StudyMed医師国家試験

腕は反射が落ち、脚は反射が上がる―「上下でちぐはぐ」な所見から頸髄を指し示す局在診断

第120回医師国家試験 F問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第51問

62歳の男性。両上肢の感覚障害と筋力低下を主訴に来院した。2年前から時折両手の先のしびれを自覚していたがそのままにしていた。2週間前から両手の筋力低下を自覚するようになり徐々に進行し,1週間前からは歩行もふらつくようになった。意識は清明。体温36.6℃。脈拍80/分,整。血圧148/86mmHg。眼球運動に異常を認めず,構音障害,嚥下障害を認めない。両上肢にはやや右優位に軽度の筋力低下を認める。両下肢も右優位に軽度の筋力低下を認めた。腱反射は両上肢で低下,両下肢で右優位に亢進し,Babinski徴候を右で認めた。両上肢右優位,遠位優位に感覚障害を認めた。歩行はふらつきを認め,Romberg徴候が陽性であったが,指鼻指試験では明らかな異常を認めなかった。軽度の膀胱直腸障害も認めた。  病変の局在はどれか。

  1. a.大脳
  2. b.小脳
  3. c.脳幹
  4. d.頸髄
  5. e.骨格筋

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、神経所見を一つずつ組み立てて「どこが壊れているか」を決める局在診断の問題だ。注目してほしいのは、上肢と下肢で腱反射の向きが逆になっていること、それにRomberg徴候と指鼻指試験の組み合わせ、そして膀胱直腸障害。原因疾患を当てるのではなく、すべての所見を一か所の病変で説明できる場所を探そう。
医学生医学生
手足の筋力低下があって歩くとふらつくので、最初は脳梗塞みたいな大脳の病気かなと思いました。
ドクタードクター
筋力低下とふらつきだけを見ると、そう考えたくなるよね。でもまず整理したいのは、下位運動ニューロンと上位運動ニューロンのどちらの障害か、という視点だ。下肢の腱反射亢進とBabinski徴候は何を意味するかな。
医学生医学生
上位運動ニューロン、つまり錐体路の障害です。神経内科の講義で、Babinskiは錐体路障害の代表的なサインだと習いました。
ドクタードクター
その通り。だから少なくとも下肢を支配する錐体路が、それより上のどこかで傷んでいる。これで骨格筋や末梢神経だけの病気は外れる。では、上肢の腱反射が低下しているのはどう解釈する?
医学生医学生
上肢も錐体路障害なら亢進するはずなのに、低下しているのは矛盾しているように見えます。
ドクタードクター
そこが最大のヒントなんだ。上肢の腱反射は頸髄のC5〜C8あたりの反射弓を介して起こる。その高さで前角細胞や神経根が障害されると、その髄節が支配する上肢の反射は低下する。一方で、病変部を通って下へ伸びる錐体路も同時に傷むから、下肢では反射が亢進する。つまり、病変の高さでは下位運動ニューロン徴候、それより下では上位運動ニューロン徴候が出るんだ。
医学生医学生
なるほど、反射が落ちているところが病変の高さを教えてくれるんですね。上で落ちて下で上がる、という組み合わせ自体が頸髄を示している。
ドクタードクター
そう。次はふらつきだ。Romberg徴候が陽性で、指鼻指試験は正常。これは小脳性と感覚性、どちらの失調だろう。
医学生医学生
OSCEの練習で、Romberg徴候は閉眼で悪化するかを見る検査だと習いました。目を閉じて悪くなるなら、視覚で代償していた深部感覚の障害、つまり感覚性失調ですね。
ドクタードクター
正解。小脳性失調なら開眼の時点で不安定で、指鼻指試験でも測定障害や企図振戦が出やすい。今回は深部感覚を運ぶ脊髄後索の障害を考えるのが自然だ。さらに膀胱直腸障害は、両側の下行性自律神経路が障害されていることを示していて、脊髄病変を強く支持する。
医学生医学生
ここまでで頸髄が一番合いますが、念のため大脳と脳幹がなぜ違うのか確認したいです。
ドクタードクター
いい姿勢だね。大脳では上肢の運動野・感覚野が左右の半球の外側に離れているから、一つの病変で両上肢を同時に障害するのは難しい。それに大脳病変なら上肢の反射はむしろ亢進するのが基本で、低下は説明できない。脳幹は脳神経核が伝導路のすぐそばに密集しているので、四肢に症状が出るほどの病変なら眼球運動障害や構音・嚥下障害などの脳神経症状を伴うのが普通だ。今回はそれがない。
医学生医学生
小脳は筋力低下や感覚障害、Babinskiを説明できないので外れますね。骨格筋の病気だと近位筋優位の筋力低下で、反射は正常か低下、感覚障害も膀胱直腸障害も出ないはずです。
ドクタードクター
その通り。筋疾患では上位運動ニューロン徴候は出ない。こうして消去しても、積極的に組み立てても、答えは頸髄になる。右優位という左右差は、病変が脊髄の中で左右対称ではないことを反映していると考えればいい。
医学生医学生
整形外科の実習で、頸椎症性脊髄症の患者さんが「箸が使いにくい」「ボタンがとめにくい」と訴えていたのを思い出しました。原因としてはそういう病気も考えるんでしょうか。
ドクタードクター
この問題は局在だけを問うているけれど、鑑別としては中高年男性に多い頸椎症性脊髄症や後縦靱帯骨化症、それに頸髄の髄内腫瘍などが挙がる。確定にはMRIが基本だ。発展として、脊髄の横断面と症候の対応も押さえておこう。錐体路の障害で痙性麻痺、後索の障害で深部感覚障害、外側脊髄視床路の障害で反対側の温痛覚障害、前角の障害で弛緩性麻痺と筋萎縮が出る。
医学生医学生
Brown-Séquard症候群や前脊髄動脈症候群も、その組み合わせで考えればいいんですね。前脊髄動脈症候群は後索が保たれるので、深部感覚は正常でした。
ドクタードクター
よく覚えているね。逆に、脊髄空洞症や髄内腫瘍のような中心性の病変では、中心で交叉する温痛覚線維が先にやられて、深部感覚が保たれる解離性感覚障害が宙吊り型に出る。臨床で大事なのは、手のしびれを末梢神経障害だと決めつけないこと。下肢の反射やBabinski徴候まで必ず診て、脊髄の病変を見逃さないようにしよう。
医学生医学生
手の症状でも下肢まで診察する、反射の上下差から高さを推定する、という流れを実習で意識してみます。

まとめ

上肢の腱反射低下と、下肢の腱反射亢進・Babinski徴候が同時にみられる場合、病変の高さでは前角や神経根の障害による下位運動ニューロン徴候が、それより下では錐体路障害による上位運動ニューロン徴候が出ていると考え、頸髄病変を疑います。Romberg徴候陽性で指鼻指試験が正常なら小脳性ではなく後索障害による感覚性失調であり、膀胱直腸障害も脊髄病変を強く支持します。脳神経症状がないことは脳幹病変に合わず、大脳病変では上肢の反射低下を説明できず、筋疾患では上位運動ニューロン徴候や感覚障害は生じません。原因としては頸椎症性脊髄症、後縦靱帯骨化症、脊髄腫瘍などが鑑別に挙がり、MRIで評価します。反射の上下差と脊髄横断面の伝導路を対応させて考える習慣は、あらゆる脊髄疾患の局在診断の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・62歳男性。2年前から両手指先のしびれが時折あり、2週間前から両手の筋力低下、1週間前から歩行時のふらつきが加わった。緩徐に始まり、最近になって進行が目立っている。 ・眼球運動障害、構音障害、嚥下障害はなく、脳神経症状はみられない。 ・運動:両上肢・両下肢ともに右優位の軽度筋力低下。 ・反射:両上肢で腱反射低下、両下肢で右優位に亢進、右Babinski徴候陽性。 ・感覚:両上肢に右優位・遠位優位の感覚障害。 ・失調:歩行のふらつきとRomberg徴候陽性があるが、指鼻指試験は正常。 ・自律神経:軽度の膀胱直腸障害。

局在診断の考え方

1. 上位運動ニューロン障害の存在:下肢の腱反射亢進とBabinski徴候は、錐体路(皮質脊髄路)が下肢を支配する高さより上で障害されていることを示す。したがって骨格筋や末梢神経だけの病気ではない。 2. 上肢の反射低下:上肢の腱反射は頸髄(おおむねC5~C8)の反射弓を介する。この高さの前角細胞や神経根が障害されると、その髄節の支配する上肢では反射が低下する(下位運動ニューロン障害の所見)。一方、それより下に伸びる錐体路も同時に障害されるため、下肢では反射が亢進する。上肢で低下・下肢で亢進という組み合わせは、頸髄病変の典型的な所見である。 3. 後索障害:Romberg徴候陽性で指鼻指試験が正常であることは、小脳性ではなく深部感覚障害による失調(感覚性失調)を示し、脊髄後索の障害を示唆する。 4. 膀胱直腸障害:両側の下行性自律神経路の障害を示し、脊髄病変を強く支持する。 5. 両側性で脳神経症状がない:左右の上肢に同時に運動・感覚障害が起こっていることから、左右の伝導路が近接している部位の病変が考えられる。大脳で両上肢の運動・感覚を同時に障害するには、左右両半球の広範な病変が必要であり、脳神経症状を伴わない点からは脳幹も考えにくい。 以上を一元的に説明できる病変の局在は頸髄である。

原因疾患の推定(参考)

両手指先のしびれで始まり、上肢優位の症状から始まって年単位で進行している点からは、頸髄の髄内腫瘍のほか、中高年男性では頻度の高い頸椎症性脊髄症や後縦靱帯骨化症なども鑑別に挙がる。確定にはMRIによる画像評価が必要である。

選択肢考察

  1. ×a.  大脳

    大脳の運動野・感覚野は左右の半球に分かれており、上肢を支配する領域は半球の外側面にある。単一の病変で両側上肢の運動・感覚障害を同時に起こすことは通常なく、起こるとすれば意識障害などを伴うほどの両側性・広範な病変である。また、大脳病変では上肢の腱反射は低下せず、むしろ亢進するのが基本であり、両上肢の反射低下を説明できない。なお、大脳半球内側に病変がある傍矢状洞髄膜腫などでは両下肢が障害されることがあるが、本例のような上肢優位の障害とは合わない。

  2. ×b.  小脳

    小脳病変では運動失調、筋緊張低下、測定障害などが起こるが、筋力低下や感覚障害、Babinski徴候、膀胱直腸障害は説明できない。本例は指鼻指試験が正常で、Romberg徴候が陽性である。Romberg徴候は閉眼で動揺が著しく増す現象で、視覚による代償が失われることで目立つ深部感覚障害(感覚性失調)を示す所見である。小脳性失調では開眼時から動揺がみられ、閉眼による悪化は目立たない。

  3. ×c.  脳幹

    脳幹には多くの脳神経核とその線維が錐体路・感覚路と近接して走っているため、四肢の運動・感覚障害を起こすほどの病変では、眼球運動障害、顔面の麻痺や感覚障害、構音障害、嚥下障害などの脳神経症状を伴うのが普通である。本例ではこれらがみられない。また、上肢の腱反射低下も脳幹病変では説明できない。延髄では深部感覚を伝える内側毛帯は正中付近で左右が近接するが、温痛覚を伝える脊髄視床路は外側にあって左右が離れており、本例のような両上肢遠位の感覚障害を単一病変で起こしにくい。

  4. ○d.  頸髄

    頸髄の病変では、病変の高さで前角細胞や神経根が障害されて上肢に下位運動ニューロン徴候(腱反射低下・筋力低下)と感覚障害が生じ、同時に病変より下に向かう錐体路が障害されて下肢に上位運動ニューロン徴候(腱反射亢進・Babinski徴候)が生じる。後索の障害によるRomberg徴候陽性、両側の下行路障害による膀胱直腸障害、脳神経症状がないことも頸髄病変として矛盾なく説明できる。症状の左右差(右優位)は、病変が脊髄の中で左右対称でないことを反映していると考えられる。

  5. ×e.  骨格筋

    筋疾患(ミオパチー)では一般に近位筋優位の筋力低下が起こり、腱反射は正常か低下する。腱反射亢進やBabinski徴候といった上位運動ニューロン徴候は起こらない。また、感覚障害、Romberg徴候陽性、膀胱直腸障害も骨格筋の病変では説明できない。

脊髄横断面の主な伝導路と障害時の症状

・外側皮質脊髄路(錐体路):同側の運動を担う。障害されると病変より下の痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候が生じる。 ・後索(薄束・楔状束):同側の深部感覚(位置覚・振動覚)と識別性触覚を伝える。障害されると感覚性失調、Romberg徴候陽性となる。 ・外側脊髄視床路:反対側の温痛覚を伝える。線維は入った高さの付近で前交連を通って反対側へ交叉する。 ・前角:下位運動ニューロンの細胞体がある。障害されるとその髄節支配の筋の弛緩性麻痺、筋萎縮、腱反射低下が起こる。

腱反射と髄節

上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射はC5~C6、上腕三頭筋反射はC7(C6~C8)、膝蓋腱反射はL3~L4、アキレス腱反射はS1を主な反射中枢とする。障害部位の反射は低下し、それより下の髄節の反射は亢進する。これを利用して病変の高さを推定できる。

Romberg徴候

両足をそろえて立たせ、開眼では立てるが閉眼すると大きく動揺・転倒しそうになる場合を陽性とする。深部感覚の障害(後索障害、末梢神経障害)を示す。小脳性失調では開眼でも不安定であり、閉眼による悪化は少ないため陽性とはしない。

脊髄病変の代表的な症候群

・Brown-Séquard症候群(脊髄半側障害):障害側の運動麻痺と深部感覚障害、反対側の温痛覚障害。髄外腫瘍や外傷による圧迫でみられることが多い。実際には完全な半側障害はまれで、左右差のある両側障害として現れることが多い。 ・中心性脊髄障害(脊髄空洞症、髄内腫瘍など):脊髄中心部で交叉する温痛覚線維が先に障害され、温痛覚は低下するが深部感覚は保たれる解離性感覚障害が、病変の高さに一致して宙吊り型(両肩から上肢にかけて)に現れる。進行すると前角障害による上肢の筋萎縮・筋力低下や、錐体路障害による下肢の痙性麻痺が加わる。 ・前脊髄動脈症候群:脊髄の前方3分の2が虚血に陥り、急性発症の両側運動麻痺、温痛覚障害、膀胱直腸障害が起こる。後索は保たれるため深部感覚は正常である。発症時に疼痛を伴うことが多い。 ・亜急性連合性脊髄変性症(ビタミンB12欠乏):後索と側索が障害され、深部感覚障害と錐体路徴候が出現する。

頸髄症をきたす主な疾患

頸椎症性脊髄症、頸椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症、脊髄腫瘍(髄内・髄外)、脊髄空洞症、多発性硬化症・視神経脊髄炎などの脱髄性疾患、外傷など。画像診断はMRIが基本である。

POINT

・上肢腱反射低下+下肢腱反射亢進・Babinski徴候は、頸髄病変(病変の高さで下位運動ニューロン徴候、それより下で上位運動ニューロン徴候)を示す。 ・Romberg徴候陽性は深部感覚障害(後索障害など)による感覚性失調であり、小脳性失調ではない。 ・膀胱直腸障害は脊髄病変を強く示唆する。 ・脳神経症状がなければ脳幹病変は考えにくい。 ・筋疾患では腱反射亢進・感覚障害・膀胱直腸障害は起こらない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。