪部型)が特徴である。強い瘙痒と、角膜上皮障害(点状表層角膜症、シールド潰瘍)による異物感・眼痛・視力低下をきたす。本例の年齢・性別、両眼性の強い瘙痒、翻転した上眼瞼結膜の所見はいずれもこれに合致する。
- ×d. 流行性角結膜炎
流行性角結膜炎はアデノウイルス(主に8・19・37型など)による感染性結膜炎で、感染力が強い。約1週間の潜伏期の後に、充血、流涙、漿液性〜粘液性の眼脂、眼瞼腫脹、耳前リンパ節の腫脹・圧痛を呈し、結膜には濾胞形成がみられる。発症後しばらくして角膜に多発性の上皮下浸潤を生じることがある。巨大乳頭による石垣状増殖はみられず、主症状もかゆみではない。
- ×e. クラミジア結膜炎
クラミジア結膜炎(封入体結膜炎)はChlamydia trachomatisによる感染症で、成人では性行為感染を背景とすることが多い。粘液膿性の眼脂と、下眼瞼結膜を中心とした大型の濾胞形成が特徴で、濾胞が癒合して堤防状に並ぶこともある。耳前リンパ節腫脹を伴い、慢性に経過しやすい。所見の主体は濾胞であり、乳頭の石垣状増殖ではない。
アレルギー性結膜疾患の分類
・増殖性変化を伴わないもの 季節性アレルギー性結膜炎(花粉症など) 通年性アレルギー性結膜炎(ハウスダスト、ダニなど) ・アトピー性皮膚炎に合併するもの: アトピー性角結膜炎 ・増殖性変化を伴うもの: 春季カタル ・異物の機械的刺激によるもの: 巨大乳頭結膜炎(コンタクトレンズ、義眼、手術縫合糸などが原因で上眼瞼結膜に乳頭が生じる)
春季カタルの要点
・好発: 学童期〜思春期の男児。アトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアトピー素因を伴うことが多い。春から夏に増悪することが多いが、通年性に症状が続く例もある。多くは思春期以降に軽快する。 ・病態: I型アレルギーに加え、Th2リンパ球や好酸球が関与する慢性炎症。 ・病型: 眼瞼型(上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖)、輪部型(角膜輪部のゼラチン様隆起、Horner-Trantas斑と呼ばれる白色点状の好酸球集簇)、両者の混合型。 ・角膜合併症: 点状表層角膜症、シールド潰瘍(上方角膜の楕円形の無菌性潰瘍)、角膜プラーク。視力低下の原因となる。 ・検査: 結膜擦過物中の好酸球の検出、涙液中総IgEの測定などが補助診断に用いられる。 ・治療: 抗アレルギー点眼薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬、メディエーター遊離抑制薬)に加え、免疫抑制点眼薬(シクロスポリン、タクロリムス)が中心となる。重症例ではステロイド点眼薬を併用する(眼圧上昇によるステロイド緑内障に注意)。巨大乳頭の切除や、シールド潰瘍に対する角膜プラークの除去を行うこともある。
乳頭と濾胞の違い
・乳頭: 中心に血管があり、上皮と結合組織が増殖したもの。アレルギー性結膜疾患、細菌性結膜炎、コンタクトレンズによる刺激などでみられる。巨大化して石垣状になるのは春季カタル、巨大乳頭結膜炎。 ・濾胞: リンパ濾胞で、中心に血管がなく、周囲から血管が取り囲む半球状の隆起。アデノウイルス結膜炎、クラミジア結膜炎、トラコーマ、薬剤性などでみられる。
POINT
・強い瘙痒 → アレルギー性結膜疾患を考える ・学童期男児+上眼瞼結膜の石垣状(敷石状)乳頭増殖 → 春季カタル ・春季カタルは角膜合併症(点状表層角膜症、シールド潰瘍)で視力低下をきたしうる ・乳頭はアレルギー、濾胞はウイルス(アデノウイルス)・クラミジアを示唆する ・治療は抗アレルギー点眼薬+免疫抑制点眼薬(シクロスポリン、タクロリムス)、重症例でステロイド点眼
