StudyMed医師国家試験

司令塔が壊れたら何が起こる?―視床下部腫瘍の症候は「上がる・下がる」で解く

第101回医師国家試験 F問題 第60問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第60問

視床下部腫瘍でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.無月経
  2. b.ACTH高値
  3. c.口渇感低下
  4. d.精神運動興奮
  5. e.プロラクチン低値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は視床下部腫瘍でみられる症候を選ぶ問題だ。暗記で挑むより、「視床下部が担っている仕事が失われたら何が起こるか」を一つずつ当てはめるのがコツだよ。まず、視床下部の役割を挙げてみてくれるかな。
医学生医学生
生理学の講義では、下垂体前葉への放出ホルモンを出す場所と習いました。あとはバソプレシンとオキシトシンを作っていますよね。
ドクタードクター
その通り。GnRH、CRH、TRH、GHRHといった放出ホルモンで下垂体前葉を動かし、バソプレシンとオキシトシンは下垂体後葉へ送り出している。さらに体温調節、摂食、飲水、睡眠・覚醒、自律神経の中枢もある。まさに内分泌と恒常性の司令塔だ。
医学生医学生
ということは、腫瘍で壊れると放出ホルモンが減って、下垂体前葉ホルモンは全部下がるんでしょうか。
ドクタードクター
惜しい、そこが最大の落とし穴なんだ。GH、ACTH、TSH、LH・FSHは放出ホルモンで促進されているから低下する。でもプロラクチンだけは、視床下部から下垂体茎を通って届くドパミンで主に「抑制」されている。ブレーキがなくなると、どうなる?
医学生医学生
抑制が外れるので……プロラクチンは上がるんですね。だからプロラクチン低値は誤りですか。
ドクタードクター
正解。視床下部障害や下垂体茎の圧迫ではプロラクチンだけが上昇する。乳汁漏出を伴うこともあるよ。同じ理屈でACTH高値も否定できる。CRHが減ればACTHは低下して、続発性副腎皮質機能低下症をきたしうるんだ。
医学生医学生
ACTHが高くなるのは、Cushing病や異所性ACTH産生腫瘍、Addison病でしたね。
ドクタードクター
よく整理できているね。では無月経はどうかな。
医学生医学生
GnRHが減ってLH・FSHが下がるので、卵巣機能が落ちて無月経になると思います。
ドクタードクター
その通り、低ゴナドトロピン性の性腺機能低下だ。さらにさっきの高プロラクチン血症も、GnRH分泌を抑えて無月経を後押しする。二重の機序で起こりやすいわけだ。小児なら思春期遅発として現れることもある。
医学生医学生
口渇感低下は、尿崩症のことを言っているんでしょうか。尿崩症ならむしろ喉が渇く気がします。
ドクタードクター
いい疑問だね。分けて考えよう。バソプレシンが減ると中枢性尿崩症で多尿になる。普通なら渇中枢が働いて大量に水を飲むから、喉は渇くんだ。でも視床下部腫瘍では、その渇中枢そのもの、つまり浸透圧を感じて渇きを生む部位も障害されうる。すると高ナトリウム血症になっても渇きを感じにくくなる。
医学生医学生
尿で水を失っているのに飲まない、ということですか。それはかなり危ないですね。
ドクタードクター
そう、尿崩症と渇感低下が合併すると重篤な高ナトリウム血症に陥りやすい。だから口渇感低下は視床下部腫瘍でみられる重要な症候で、これがもう一つの正解だ。
医学生医学生
精神運動興奮はどうでしょう。脳の腫瘍なので、何か精神症状が出そうな気もしますが。
ドクタードクター
視床下部の後部には覚醒を保つ仕組みがあるから、障害されるとむしろ傾眠、無気力、意識障害といった「低下」の方向になりやすい。一部の病変で易怒性などの情動変化が報告されることはあるけれど、精神運動興奮を代表的な症候とはしないんだ。
医学生医学生
上がるのはプロラクチンだけ、あとは機能が落ちる方向、と考えればいいんですね。
ドクタードクター
そのまとめ方で十分戦える。ほかにも、腹内側核の満腹中枢が障害されれば過食・肥満、外側野の障害なら食欲低下・やせ、体温調節中枢の障害で体温の異常が起こる。代表的な腫瘍も押さえておこう。頭蓋咽頭腫は石灰化と嚢胞が特徴で、両耳側半盲や成長障害、尿崩症をきたす。胚細胞腫は小児〜若年に多く、尿崩症で発症することが多い。視床下部過誤腫は笑い発作や思春期早発症が有名だ。
医学生医学生
脳神経外科の実習で頭蓋咽頭腫の術後の患者さんを見ましたが、水分出納と血清ナトリウムを毎日厳しくチェックしていました。
ドクタードクター
まさにそれが臨床の要点だ。渇きを訴えないから大丈夫、ではなく、渇きを感じられない可能性を疑って、体重や尿量、ナトリウム値で客観的に管理する。ホルモン補充では副腎皮質ホルモンの不足に特に注意が必要だよ。

まとめ

視床下部は放出ホルモンによって下垂体前葉を調節し、バソプレシンを産生するとともに、渇中枢・摂食中枢・体温調節・覚醒の中枢を担う内分泌と恒常性の司令塔です。視床下部腫瘍ではGnRH、CRHなどの低下によりLH・FSHやACTHは低下し、GnRH低下と高プロラクチン血症が重なって無月経をきたしますが、ドパミンによる抑制が外れるプロラクチンだけは上昇します。また渇中枢の障害で口渇感が低下し、中枢性尿崩症を合併すると重篤な高ナトリウム血症に陥る危険があります。精神面では興奮よりも傾眠や意識障害が典型的です。「促進されるものは下がり、抑制されているものは上がる」という原則で考えることは、視床下部・下垂体疾患全般を理解し、術後管理などの臨床判断を行う土台になります。

解答・解説

正解はa, cです

視床下部は、下垂体前葉ホルモンの分泌を調節する放出ホルモン・抑制ホルモン(GnRH、CRH、TRH、GHRH、ソマトスタチン、ドパミン)を産生し、さらにバソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)とオキシトシンを産生して下垂体後葉へ送る、内分泌系の司令塔である。また体温調節、摂食(満腹中枢・摂食中枢)、飲水(渇中枢)、睡眠・覚醒、自律神経、情動などの中枢も存在する。 視床下部腫瘍(頭蓋咽頭腫、胚細胞腫、神経膠腫、過誤腫など)では、この部位が圧迫・破壊されることにより、次のような症候が生じる。 ・放出ホルモンの低下による下垂体前葉機能低下(GnRH低下→性腺機能低下・無月経、CRH低下→ACTH低下、TRH低下→TSH低下、GHRH低下→GH低下)。 ・ドパミン(プロラクチン抑制因子)の低下、または下垂体茎の圧迫による、プロラクチンだけの上昇。 ・バソプレシン低下による中枢性尿崩症、渇中枢障害による口渇感の低下・消失。 ・体温調節障害、摂食異常(肥満またはやせ)、傾眠などの意識・覚醒の障害。 本問は非機能性(ホルモンを作らない)腫瘍を前提に、「視床下部の機能が失われると何が起こるか」を一つずつ当てはめて考えればよい。放出ホルモンで制御されるホルモンは低下し、抑制で制御されるプロラクチンは上昇する、という方向性が判断の鍵である。

選択肢考察

  1. ○a.  無月経

    みられる。視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の分泌が低下すると、下垂体からのLH・FSHが低下し、卵巣機能が低下して無月経(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)となる。さらに、視床下部障害ではドパミンによる抑制が外れて高プロラクチン血症となり、プロラクチン自体もGnRHの分泌を抑えるため、無月経を一層起こしやすくなる。小児では思春期遅発の原因となる。

  2. ×b.  ACTH高値

    みられない。ACTHの分泌は視床下部のCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)によって促進されている。視床下部が障害されるとCRHが低下し、ACTHは低値となって続発性副腎皮質機能低下症をきたしうる。ACTHが高値となるのは、ACTH産生下垂体腺腫(Cushing病)や異所性ACTH産生腫瘍、原発性副腎皮質機能低下症(Addison病)などである。

  3. ○c.  口渇感低下

    みられる。渇中枢(浸透圧受容器を含む)は視床下部の前方にあり、血漿浸透圧の上昇を感知して口渇感を生じさせるとともに、バソプレシンの分泌を促す。視床下部腫瘍でこの部位が障害されると、脱水や高ナトリウム血症になっても喉の渇きを感じにくくなる(無渇症・渇感低下)。バソプレシン分泌低下による中枢性尿崩症を合併すると、多尿で水分を失っているのに飲水しないため、重篤な高ナトリウム血症(本態性高ナトリウム血症)を起こしやすく危険である。

  4. ×d.  精神運動興奮

    典型的な症候ではない。視床下部後部には覚醒を維持する神経系があり、視床下部腫瘍ではむしろ傾眠、無気力、意識障害などの精神運動の低下(活動性の低下)が生じやすい。視床下部の一部の病変で情動の変化(易怒性など)が報告されることはあるが、精神運動興奮を視床下部腫瘍の代表的な症候とはしない。

  5. ×e.  プロラクチン低値

    みられない。下垂体前葉ホルモンのうちプロラクチンだけは、視床下部から下垂体茎(門脈系)を通って運ばれるドパミンにより、主に抑制的に調節されている。視床下部腫瘍や下垂体茎の圧迫によってドパミンが届かなくなると、抑制が外れてプロラクチンは上昇する(高プロラクチン血症)。このため乳汁漏出や無月経を伴うことがある。他の前葉ホルモンが低下するのにプロラクチンだけ上昇する点が重要である。

視床下部の主な機能と障害時の症候

・下垂体前葉の調節: GH、ACTH、TSH、LH・FSHの低下(下垂体前葉機能低下症)、プロラクチンの上昇。 ・下垂体後葉ホルモンの産生: バソプレシン低下による中枢性尿崩症(多尿・低張尿)。 ・渇中枢: 口渇感低下・消失(無渇症)→高ナトリウム血症。 ・摂食中枢(外側野)・満腹中枢(腹内側核): 腹内側核の障害で過食・肥満(視床下部性肥満)、外側野の障害で食欲低下・やせ。 ・体温調節中枢: 高体温または低体温、体温の変動。 ・睡眠・覚醒: 傾眠、意識障害。

視床下部・下垂体茎付近の代表的な腫瘍

・頭蓋咽頭腫: 小児と中高年に多い。石灰化と嚢胞が特徴で、両耳側半盲、下垂体機能低下、尿崩症、成長障害をきたす。 ・胚細胞腫(ジャーミノーマ): 小児〜若年に多く、松果体部や鞍上部に発生し、尿崩症で発症することが多い。放射線・化学療法の感受性が高い。 ・視床下部過誤腫: 笑い発作(gelastic seizure)や思春期早発症をきたす。 ・視神経・視床下部神経膠腫: 小児に多く、神経線維腫症1型に合併しやすい。乳幼児では著明なやせ(間脳症候群)を呈することがある。

プロラクチンが上昇する機序(まとめ)

プロラクチンは視床下部のドパミンによる抑制が優位であり、視床下部障害、下垂体茎圧迫、ドパミン拮抗薬(スルピリド、メトクロプラミド、抗精神病薬など)で上昇する。原発性甲状腺機能低下症ではTRHの増加によってプロラクチンが上昇する。

POINT

・視床下部障害では放出ホルモンが低下し、下垂体前葉ホルモン(GH、ACTH、TSH、LH・FSH)は低下する。 ・プロラクチンだけはドパミンによる抑制が外れて上昇する。 ・GnRH低下と高プロラクチン血症により無月経となる。 ・渇中枢の障害で口渇感低下、バソプレシン低下で中枢性尿崩症(合併すると高ナトリウム血症が重篤化)。 ・意識面では興奮よりも傾眠・意識障害が典型。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。