「やりたくない」と「やらなきゃいけないのに」―一言に表れるうつ病のサイン
第101回医師国家試験 C問題 第38問
国試問題にチャレンジ
仕事ができないという患者の訴えで,うつ病の可能性が高いのはどれか。
- a.「やりたくないので仕事のことは考えないようにしています」
- b.「やらないといけないのですが頭が回りません」
- c.「上司にすぐ怒られるので,したくありません」
- d.「この仕事は自分にはあっていません」
- e.「ものを考えるとすぐ眠くなります」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
うつ病では思考制止により「頭が回らない」「考えが進まない」といった訴えがみられ、真面目で責任感の強い病前性格を背景に、「やらなければならないのにできない」と義務感を保ったまま自分を責める語り方が典型的です。これに対し、「やりたくない」「したくない」「合っていない」といった回避的・他責的な訴えは、明確なストレス因に反応する適応障害や職場不適応などをまず考えます。うつ病の睡眠障害は早朝覚醒が典型で、日中の眠気が主訴なら睡眠障害や薬剤の影響も鑑別に挙がります。ただし診断はDSM-5の基準に沿って症状と経過から総合的に行い、うつ病が疑われる場合は励ましを避けて休養を勧め、自殺念慮を必ず確認します。患者の言葉の「向き」に耳を傾ける姿勢は、精神科に限らずあらゆる診療で役立つ視点です。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】「仕事ができない」という同じ訴えでも、その語り方からうつ病らしさを見分けられるかが問われている。
うつ病の患者の語り方の特徴
うつ病(大うつ病性障害)では、抑うつ気分や興味・喜びの喪失に加え、思考制止(考えが進まない、頭が回らない、決断できない)、精神運動制止、易疲労感、集中力低下などが生じる。病前性格として、几帳面・真面目・責任感が強い・他者への配慮を重んじる(メランコリー親和型性格、執着気質)人が多いとされ、「やらなければならない」という義務感は保たれたまま、能力が追いつかずに苦しむという構図になりやすい。そのため、できない原因を自分の側に求め、自責的に語る傾向がある。
うつ病らしくない語り方
一方、「やりたくない」「したくない」「合っていない」といった、意欲の向き先の問題(動機づけ)として語られる訴えや、不快な状況を避ける回避的な語り方、原因を環境や他者に帰する他責的な語り方は、典型的なうつ病の臨床像とは異なる。こうした訴えは、明らかなストレス因に反応して生じる適応障害や、職場への不適応、性格傾向によるものなどをまず考える。
考え方
各選択肢を「やる気(義務感)はあるが能力が追いつかない」のか、「やりたくない・避けたい」のかという視点で読み分けると、義務感が保たれたまま思考制止を訴えている発言がうつ病に最も合致する。
選択肢考察
- ×a. 「やりたくないので仕事のことは考えないようにしています」
やりたいかどうかという動機づけの問題として語られており、仕事について考えることを意図的に避ける回避的な態度がうかがえる。うつ病ではむしろ、仕事のことが頭から離れず、できない自分を責め続けることが多い。ストレス因に対する反応としての適応障害などをまず考える語り方である。
- ○b. 「やらないといけないのですが頭が回りません」
「やらないといけない」という義務感・責任感は保たれている一方で、「頭が回らない」と考えが進まない状態を訴えている。これはうつ病の中核症状の一つである思考制止(思考抑制)を示す表現であり、集中力や判断力の低下も含まれる。真面目で責任感の強い病前性格の人が、意欲はあるのに能力が追いつかず苦しむという、うつ病に典型的な語り方である。
- ×c. 「上司にすぐ怒られるので,したくありません」
上司に叱られるという不快な状況を避けたいという回避的な訴えであり、原因を外部(上司)に置いている。仕事をする意思自体が乏しく、義務感を保ったまま苦しむうつ病の臨床像とは異なる。職場の対人関係をストレス因とする適応障害などを考える語り方である。
- ×d. 「この仕事は自分にはあっていません」
仕事が自分に合うか合わないかという適性・好みの観点で語っており、仕事をしない理由を仕事の側に求めている。うつ病に多い自責的な語り方(自分の能力が落ちた、自分が悪い)とは異なり、職場不適応や適応障害を疑わせる訴えである。
- ×e. 「ものを考えるとすぐ眠くなります」
考えようとすると眠くなるため仕事ができないという訴えは、課題から逃れる回避的な反応とも解釈でき、うつ病の思考制止とは性質が異なる。うつ病ではむしろ不眠(特に早朝覚醒や中途覚醒)が典型的である。なお、日中の過度の眠気が主訴の場合は、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの睡眠障害、薬剤の影響なども鑑別に挙がる。
うつ病(DSM-5の大うつ病エピソード)の診断基準の要点
以下の9症状のうち5つ以上が2週間以上ほぼ毎日続き、そのうち少なくとも1つは(1)または(2)であること。 (1) 抑うつ気分 (2) 興味または喜びの著しい減退 (3) 食欲・体重の変化(減少または増加) (4) 不眠または過眠 (5) 精神運動焦燥または制止 (6) 易疲労性または気力の減退 (7) 無価値感または過剰・不適切な罪責感 (8) 思考力・集中力の減退または決断困難 (9) 死についての反復思考、自殺念慮・自殺企図
うつ病でみられるその他の特徴
・日内変動: 朝方に症状が重く、夕方にかけて軽くなる。 ・睡眠障害: 早朝覚醒が典型的。 ・微小妄想: 重症例では、貧困妄想・罪業妄想・心気妄想がみられる。 ・病前性格: メランコリー親和型性格(几帳面、秩序を重んじる、他者への配慮)や執着気質(熱中しやすい、凝り性、責任感が強い)が知られる。
適応障害
明確なストレス因に反応して、その発生から3か月以内に情緒面・行動面の症状が出現し、ストレス因が去れば通常6か月以内に改善する。ストレス因から離れると症状が軽くなりやすく、「その状況がいやだ」「避けたい」という形で語られることが多い。他の精神疾患(うつ病など)の診断基準を満たす場合はそちらを優先する。
診察での留意点
うつ病が疑われる患者には、励ましや安易な叱咤を避け、休養の必要性を伝える。重大な決断(退職・離婚など)は回復まで先送りするよう助言し、自殺念慮の有無を必ず確認する。
POINT
・うつ病の患者は「やらなければならないのにできない」と義務感を保ったまま、能力低下を自責的に訴える。 ・「頭が回らない」は思考制止の表現で、うつ病の中核症状の一つである。 ・「やりたくない」「合わない」「避けたい」といった回避的・他責的な訴えは、適応障害などをまず考える。 ・うつ病の睡眠障害は早朝覚醒を典型とする。
