収縮できない頸部からの出血―頸管妊娠の大出血を「血流遮断」と「摘出」で止める
第101回医師国家試験 B問題 第118問
国試問題にチャレンジ
頸管妊娠で容易に止血できない場合の緊急治療はどれか。2つ選べ。
- a.円錐切除術
- b.頸管縫縮術
- c.子宮内容除去術
- d.子宮動脈塞栓術
- e.単純子宮全摘出術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
頸管妊娠は子宮頸管に着床した異所性妊娠で、頸部は筋層が薄く収縮による生理的結紮が働かないうえ、子宮動脈の分枝が集まり血流が豊富なため、大量出血から出血性ショックに至りやすい病態です。容易に止血できない場合は、血流を遮断する子宮動脈塞栓術か、出血源を臓器ごと摘出する子宮全摘出術が緊急治療となり、実際には圧迫タンポンやバルーン圧迫での一時止血から段階的に進めます。子宮内容除去術は収縮できない付着部から絨毛をはがして大出血を誘発するため、止血の準備なしには行ってはならず、円錐切除術や頸管縫縮術はそれぞれ頸部上皮内腫瘍、頸管無力症に対する手術で本病態とは無関係です。全身状態が安定していればメトトレキサートなどによる保存的治療も選択肢となり、早期の超音波診断が治療の幅を広げます。「出血源を傷つけず、血流を断つか取り除く」という考え方は、産科危機的出血全般への対応にも通じる重要な原則です。
解答・解説
正解はd, eです
頸管妊娠は、受精卵が子宮体部の内膜ではなく子宮頸管の粘膜に着床した異所性妊娠(子宮外妊娠)の一型である。頸管は筋層が薄く、平滑筋よりも線維性結合組織に富むため、子宮体部のように筋層が収縮して血管を締め付ける「生理的結紮」がほとんど働かない。さらに、子宮動脈は子宮頸部の高さで子宮に達し、上行枝と下行枝(頸腟枝)に分かれるため、頸部には太い血管が豊富に分布している。絨毛がこの部位の組織に深く侵入すると、ひとたび出血が始まれば短時間で大量出血となり、出血性ショックから母体死亡に至る危険がある。 本問は「容易に止血できない場合の緊急治療」を問うている。考え方の軸は次の2点である。 1) 出血源(頸部の絨毛付着部)をさらに損傷する操作は出血を悪化させるので避ける。 2) 血流そのものを遮断するか、出血源を臓器ごと取り除くことで止血を確実にする。 実際の手順としては、まず輸液・輸血で循環を維持しつつ、腟内にガーゼを強く詰める圧迫タンポン、頸管内へのバルーンカテーテル挿入による圧迫、頸管枝を結紮する縫合などで一時的な止血を試みる。これで制御できなければ、血管造影下の子宮動脈塞栓術(UAE)で子宮への血流を遮断する。塞栓術が施行できない施設や状況、あるいは塞栓術後も出血が続く場合には、救命を優先して子宮全摘出術を行う。この流れに合致する選択肢が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 円錐切除術
誤り。円錐切除術は子宮頸部を外子宮口を中心に円錐状に切除する手術で、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN3)や上皮内癌、微小浸潤癌の診断・治療に用いられる。妊娠組織が付着した血流豊富な頸部を切り込むことになり、出血を止めるどころか新たな出血を招く。頸管妊娠の止血法にはならない。
- ×b. 頸管縫縮術
誤り。頸管縫縮術(シロッカー手術、マクドナルド手術)は、子宮頸管無力症で妊娠中期以降に頸管が無痛性に開大して流早産となるのを防ぐため、頸管を糸で縛って閉じる手術である。子宮内の正常妊娠を継続させる目的の手術であり、頸管自体に着床した妊娠からの出血を止める効果はない。頸管を縛っても出血源である絨毛付着部の血流は遮断されない。
- ×c. 子宮内容除去術
誤り。子宮内容除去術(掻爬術・吸引術)は流産などで子宮腔内に残った妊娠組織を除去する処置である。頸管妊娠に対して止血の準備なしに行うと、収縮できない頸部の付着部から絨毛をはがすことになり、制御不能な大量出血を引き起こして母体を失血死させる危険がある。頸管妊娠では原則として禁忌と考える。止血が得られ全身状態が安定している例で、メトトレキサート投与や子宮動脈塞栓術の後に補助的に行われることはあるが、「容易に止血できない場合の緊急治療」には該当しない。
- ○d. 子宮動脈塞栓術
正解。子宮動脈塞栓術(UAE: uterine artery embolization)は、大腿動脈からカテーテルを挿入し、X線透視下に内腸骨動脈から子宮動脈へ進め、ゼラチンスポンジなどの塞栓物質で血流を遮断する方法である。頸部の出血源に流入する血流を直接断つことができ、開腹せずに止血を得られ、子宮を温存できる可能性がある。腟内タンポンやバルーン圧迫で止まらない出血に対して次に選択される緊急止血法である。側副血行路として卵巣動脈からの血流が残る場合は、その塞栓を追加することもある。
- ○e. 単純子宮全摘出術
正解。単純子宮全摘出術は出血源である子宮頸部を子宮ごと摘出するため、最も確実な止血法である。妊孕性は失われるが、塞栓術を行える環境がない場合、塞栓術でも止血できない場合、出血性ショックで一刻を争う場合には、母体救命を最優先して選択される。開腹下に子宮動脈(必要なら内腸骨動脈)を結紮して止血を試み、それでも制御できなければ子宮摘出に進むという流れもある。
頸管妊娠の概要
・異所性妊娠のうち、頻度はまれ(異所性妊娠全体の1%未満)とされる。子宮内操作の既往(人工妊娠中絶、掻爬術)、帝王切開既往、体外受精などの生殖補助医療がリスク因子に挙げられる。 ・症状: 無月経に続く無痛性の性器出血が典型的である。内診では、子宮体部に比べて頸部が不釣り合いに膨大し(砂時計状・樽状)、外子宮口がやや開いていることがある。 ・診断: 経腟超音波で子宮腔内に胎嚢がなく、内子宮口より下方の頸管内に胎嚢(しばしば心拍を伴う)を認める。進行流産で胎嚢が頸管に下降してきた状態との鑑別が重要で、頸管妊娠では胎嚢周囲に血流があり、経腟プローブで軽く押しても胎嚢が動かない点が参考になる。
治療の選択
・出血が少なく全身状態が安定し、妊孕性温存を望む場合: メトトレキサート(MTX)の全身投与や胎嚢内への局所注入、塩化カリウムの胎嚢内注入などによる保存的治療を行い、hCGの低下を確認する。必要に応じて子宮動脈塞栓術を先行させてから内容除去を行う。 ・大量出血時: 腟内圧迫タンポン、頸管内バルーン圧迫、頸管枝の結紮縫合 → 子宮動脈塞栓術 → 子宮全摘出術(または開腹下の子宮動脈・内腸骨動脈結紮)という順で、より確実な止血へ段階的に進む。
子宮動脈塞栓術が用いられる他の場面
・前置胎盤や癒着胎盤による分娩時大量出血、弛緩出血などの産科危機的出血 ・子宮筋腫(症状緩和目的) いずれも「子宮への血流を遮断して止血する」という同じ発想である。
POINT
・頸管妊娠は頸部の筋層が薄く収縮による止血が働かないうえ、血流が豊富なため大量出血をきたしやすい。 ・止血困難時の緊急治療は、子宮動脈塞栓術と子宮全摘出術である。 ・子宮内容除去術は大量出血を誘発するため、止血の準備なしに行ってはならない。 ・円錐切除術はCIN・上皮内癌、頸管縫縮術は頸管無力症の治療であり、本病態とは無関係である。 ・全身状態が安定していればメトトレキサートなどによる保存的治療も選択肢となる。
