筋ジストロフィーの遺伝形式―「X連鎖」はジストロフィンが目印
第101回医師国家試験 F問題 第55問
国試問題にチャレンジ
筋ジストロフィーでX連鎖性遺伝形式をとるのはどれか。
- a.顔面肩甲上腕型
- b.先天性福山型
- c.Becker型
- d.筋強直性
- e.肢帯型
対話形式の解説
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ドクターまとめ
X連鎖劣性遺伝をとる筋ジストロフィーの代表は、Xp21のジストロフィン遺伝子異常によるDuchenne型とBecker型で、Becker型はインフレーム欠失によりジストロフィンが一部作られるため軽症で進行が緩やかです。顔面肩甲上腕型と筋強直性ジストロフィーは常染色体優性(後者は表現促進現象あり)、福山型先天性筋ジストロフィーは常染色体劣性、肢帯型は大部分が常染色体劣性です。X連鎖の病型としてはEmery-Dreifuss型もあり、ジストロフィン異常症では女性保因者の症状発現や心筋症の合併にも注意が必要です。病型と遺伝形式を結びつけて理解しておくことは、遺伝カウンセリングや家族の診療計画を考えるうえでの土台になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
筋ジストロフィーは、骨格筋の線維が壊れては再生することを繰り返しながら、しだいに筋力が落ちていく遺伝性の筋疾患の総称である。原因遺伝子はいくつもあり、病型によって遺伝形式が違う。本問は、主な病型の遺伝形式を正しく覚えているかを問うている。
考え方
X染色体にある遺伝子の異常によって起こる筋ジストロフィーの代表は、ジストロフィン異常症(dystrophinopathy)である。ジストロフィン遺伝子はX染色体短腕(Xp21)にある。ジストロフィンが「ほぼ完全に欠けている」ものがDuchenne型、「量が少ない、または形が変わっていても一部働く」ものがBecker型である。どちらもX連鎖劣性遺伝で、患者はほぼ男性に限られ、女性は多くが保因者となる。 選択肢の中でジストロフィン異常症にあたるのはBecker型だけであり、ほかの病型はいずれも常染色体遺伝(またはさまざまな遺伝形式を含むグループ)である。
選択肢考察
- ×a. 顔面肩甲上腕型
常染色体優性遺伝である。大部分(1型)は、第4染色体長腕の末端(4q35)にあるD4Z4という繰り返し配列の数が減り、本来は働かないはずのDUX4遺伝子が筋で発現することで起こる。10〜20歳代で発症することが多く、顔の筋(口笛が吹けない、目を強く閉じられない)、肩甲帯(翼状肩甲)、上腕の筋力低下が特徴で、左右差がみられることが多い。
- ×b. 先天性福山型
常染色体劣性遺伝である。原因は第9染色体(9q31)にあるフクチン(fukutin)遺伝子の変異で、日本人に多い。多くの患者が共通の変異(祖先に由来するレトロトランスポゾンの挿入)をもっている。フクチンの異常によりα-ジストログリカンに糖鎖が正しく付かなくなり、筋・脳・眼が障害される。生まれたときから、または乳児期早期から筋緊張低下・筋力低下があり、滑脳症や多小脳回などの脳の形成異常による知的障害やけいれんを伴う。日本ではDuchenne型に次いで多い小児期の筋ジストロフィーである。
- ○c. Becker型
X連鎖劣性遺伝である。Duchenne型と同じくXp21のジストロフィン遺伝子の異常によるが、多くは遺伝子の読み枠(3塩基ずつの読み取りの区切り)がずれない欠失(インフレーム欠失)であるため、短くなった、あるいは量の少ないジストロフィンがある程度作られる。そのためDuchenne型よりも症状が軽く、発症年齢が遅い(多くは5〜15歳以降)。15〜16歳を過ぎても歩行できることが、Duchenne型と区別する目安とされる。腰や大腿などの近位筋の筋力低下、ふくらはぎの肥大(腓腹筋の仮性肥大)、血清CK高値がみられ、拡張型心筋症を合併しやすく、生命予後にかかわる。
- ×d. 筋強直性
常染色体優性遺伝である。成人で最も多い筋ジストロフィーである。1型は第19染色体(19q13)にあるDMPK遺伝子の3'非翻訳領域でCTGという3塩基の繰り返しが異常に延びることで起こる(2型はCNBP遺伝子のCCTG繰り返しの延長)。世代を経るごとに繰り返しが長くなり、発症が早く重くなる「表現促進現象」がみられ、母親から受け継いだ場合に重症の先天型が生じやすい。ミオトニア(強く握った手をすぐに開けない)、顔面筋・側頭筋の萎縮(斧様顔貌)、前頭部の脱毛、遠位筋優位の筋力低下に加え、白内障、耐糖能異常、心伝導障害、性腺機能低下などの全身症状を伴う。
- ×e. 肢帯型
肢帯型は、肩や腰まわり(肢帯)の筋が主に弱くなる筋ジストロフィーをまとめた呼び名で、多くの原因遺伝子を含む。遺伝形式は常染色体劣性遺伝が大部分で、一部に常染色体優性遺伝があり、家族歴がはっきりしない孤発例もある。現在の分類では劣性型をLGMD R、優性型をLGMD Dと表す。代表的な原因タンパクとしてカルパイン3、ジスフェルリン、サルコグリカンなどがある。X連鎖遺伝の病型としては扱わない。
主な筋ジストロフィーの遺伝形式と原因
・Duchenne型:X連鎖劣性、ジストロフィン(Xp21)がほぼ欠損 ・Becker型:X連鎖劣性、ジストロフィン(Xp21)の量的・質的異常 ・Emery-Dreifuss型:X連鎖劣性(エメリン)が代表で、常染色体優性・劣性(ラミンA/C)もある。早期からの関節拘縮と心伝導障害が特徴 ・顔面肩甲上腕型:常染色体優性、4q35のD4Z4繰り返し配列の短縮 ・筋強直性(1型):常染色体優性、DMPK遺伝子のCTG繰り返しの延長 ・福山型先天性:常染色体劣性、フクチン(9q31) ・肢帯型:主に常染色体劣性(一部優性)、多数の原因遺伝子 ・眼咽頭型:常染色体優性が主、PABPN1遺伝子のGCN繰り返しの延長
X連鎖劣性遺伝の特徴
・患者はほぼ男性(X染色体を1本しか持たないため、変異があると発症する)。 ・保因者の女性から生まれる男児は1/2の確率で患者、女児は1/2の確率で保因者となる。 ・父から息子へは伝わらない(父は息子にY染色体を渡すため)。 ・ジストロフィン異常症では、女性保因者でも軽い筋力低下や心筋症がみられることがある(症候性保因者)。 ・Duchenne型の約1/3は新たに生じた突然変異による。
DuchenneとBeckerの違い
・Duchenne:3〜5歳頃に発症、Gowers徴候、12歳前後までに歩行不能。筋生検でジストロフィン染色がほぼ陰性。フレームシフト変異が多い。 ・Becker:発症が遅く進行が緩やか、15〜16歳以降も歩行可能。ジストロフィン染色で染まり方が弱い・まだら。インフレーム変異が多い。
POINT
・X連鎖劣性遺伝の筋ジストロフィー:Duchenne型、Becker型(ジストロフィン、Xp21)、Emery-Dreifuss型(エメリン)。 ・常染色体優性:顔面肩甲上腕型、筋強直性(表現促進現象あり)。 ・常染色体劣性:福山型先天性(フクチン、日本に多い)。 ・肢帯型は主に常染色体劣性で、一部優性、孤発例もある。
