震える手、遅くなる動き―パーキンソニズムから原因疾患を見抜く
第100回医師国家試験 H問題 第33問
国試問題にチャレンジ
62歳の男性。最近,歩行と動作とが遅くなったため来院した。半年前から手が震えることに気付いていた。意識は清明。脳神経に異常はない。腱反射は正常で,病的反射はない。四肢に筋固縮を認め,安静時に左手の振戦を認める。 可能性が高い疾患はどれか。2つ選べ。
- a.Alzheimer病
- b.Huntington病
- c.Parkinson病
- d.多系統萎縮症
- e.多発性硬化症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
安静時振戦・筋固縮・無動・姿勢反射障害はパーキンソニズムの主要症候で、大脳基底核のドパミン系障害による錐体外路症状です。一側優位の安静時振戦で始まり、錐体路徴候や認知症を伴わず緩徐に進行する例はParkinson病が典型であり、パーキンソニズムが前景に立つ多系統萎縮症(MSA-P)は初期にParkinson病と区別しにくいため鑑別に挙がります。MSAは自律神経障害・小脳失調・錐体路徴候の合併、左右差の乏しさ、L-ドパ反応性不良などが手がかりで、MIBG心筋シンチやMRI所見も鑑別に役立ちます。Alzheimer病は認知症、Huntington病は舞踏運動、多発性硬化症は再発寛解する多巣性の中枢神経症状が主体で、パーキンソニズムとは臨床像が異なります。症候から障害部位を推定し、その部位を侵す疾患を列挙するという思考は、神経診察全般の基本となります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・62歳男性。半年前から手のふるえがあり、最近は歩行や動作が遅くなってきた。緩徐に進行する経過である。 ・神経所見:意識清明、脳神経に異常なし。腱反射は正常で病的反射(Babinski徴候など)もなく、錐体路(上位運動ニューロン)の障害を示す所見はない。 ・四肢の筋固縮と、左手の安静時振戦がある。
症候の解釈
動作が遅くなる(動作緩慢・無動)、筋固縮、安静時振戦は、いずれも大脳基底核(特に黒質-線条体のドパミン系)の障害で生じる錐体外路症状であり、これらがそろった状態をパーキンソニズム(Parkinson症候群)とよぶ。姿勢反射障害を加えた4つがパーキンソニズムの主要症候である。
鑑別の考え方
設問は「パーキンソニズムを示す可能性が高い疾患」を問うている。パーキンソニズムの原因の中心は、Parkinson病と、それ以外の神経変性疾患(多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、Lewy小体型認知症など)、および脳血管性・薬剤性パーキンソニズムである。 本例では、一側(左手)から始まる安静時振戦、固縮、動作緩慢という典型像があり、錐体路徴候も認知症もないので、Parkinson病が最も考えやすい。 一方、多系統萎縮症のうちパーキンソニズムが前景に立つ病型(MSA-P、かつての線条体黒質変性症)は、初期にはParkinson病と臨床的に区別しにくいことがある。経過とともに自律神経障害、小脳性運動失調、錐体路徴候が加わってくるが、発症早期には目立たないこともあるため、選択肢中ではParkinson病に次いでパーキンソニズムを呈する疾患として挙がる。 その他の選択肢は、主症状が認知症(Alzheimer病)、舞踏運動(Huntington病)、中枢神経の多発性の脱髄症状(多発性硬化症)であり、本例のようなパーキンソニズムを主体とする臨床像には合わない。
選択肢考察
- ×a. Alzheimer病
Alzheimer病は、アミロイドβの沈着(老人斑)とタウ蛋白の蓄積(神経原線維変化)を特徴とする神経変性疾患で、近時記憶障害から始まる進行性の認知機能低下が主症状である。見当識障害や視空間認知障害などを伴うが、パーキンソニズムは初期には目立たず、みられるとしても高度に進行した時期である。本例は認知機能障害の記載がなく、振戦・固縮・動作緩慢が主体であるため合わない。
- ×b. Huntington病
Huntington病は、第4染色体上のハンチンチン遺伝子のCAGリピート伸長による常染色体優性遺伝の神経変性疾患で、線条体(特に尾状核)が萎縮する。成人発症例では、不随意に踊るような舞踏運動、認知機能障害、性格変化・精神症状が三主徴である。本例には舞踏運動がなく、筋固縮と安静時振戦がみられる点で合わない。なお、若年発症例(Westphal型)では固縮を主体とすることがあるが、62歳の本例には当てはまらない。
- ○c. Parkinson病
Parkinson病は、中脳黒質のドパミン神経細胞が変性・脱落し(α-シヌクレインを含むLewy小体が出現)、線条体のドパミンが欠乏することで生じる。中高年に発症し、一側の手の安静時振戦(丸薬をまるめるような振戦)で始まることが多く、筋固縮(歯車様固縮)、無動・動作緩慢、姿勢反射障害へと進行する。症状の左右差が目立ち、錐体路徴候や小脳症状は通常みられない。本例は片側優位の安静時振戦、固縮、動作緩慢がゆっくり進行しており、錐体路徴候もないため、最も考えやすい疾患である。
- ○d. 多系統萎縮症
多系統萎縮症(MSA)は、オリゴデンドログリア内にα-シヌクレインが蓄積する(グリア細胞質内封入体)神経変性疾患で、パーキンソニズム、小脳性運動失調、自律神経障害(起立性低血圧、排尿障害、勃起障害など)、錐体路徴候がさまざまな組み合わせで出現する。パーキンソニズムが主体の病型(MSA-P、旧称:線条体黒質変性症)は、発症初期にはParkinson病との区別が難しい。MSAの振戦は安静時よりも姿勢時・動作時の不規則な振戦が多く、典型的な安静時振戦は少ないとされ、進行が速い、左右差が少ない、L-ドパの効果が乏しいといった違いもある。本例ではParkinson病がより典型的であるが、パーキンソニズムを呈する疾患として選択肢中でParkinson病の次に可能性があるのは本症である。
- ×e. 多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、中枢神経の白質に脱髄病変が時間的・空間的に多発する自己免疫性疾患で、若年成人(20〜40歳代)、女性に多い。視神経炎による視力低下、感覚障害、錐体路障害による筋力低下・腱反射亢進、小脳症状、膀胱直腸障害などが再発と寛解を繰り返しながら現れる。パーキンソニズムを呈することはまれであり、62歳で緩徐進行性の安静時振戦・固縮・動作緩慢を示し、腱反射正常・病的反射なしという本例とは合わない。
パーキンソニズムの4主徴
・安静時振戦:静止時に出現し、随意運動で軽減する4〜6Hz程度の振戦。指で丸薬をまるめるような動き(pill-rolling tremor)が典型。 ・筋固縮:関節を他動的に動かすときの持続的な抵抗。Parkinson病では歯車様固縮が特徴。 ・無動・動作緩慢:動作の開始が遅く、動きが小さく遅い。仮面様顔貌、小字症、小声などとして現れる。 ・姿勢反射障害:押されたときに姿勢を立て直せず転倒しやすい。前傾姿勢、小刻み歩行、すくみ足、突進現象を伴う。
パーキンソニズムをきたす主な疾患
・Parkinson病:一側優位の安静時振戦で発症することが多い。L-ドパが著効する。MIBG心筋シンチグラフィで心臓への取り込み低下、ドパミントランスポーター(DAT)シンチグラフィで線条体の集積低下。 ・多系統萎縮症(MSA-P/MSA-C):自律神経障害、小脳失調、錐体路徴候を伴う。MRIで被殻外側の線状の高信号(T2強調像)や被殻萎縮(MSA-P)、橋の十字サイン・小脳萎縮(MSA-C)。L-ドパの効果が乏しい。 ・進行性核上性麻痺:垂直性眼球運動障害(特に下方視)、頸部優位の固縮、早期からの易転倒性。MRIで中脳被蓋の萎縮(ハミングバードサイン)。 ・大脳皮質基底核変性症:著明な左右差、肢節運動失行、他人の手徴候、皮質性感覚障害。 ・Lewy小体型認知症:認知機能の変動、具体的な幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常症。 ・脳血管性パーキンソニズム:下半身優位(歩行障害中心)、振戦は少ない、錐体路徴候や認知症を伴いやすい。 ・薬剤性パーキンソニズム:抗精神病薬、制吐薬(メトクロプラミドなど)などのドパミン受容体遮断作用による。左右差が少ない。
Parkinson病の治療
L-ドパ(ドパ脱炭酸酵素阻害薬との合剤)、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬、抗コリン薬、アマンタジンなどを用いる。進行期の症状変動(wearing-off現象など)に対して脳深部刺激療法が行われることもある。
POINT
・安静時振戦+筋固縮+動作緩慢=パーキンソニズム(錐体外路症状)。 ・一側優位の安静時振戦で始まり、錐体路徴候を伴わない緩徐進行例はParkinson病が典型。 ・多系統萎縮症(MSA-P)は初期にParkinson病と区別しにくいが、自律神経障害・小脳失調・錐体路徴候の合併、L-ドパ反応性不良、左右差が乏しいことなどが鑑別点。 ・Alzheimer病=認知症、Huntington病=舞踏運動・認知症・精神症状、多発性硬化症=若年女性の再発寛解する多巣性の中枢神経症状。
