StudyMed医師国家試験

「甘えを断ち切れ」は逆効果?―自己効力感で読み解く行動変容の援助

第101回医師国家試験 C問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第47問

行動変容の援助に当たって望ましくないのはどれか。

  1. a.患者自身の考えや思いを聞く。
  2. b.患者が努力していることを前向きに評価する。
  3. c.患者の甘えを断ち切るような高い行動目標を設定する。
  4. d.具体的に取り組めそうなことを患者自身に考えるように促す。
  5. e.低下した自己効力感に働きかけ,今度はやってみようという意欲を促す。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、禁煙や減量、運動習慣といった生活習慣を患者さん自身が変えていくのを、医療者がどう支えるかという問題だ。「望ましくないもの」を選ぶ設問なので、行動変容を支える原則を押さえたうえで、それに反する対応を探そう。キーワードは「患者中心」と「自己効力感」だよ。
医学生医学生
生活習慣病の外来だと、医師がしっかり指導すれば患者さんは変わる、というイメージがありました。
ドクタードクター
そう思いがちだけど、実際は医師が指示するだけでは行動はなかなか変わらないし、変わっても長続きしにくい。だからこそ「どう援助するか」が問われるんだ。まず出発点は何だと思う?
医学生医学生
患者さん自身の考えや思いを聞くこと、でしょうか。OSCEの医療面接でも、まず開かれた質問で患者さんの解釈モデルを聞くように練習しました。
ドクタードクター
その通り。行動を変える気持ちがどのくらいあるのか、変えることをどれだけ大事だと感じているか、実行できる自信がどの程度あるか。これを把握して初めて、その人に合った働きかけが選べる。傾聴は信頼関係づくりにも欠かせないから、これは望ましい対応だね。
医学生医学生
自己効力感というのは、「自分ならできそうだ」という感覚のことですよね。行動科学の講義でバンデューラの名前が出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。自己効力感は行動を起こし、続けるための原動力になる。そして、それを高める一番強力な材料が「自分で成功した経験」、つまり達成体験なんだ。ほかに、似た立場の人の成功を見聞きする代理体験、周囲からの励ましである言語的説得、体調や気分のよさも影響する。
医学生医学生
そうすると、努力を前向きに評価するのは言語的説得にあたって、望ましい対応ですね。
ドクタードクター
そう。結果が十分でなくても、取り組んだこと自体や部分的にうまくいった点を認めることで「やればできる」という感覚が育ち、次の行動につながる。では、具体的に取り組めそうなことを患者自身に考えてもらう、という対応はどうかな。
医学生医学生
医師が目標を決めてあげたほうが早い気もしますが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴。患者さん自身が考えた目標は、その人の生活に即していて実行しやすく、「自分で決めた」という主体性があるから続きやすいんだ。医療者はその案を受け止めて、具体的で実現可能な形になるよう一緒に調整する。これも望ましい対応だよ。
医学生医学生
低下した自己効力感に働きかけて、もう一度やってみようと促すのも、理論どおりの対応ですね。
ドクタードクター
そうだね。以前うまくいかなかった人ほど自信を失っている。失敗を責めずに、何が障害だったのかを一緒に振り返り、より実行しやすい目標に立て直すことで再挑戦の意欲が生まれる。そうなると残るのは、患者の甘えを断ち切るような高い行動目標を設定する、という対応だ。
医学生医学生
厳しくしたほうが本気になってくれそうにも見えますが、高すぎる目標だと達成できずに失敗体験が積み重なってしまいますね。
ドクタードクター
まさにそこ。失敗が続くと自己効力感が下がり、「どうせ自分には無理だ」と行動変容そのものを諦めてしまう。それに「甘えを断ち切る」という発想自体が、医療者が一方的に患者を評価して目標を押し付けるもので、患者中心の支援とは相いれない。だからこれが望ましくない対応、つまり正解だ。
医学生医学生
たとえば「毎日1万歩歩く」ではなく「週3回、夕食後に15分歩く」から始める、という感じでしょうか。
ドクタードクター
いい例だね。何を・いつ・どれだけ行うかが具体的で、測定でき、実現可能な小さな目標から段階的に上げていくのが基本だ。発展として、行動変容ステージモデルも押さえておこう。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階で、無関心期には情報提供で関心を引き出し、準備期には具体的な計画を立て、維持期には逆戻りの予防を考える、というように段階に応じて働きかけを変える。
医学生医学生
地域医療の実習で保健師さんの禁煙指導を見学したとき、「まだやめる気はない」という人には無理に勧めず、たばこの害の話にとどめていました。
ドクタードクター
それはまさに無関心期への対応だね。段階は行きつ戻りつするのが普通で、逆戻りも過程の一部と考える。もう一つ、動機づけ面接という面接法もある。患者さんの中にある「変わりたい」と「変わりたくない」という両価的な気持ちを受け止め、開かれた質問や聞き返し、要約を使って、本人の言葉で変わる理由を語ってもらう。説得や患者を追い込むような直面化は、かえって抵抗を強めるから避けるんだ。
医学生医学生
正論で説得するほど逆効果になることがある、というのは意外でした。
ドクタードクター
臨床ではよくあることだよ。患者さんを変えようとするより、患者さんが自分で変わっていけるように支える。その視点を持っておくと、どの診療科に進んでも役に立つはずだ。

まとめ

行動変容の援助は、医療者が指示を与えるのではなく、患者自身の考えや準備状況を聴くところから始まる患者中心の支援です。中心となるのは「自分ならできる」という自己効力感を高めることであり、努力を前向きに評価し、患者自身が考えた具体的で実行可能な小さな目標から段階的に進め、失敗しても責めずに一緒に振り返ることが重要です。反対に、「甘えを断ち切る」ような高い目標を一方的に課すと失敗体験が重なって自己効力感が下がり、行動変容をかえって妨げるため望ましくありません。行動変容ステージモデルに応じた働きかけや、両価性を受け止める動機づけ面接もあわせて理解しておくと、生活習慣病診療や禁煙支援など日常臨床で患者に寄り添った指導ができるようになります。

解答・解説

正解はcです

本問は「望ましくないもの」を選ぶ設問である。行動変容とは、禁煙、減量、食事療法、運動習慣、服薬遵守など、健康に関わる生活習慣を患者自身が改めていくことを指す。生活習慣病の管理ではこれが治療の中核となるが、医師が指示するだけでは行動は変わりにくく、長続きもしにくい。 行動変容の援助で重視されるのは次の点である。 (1) 患者中心の姿勢:まず患者の考え・思い・生活背景を聴き、行動変容の準備状況(どの段階にいるか)、行動を変えることの重要性をどう感じているか、実行できる自信がどの程度あるかを把握する。 (2) 自己効力感(self-efficacy)を高める:「自分ならできそうだ」という感覚が行動を起こし継続させる原動力になる(バンデューラの社会的認知理論)。自己効力感は、小さな成功体験の積み重ね、他者の成功例、周囲からの肯定的な言葉かけなどによって高まる。 (3) 患者自身が目標を決める:実現可能で具体的な目標を、患者自身に考えてもらい、医療者と相談しながら設定する。自分で決めた目標のほうが実行されやすい。 (4) 失敗しても責めない:うまくいかなかった原因を一緒に振り返り、実行可能な目標に立て直す。 これらの原則に照らすと、医療者側が一方的に高い目標を課す指導は、失敗体験を生んで自己効力感を低下させ、行動変容をかえって妨げる。これが望ましくない対応である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者自身の考えや思いを聞く。

    望ましい対応である。行動変容の援助は、患者が自分の行動や健康についてどう考え、どの程度変える気持ちがあるのかを知ることから始まる。準備状況(変化ステージ)や、変えることの重要性・自信の感じ方を把握して初めて、その患者に合った働きかけを選ぶことができる。傾聴は患者との信頼関係を築くうえでも欠かせない。

  2. ×b.  患者が努力していることを前向きに評価する。

    望ましい対応である。結果が十分でなくても、取り組んだ努力や部分的にうまくいった点に注目して認めることで、患者は「やればできる」という感覚(自己効力感)を得られ、次の行動への意欲が高まる。肯定的なフィードバックは行動を強化し、継続を支える。

  3. ○c.  患者の甘えを断ち切るような高い行動目標を設定する。

    望ましくない対応であり、これが正解である。高すぎる目標は達成できない可能性が高く、失敗体験が重なると自己効力感が下がり、「どうせ自分には無理だ」と行動変容そのものを諦めさせてしまう。また「甘えを断ち切る」という発想は、医療者が一方的に患者を評価し目標を押し付けるものであり、患者中心の支援とは相いれない。行動目標は、具体的で実行しやすく、効果の見込めるものから、患者と相談しながら段階的に設定すべきである(例:「毎日1万歩歩く」ではなく「週3回、夕食後に15分歩く」から始める)。

  4. ×d.  具体的に取り組めそうなことを患者自身に考えるように促す。

    望ましい対応である。患者自身が考えた目標は、生活状況に即していて実行しやすく、「自分で決めた」という主体性があるため継続されやすい。医療者は患者の案を受け止めたうえで、必要に応じて助言し、具体的で実現可能な目標になるよう一緒に調整する。

  5. ×e.  低下した自己効力感に働きかけ,今度はやってみようという意欲を促す。

    望ましい対応である。以前の取り組みがうまくいかなかった患者は自信を失っていることが多い。失敗を責めるのではなく、何が障害になったのかを患者自身が気づけるように振り返り、より実行しやすい目標を改めて一緒に立てることで、自己効力感が回復し、再挑戦への意欲につながる。自己効力感の向上は行動変容の中心的な要素である。

行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル、プロチャスカら)

行動変容を5段階でとらえ、段階に応じた働きかけを行う。 ・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変える気がない。→ 情報提供、関心を引き出す。 ・関心期(熟考期):6か月以内に変えようと考えている。→ 変えることの利点・障害を整理し、動機を高める。 ・準備期:1か月以内に変えようと考え、何らかの準備を始めている。→ 具体的な計画・目標を立てる。 ・実行期:行動を変えて6か月未満。→ 継続を支え、つまずきへの対処を考える。 ・維持期:行動を変えて6か月以上継続。→ 逆戻り(再発)の予防。 段階は行きつ戻りつすることが多く、逆戻りも過程の一部としてとらえる。

自己効力感を高める4つの情報源(バンデューラ)

・達成体験(自分で成功した経験):最も強力。小さく達成可能な目標から始める理由である。 ・代理体験(似た立場の他者の成功を見聞きする) ・言語的説得(周囲からの励まし・肯定的評価) ・生理的・情動的状態(体調や気分がよいこと)

動機づけ面接(motivational interviewing)

患者の中にある「変わりたい」気持ちと「変わりたくない」気持ちの両価性を受け止め、開かれた質問、是認、聞き返し、要約などの技法を用いて、患者自身の言葉で変化の理由を語ってもらう面接法である。説得や直面化(患者を追い込むような対応)は抵抗を強めるため避ける。

目標設定のポイント

具体的(何を・いつ・どれだけ)、測定可能、実現可能、患者にとって意味がある、期限がある、といった条件を満たす目標を、患者と共同で設定する。

POINT

・行動変容の援助は患者中心:まず患者の考え・準備状況を聴く。 ・自己効力感(自分にはできるという感覚)を高めることが中心。 ・目標は患者自身が考え、具体的で実行可能な小さなものから段階的に設定する。 ・努力を肯定的に評価し、失敗しても責めずに一緒に振り返る。 ・高すぎる目標の押し付けは失敗体験を生み、自己効力感を下げるため不適切。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。