肺に「穴」があくとき―空洞は組織が壊れた証拠
第101回医師国家試験 F問題 第75問
国試問題にチャレンジ
肺に空洞を形成しやすいのはどれか。2つ選べ。
- a.肺膿瘍
- b.肺結核
- c.肺炎球菌肺炎
- d.過敏性肺炎
- e.マイコプラズマ肺炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肺の空洞は、病変内部の組織が壊死し、その壊死物質が気管支から排出されたあとに空気が満たされた腔として生じます。そのため、膿を形成する肺膿瘍(嫌気性菌、黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌など)や、乾酪壊死を伴う肺結核は空洞を形成しやすく、前者は液面を伴う空洞、後者は上葉S1・S2やS6の厚壁空洞が典型です。一方、肺胞腔内の滲出が主体の肺炎球菌肺炎、気管支・細気管支の炎症が主体のマイコプラズマ肺炎、アレルギー性間質性肺炎である過敏性肺炎は、肺の骨組みが保たれるため通常は空洞をつくりません。空洞性病変ではほかに非結核性抗酸菌症、真菌症、多発血管炎性肉芽腫症、肺扁平上皮癌、敗血症性肺塞栓なども鑑別となり、壁の厚さ・液面・部位・数が手がかりになります。「空洞=組織壊死」という原理で理解しておくと、暗記に頼らず画像の鑑別や結核の感染対策にまで応用できます。
解答・解説
正解はa, bです
胸部画像でいう空洞とは、肺の中にできた病変の内部が壊れて抜け落ち(壊死物質が気管支から排出され)、空気で満たされた腔として見える状態をいう。空洞ができるためには、肺組織そのものが壊死に陥ることが必要である。 肺に空洞をつくる病態は、大きく次のように整理できる。 (1)化膿性の組織壊死:肺膿瘍、黄色ブドウ球菌・肺炎桿菌(クレブシエラ)などによる壊死性肺炎、敗血症性肺塞栓 (2)壊死を伴う肉芽腫:肺結核(乾酪壊死)、非結核性抗酸菌症、肺真菌症(アスペルギルス、クリプトコックスなど)、多発血管炎性肉芽腫症 (3)腫瘍の壊死:肺癌(特に扁平上皮癌)、転移性肺腫瘍 (4)その他:肺梗塞、じん肺の進行性塊状線維化巣など 一方、肺胞内の滲出が主体で組織の骨組みが保たれる肺炎(肺炎球菌肺炎、マイコプラズマ肺炎)や、間質の炎症が主体の過敏性肺炎は、治癒すると構造がほぼ元に戻り、空洞は通常つくらない。 したがって、選択肢のうち空洞を形成しやすいのは、組織破壊を起こす肺膿瘍と、乾酪壊死を起こす肺結核の2つである。
選択肢考察
- ○a. 肺膿瘍
肺膿瘍(肺化膿症)は、細菌感染によって肺実質が壊死して膿がたまった状態である。原因菌は口腔内の嫌気性菌(Peptostreptococcus、Prevotella、Fusobacteriumなど)が最も多く、そのほか組織破壊性の強い黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌(クレブシエラ)なども原因となる。誤嚥(アルコール多飲、意識障害、嚥下障害、不良な口腔衛生などが危険因子)による肺炎のほか、肺癌による気管支閉塞の先にできることもある。壊死した膿が気管支を通って排出されると、胸部画像で内部に液面(鏡面像:air-fluid level)を伴う空洞として見えるのが典型である。
- ○b. 肺結核
結核菌の感染に対して、肺には中心部に乾酪壊死(チーズ様の壊死)を伴う類上皮細胞肉芽腫ができる。この乾酪壊死物質が軟化して気管支から排出されると空洞が生じる。成人の二次結核(再燃結核)では、酸素分圧が高く結核菌が増殖しやすい肺尖部〜上葉背側(S1、S2)やS6に、壁の厚い空洞を伴う病変ができやすい。空洞内では菌が大量に増殖するため、空洞をもつ患者は排菌量が多く感染源として重要である。周囲に散布性の小結節影を伴うことも特徴である。
- ×c. 肺炎球菌肺炎
肺炎球菌肺炎は市中肺炎の原因として最も多く、肺胞内に滲出液が充満して区域・肺葉単位に広がる大葉性肺炎の像をとりやすい。炎症の場は主に肺胞腔内であり、肺胞壁などの骨組みは壊されにくいため、治癒すると肺の構造はほぼ元通りになり、空洞をつくることはまれである。これに対し、同じ細菌性肺炎でも黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌による肺炎は組織を壊死させやすく、空洞(ブドウ球菌では薄壁の嚢胞状の気瘤:pneumatocele)を形成することがある点と区別する。
- ×d. 過敏性肺炎
過敏性肺炎は、カビ(夏型過敏性肺炎のトリコスポロンなど)、鳥の羽毛・糞、農作業で扱う有機物の粉じんなどを繰り返し吸入することで起こるアレルギー性の間質性肺炎である。III型およびIV型アレルギーが関与し、病理では細気管支周囲の炎症と小さな非乾酪性肉芽腫がみられる。画像では両肺びまん性のすりガラス影や小葉中心性の粒状影を示すが、組織が壊死する病態ではないため空洞は通常形成しない。慢性化すると線維化や蜂巣肺を呈することはあるが、これは空洞とは異なる。
- ×e. マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、細胞壁をもたない微生物Mycoplasma pneumoniaeによる肺炎で、学童〜若年成人に多い。気管支・細気管支の上皮に感染して気管支炎・細気管支炎を起こすため、痰の少ない頑固な乾いた咳が特徴であり、画像では気管支壁の肥厚や気管支に沿った小葉中心性の粒状影・すりガラス影がみられる。一般に予後は良好で、治癒後に肺の構造をほとんど損なわず、空洞は形成しない。細胞壁がないためβラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系などを用いる。
空洞性病変の鑑別の手がかり
・壁の厚さ:壁が厚く内面が不整な空洞は肺癌(扁平上皮癌)や肺膿瘍、結核の急性期を、壁が薄く平滑な空洞は治癒過程の結核や嚢胞性病変を考える。 ・液面形成(air-fluid level):肺膿瘍で典型的。 ・部位:上葉S1・S2、S6は結核の好発部位。誤嚥による肺膿瘍は、仰臥位では下葉S6や上葉S2など背側に、立位では下葉底部に生じやすく、右側に多い(右主気管支は太く、角度が急でないため)。 ・空洞内の球状陰影:既存の空洞にアスペルギルスが菌球をつくったもの(アスペルギローマ)で、周囲に三日月状の空気がみえる(meniscus sign / air crescent sign)。 ・多発空洞:敗血症性肺塞栓(右心系感染性心内膜炎など)、多発血管炎性肉芽腫症、転移性肺腫瘍を考える。
肺膿瘍の治療
嫌気性菌を含めてカバーする抗菌薬(βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン、クリンダマイシンなど)を長期間(数週間)投与するのが基本である。体位ドレナージを併用し、改善しない場合は経皮的ドレナージや外科的切除を検討する。
肺炎の画像パターン
・大葉性肺炎(肺胞性肺炎):肺炎球菌、肺炎桿菌、レジオネラなど。 ・気管支肺炎:黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマなど。 ・間質性の陰影:ウイルス性肺炎、ニューモシスチス肺炎、過敏性肺炎など。
POINT
・空洞は「肺組織の壊死」があるときにできる。 ・空洞をつくりやすい:肺膿瘍(嫌気性菌、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ)、結核・非結核性抗酸菌症(乾酪壊死)、真菌症、多発血管炎性肉芽腫症、肺扁平上皮癌、敗血症性肺塞栓。 ・空洞をつくりにくい:肺炎球菌肺炎、マイコプラズマ肺炎、過敏性肺炎(治癒後に構造がほぼ保たれる)。 ・肺膿瘍は液面を伴う空洞、二次結核は上葉S1・S2やS6の厚壁空洞が典型。
