指先の光が語ること、語らないこと―パルスオキシメーターの原理と落とし穴
第100回医師国家試験 G問題 第92問
国試問題にチャレンジ
パルスオキシメーターによるSpO2の測定で正しいのはどれか。
- a.SpO2 80% は正常範囲である。
- b.測定時は軽く呼吸を停止する。
- c.動脈血酸素飽和度を反映する。
- d.二酸化炭素濃度の影響を受ける。
- e.一酸化炭素中毒患者のモニターに有用である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
パルスオキシメーターは、赤色光と赤外光の2波長の吸光度差と拍動成分の解析によって、動脈血酸素飽和度(SaO2)を非侵襲的・連続的に推定する機器です。健常者の値は約96〜99%で、SpO2 90%がPaO2 約60Torr(呼吸不全の目安)に相当し、安静呼吸のまま測定できるため意識障害患者や術中のモニターにも使われます。一方でCO2は測れないため換気不全の評価には血液ガスやEtCO2が必要であり、一酸化炭素中毒ではCO-Hbを酸素化ヘモグロビンと区別できずにSpO2が偽高値となるため、COオキシメーターによる評価が欠かせません。末梢循環不全、体動、マニキュア、異常ヘモグロビン、貧血など値を読み誤る状況を原理から理解しておくことが、日常的なモニターを安全に使いこなす土台になります。
解答・解説
正解はcです
パルスオキシメーターは、指先や耳朶にプローブを装着するだけで、動脈血中のヘモグロビンのうち酸素と結合しているものの割合(経皮的動脈血酸素飽和度:SpO2、pはpulse oximetryの意)を連続的・非侵襲的に測定する機器である。
測定原理
プローブの発光部から赤色光(約660nm)と赤外光(約940nm)の2波長の光を当て、受光部で透過光を検出する。酸素化ヘモグロビン(HbO2)は赤外光をよく吸収し、還元(脱酸素化)ヘモグロビンは赤色光をよく吸収するという吸光特性の違いを利用して、両者の比率を求める。さらに、組織を透過する光のうち心拍に同期して変動する成分(拍動成分)だけを取り出すことで、静脈血や組織による吸収を除き、動脈血の値を推定している。
考え方
したがってSpO2は動脈血ガス分析で直接測るSaO2(動脈血酸素飽和度)をよく近似する指標である。一方、2波長しか使わないため、酸素化ヘモグロビンと吸光特性の似た異常ヘモグロビン(一酸化炭素ヘモグロビンなど)は区別できない、という限界を理解しておくことが本問の鍵となる。正常値(おおむね96〜99%)と、呼吸不全の目安(PaO2 60Torr ≒ SpO2 90%)も押さえておく。
選択肢考察
- ×a. SpO2 80% は正常範囲である。
誤り。健常者のSpO2はおおむね96〜99%である。酸素解離曲線上、SpO2 90%はPaO2 約60Torrに相当し、これを下回ると呼吸不全(PaO2 60Torr以下)の状態と考える。SpO2 80%はPaO2 おおよそ45Torr前後に相当する高度の低酸素血症であり、直ちに酸素投与などの対応が必要な値である。
- ×b. 測定時は軽く呼吸を停止する。
誤り。パルスオキシメーターは安静呼吸のまま測定する。呼吸停止の協力は不要で、意識障害患者や新生児、手術中・睡眠中の患者でも連続モニタリングに用いられている。むしろ呼吸を止めると本来の酸素化状態を反映しない値になりうる。
- ○c. 動脈血酸素飽和度を反映する。
正解。拍動に同期して変動する光吸収成分を解析することで、動脈血中のヘモグロビンの酸素飽和度を経皮的に推定している。通常の条件下(SaO2がおよそ70%以上)では、動脈血ガス分析で得られるSaO2とよく相関する。ただし末梢循環不全(ショック、寒冷による末梢血管収縮)、体動、マニキュアなどでは測定精度が低下する。
- ×d. 二酸化炭素濃度の影響を受ける。
誤り。SpO2はヘモグロビンの吸光特性から酸素化の割合を測るものであり、血中の二酸化炭素濃度を直接反映しない。したがってPaCO2が上昇していてもSpO2の値からは分からない。換気不全(高二酸化炭素血症)の評価には動脈血ガス分析や呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2)測定が必要である。特に酸素投与中は、SpO2が保たれていてもCO2ナルコーシスが進行しうる点に注意する。
- ×e. 一酸化炭素中毒患者のモニターに有用である。
誤り。一酸化炭素と結合した一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)は、赤色光の吸光度が酸素化ヘモグロビンとほぼ同じであるため、一般的な2波長のパルスオキシメーターはCO-Hbを酸素化ヘモグロビンとして数えてしまう。その結果、実際には酸素運搬能が大きく低下していてもSpO2は見かけ上高値(正常値)を示し、低酸素状態を過小評価する。一酸化炭素中毒の評価には、動脈血を採取しCOオキシメーター(多波長の血液ガス分析装置)でCO-Hb濃度と実際のSaO2を測定する必要がある。
SpO2とPaO2の対応(酸素解離曲線の目安)
SpO2 97〜98% ≒ PaO2 約100Torr、SpO2 90% ≒ PaO2 約60Torr、SpO2 75% ≒ PaO2 約40Torr(混合静脈血の値に近い)。酸素解離曲線はS字状で、SpO2 90%付近を境にPaO2のわずかな低下でSpO2が急激に下がる。逆に高値域では曲線が平坦なため、SpO2が100%近くでもPaO2の高低は判別しにくい。
SpO2の値が不正確になる主な要因
・異常ヘモグロビン:CO-Hb(SpO2が見かけ上高く出る)、メトヘモグロビン(SpO2が85%前後に収束しやすい) ・末梢循環不全:ショック、低体温、末梢血管収縮で拍動成分が小さくなり測定不能・誤差を生じる ・体動(アーチファクト)、強い外光 ・マニキュア・付け爪(特に濃い色) ・色素の静注(メチレンブルー、インドシアニングリーンなど) ・高度の貧血
パルスオキシメーターで分からないこと
PaCO2(換気の程度)、酸塩基平衡、酸素含量(ヘモグロビン量が少なければSpO2が正常でも組織への酸素供給は不足しうる)。これらの評価には動脈血ガス分析が必要である。
POINT
・SpO2は拍動成分の2波長吸光度から動脈血酸素飽和度(SaO2)を非侵襲的・連続的に推定する。 ・正常値は約96〜99%、SpO2 90% ≒ PaO2 60Torr(呼吸不全の目安)。 ・呼吸停止は不要で、安静呼吸のまま測定する。 ・CO2は測れない(換気の評価には血液ガスやEtCO2)。 ・一酸化炭素中毒ではCO-Hbを酸素化Hbと区別できず、SpO2が偽高値になるためモニターに不適。
