StudyMed医師国家試験

こするとむける乳児の赤い皮膚―ブドウ球菌の毒素が狙うデスモグレイン1

第101回医師国家試験 A問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第101回 A問題 第6問

生後3か月の乳児。昨日から左肩に紅斑が出現し,本日,全身に拡大傾向を認めたため来院した。顔面と胸部との写真(A,B)を別に示す。 正しいのはどれか。2つ選べ。

第101回 A問題 第6問の問題画像
  1. a.溶連菌感染症である。
  2. b.粘膜症状はまれである。
  3. c.急性糸球体腎炎を続発する。
  4. d.Nikolsky現象が陽性となる。
  5. e.副腎皮質ステロイド薬が有効である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児で急速に広がる紅斑の正体を見抜く問題だ。注目してほしいのは、年齢、広がるスピード、そして皮膚の表面の変化。写真では、顔面全体がびまん性に赤く、細かく剝がれかけた表皮が一面についている。胸部にも鮮やかな紅斑が広がっているね。ここから何を考えるかな。
医学生医学生
赤い発疹が全身に広がると聞くと、猩紅熱が思い浮かびます。溶連菌感染症でしょうか。
ドクタードクター
紅斑の見た目が似ているから、そう考えたくなるね。でも猩紅熱は学童期に多く、咽頭炎が先行して苺舌や口囲蒼白を伴う。生後3か月では母体からの移行抗体もあり、まれなんだ。今回は乳児で、局所の紅斑が1日で全身に広がり、表皮が剝がれている。
医学生医学生
皮膚科の講義で習った、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、SSSSですか。
ドクタードクター
その通り。鼻腔や咽頭、結膜、臍などに感染した黄色ブドウ球菌が表皮剝脱毒素を産生し、それが血流に乗って全身の皮膚に届く。その結果、熱傷のように表皮が剝がれるんだ。だから原因は溶連菌ではない。
医学生医学生
菌そのものが全身の皮膚にいるわけではなく、毒素が広がるんですね。
ドクタードクター
そう、毒素病変なんだ。だから水疱の内容や血液の培養は陰性のことが多く、菌は原発巣から見つかる。では、この毒素は表皮のどこを壊すと思う?
医学生医学生
天疱瘡の授業で出てきたデスモグレインが関係しているんでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。表皮剝脱毒素はタンパク分解酵素で、デスモグレイン1を特異的に切断する。デスモグレイン1は表皮の上層に多いから、顆粒層付近で裂け目ができる。だからSSSSでは、一見正常な皮膚でも軽くこするだけで表皮がずれて剝がれる、Nikolsky現象が陽性になるんだ。
医学生医学生
では粘膜はどうなりますか。皮膚がこれだけむけるなら、口の中もただれそうです。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだ。口腔などの粘膜では、主にデスモグレイン3が細胞同士の接着を担っている。デスモグレイン1が切られても接着が保たれるから、粘膜症状はまれなんだ。口の周りに放射状の亀裂や痂皮ができることはあっても、口腔粘膜そのもののびらんはまれだよ。
医学生医学生
落葉状天疱瘡が粘膜を侵さないのと同じ理屈ですね。抗体の標的もデスモグレイン1でした。
ドクタードクター
見事なつながりだ。この粘膜病変の有無は、中毒性表皮壊死症(TEN)やStevens-Johnson症候群との重要な鑑別点になる。TENは多くが薬剤性で、表皮全層が壊死し、粘膜病変を伴うからね。
医学生医学生
急性糸球体腎炎は、溶連菌感染の後に起こるものでしたよね。
ドクタードクター
その通り。A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎や膿痂疹のあと、潜伏期を経て免疫複合体の関与で起こる。SSSSで急性糸球体腎炎が続発することはないよ。
医学生医学生
治療は、全身の皮膚が炎症を起こしているので、ステロイドを使いたくなります。
ドクタードクター
そこは要注意だ。SSSSは細菌感染と毒素による病気だから、ステロイドで免疫を抑えるとかえって感染を悪化させるおそれがある。治療の基本は、セファゾリンなどのβラクタム系抗菌薬の全身投与で、MRSAが疑われればバンコマイシンなどを使う。さらに、びらん面からの水分喪失に対する輸液と、保湿や非固着性ドレッシングによる皮膚の保護を組み合わせるんだ。
医学生医学生
小児科の実習で、熱傷の子と同じように輸液管理をしていた子がいたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさに「熱傷様」だからね。最後に発展知識をまとめよう。SSSSが乳幼児に多いのは、毒素に対する中和抗体がなく、腎臓からの毒素排泄も未熟だからだ。成人では腎不全や免疫不全の患者にまれに起こり、予後が悪い。また、同じ毒素が局所にとどまったものが水疱性膿痂疹で、これが全身化したのがSSSSだと考えると理解しやすい。
医学生医学生
TENとの区別に迷ったときはどうすればいいですか。
ドクタードクター
剝がれた表皮の凍結切片で裂け目の深さを見る方法が有用だ。SSSSなら浅い層、TENなら表皮全層が剝がれている。治療方針がまったく違うから、この鑑別は臨床でとても重要だよ。小児ではSSSSは適切な治療で瘢痕を残さずに治ることが多い。

まとめ

乳幼児で局所から始まった紅斑が急速に全身へ広がり、落屑や表皮剝離を伴う場合は、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を考えます。黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素が表皮上層のデスモグレイン1を切断するため、Nikolsky現象は陽性となる一方、デスモグレイン3が接着を担う粘膜は保たれ、粘膜症状はまれです。原因は溶連菌ではなく、急性糸球体腎炎も続発しません。治療は抗菌薬(MRSAも考慮)、輸液、スキンケアが基本で、ステロイドは感染を悪化させるおそれがあるため用いません。デスモグレインの分布から粘膜病変の有無を説明できると、天疱瘡やTENとの鑑別も含めた水疱性疾患全体の理解が深まります。

解答・解説

正解はb, dです

所見の整理

・生後3か月の乳児。 ・前日に左肩の紅斑が出現し、翌日には全身へ広がっている。1日単位で急速に拡大している。 ・写真A(顔面):顔面全体がびまん性に赤く、細かい鱗屑(薄く剝がれかけた表皮)が一面に付着している。 ・写真B(胸部):体幹に境界が比較的はっきりした、びまん性で鮮紅色の紅斑がみられる。辺縁部は細かい点状の紅斑が集まったような性状である。

診断へのプロセス

乳幼児で、局所から始まった紅斑が短時間で全身に広がり、落屑(表皮の剝離)を伴っている。この組み合わせから、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)を考える。SSSSでは、鼻腔・咽頭・結膜・臍などの局所に感染した黄色ブドウ球菌が表皮剝脱毒素(exfoliative toxin:ET)を産生する。毒素は血流に乗って全身の皮膚に到達し、熱傷のような表皮剝離を起こす。臨床像には次の特徴がある。 ・発熱や不機嫌に続き、口囲・眼囲・頸部・腋窩・鼠径などの間擦部から、触れると痛がる紅斑が出現する。紅斑は数日以内に全身に広がる。 ・口の周りに放射状の亀裂や痂皮ができ、顔貌が特徴的になる。 ・弛緩性の水疱やびらんができ、軽く擦るだけで表皮が剝がれる(Nikolsky現象陽性)。 ・口腔などの粘膜は通常おかされない。 鑑別には次のものが挙がる。 ・猩紅熱(A群β溶血性レンサ球菌の発赤毒素による):学童に多く、口囲蒼白や苺舌を伴う。 ・中毒性表皮壊死症(TEN):多くは薬剤性で、粘膜病変を伴い、表皮全層が壊死する。 ・川崎病:5日以上の発熱、眼球結膜充血、口唇の発赤などを伴う。 本例は年齢、急速な拡大、落屑を伴う紅斑という経過からSSSSと判断できる。

設問への考え方

SSSSの原因菌、臨床的特徴(粘膜病変の有無、Nikolsky現象)、合併症、治療方針のそれぞれについて正誤を判断する。溶連菌感染症との取り違えを誘う選択肢(a、c)と、治療に関する選択肢(e)に注意する。

選択肢考察

  1. ×a.  溶連菌感染症である。

    SSSSの原因は黄色ブドウ球菌が産生する表皮剝脱毒素であり、溶連菌(A群β溶血性レンサ球菌)ではない。胸部のびまん性紅斑は猩紅熱の紅斑に似ている。しかし猩紅熱は、発熱と咽頭炎が先行してから皮疹が出る疾患で、口の周りだけ皮疹がない口囲蒼白や苺舌を伴う。好発年齢は学童期であり、母体からの移行抗体がある生後3か月の乳児ではまれである。顔面に強い紅斑と落屑がある本例の所見にも合わない。

  2. ○b.  粘膜症状はまれである。

    SSSSの表皮剝脱毒素は、表皮の細胞同士をつなぐデスモグレイン1を切断し、表皮の浅い層(顆粒層付近)に裂け目を作る。口腔などの粘膜上皮では主にデスモグレイン3が細胞接着を担っており、デスモグレイン1が切断されても接着が保たれる。そのため粘膜はおかされにくい。口の周りに亀裂や痂皮ができても、口腔粘膜そのもののびらんはまれである。この点は、粘膜病変を必ず伴うTENやStevens-Johnson症候群との重要な鑑別点になる。

  3. ×c.  急性糸球体腎炎を続発する。

    急性糸球体腎炎は、A群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎や皮膚感染症(膿痂疹)のあと、約1〜3週(皮膚感染では3〜6週程度)の潜伏期を経て発症する。免疫複合体の関与による溶連菌感染後糸球体腎炎である。ブドウ球菌によるSSSSで急性糸球体腎炎が続発することはない。なお、ブドウ球菌感染に関連する腎炎(IgA優位の感染関連腎炎)は、主に基礎疾患をもつ成人でみられる別の病態である。

  4. ○d.  Nikolsky現象が陽性となる。

    Nikolsky現象とは、一見正常な皮膚を指で軽くこすると、表皮がずれて剝がれたり水疱ができたりする現象である。SSSSでは毒素によって表皮の浅い層の細胞接着が全身性に失われるため、紅斑部だけでなく、一見正常にみえる皮膚でもこの現象が陽性になる。Nikolsky現象はほかに、尋常性天疱瘡やTENでも陽性となる。

  5. ×e.  副腎皮質ステロイド薬が有効である。

    SSSSは細菌感染と、それが産生する毒素による疾患である。治療の基本は、黄色ブドウ球菌に有効な抗菌薬の全身投与である。セファゾリンなどのβラクタム系を使い、MRSAが疑われる場合はバンコマイシンなどを用いる。これに、びらん面からの水分喪失に対する輸液、保湿や非固着性ドレッシングによる皮膚の保護を組み合わせる。副腎皮質ステロイド薬は免疫を抑えて感染を悪化させるおそれがあるため、用いない。

SSSSの病態

・原因:黄色ブドウ球菌(主にファージⅡ群)が産生する表皮剝脱毒素(ETA、ETB)。 ・機序:ETはセリンプロテアーゼで、デスモグレイン1を特異的に切断する。その結果、表皮の顆粒層付近で裂隙ができる。水疱は角層直下の浅い部位にでき、菌自体は水疱内にいない(毒素病変である)。そのため、水疱内容や血液の培養は陰性のことが多い。菌は鼻腔・咽頭・結膜・臍などの原発巣から検出される。 ・好発:新生児〜乳幼児(おおむね6歳以下)。毒素に対する中和抗体をまだもたず、腎臓からの毒素排泄も未熟なためである。成人では、腎不全患者や免疫不全患者にまれに発症する。新生児の重症型はRitter病と呼ばれる。 ・予後:小児では適切な治療で瘢痕を残さずに治り、死亡率は低い。成人例では予後が悪い。

デスモグレインの分布と疾患

・デスモグレイン1:表皮の上層で多く発現する。粘膜での発現は少ない。 ・デスモグレイン3:表皮の下層や粘膜で多く発現する。 ・SSSSや落葉状天疱瘡(抗デスモグレイン1抗体)は表皮の浅い層を障害し、粘膜は保たれる。尋常性天疱瘡の粘膜優位型(抗デスモグレイン3抗体)は粘膜病変が主体となる。

鑑別の要点

・TEN:主に薬剤が原因で、全年齢に起こる。表皮全層が壊死し、粘膜病変を伴い、死亡率が高い。治療にはステロイドなどを用いる。SSSSとの区別には、剝離した表皮の凍結切片で裂隙の深さ(SSSSは浅い、TENは全層)をみる方法が有用である。 ・猩紅熱:溶連菌の発赤毒素による。咽頭炎、苺舌、口囲蒼白、びまん性の細かい点状紅斑があり、回復期に膜様落屑がみられる。急性糸球体腎炎やリウマチ熱を続発することがある。 ・伝染性膿痂疹:水疱性膿痂疹も同じ表皮剝脱毒素による局所病変である。これが全身化したものがSSSSにあたる。

POINT

・乳幼児で、局所から始まった紅斑が急速に全身へ広がり、落屑・表皮剝離を伴う→SSSS。 ・原因は黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素(デスモグレイン1を切断)である。 ・Nikolsky現象は陽性、粘膜病変はまれ(TEN・SJSとの鑑別点)。 ・治療は抗菌薬(MRSAも考慮)、輸液、スキンケア。ステロイドは用いない。 ・急性糸球体腎炎を続発するのは溶連菌感染症であり、SSSSではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。