第VIII因子がつなぐ2つの出血性疾患―血友病Aとvon Willebrand病の「意外な共通点」
第101回医師国家試験 F問題 第42問
国試問題にチャレンジ
血友病Aとvon Willebrand病とに共通しているのはどれか。
- a.遺伝形式
- b.主な出血部位
- c.出血時間延長
- d.APTT延長
- e.血小板粘着能低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血友病Aは第VIII因子の欠乏による二次止血の障害で、APTTは延長するが、出血時間や血小板粘着能は正常です。von Willebrand病はVWFの量的・質的異常により、血小板の粘着が障害される一次止血の異常に加え、VWFが担体として守っていた第VIII因子も分解されて低下するため、APTTも延長します。したがって両者に共通するのはAPTT延長であり、遺伝形式(X連鎖潜性と常染色体遺伝)、出血部位(関節・筋肉内の深部出血と皮膚・粘膜出血)、出血時間や血小板粘着能は異なります。VWFが持つ「血小板の粘着」と「第VIII因子の安定化」という2つの役割を押さえれば、2N型のような紛らわしい病型や、APTT延長を見たときの鑑別も筋道立てて考えられるようになります。
解答・解説
正解はdです
血友病Aとvon Willebrand病(VWD)は、いずれも先天性の出血性疾患で、第VIII因子活性が低下しうるという点で関連が深いが、障害される止血段階が異なる。両者の比較は、止血の二段階(一次止血と二次止血)に分けて考えると整理しやすい。
止血の仕組み
・一次止血:血管が傷つくと、露出した内皮下のコラーゲンにvon Willebrand因子(VWF)が結合し、VWFが血小板膜の糖蛋白GPIbと結合することで血小板が血管壁に粘着する。続いて血小板どうしが凝集し、血小板血栓ができる。これを反映する検査が出血時間や血小板粘着能・凝集能である。 ・二次止血:凝固因子が連鎖的に活性化してフィブリンが形成され、血小板血栓を強固にする。内因系(第XII・XI・IX・VIII因子)を反映するのがAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)、外因系(第VII因子)を反映するのがPT(プロトロンビン時間)である。
VWFの2つの役割
1. 血小板を血管内皮下組織に粘着させる(一次止血)。 2. 血中で第VIII因子と複合体を形成し、第VIII因子を分解から守って安定化させる担体(キャリア蛋白)として働く(二次止血の維持)。
両疾患の違いと共通点
・血友病A:第VIII因子そのものの欠乏。二次止血のみが障害され、一次止血は正常。→ APTT延長、出血時間・血小板粘着能は正常。 ・VWD:VWFの量的・質的異常。一次止血が障害されるうえ、担体を失った第VIII因子が速やかに分解されて活性が低下するため、二次止血も障害されうる。→ 出血時間延長、血小板粘着能低下、APTT延長。 したがって、両者に共通するのは第VIII因子活性低下を反映するAPTT延長である。
選択肢考察
- ×a. 遺伝形式
共通しない。血友病Aは第VIII因子遺伝子(F8)がX染色体上にあるため、X連鎖潜性(伴性劣性)遺伝をとり、患者はほぼ男性で、女性は保因者となることが多い(血友病Bも同じ)。一方、VWFの遺伝子は12番染色体(常染色体)上にあり、VWDは常染色体遺伝で男女ともに発症する。最も多い1型や2型の多くは常染色体顕性(優性)遺伝、VWFがほぼ完全に欠損する3型は常染色体潜性(劣性)遺伝である。
- ×b. 主な出血部位
共通しない。凝固因子の異常(二次止血障害)である血友病では、関節内出血や筋肉内出血などの深部出血が特徴的で、関節内出血を繰り返すと血友病性関節症(関節の変形・拘縮)に至る。一方、一次止血障害である VWD では、血小板機能異常や血小板減少と同様に、鼻出血、歯肉出血、皮下出血(紫斑)、過多月経、消化管出血などの皮膚・粘膜出血が主体となる。ただし第VIII因子が著しく低い3型VWDでは、血友病に似た関節内出血を起こすこともある。
- ×c. 出血時間延長
共通しない。出血時間は皮膚に小さな切創をつけて止血するまでの時間を測る検査で、主に一次止血(血小板の数と機能、VWFの働き、血管壁)を反映する。血友病Aでは血小板とVWFは正常で一次止血は保たれるため、出血時間は正常である。VWDではVWFを介した血小板粘着が障害されるため、出血時間が延長する。なお、軽症のVWDでは出血時間が正常範囲にとどまることもある。
- ○d. APTT延長
両者に共通する。APTTは内因系凝固(第XII・XI・IX・VIII因子)と共通系の働きを反映する検査である。血友病Aは第VIII因子が先天的に欠乏するため、APTTが延長する。VWDでは、第VIII因子の担体として血中で第VIII因子を安定化させているVWFが減少・異常となるため、第VIII因子が分解されやすくなって活性が低下し、APTTが延長する。一方、両疾患ともPTと血小板数は正常である。ただし、第VIII因子の低下が軽い軽症の1型VWDではAPTTが正常範囲にとどまることもある点は知っておくとよい。
- ×e. 血小板粘着能低下
共通しない。血小板が血管内皮下組織に粘着するには、VWFが内皮下コラーゲンと血小板膜のGPIbとを橋渡しする必要がある。VWDではこの橋渡しが障害されるため、血小板粘着能が低下する(ガラスビーズ停滞率の低下、リストセチン惹起血小板凝集の低下などで評価される)。血友病Aでは血小板もVWFも正常であるため、血小板粘着能は正常である。
血友病Aとvon Willebrand病の比較
・原因:血友病A=第VIII因子欠乏/VWD=VWFの量的・質的異常 ・遺伝形式:血友病A=X連鎖潜性(伴性劣性)/VWD=常染色体(主に顕性、3型は潜性) ・性別:血友病A=ほぼ男性/VWD=男女とも ・出血症状:血友病A=関節内・筋肉内などの深部出血/VWD=鼻出血、歯肉出血、過多月経などの皮膚・粘膜出血 ・出血時間:血友病A=正常/VWD=延長 ・血小板数:両者とも正常(2B型VWDでは減少することがある) ・PT:両者とも正常 ・APTT:両者とも延長(軽症VWDでは正常のこともある) ・第VIII因子活性:両者とも低下 ・VWF抗原・活性(リストセチンコファクター活性):血友病A=正常/VWD=低下 ・リストセチン惹起血小板凝集:血友病A=正常/VWD=低下(2B型では低濃度で亢進)
VWDの病型
・1型:VWFの量的な部分欠乏。最も多い(全体の約70〜80%)。 ・2型:VWFの質的異常(2A、2B、2M、2N)。2N型は第VIII因子結合部位の異常で、第VIII因子のみが低下し、血友病Aとの鑑別が問題になる。 ・3型:VWFのほぼ完全欠損。重症で、第VIII因子も著明に低下する。
治療
・血友病A:第VIII因子製剤の補充(出血時・定期補充)。第VIII因子の働きを代替する二重特異性抗体(エミシズマブ)による予防も行われる。インヒビター(第VIII因子に対する抗体)の発生が問題となることがある。 ・VWD:軽症(主に1型)ではデスモプレシン(DDAVP:血管内皮からVWFと第VIII因子の放出を促す)。無効例や重症例ではVWFを含む第VIII因子製剤(VWF含有製剤)を用いる。
凝固検査の組み合わせによる考え方
・APTTのみ延長:第VIII・IX・XI・XII因子の異常(血友病、VWD)、ループスアンチコアグラントなど。 ・PTのみ延長:第VII因子欠乏、ビタミンK欠乏の初期、ワルファリン内服など。 ・PT・APTTともに延長:共通系(第X・V・II因子、フィブリノゲン)の異常、DIC、肝不全など。
POINT
・VWFは「血小板の粘着」と「第VIII因子の安定化(担体)」の2役を担う。 ・血友病A:二次止血障害。APTT延長、出血時間正常、関節内・筋肉内出血、X連鎖潜性遺伝。 ・VWD:一次止血障害+第VIII因子低下。出血時間延長、血小板粘着能低下、APTT延長、粘膜出血、常染色体遺伝。 ・両者の共通点は第VIII因子活性低下によるAPTT延長(PT・血小板数は両者とも正常)。
