脚が交差する歩き方―両側の痙縮が生む「はさみ歩行」を読み解く
第115回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
両側下肢に痙縮を呈する患者の歩容はどれか。
- a.開脚歩行
- b.動揺歩行
- c.小刻み歩行
- d.はさみ歩行
- e.分回し歩行
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
痙縮は錐体路障害による速度依存性の筋緊張亢進で、両側の下肢に生じると股関節内転筋の緊張により振り出した脚が交差する「はさみ歩行」を呈します。脳性麻痺(痙直型両麻痺)、遺伝性痙性対麻痺、頸髄症、HTLV-1関連脊髄症などの痙性対麻痺が代表的な原因です。一方、片側の痙縮(脳卒中後の片麻痺)では分回し歩行、Parkinson病では小刻み歩行、小脳失調では開脚歩行、近位筋の筋力低下では動揺歩行がみられます。歩容と障害部位の対応を整理しておくことは、診察室に入ってくる患者さんの歩き方から病変部位を推定する臨床力の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
痙縮(けいしゅく)とは、上位運動ニューロン(大脳皮質から脊髄前角細胞に至る錐体路)の障害によって筋の伸張反射が亢進し、筋を他動的に速く伸ばすほど強い抵抗が生じる状態である。最初は抵抗が強く途中で急に抜ける「折りたたみナイフ現象」が特徴で、腱反射亢進やBabinski徴候陽性を伴う。
考え方
下肢の痙縮では、股関節の内転筋群や下腿三頭筋(ふくらはぎの筋)の緊張が特に強くなる。両側の下肢にこれが起こると、両大腿が内側に引き寄せられ、つま先立ち気味(尖足)になる。この状態で歩くと、前に出す脚が軸足の前を横切るように内側へ振り出され、両膝がこすれ合いながら脚が交差する。これを、はさみの刃が交差する様子にたとえて「はさみ歩行(scissors gait)」と呼ぶ。両側性の痙性麻痺(痙性対麻痺)に特徴的な歩容であり、正解となる。 片側の痙縮(片麻痺)であれば分回し歩行になる点と対比して覚えるとよい。
選択肢考察
- ×a. 開脚歩行
両足を左右に広く開いて支持面を広げ、バランスを補いながら歩く歩容である(wide-based gait)。小脳性運動失調(よろめきながら歩く失調性歩行)、深部感覚障害による脊髄性運動失調(脊髄癆など。足元を見ながら踵を床に打ちつけるように歩き、閉眼で悪化する)、正常圧水頭症(すり足・小刻みで足が床に吸いつくような歩行を伴う)などでみられる。痙縮に特徴的な歩容ではない。
- ×b. 動揺歩行
アヒルのように上半身を左右に大きく揺らしながら歩く歩容である(waddling gait、アヒル歩行)。中殿筋など骨盤周囲の近位筋が弱いと、片足立ちの際に反対側の骨盤が下がるため、これを体幹の傾きで代償することで生じる。Duchenne型などの進行性筋ジストロフィー、多発筋炎などの筋疾患、両側の先天性股関節脱臼でみられる。痙縮による歩容ではない。
- ×c. 小刻み歩行
歩幅が狭く、足をあまり上げずにすり足で歩く歩容である。Parkinson病やParkinson症候群(多発性脳梗塞による血管性パーキンソニズムなど)でみられ、前傾姿勢、腕振りの減少、歩き始めの一歩が出ないすくみ足、歩き出すと止まれなくなる突進現象を伴うことが多い。錐体外路障害による歩容であり、痙縮とは異なる。
- ○d. はさみ歩行
両側下肢の痙縮により股関節内転筋の緊張が高まり、振り出した下肢が支持脚の前を横切って交差する歩容である。尖足を伴い、つま先で床をこするように歩き、代償として体幹が左右に揺れることも多い。脳性麻痺(特に両下肢に強い痙直型両麻痺)、遺伝性痙性対麻痺、頸髄症や脊髄の圧迫性病変による痙性対麻痺、HTLV-1関連脊髄症(HAM)などでみられる。
- ×e. 分回し歩行
脳卒中などによる片側の痙性麻痺(片麻痺)でみられる歩容である。麻痺側の下肢は股・膝が伸展し、足が内反尖足となって「機能的に長い脚」になるため、そのままでは足先が床に引っかかる。そこで麻痺側下肢を外側へ半円を描くように振り回して前に出す。片側性の痙縮による歩容であり、両側性の痙縮では生じにくい。
代表的な異常歩行と障害部位の対応
・はさみ歩行:両側の錐体路障害(痙性対麻痺)。脳性麻痺、遺伝性痙性対麻痺、脊髄病変。 ・分回し歩行(片麻痺歩行):片側の錐体路障害。脳卒中。上肢は屈曲、下肢は伸展するWernicke-Mann肢位を伴う。 ・小刻み歩行・すくみ足・突進現象:錐体外路障害。Parkinson病、血管性パーキンソニズム。 ・失調性歩行(酩酊様歩行、開脚歩行):小脳障害。脊髄小脳変性症、小脳梗塞、アルコール性小脳変性症。 ・踵打ち歩行:深部感覚障害(脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症など)。Romberg徴候陽性。 ・動揺歩行(アヒル歩行):近位筋(中殿筋など)の筋力低下。筋ジストロフィー、多発筋炎、両側股関節脱臼。 ・鶏歩(鶏状歩行):前脛骨筋の筋力低下による下垂足。腓骨神経麻痺、Charcot-Marie-Tooth病。足を高く上げてつま先から接地する。 ・Trendelenburg歩行:片側の中殿筋筋力低下。立脚時に反対側の骨盤が下がる。 ・正常圧水頭症の歩行:開脚・小刻み・すり足で、足が床に貼りついたような歩行(magnetic gait)。認知症・尿失禁とともに三徴をなす。
痙縮と固縮の違い
痙縮は錐体路障害で生じ、速度依存性(速く伸ばすほど抵抗が強い)で折りたたみナイフ現象を示す。固縮は錐体外路障害で生じ、速度に依存せず関節の動きの全範囲で一様な抵抗(鉛管様、または歯車様)を示す。
POINT
・両側下肢の痙縮(痙性対麻痺)→はさみ歩行(内転筋の緊張で両脚が交差)。 ・片側の痙縮(片麻痺)→分回し歩行。 ・Parkinson病→小刻み歩行、小脳失調→開脚・失調性歩行、近位筋の筋力低下→動揺歩行。
