排卵しない卵巣、厚くなる内膜―PCOSの陰に潜む子宮体癌を見逃さない
第101回医師国家試験 A問題 第40問
国試問題にチャレンジ
30歳の女性。未経妊。月経不順と過多月経とを主訴に来院した。内診では子宮は正常大で,付属器には腫瘤を触知しない。経腟超音波検査では,子宮内膜の厚さは24mmで,卵巣の被膜下には多数の小囊胞を認め,軽度に腫大している。 検査として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.腹腔鏡検査
- b.子宮鏡検査
- c.子宮卵管造影
- d.子宮頸部細胞診
- e.子宮内膜組織診
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
多囊胞性卵巣症候群では長期の無排卵により黄体ホルモンが分泌されず、エストロゲン単独の刺激が続くため、若年でも子宮内膜増殖症や子宮体癌(類内膜癌)のリスクが高まります。月経不順に著明な内膜肥厚を伴う場合は、子宮鏡で内腔を直接観察して病変の形態や範囲を確認し、子宮内膜組織診で増殖症・異型・癌の有無を病理学的に確定することが重要です。腹腔鏡は子宮外表や卵巣・腹膜、子宮卵管造影は卵管通過性、子宮頸部細胞診は子宮頸癌のスクリーニングを目的とした検査であり、内膜病変の精査には適しません。診断後は黄体ホルモン投与などで内膜を保護し、異型増殖症は前癌病変として扱います。病態生理から検査の目的を考える姿勢は、婦人科診療で検査を適切に選ぶための基本となります。
解答・解説
正解はb, eです
所見の整理
・30歳、未経妊の女性。 ・主訴は月経不順(排卵障害を示唆)と過多月経。 ・内診で子宮は正常大、付属器に腫瘤は触れない。 ・経腟超音波で子宮内膜厚24 mmと著明に肥厚している。 ・卵巣は被膜下に小囊胞が多数並び、軽度に腫大している(いわゆるネックレスサイン)。
診断へのプロセス
月経不順と、卵巣被膜下に多数の小卵胞が並ぶ所見から、背景に多囊胞性卵巣症候群(PCOS)が考えられる。PCOSでは排卵が起こりにくく、黄体が形成されないためプロゲステロンが分泌されない。その結果、子宮内膜はエストロゲンだけに長期間刺激され続け(unopposed estrogen:黄体ホルモンの拮抗を受けないエストロゲン作用)、内膜が過度に増殖する。こうして子宮内膜増殖症や、若年でも類内膜癌型の子宮体癌が発生しやすくなる。 閉経前女性の内膜厚は月経周期で変動するが、分泌期でもおおむね15 mm程度までにとどまることが多く、24 mmは明らかな肥厚である。過多月経・不正な出血パターンとあわせて、子宮内膜増殖症・子宮体癌のほか、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫などの子宮内腔病変を鑑別する必要がある。
設問の考え方
本問の焦点はPCOSの診断そのものではなく、「肥厚した子宮内膜に悪性病変がないか」を確かめることである。そのためには、子宮内腔を直接観察して病変の性状・範囲を把握する子宮鏡検査と、内膜組織を採取して病理学的に増殖症・異型の有無・癌を判定する子宮内膜組織診が適切である。
選択肢考察
- ×a. 腹腔鏡検査
腹腔鏡検査は腹腔内から子宮・卵巣・卵管の外表や骨盤腹膜を観察する検査で、子宮内膜症の診断、卵巣腫瘍の評価・手術、不妊症での卵管周囲癒着の評価などに用いる。子宮の内腔、すなわち肥厚した内膜は観察できないため、本例の目的には合わない。卵巣の「多数の小囊胞」は多房性の卵巣腫瘍ではなくPCOSに典型的な多数の小卵胞であり、腹腔鏡で精査すべき付属器腫瘤もない。
- ○b. 子宮鏡検査
子宮鏡は頸管から細径の内視鏡を挿入し、子宮内腔を直視下に観察する検査である。内膜の肥厚の分布、表面の不整や異常血管などの悪性を疑う所見、ポリープや粘膜下筋腫の有無、病変の範囲を確認でき、狙った部位から組織を採取することもできる。内膜肥厚の原因精査として適切である。
- ×c. 子宮卵管造影
子宮卵管造影は頸管から造影剤を注入してX線撮影し、主に卵管の通過性や子宮腔の形態異常(奇形、癒着など)を評価する不妊症の検査である。内膜の組織学的性状はわからず、内膜の悪性病変が疑われる場合にはその診断に役立たない。PCOSの診断に用いる検査でもない。
- ×d. 子宮頸部細胞診
子宮頸部細胞診は子宮頸癌やその前癌病変(子宮頸部上皮内腫瘍、CIN)の検出を目的とした検査である。本例で問題となっているのは子宮体部の内膜肥厚であり、頸部に異常を示唆する所見はない。頸部細胞診で内膜病変が偶然見つかることはあるが感度は低く、内膜病変の精査法としては不適切である。
- ○e. 子宮内膜組織診
内膜組織を採取して病理学的に調べることで、子宮内膜増殖症(異型の有無を含む)、子宮内膜異型増殖症、子宮体癌を確定・除外できる。内膜の悪性病変の確定診断には組織診が必須であり、長期の無排卵により内膜癌のリスクが高まるPCOS合併の内膜肥厚例では特に重要である。外来での内膜掻爬・吸引や、子宮鏡下の狙い生検で行う。
多囊胞性卵巣症候群(PCOS)
・生殖年齢女性に多い排卵障害の代表的原因である。 ・日本の診断基準(日本産科婦人科学会、2024年改訂)では、①月経周期異常、②多囊胞卵巣(超音波所見、またはAMH高値)、③アンドロゲン過剰症(高アンドロゲン血症または多毛・ざ瘡などの臨床症状)の3項目をすべて満たすものとされる。従来は③の代わりに「血中LH高値かつFSH正常」を含めていた。 ・肥満やインスリン抵抗性を伴うことが多い。 ・長期の無排卵によりプロゲステロンに拮抗されないエストロゲン刺激が続き、子宮内膜増殖症・子宮体癌(類内膜癌)のリスクが高まる。インスリン抵抗性・肥満も内膜増殖の背景となる。 ・内膜保護のため、挙児希望がなければ定期的な黄体ホルモン投与(消退出血を起こす)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬を用いる。挙児希望があれば排卵誘発を行う。
子宮内腔病変の検査の使い分け
・経腟超音波:内膜厚や内腔の占拠性病変のスクリーニング ・子宮鏡:内腔を直視し、病変の形態・範囲の確認や狙い生検 ・子宮内膜細胞診:スクリーニング ・子宮内膜組織診(内膜掻爬など):確定診断 ・ソノヒステログラフィー(生理食塩水を注入して行う超音波):ポリープ・粘膜下筋腫の描出 ・MRI:筋層浸潤の評価など、癌と診断された後の進展度評価
子宮内膜増殖症の分類(WHO分類)
異型を伴わない子宮内膜増殖症と、子宮内膜異型増殖症に分けられる。異型増殖症は子宮体癌へ進展するリスクが高く、癌が併存していることもある前癌病変として扱う。
POINT
・PCOSでは無排卵のためエストロゲンが単独で内膜を刺激し、若年でも子宮内膜増殖症・子宮体癌のリスクが上がる。 ・内膜肥厚を認めたら、子宮鏡で内腔を観察し、内膜組織診で悪性の有無を確認する。 ・腹腔鏡は腹腔側(子宮外表・卵巣・腹膜)の観察、子宮卵管造影は卵管通過性の検査、頸部細胞診は子宮頸癌のスクリーニングであり、内膜病変の精査には適さない。
