どこに刺し、いつ刺さず、終わったらどうするか―腰椎穿刺の基本と禁忌
第100回医師国家試験 G問題 第94問
国試問題にチャレンジ
腰椎穿刺による脳脊髄液検査について正しいのはどれか。
- a.通常第2,3腰椎間で行う。
- b.頸静脈を圧迫すると髄液圧は低下する。
- c.終了後は約1時間の床上安静が必要である。
- d.一側性のうっ血乳頭であれば問題なく施行できる。
- e.穿刺部に感染巣がある場合には抗菌薬投与下に行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰椎穿刺は、成人の脊髄下端(L1〜L2)より下のL3/4またはL4/5間で、Jacoby線を目安に行う手技です。頸静脈を圧迫すると頭蓋内圧の上昇が伝わって髄液圧は上昇するのが正常であり(Queckenstedt試験)、上昇しなければくも膜下腔の通過障害を疑います。頭蓋内圧亢進(うっ血乳頭は一側性でも否定できない)、穿刺部の感染、出血傾向は禁忌で、脳ヘルニアや髄膜炎・硬膜外膿瘍、硬膜外血腫の危険があります。終了後は硬膜の穿刺孔からの髄液漏出による腰椎穿刺後頭痛に注意して臥床安静をとるのが一般的な管理で、細いペンシルポイント型針の使用も予防に役立ちます。手技の一つひとつを解剖と病態生理に結びつけて理解することが、安全な検査と正確な診断につながります。
解答・解説
正解はcです
腰椎穿刺(ルンバール)は、腰部のくも膜下腔に針を刺入して脳脊髄液(髄液)を採取し、髄液圧の測定や細胞数・蛋白・糖・培養などの検査を行う手技である。髄膜炎・脳炎、くも膜下出血(CTで所見が乏しい場合)、Guillain-Barré症候群、多発性硬化症などの診断に用いられる。
本問を解く考え方
腰椎穿刺について押さえるべき事項は、(1) どこで刺すか(穿刺部位と解剖学的根拠)、(2) 何を測るか(初圧とQueckenstedt試験の意味)、(3) 行ってはいけない場合(禁忌)、(4) 終了後の管理と合併症、の4点である。 (1) 成人の脊髄下端(脊髄円錐)はおおむね第1〜2腰椎の高さにあり、それより下のくも膜下腔には馬尾神経が浮遊しているのみである。そのため、脊髄を損傷しない第3/4腰椎間または第4/5腰椎間で穿刺する。目安は左右の腸骨稜上端を結ぶJacoby線で、第4腰椎棘突起(またはL4/5間)の高さに相当する。 (2) 頸静脈を圧迫すると頭蓋内の静脈血がうっ滞し、頭蓋内圧とともに髄液圧が速やかに上昇するのが正常反応である。 (3) 頭蓋内圧亢進(特にテント上腫瘤などの占拠性病変)がある場合、穿刺によって腰部の髄液圧が下がると頭蓋内との間に圧較差が生じ、脳ヘルニアを誘発しうるため禁忌となる。穿刺部位の皮膚・軟部組織感染、出血傾向も禁忌である。 (4) 穿刺後は穿刺孔からの髄液漏出による低髄液圧性頭痛(腰椎穿刺後頭痛)に注意し、臥床安静とする。 これらに照らすと、終了後に一定時間の床上安静をとるとする記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. 通常第2,3腰椎間で行う。
誤り。成人の脊髄円錐下端はL1〜L2レベルにあり、個人差でL2付近まで達することもあるため、L2/3間での穿刺は脊髄損傷の危険がある。通常はJacoby線(左右の腸骨稜上端を結ぶ線、L4棘突起付近)を指標に、L3/4間またはL4/5間で穿刺する。なお乳幼児では脊髄下端がより低い(新生児でL3付近)ため、L4/5間以下で穿刺するのが原則である。
- ×b. 頸静脈を圧迫すると髄液圧は低下する。
誤り。両側頸静脈を圧迫すると、頭蓋内から静脈血が流出しにくくなって頭蓋内の血液量が増え、頭蓋内圧が上がる。その圧は正常ではくも膜下腔を通じて腰部にも伝わるため、腰椎穿刺で測定している髄液圧は速やかに上昇し、圧迫を解除すると元に戻る(Queckenstedt試験陰性=正常)。脊髄腫瘍などでくも膜下腔が閉塞していると、圧上昇が伝わらないか遅れる(Queckenstedt試験陽性)。頭蓋内圧亢進を悪化させる危険があるため、現在では画像診断(MRI)に置き換わり、ほとんど行われない。
- ○c. 終了後は約1時間の床上安静が必要である。
正解。穿刺後は硬膜の穿刺孔から髄液が漏れ出し、低髄液圧による頭痛(腰椎穿刺後頭痛:座位・立位で増悪し臥位で軽快する頭痛)や悪心などを生じることがある。このため、検査終了後は1〜2時間程度の臥床安静を保つのが一般的な管理とされる。腰椎穿刺後頭痛の予防には、細い針や非切断型(ペンシルポイント型)の穿刺針を用いることも有効である。
- ×d. 一側性のうっ血乳頭であれば問題なく施行できる。
誤り。うっ血乳頭は頭蓋内圧亢進により視神経乳頭が腫脹した所見であり、腰椎穿刺前に必ず確認すべき所見である。頭蓋内圧亢進時に腰部で髄液を抜くと、頭蓋内と脊柱管内の圧較差が生じ、テント切痕ヘルニアや大後頭孔ヘルニアを起こして致命的となりうる。うっ血乳頭が一側性であっても、片眼の視神経萎縮などのために一側にしか現れない場合(Foster Kennedy症候群のように腫瘍側の視神経が萎縮し対側にうっ血乳頭がみられる例など)があり、頭蓋内圧亢進を否定できない。したがって「問題なく施行できる」とはいえず、まず頭部CT/MRIで占拠性病変の有無を確認する。
- ×e. 穿刺部に感染巣がある場合には抗菌薬投与下に行う。
誤り。穿刺部位の皮膚・皮下に感染巣(蜂窩織炎、膿瘍など)がある場合、針が細菌を硬膜外腔やくも膜下腔に持ち込み、硬膜外膿瘍や髄膜炎を引き起こす危険がある。抗菌薬を投与していてもこの危険は解消されないため、その部位での穿刺は禁忌であり、別の部位を選ぶか他の検査法を検討する。
腰椎穿刺の主な禁忌
・頭蓋内圧亢進(特に占拠性病変による):脳ヘルニアの危険。うっ血乳頭、意識障害、局所神経症状があれば事前に頭部CT/MRIを行う。 ・穿刺部位の感染:髄膜炎・硬膜外膿瘍の危険。 ・出血傾向(血小板減少、抗凝固療法中など):脊髄硬膜外血腫の危険。
手技の概要
側臥位で膝を抱え込み背を丸める姿勢(胎児位)をとらせ、棘突起間を開く。Jacoby線を指標にL3/4またはL4/5間を選び、消毒・局所麻酔のうえ正中から刺入する。くも膜下腔に達したらマノメーターで初圧を測り、髄液を採取する。
正常髄液所見の目安
初圧(側臥位)70〜180mmH2O、外観は水様透明、細胞数5/μL以下(単核球)、蛋白15〜45mg/dL、糖は血糖値の約60〜80%(50〜80mg/dL程度)。
主な合併症
腰椎穿刺後頭痛(最も多い)、神経根刺激による下肢の放散痛、穿刺部出血・血腫、感染、脳ヘルニア(禁忌例に施行した場合)。
POINT
・穿刺部位はL3/4またはL4/5(Jacoby線=L4棘突起付近が目安)。成人の脊髄下端はL1〜L2。 ・頸静脈圧迫で髄液圧は上昇するのが正常(Queckenstedt試験)。上昇しなければくも膜下腔の通過障害を疑う。 ・禁忌:頭蓋内圧亢進(うっ血乳頭は一側性でも要注意)、穿刺部感染、出血傾向。 ・終了後は臥床安静とし、腰椎穿刺後頭痛(低髄液圧性頭痛)に注意する。
