叩けば響く、膨らみすぎた肺―打診音は「空気の量」で読み解く
第101回医師国家試験 C問題 第22問
国試問題にチャレンジ
打診で鼓音を呈するのはどれか。
- a.肺炎
- b.肺気腫
- c.無気肺
- d.肺水腫
- e.肺線維症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胸部打診の音は、胸壁の下にある空気の量で決まります。含気が増えれば鼓音(過共鳴音)、正常肺では清音、含気が減ったり液体・実質組織が増えたりすれば濁音となります。肺気腫は肺胞壁の破壊とエアトラッピングで肺が過膨張するため鼓音を呈し、肝濁音界の低下や心濁音界の縮小を伴います。一方、肺炎・無気肺・肺水腫は含気が減って濁音となり、肺線維症は打診ではほぼ清音で、捻髪音とばち指が特徴です。「空気が増えるか減るか」という原理で打診・聴診・声音振盪を組み合わせて理解しておくと、ベッドサイドでの鑑別に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
打診音は「その下にある空気の量」で決まる
胸部の打診では、指で胸壁を叩いて生じる音の高さ・大きさ・響き方から、胸壁の下にある組織が空気に富むか、液体や実質の多い組織かを推測する。基本的な考え方は次のとおりである。 ・含気が多い → 低く大きく長く響く音(鼓音、過共鳴音) ・正常な肺 → 清音(共鳴音) ・含気が少ない、または液体・実質組織が多い → 短く鈍い音(濁音)。心臓や肝臓の上、胸水の貯留部位などでは濁音となる。
選択肢の判断
各疾患で肺の含気量が増えるのか減るのかを考えればよい。肺胞壁が破壊されて気腔が拡大し、空気が肺内に閉じ込められる(エアトラッピング)肺気腫は、含気量が増加する代表的な疾患であり、打診で鼓音(過共鳴音)を呈する。一方、肺胞が滲出液で満たされる肺炎、肺胞がつぶれる無気肺、肺胞に液体が漏れ出す肺水腫はいずれも含気が減って濁音となる。肺線維症は肺が硬く小さくなるが、打診では大きな変化が出にくい。
用語について
厳密には、含気が過剰な肺の上で聴かれる音を「過共鳴音」、胃泡や腸管ガス・気胸のように大きな空気腔の上で聴かれる太鼓のような音を「鼓音」と区別することがある。国家試験では両者を区別せず、含気の増加による打診音を「鼓音」と表現することが多く、本問もその立場で出題されている。
選択肢考察
- ×a. 肺炎
誤り。肺炎(特に大葉性肺炎などの浸潤影が広い肺炎)では、肺胞腔内が炎症細胞や滲出液で満たされ(硬化、consolidation)、その部位の含気が減少するため、打診では濁音となる。同じ部位では声音振盪の増強、気管支呼吸音、水泡音(coarse crackles)なども聴取される。ただし病変が小さい、あるいは深部にある場合には、打診で異常が捉えにくいこともある。
- ○b. 肺気腫
正解。肺気腫では終末細気管支より末梢の気腔が異常に拡大し、肺胞壁が破壊される。肺の弾性収縮力が低下するため、呼気時に末梢気道がつぶれやすくなり、吐き出しきれない空気が肺内に残る(エアトラッピング、肺の過膨張)。こうして胸郭内の含気量が増えるため、打診では鼓音(過共鳴音)を呈する。過膨張により横隔膜が低位となり、肝濁音界の低下や心濁音界の縮小・消失もみられる。視診ではビア樽状胸郭、聴診では呼吸音の減弱や呼気延長が特徴である。
- ×c. 無気肺
誤り。無気肺は、気管支の閉塞(腫瘍、痰、異物など)や外からの圧迫により、末梢の肺胞に空気が入らずに肺が虚脱した状態である。含気が失われるため打診では濁音となる。閉塞性無気肺では、患側の呼吸音減弱、容積減少による縦隔・気管の患側への偏位、横隔膜の挙上などを伴う。
- ×d. 肺水腫
誤り。肺水腫は、左心不全による肺毛細血管圧の上昇や、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などの血管透過性亢進によって、血管内の水分が間質、さらに肺胞腔内へ漏れ出した状態である。肺胞内に液体がたまって含気量が減るため、打診では濁音を呈しうる。心不全ではしばしば胸水も合併し、下肺野の濁音がより明らかとなる。聴診では両側下肺野を中心に水泡音を聴取する。
- ×e. 肺線維症
誤り。肺線維症では肺胞壁(間質)に線維化が起こって肺が硬く縮み、肺活量や全肺気量が減少する拘束性換気障害を呈する。含気量が増えることはないため鼓音にはならない。打診ではほぼ正常の清音であることが多く、線維化が高度で肺容積が小さくなると、濁音界の上昇ややや濁った音を認めることがある。特徴的な身体所見は、両側下肺背側で吸気終末に聴かれる捻髪音(fine crackles)とばち指である。
打診音の種類
・清音(共鳴音):正常な肺野の上で聴かれる。 ・過共鳴音(鼓音):正常より含気が多い。肺気腫、気管支喘息の発作時(過膨張)、気胸など。 ・鼓音:大きな空気腔の上。胃泡(Traube の三角)、腸管ガス、大きな気胸など。 ・濁音:含気が少ない、または液体・実質組織が多い。肺炎、無気肺、胸水、肺腫瘍、胸膜肥厚、心臓・肝臓の上など。
呼吸器疾患の身体所見の比較
・肺気腫:打診 鼓音(過共鳴音)、声音振盪 減弱、呼吸音 減弱・呼気延長 ・気胸:打診 鼓音、声音振盪 減弱〜消失、呼吸音 減弱〜消失 ・胸水:打診 濁音、声音振盪 減弱〜消失、呼吸音 減弱〜消失 ・肺炎(硬化):打診 濁音、声音振盪 増強、呼吸音 気管支呼吸音・水泡音 ・無気肺:打診 濁音、声音振盪 減弱(気管支閉塞時)、呼吸音 減弱、縦隔は患側へ偏位 ・肺線維症:打診 ほぼ清音、呼吸音 捻髪音(fine crackles)、ばち指
COPD(慢性閉塞性肺疾患)における過膨張の所見
ビア樽状胸郭、横隔膜の低位・平低化、肝濁音界の低下、心濁音界の縮小、呼吸補助筋の使用、口すぼめ呼吸、胸部X線での肺野の透過性亢進や滴状心など。
POINT
・打診音は胸壁下の含気量で決まる:含気増加 → 鼓音(過共鳴音)、含気減少・液体貯留 → 濁音。 ・鼓音(過共鳴音):肺気腫、気胸。 ・濁音:肺炎、無気肺、肺水腫、胸水。 ・肺線維症は打診でほぼ正常(清音)、捻髪音とばち指が特徴。 ・肺気腫では肝濁音界の低下・心濁音界の縮小を伴う。
