StudyMed医師国家試験

片耳の聞こえが悪い、その原因は頭の中に―MRIで探す小脳橋角部腫瘍

第101回医師国家試験 F問題 第54問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第54問

頭部単純MRIのT1強調像(①~⑤)を示す。 聴力障害を主訴とするのはどれか。

第101回 F問題 第54問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、5枚の頭部MRIから病変の場所を読み取り、その場所の病変でどんな症状が出るかを結びつける問題だ。画像診断の細かい知識より、「部位と症状を対応づけられるか」が問われている。まずは、聴力障害を起こすのは聴覚路のどこが傷んだときか、を考えてみよう。
医学生医学生
聴覚野は側頭葉にあるので、側頭葉の病変を選べばいいのかなと思いました。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだけど、そこが落とし穴なんだ。聴覚の経路を順にたどってみよう。蝸牛から出た蝸牛神経は内耳道を通り、小脳橋角部から脳幹に入って蝸牛神経核に至る。そこから両側の上オリーブ核、外側毛帯、下丘、内側膝状体を経て、側頭葉の横側頭回にある聴覚野に届く。
医学生医学生
神経解剖の講義で習った「両側性投射」ですね。脳幹より上では左右両方に情報が伝わるということは……。
ドクタードクター
そう。片側の大脳に病変があっても、反対側の経路が補うので聴力はほとんど落ちない。片耳の聴力が明らかに低下するのは、内耳や蝸牛神経そのものが障害されたときなんだ。だから、探すべきは内耳道から小脳橋角部にかけての病変ということになる。
医学生医学生
では、画像で小脳橋角部に病変があるものを探せばいいわけですね。横断像の左右は、画像の右側が患者の左側でしたよね。
ドクタードクター
その通り、足側から見上げた図だからね。正解の画像は、眼窩や側頭葉の下端、小脳が写る低い断面で、橋の横、錐体骨の後ろにあたる小脳橋角部に、境界のはっきりした腫瘤がある。画像の右側にあるから患者の左側の病変だ。
医学生医学生
小脳橋角部の腫瘍といえば、聴神経腫瘍、つまり前庭神経鞘腫でしょうか。
ドクタードクター
そう、小脳橋角部腫瘍で最も多いのが前庭神経鞘腫で、次いで髄膜腫や類上皮腫がある。前庭神経のSchwann細胞から出る良性腫瘍だけど、同じ内耳道を通る蝸牛神経が圧迫されるので、腫瘍側の感音難聴や耳鳴が最初の症状になることが多いんだ。
医学生医学生
前庭神経から出るのに、めまいが主訴にならないのは不思議です。
ドクタードクター
いい疑問だね。腫瘍はゆっくり大きくなるので、その間に反対側の前庭系や中枢が代わりに働いて、めまいが目立ちにくいんだ。大きくなると、上方の三叉神経が障害されて顔面のしびれや角膜反射の低下、顔面神経麻痺、小脳を押して同じ側の運動失調、さらにBruns眼振が出てくる。患側を見ると大きくゆっくりした眼振、健側を見ると小さく速い眼振だ。最終的には第4脳室が圧迫されて水頭症になることもある。
医学生医学生
ほかの画像も確認させてください。小脳の真ん中から第4脳室を占める腫瘍は、小児なら髄芽腫でしょうか。
ドクタードクター
よく知っているね。小児なら髄芽腫が代表で、上衣腫や毛様細胞性星細胞腫も鑑別に挙がる。小脳虫部の障害では体幹の失調、つまり座っていても体が揺れるような症状が出る。第4脳室がふさがれば閉塞性水頭症で頭痛や嘔吐、うっ血乳頭が出るけれど、聴力障害が主訴になることはない。
医学生医学生
後頭葉の腫瘍なら、視野障害ですね。右後頭葉なので左同名半盲。
ドクタードクター
その通り。黄斑回避を伴うこともある。では、左大脳半球の深部から側頭葉にかけての、T1強調像で黒く抜けて見える嚢胞性病変はどうかな。
医学生医学生
側頭葉には聴覚野があるので、さっきの話がなければこれを選んでいたと思います。
ドクタードクター
そうだよね。でも片側の病変では明らかな難聴にはならない。側頭葉病変で目立つのは、自動症を伴う側頭葉てんかん、優位半球ならWernicke失語、視放線のMeyer係蹄が障害されることによる対側上1/4同名半盲などだ。両側の聴覚野が障害されて初めて、皮質聾や聴覚失認が起こる。
医学生医学生
側脳室の中を占める腫瘍は、局所症状よりも水頭症で見つかるタイプでしょうか。
ドクタードクター
その通り。中枢性神経細胞腫、脈絡叢乳頭腫、髄膜腫などがあって、Monro孔などをふさいで頭蓋内圧亢進症状で見つかることが多い。こちらも聴力障害は主訴にならない。
医学生医学生
聴覚路は脳幹より上で両側性だから、片耳の難聴なら末梢側、つまり内耳道や小脳橋角部の病変を探す、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床的な話もしておこう。前庭神経鞘腫の検査では、純音聴力検査で感音難聴、語音明瞭度の低下、聴性脳幹反応でI波とV波の間隔の延長や波形の消失がみられる。造影MRIではよく造影され、内耳道を広げながら小脳橋角部に張り出すアイスクリームコーンのような形が特徴的だ。両側にあれば神経線維腫症2型を考える。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、片側の突発性難聴の患者さんにMRIを撮っていたのは、これを除外するためだったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。左右差のある感音難聴を見たら、聴神経腫瘍を見逃さないことが大切なんだ。治療は経過観察、手術、ガンマナイフなどの定位放射線治療から、腫瘍の大きさや聴力、年齢を考えて選ぶよ。

まとめ

聴覚の経路は脳幹より上で左右両側に伝わるため、片側の大脳病変では明らかな難聴は起こりにくく、片耳の聴力障害を主訴とするのは内耳や蝸牛神経が障害される内耳道〜小脳橋角部の病変です。小脳橋角部腫瘍で最も多いのは前庭神経鞘腫で、片側の感音難聴・耳鳴で始まり、増大すると三叉神経・顔面神経の障害、同側の小脳失調、Bruns眼振、水頭症が加わります。一方、小脳虫部〜第4脳室の腫瘍は体幹失調と水頭症、後頭葉腫瘍は対側同名半盲、側頭葉病変はてんかん・失語・上1/4同名半盲、脳室内腫瘍は頭蓋内圧亢進症状が中心となります。左右差のある感音難聴ではABRや造影MRIで聴神経腫瘍を除外することが重要で、両側性なら神経線維腫症2型を考えます。病変部位と局所症状を対応づける力は、画像読影と神経診察の双方の基盤となります。

解答・解説

正解はaです

問われていること

5枚の頭部MRI(T1強調像、横断像)から病変の場所を読み取り、その場所の病変でどんな症状が出るかを考えて、「聴力障害が主な症状になるもの」を選ぶ問題である。画像診断の知識そのものよりも、「部位と症状を結び付けられるか」が試されている。

画像の読み方の基本

横断像は患者の足側から見た図なので、画像の右側が患者の左側になる。画像の上側が顔側(前方)である。

各画像の病変部位

①:眼窩・側頭葉の下端・小脳が写る、低い断面である。小脳の前外側で、錐体骨(側頭骨の一部で内耳道がある)の後ろ、橋の横にあたる「小脳橋角部」に、境界のはっきりした腫瘤がある。画像の右側なので患者の左側の病変である。 ②:小脳の中央(小脳虫部)から第4脳室の場所を占める腫瘤である。 ③:後頭葉(画像の左下=患者の右後方)の腫瘤である。 ④:左の大脳半球深部から側頭葉にかけて、T1強調像で黒く見える(低信号の)嚢胞状の病変がある。 ⑤:側脳室の内部を占める腫瘤である。

聴力障害をきたす部位

聴覚の経路は、蝸牛(内耳)→蝸牛神経(内耳道を通り、小脳橋角部から脳幹に入る)→脳幹の蝸牛神経核→両側の上オリーブ核・外側毛帯・下丘→内側膝状体→側頭葉の聴覚野(横側頭回)と続く。 脳幹より上の経路は左右両側に伝わるので、大脳の片側に病変があっても聴力はほとんど低下しない。片方の耳の聴力が落ちるのは、内耳や蝸牛神経そのものが障害されたときである。したがって、内耳道から小脳橋角部に病変がある①が、聴力障害を主訴とする病変である。

選択肢考察

  1. ○a.  ①

    左の小脳橋角部腫瘍である。小脳橋角部には内耳神経(蝸牛神経・前庭神経)と顔面神経が通り、その上方には三叉神経がある。この部位の腫瘍で最も多いのは前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)で、次いで髄膜腫、類上皮腫などがある。前庭神経鞘腫では、腫瘍側の耳の感音難聴や耳鳴が最初の症状となることが多い。大きくなると、顔面のしびれや角膜反射の低下(三叉神経障害)、顔面神経麻痺、小脳症状(ふらつき、同じ側の運動失調)、Bruns眼振(患側を見ると大きくゆっくりした眼振、健側を見ると小さく速い眼振)が加わる。さらに大きくなると、第4脳室が圧迫されて水頭症をきたす。

  2. ×b.  ②

    小脳虫部から第4脳室を占める正中の腫瘍である。小児では髄芽腫が代表で、上衣腫や毛様細胞性星細胞腫も鑑別に挙がる。小脳虫部の障害で体幹の運動失調(座っていても体が揺れる、歩行時にふらつく)が起こる。第4脳室が閉塞すると閉塞性水頭症になり、頭痛・嘔吐・うっ血乳頭などの頭蓋内圧亢進症状が出る。聴力障害が主訴になることはない。

  3. ×c.  ③

    右後頭葉の腫瘍である。後頭葉には一次視覚野があるため、ここが障害されると反対側の視野が欠ける(左同名半盲)。後頭葉病変では黄斑回避を伴うことがある。両側の後頭葉が障害された場合は皮質盲となる。聴力障害とは関係しない。

  4. ×d.  ④

    左大脳半球深部から側頭葉にかけての嚢胞性病変である。側頭葉病変では、側頭葉てんかん(意識が曇り、口をもぐもぐさせるなどの自動症を伴う発作)、優位半球(多くは左)であれば感覚性失語(Wernicke失語)、側頭葉を通る視放線(Meyer係蹄)の障害による反対側の上1/4同名半盲などが起こる。聴覚野は側頭葉にあるが、聴覚の経路は左右両側に伝わるので、片側の病変だけでは明らかな難聴にはならない。両側の聴覚野が障害されると皮質聾や聴覚失認(音は聞こえるが、その意味や種類がわからない)が起こる。

  5. ×e.  ⑤

    側脳室の内部を占める腫瘍である。側脳室に発生する腫瘍には、中枢性神経細胞腫、上衣下巨細胞性星細胞腫、脈絡叢乳頭腫、髄膜腫などがある。大きくなるまで局所症状は乏しく、Monro孔などをふさいで水頭症を起こすと、頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状で見つかることが多い。聴力障害は主訴にならない。

前庭神経鞘腫(聴神経腫瘍)

・前庭神経のSchwann細胞から発生する良性腫瘍で、小脳橋角部腫瘍の中で最も多い。 ・症状:片側の感音難聴・耳鳴で始まることが多い。前庭神経由来だが、ゆっくり大きくなるため反対側が代わりに働き、めまいは目立たないことが多い。大きくなると三叉神経障害(顔面の感覚低下、角膜反射低下)、顔面神経麻痺、小脳症状、Bruns眼振、水頭症が加わる。 ・検査:純音聴力検査で感音難聴、語音明瞭度の低下、聴性脳幹反応(ABR)でI波とV波の間隔の延長または波形の消失。画像では内耳道を広げながら小脳橋角部に張り出す腫瘍で、造影MRIでよく造影される(アイスクリームコーンのような形)。 ・両側に発生する場合は神経線維腫症2型(NF2)を考える。 ・治療:経過観察、手術摘出、定位放射線治療(ガンマナイフなど)。

脳の部位と主な局所症状

・前頭葉:対側の片麻痺、人格・行動の変化、優位半球では運動性失語(Broca失語) ・頭頂葉:対側の感覚障害、優位半球ではGerstmann症候群、劣位半球では半側空間無視 ・側頭葉:側頭葉てんかん、優位半球では感覚性失語、対側の上1/4同名半盲 ・後頭葉:対側の同名半盲 ・小脳虫部:体幹の運動失調 ・小脳半球:同側の四肢の運動失調 ・小脳橋角部:第V・VII・VIII脳神経の障害、小脳症状 ・脳室内:閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進症状

POINT

・聴力障害を主訴とする頭蓋内腫瘍は、小脳橋角部腫瘍(前庭神経鞘腫が最多)である。 ・小脳橋角部腫瘍では、片側の感音難聴・耳鳴に続いて、第V・VII脳神経障害、小脳症状、Bruns眼振が出現する。 ・聴覚の経路は脳幹より上で左右両側に伝わるため、片側の大脳病変では難聴は起こりにくい。 ・横断像では画像の右側が患者の左側である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。