「次に何が起こるか」を患者と共有する―1枚の表が医療安全と標準化を支えるクリニカルパス
第101回医師国家試験 D問題 第29問
国試問題にチャレンジ
臨床実習中の学生と看護師長との会話を以下に示す。1枚の書類を見ながら話し合っている。 学生 「この書類はどんな目的で使うのですか」 看護師長「初めて見ましたか。患者さんが自分の医療行為を確認できるようになっているのです」 学生 「確認できるとどうなるのですか」 看護師長「次にどんなことが行われるか分かっていると安心でしょう」 学生 「そうか。安心感以外に役に立つことがありますか」 看護師長「点滴などの取り違えが起こりそうな時に,自分は今日は点滴の予定がないと分かっていたら防げる可能性が高いでしょう」 学生 「なるほど。医療安全ですか」 看護師長「それと,医療の質が保証されます。根拠に基づいた医療が心がけられ,病院の医療行為が標準化されますから」 学生 「では,在院日数の短縮にもつながりますか」 看護師長「もちろんそうです」 医療関係の書類(①~⑤)を示す。 話題になっているのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
患者が次に何が行われるかを確認でき、安心感と医療安全(取り違えの防止)、根拠に基づく医療の標準化と質の保証、在院日数の短縮に役立つ書類はクリニカルパスです。患者用クリニカルパスは、前日・当日といった時間軸と、安静・食事・排泄・清潔・観察・点滴などのケア項目を表にし、イラストを添えて分かりやすく示します。手術同意書はインフォームド・コンセントの記録、診療情報開示請求書は診療記録の閲覧・写しの請求、セカンドオピニオン報告書は主治医以外の医師の意見の報告、インシデントレポートは事象の報告と再発防止のための書類であり、それぞれ目的が異なります。バリアンスの分析や地域連携クリニカルパスまで理解しておくと、チーム医療や医療安全の仕組みを実践的に捉えられるようになります。
解答・解説
正解はbです
会話から読み取れる書類の特徴
看護師長が挙げている特徴を整理すると次のようになる。 ・患者が自分に行われる医療行為を確認でき、次に何が行われるか分かるので安心できる。 ・点滴の予定がないと患者自身が知っていれば、取り違えを防げる(医療安全)。 ・根拠に基づいた医療(EBM:evidence-based medicine)が心がけられ、病院内の医療行為が標準化されるため、医療の質が保証される。 ・在院日数の短縮につながる。
考え方
これらをすべて満たすのは、ある疾患・手術・検査ごとに、入院から退院までの検査・処置・投薬・食事・安静度・清潔・観察項目などを時間軸に沿って一覧表にまとめた「クリニカルパス(クリティカルパス)」である。医療者用のパスのほかに、患者に渡す患者用パス(図やイラストを用いて分かりやすくしたもの)があり、会話で「患者さんが自分の医療行為を確認できる」と述べているのはこれにあたる。
各書類の読み取り
①は手術の名称・説明内容・医師署名と「説明を受け…同意します」という患者署名があり、手術同意書である。②は「前日」「当日(治療前・治療後)」という時間軸と、安静・食事・排泄・清潔・観察・点滴の項目が表になっており、患者用クリニカルパスである。③は診療録(カルテ)・看護記録・処方箋・検査記録・X線写真などの提供を求める申請書で、診療情報の開示請求書である。④はA病院の主治医にあてて、B病院の医師が患者と面談して治療方針への意見を報告したもので、セカンドオピニオンの結果報告書である。⑤は発生日時・内容・概要・原因と改善策が記載されており、インシデントレポートである。
選択肢考察
- ×a. ①
手術の名称(直腸前方切除術)、必要性・危険性・合併症の説明内容、説明した医師の署名と、説明を受けて手術・検査・麻酔の実施に同意する旨の患者署名がある。手術同意書(インフォームド・コンセントの記録)である。患者に治療内容を説明する書類ではあるが、入院中の医療行為を日ごとに示すものではなく、医療行為の標準化や在院日数の短縮を目的とするものでもない。
- ○b. ②
横軸に「前日」「当日(治療前・治療後)」という時間の流れ、縦軸に安静・食事・排泄・清潔・観察・点滴といったケアの項目を並べ、それぞれの時点で何が行われるかをイラストを添えて示している。これは患者用クリニカルパスである。患者は「当日は食事がとれない」「点滴は4本」などを事前に把握できるので安心感が得られ、予定にない処置に気づくことで誤りの防止にも役立つ。また、根拠に基づいて標準化された診療計画に沿うことで医療の質が保たれ、在院日数の短縮にもつながる。会話の内容すべてに合致する。
- ×c. ③
診療録(カルテ)、看護記録、処方箋、検査記録、X線写真などから必要なものを選び、提供を受けたいと申請する書類で、診療情報(診療録)の開示請求書である。患者が自分の診療記録を知る権利に基づくものだが、これから行われる医療行為を示すものではなく、会話の内容とは合わない。
- ×d. ④
A病院の主治医にあてて、B病院の医師が患者・家族と面談し、「提示されている診療方針は妥当で、他の選択肢は見いだしにくい」という意見を伝えたことを報告する書類である。これはセカンドオピニオン(主治医以外の医師に診断や治療方針について意見を求めること)の結果報告書である。患者の自己決定を支える仕組みではあるが、入院中の医療行為の予定を示すものではない。
- ×e. ⑤
発生日時、事象の内容(呼吸器が外れてSpO2が低下した)、経過の概要、原因と改善策が記載されており、インシデントレポートである。医療安全に関わる書類ではあるが、医療者が起きた事象を報告・分析し再発防止に役立てるためのものであり、患者が自分の医療行為を確認する書類ではない。
クリニカルパス(クリティカルパス)
特定の疾患や手術・検査について、入院から退院までに行う検査・処置・投薬・食事・安静度・リハビリテーション・説明などを、日ごと(時間ごと)に一覧表にした標準的な診療計画である。もともとは工業分野の工程管理手法を医療に応用したもので、米国で導入され、わが国でも1990年代後半から普及した。 ・医療者用パス: 職種ごとの業務内容や到達目標(アウトカム)を細かく記載する。 ・患者用パス: 図やイラストを使って患者にも分かりやすく示す。入院時に渡され、インフォームド・コンセントの充実に役立つ。 主な効果として、①医療の標準化と質の向上(エビデンスに基づく計画)、②チーム医療の促進(多職種で情報を共有)、③医療安全(予定の確認による誤りの防止)、④患者の理解と安心・参加の促進、⑤業務の効率化と在院日数の短縮、が挙げられる。 予定どおりに経過しない場合を「バリアンス(逸脱)」と呼び、その原因を分析してパスの改善に活かす。 地域連携クリニカルパスは、急性期病院から回復期病院、かかりつけ医までをつなぐ診療計画で、大腿骨頸部骨折や脳卒中などで用いられている。
その他の医療関係書類
・手術同意書: 説明内容と患者の同意を記録する文書。インフォームド・コンセントの証拠となる。 ・診療情報の開示請求: 患者本人(または代理人)が自分の診療記録の閲覧・写しの交付を求めるもの。個人情報保護法に基づき、医療機関は原則として応じる必要がある。 ・セカンドオピニオン: 主治医以外の医師の意見を聞くこと。主治医からの診療情報提供書をもとに行われ、結果は主治医に報告される。 ・インシデントレポート: 患者に被害が及ばなかった、あるいは軽微だった事象も含めて報告し、原因分析と再発防止に役立てる。報告者の責任追及ではなく、システム改善を目的とする。
POINT
・患者が次に何が行われるかを確認でき、医療安全、医療の標準化・質の保証、在院日数の短縮に役立つ書類はクリニカルパスである。 ・患者用クリニカルパスは、時間軸(入院日・術前・術後など)とケア項目(安静・食事・排泄・清潔・観察・点滴など)の表で示される。 ・手術同意書、診療情報開示請求書、セカンドオピニオン報告書、インシデントレポートの書式上の特徴も区別できるようにしておく。
