StudyMed医師国家試験

水様便か、粘血便か―下痢の「壊し方」で見抜くカンピロバクター腸炎

第101回医師国家試験 F問題 第74問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第74問

粘血便を最もきたしやすいのはどれか。

  1. a.ノロウイルス腸炎
  2. b.ロタウイルス腸炎
  3. c.ブドウ球菌腸炎
  4. d.コレラ
  5. e.カンピロバクター腸炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、感染性腸炎の中から粘血便をきたしやすいものを選ぶ問題だ。病原体の名前を一つずつ覚えるより、「その病原体が腸をどう傷つけるか」で二つに分けて考えるとすっきり解ける。まず、下痢に血や粘液が混じるのは、腸で何が起きているときだと思う?
医学生医学生
粘膜が傷ついて、出血しているときでしょうか。
ドクタードクター
その通り。感染性腸炎の下痢は、大きく分泌性と炎症性に分けられる。分泌性は主に小腸で、病原体や毒素が粘膜をあまり壊さずに水や電解質の分泌を増やしたり、吸収を妨げたりする。だから便は大量の水様便で、血は混じりにくい。炎症性は主に大腸の粘膜に病原体が侵入したり細胞毒で傷害したりして、びらんや潰瘍をつくる。そうなると便に血液・粘液・白血球が混じって粘血便になるんだ。
医学生医学生
炎症性のほうは、発熱やしぶり腹も出やすいと消化器の講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。少量しか出ないのに便意が頻回にくるしぶり腹は、大腸、特に直腸の炎症を示唆するサインだ。ではこの視点で選択肢を見よう。ノロウイルスとロタウイルスはどうかな。
医学生医学生
どちらもウイルス性胃腸炎で、冬に流行して嘔吐と水様便が中心なので、分泌性の側ですね。
ドクタードクター
そうだね。ノロウイルスはカキなどの二枚貝や、吐物・便を介したヒトからヒトへの感染で広がり、突然の嘔吐と水様下痢で始まって数日で軽快することが多い。ロタウイルスは乳幼児に多く、白っぽい水様便と脱水が特徴で、今は経口生ワクチンが定期接種になっている。どちらも小腸の障害が中心だから、粘血便は典型的ではない。
医学生医学生
小児科の実習で、ロタの子のおむつが白っぽい便だったのを覚えています。米のとぎ汁様っていうのはロタでしたっけ?
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだ。米のとぎ汁様便はコレラの典型的な表現で、ロタは白色〜クリーム色の水様便と覚えよう。コレラはコレラ毒素がアデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増やし、塩素イオンと水を大量に分泌させる。粘膜は壊されないから、腹痛や発熱の乏しい大量の水様便で、急速に高度の脱水に陥るんだ。
医学生医学生
だからコレラの治療は補液が中心なんですね。ブドウ球菌腸炎はどうでしょう。
ドクタードクター
黄色ブドウ球菌の食中毒は、食品中で産生された耐熱性のエンテロトキシンを食べて起こる毒素型だ。おにぎりや弁当が原因になりやすく、潜伏期は数時間と非常に短い。激しい嘔吐と腹痛が前面に出て、下痢は水様で発熱も少ない。毒素は加熱しても壊れにくいから、再加熱では防げないのも大事な点だ。
医学生医学生
そうなると、侵襲性に当てはまるのはカンピロバクター腸炎だけですね。
ドクタードクター
正解。Campylobacter jejuniは大腸や回腸末端の粘膜上皮に侵入して強い炎症とびらん・潰瘍をつくるから、粘血便を起こしやすい。感染源で一番大事なのは、生や加熱不十分の鶏肉だ。潜伏期は2〜5日程度とやや長く、発熱・腹痛・下痢で発症する。日本の細菌性食中毒で事件数が最も多い原因菌の一つでもあるよ。
医学生医学生
鶏刺しを食べて数日後に熱と血便、という問診の流れが目に浮かびます。微生物学の実習で、カモメの翼みたいな形の菌を見ました。
ドクタードクター
そう、グラム陰性のらせん状桿菌で、便のグラム染色でS字状やカモメの翼状の菌体が見えると迅速診断の手がかりになる。微好気性で、少ない菌量でも感染が成立する。多くは自然に軽快するので補液などの対症療法が基本だけれど、重症例で抗菌薬を使うなら、ニューキノロン耐性が多いのでマクロライド系が第一選択だ。
医学生医学生
カンピロバクターといえば、Guillain-Barré症候群の先行感染としてCBTでも出てきました。
ドクタードクター
臨床で特に注意したい合併症だね。感染から1〜3週ほどして、菌体の糖鎖と末梢神経のガングリオシドが似ていることから抗GM1抗体などの自己抗体ができ、急性の弛緩性麻痺を起こすことがある。下痢が治ったあとに手足に力が入らないと訴えたら、この可能性を考える必要がある。反応性関節炎の原因にもなるよ。
医学生医学生
ほかに粘血便を起こす病原体も、セットで覚えておいたほうがよさそうですね。
ドクタードクター
そうだね。しぶり腹の強い細菌性赤痢、溶血性尿毒症症候群に注意が必要な腸管出血性大腸菌、高熱を伴いやすいサルモネラ、夏の生魚介類による腸炎ビブリオ、イチゴゼリー状の粘血便を呈する赤痢アメーバ、抗菌薬投与後の偽膜性腸炎を起こすClostridioides difficileなどが代表だ。食べたもの、潜伏期、渡航歴、抗菌薬の使用歴を問診で聞くことが、病原体を絞り込む第一歩になる。

まとめ

感染性腸炎の下痢は、小腸で水・電解質の分泌や吸収障害を起こす分泌性(水様便)と、大腸粘膜に侵入・傷害してびらんや潰瘍をつくる炎症性・侵襲性(粘血便)に分けると整理しやすくなります。ノロウイルス、ロタウイルス、毒素型の黄色ブドウ球菌、コレラはいずれも水様便が主体で、選択肢の中で粘血便をきたしやすいのは侵襲型のカンピロバクター腸炎です。カンピロバクターは加熱不十分な鶏肉が主な感染源で、潜伏期は2〜5日程度、重症例ではマクロライド系が第一選択となり、回復後のGuillain-Barré症候群に注意が必要です。粘血便をきたす病原体には赤痢菌、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、腸炎ビブリオ、赤痢アメーバ、C. difficileなどもあり、下痢の性状と問診情報を組み合わせて病原体を推定する考え方は、日常診療での感染性腸炎の評価に直結します。

解答・解説

正解はeです

感染性腸炎の下痢は、病原体が腸管をどのように傷害するかによって大きく二つの型に分けて考えると理解しやすい。

分泌性(非炎症性)下痢

病原体や毒素が主に小腸に作用し、粘膜を大きく壊さずに水・電解質の分泌を増やしたり吸収を妨げたりする。便は大量の水様便となり、血液や粘液は混じりにくい。発熱は軽いか、ないことが多い。ウイルス性腸炎(ノロウイルス、ロタウイルス)、毒素型食中毒(黄色ブドウ球菌、セレウス菌嘔吐型)、コレラ、腸管毒素原性大腸菌(ETEC)などがこれに当たる。

炎症性(侵襲性)下痢

病原体が主に大腸の粘膜上皮に侵入したり細胞毒で傷害したりして、粘膜にびらん・潰瘍をつくる。その結果、便に血液・粘液・白血球が混じり、粘血便となる。発熱・強い腹痛・しぶり腹(テネスムス:便意が頻回なのに少量しか出ない状態)を伴いやすい。カンピロバクター、サルモネラ、赤痢菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)、腸炎ビブリオ、赤痢アメーバ、Clostridioides difficileなどが代表である。 本問では、選択肢のうち炎症性(侵襲性)下痢を起こす病原体はカンピロバクターだけであり、粘血便を最もきたしやすいのはカンピロバクター腸炎と判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  ノロウイルス腸炎

    ノロウイルスは冬季に流行するウイルス性胃腸炎の代表で、二枚貝(特に生や加熱不十分のカキ)の摂取や、患者の吐物・便を介したヒトからヒトへの感染で広がる。潜伏期はおおむね1〜2日で、突然の嘔吐と水様性下痢が主症状であり、通常は1〜3日で軽快する。小腸粘膜の障害による水様便が中心で、粘血便はまれである。

  2. ×b.  ロタウイルス腸炎

    ロタウイルスは主に乳幼児(特に6か月〜2歳前後)にみられ、冬から春にかけて流行する。便を介した経口感染(糞口感染)で広がる。嘔吐に続いて大量の水様性下痢を起こし、便が白っぽく(白色〜クリーム色)なるのが特徴で、脱水を起こしやすい。小腸の絨毛上皮が傷害されて吸収不良を起こすタイプであり、粘血便は典型的ではない。現在は乳児への経口生ワクチンが定期接種となっている。

  3. ×c.  ブドウ球菌腸炎

    黄色ブドウ球菌による食中毒は、食品中で菌が増殖して産生した耐熱性のエンテロトキシン(腸管毒)を摂取して起こる毒素型である。おにぎりや弁当、乳製品など手で扱う食品が原因となりやすい。潜伏期は1〜6時間程度と非常に短く、激しい悪心・嘔吐と腹痛が前面に出て、下痢は水様である。発熱は少なく、粘血便の頻度は低い。毒素は加熱しても壊れにくいため、調理後の再加熱では予防できない。なお、抗菌薬投与後などにみられるMRSA腸炎も水様便が主体である。

  4. ×d.  コレラ

    コレラはコレラ菌(Vibrio cholerae O1またはO139)による感染症で、汚染された水や魚介類を介して経口感染する。日本では主に流行地域(南アジア・アフリカなど)からの輸入感染症である。潜伏期は数時間〜5日(多くは1〜3日)。コレラ毒素が小腸上皮のアデニル酸シクラーゼを活性化してcAMPを増やし、塩素イオンと水の分泌を著しく増加させる。その結果、腹痛や発熱の乏しい大量の「米のとぎ汁様」水様便を生じ、急速に高度の脱水に陥る。粘膜は破壊されないため粘血便にはならない。治療の中心は経口または経静脈での補液である。

  5. ○e.  カンピロバクター腸炎

    Campylobacter jejuniは主に大腸(および回腸末端)の粘膜上皮に侵入して強い炎症とびらん・潰瘍をつくる侵襲型の病原体であるため、粘血便を生じやすい。鶏肉(生や加熱不十分の鶏刺し・焼き鳥など)が最も重要な感染源で、生乳や汚染された水からも感染する。潜伏期は2〜5日程度(長いと1週間以上)とやや長く、発熱・腹痛・下痢(しばしば粘血便)で発症する。日本の細菌性食中毒の中で事件数が最も多い原因菌の一つである。

カンピロバクター腸炎の要点

・グラム陰性のらせん状桿菌で、微好気性(酸素濃度の低い環境を好む)。少ない菌量でも感染が成立する。 ・便のグラム染色で、らせん状〜カモメの翼状(S字状)の菌体がみられることが迅速診断に役立つ。 ・多くは自然に軽快し、治療は補液などの対症療法が基本である。重症例では抗菌薬を使用するが、ニューキノロン系への耐性が多いため、マクロライド系(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなど)が第一選択となる。 ・感染後1〜3週ほどしてGuillain-Barré症候群(急性の弛緩性運動麻痺をきたす自己免疫性末梢神経障害)を起こすことがある。菌体の糖鎖と末梢神経のガングリオシドが似ていること(分子相同性)により、抗GM1抗体などの自己抗体が産生されるためと考えられている。反応性関節炎の原因にもなる。

粘血便をきたす主な感染性腸炎

・赤痢菌:細菌性赤痢。少ない菌量で感染し、しぶり腹が強い。 ・腸管出血性大腸菌(O157など):ベロ毒素(志賀毒素)により激しい腹痛と血便。溶血性尿毒症症候群(HUS)に注意。 ・サルモネラ:鶏卵・食肉が原因。高熱を伴いやすい。 ・腸炎ビブリオ:夏季の生の魚介類。上腹部痛が強い。 ・赤痢アメーバ:イチゴゼリー状の粘血便。男性同性間の性的接触や海外渡航歴が手がかり。 ・Clostridioides difficile:抗菌薬投与後の偽膜性腸炎。

水様便を主体とする感染性腸炎

ノロウイルス、ロタウイルス、黄色ブドウ球菌・セレウス菌(毒素型)、コレラ、腸管毒素原性大腸菌(旅行者下痢症の代表)、ウエルシュ菌など。

POINT

・下痢は「分泌性(小腸・水様便)」と「炎症性・侵襲性(大腸・粘血便)」に分けて考える。 ・カンピロバクター:鶏肉、潜伏期2〜5日、粘血便、Guillain-Barré症候群の先行感染、治療はマクロライド系。 ・ノロ・ロタ・ブドウ球菌(毒素型)・コレラは水様便が主体。 ・コレラ=米のとぎ汁様便、ロタ=乳幼児の白色水様便、ブドウ球菌=潜伏期が数時間と短く嘔吐が主。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。