StudyMed医師国家試験

肺と腎を同じ抗体が襲う―血痰から読み解くGoodpasture症候群

第100回医師国家試験 G問題 第79問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第79問

血痰をきたしやすいのはどれか。

  1. a.肺胞蛋白症
  2. b.過敏性肺炎
  3. c.Goodpasture症候群
  4. d.マイコプラズマ肺炎
  5. e.肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血痰を起こしやすい疾患を選ぶ問題だ。ポイントは「出血がどこで、どんな仕組みで起きるのか」を考えること。病名を丸暗記するより、病態から血が出るかどうかを判断するほうが確実なんだ。まず、血痰の出血源にはどこがあるか言えるかな。
医学生医学生
気管や気管支といった気道と、その先の肺胞でしょうか。
ドクタードクター
その通り。気道の病変なら気管支拡張症や中枢型の肺癌、肺を壊す感染症なら肺結核やアスペルギルス症、血管の病気なら肺血栓塞栓症や僧帽弁狭窄症による肺うっ血。そしてもう一つ大事なのが、肺胞の毛細血管そのものが壊れて出血する「びまん性肺胞出血」だ。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で、喀血の原因は結核・気管支拡張症・肺癌の三つをまず考えると習いました。でも今回の選択肢にはどれも入っていないんですよね。
ドクタードクター
そう、だから仕組みで考える必要がある。選択肢の中で、病態そのものが肺胞の毛細血管の破綻に直結しているのはどれだと思う?
医学生医学生
Goodpasture症候群ですか。腎臓の病気というイメージが強かったんですが……。
ドクタードクター
正解。腎臓のイメージは間違いではないよ。この病気では、糸球体基底膜と肺胞基底膜に共通して存在するIV型コラーゲンα3鎖に対する自己抗体、つまり抗GBM抗体ができる。抗体が基底膜に結合してII型アレルギーの機序で組織を壊すから、肺ではびまん性肺胞出血、腎では急速進行性糸球体腎炎が起こる。だから血痰と血尿が代表的な症状になるんだ。
医学生医学生
病理の講義で、蛍光抗体法でIgGが基底膜に沿って線状に沈着している写真を見ました。あれが肺にも起きているということですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。喫煙などで肺胞基底膜が傷つくと抗体が届きやすくなり、肺出血の誘因になるとも言われている。では残りの選択肢も確認しよう。肺胞蛋白症はどうかな。
医学生医学生
肺胞に何かが溜まる病気ですよね。溜まるなら出血もしそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだね。溜まるのはサーファクタント由来の蛋白や脂質で、成人の多くは抗GM-CSF抗体によって肺胞マクロファージの処理能力が落ちる自己免疫性だ。血管を壊す病気ではないから、症状はゆっくり進む労作時呼吸困難と咳が中心で、血痰は通常みられない。CTのcrazy-paving appearanceと、米のとぎ汁のような乳白色の気管支肺胞洗浄液が特徴だよ。
医学生医学生
過敏性肺炎は、夏型だとトリコスポロンが原因でしたね。
ドクタードクター
そう。カビや鳥の羽毛などの抗原を繰り返し吸い込んで起こる、III型とIV型アレルギーによる間質と細気管支の炎症だ。抗原曝露から数時間後に発熱や乾いた咳、呼吸困難が出て、抗原から離れると良くなる。病変の主体は間質で、肺胞の血管が破綻する病態ではないから血痰は典型的ではない。
医学生医学生
マイコプラズマ肺炎は、小児科の実習で頑固な乾いた咳の子を診ました。痰自体が少ないですよね。
ドクタードクター
その通り。主に気管支や細気管支の上皮を障害する非定型肺炎で、肺組織を壊して出血させるわけではない。細胞壁がないからβラクタム系は効かず、マクロライド系などを使う点もセットで覚えておこう。最後にLAMはどうかな。
医学生医学生
若い女性に多くて、気胸を繰り返す病気だったと思います。
ドクタードクター
そう。平滑筋に似たLAM細胞が増えて薄い壁の嚢胞が多発し、嚢胞の破裂で気胸を繰り返す。リンパ管が障害されて乳び胸水が出ることもあるし、結節性硬化症に合併することもある。血痰がみられることはあるけれど頻度は高くなく、「きたしやすい」代表とは言えない。治療はmTOR阻害薬のシロリムスだ。
医学生医学生
つまり、肺胞に物が溜まる、アレルギー性の炎症、非定型肺炎、嚢胞と気胸、という主体の病態からは血痰が出にくくて、肺胞の血管を直接壊すGoodpasture症候群だけが血痰と強く結びつくということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。発展知識として「肺腎症候群」を押さえておこう。肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎が同時に起こる病態で、実際の頻度としてはMPO-ANCA陽性の顕微鏡的多発血管炎などANCA関連血管炎のほうが多く、次いで抗GBM抗体病、全身性エリテマトーデスが続く。腎生検で線状のIgG沈着なら抗GBM抗体病、免疫沈着がほとんどないpauci-immuneならANCA関連血管炎と鑑別できる。
医学生医学生
臨床でびまん性肺胞出血を疑うのはどんなときですか。
ドクタードクター
両側に急速に広がるすりガラス影や浸潤影、進行する貧血があれば疑う。気管支肺胞洗浄で回収するたびに赤みが増していく血性液や、ヘモジデリン貪食マクロファージが診断の手がかりになる。注意したいのは、血痰を伴わずに発症することもある点だ。血痰がないから肺胞出血ではない、とは言えない。そして抗GBM抗体病は急速に腎不全や呼吸不全に進むので、血漿交換、副腎皮質ステロイド、シクロホスファミドなどによる早期治療が予後を左右するんだ。
医学生医学生
血痰と血尿が並んでいたら、すぐに抗GBM抗体とANCAを調べる、と覚えておきます。

まとめ

血痰の出血源は気道と肺胞に分けられ、気管支拡張症・肺癌・肺結核などの気道や肺実質の破壊性病変に加え、肺胞毛細血管が破綻するびまん性肺胞出血が重要な原因となります。Goodpasture症候群(抗GBM抗体病)は、糸球体基底膜と肺胞基底膜に共通するIV型コラーゲンα3鎖への自己抗体によって、びまん性肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎を起こすため、血痰と血尿が代表的な症状です。一方、肺胞蛋白症は抗GM-CSF抗体によるサーファクタントの貯留、過敏性肺炎はアレルギー性の間質・細気管支炎、マイコプラズマ肺炎は乾性咳嗽が主体の非定型肺炎、LAMは多発嚢胞と反復性気胸が主体であり、血痰の代表的な原因とはいえません。肺腎症候群ではANCA関連血管炎・抗GBM抗体病・SLEを鑑別し、腎生検の免疫染色パターンが手がかりになります。症状を病名で覚えるのではなく「どこが、どう壊れて出血するか」という病態から考える姿勢は、未知の選択肢にも対応できる力になります。

解答・解説

正解はcです

血痰とは、痰に血液が混じる状態であり、より多量の血液を喀出する場合は喀血と呼ぶ。出血源は気道(気管・気管支)または肺胞であり、代表的な原因は次のように整理できる。 ・気道の病変: 気管支拡張症、肺癌(特に中枢型)、気管支炎など ・肺実質の破壊を伴う感染症: 肺結核、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症、肺化膿症など ・血管性の病変: 肺梗塞(肺血栓塞栓症)、肺動静脈瘻、僧帽弁狭窄症などによる肺うっ血 ・びまん性肺胞出血: Goodpasture症候群(抗GBM抗体病)、顕微鏡的多発血管炎などの血管炎、全身性エリテマトーデスなど 本問の選択肢のうち、病態そのものが「肺胞の毛細血管が壊れて出血する」ことに直結するのはGoodpasture症候群である。本症では肺胞と腎糸球体の基底膜に共通する抗原に対する自己抗体が生じ、びまん性肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎を起こす。したがって血痰(喀血)と血尿が代表的な症状となる。 そのほかの選択肢は、肺胞内への物質貯留(肺胞蛋白症)、アレルギー性の間質・細気管支の炎症(過敏性肺炎)、非定型肺炎(マイコプラズマ肺炎)、嚢胞形成と気胸(LAM)が主体であり、血痰を「きたしやすい」疾患とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  肺胞蛋白症

    肺胞内にサーファクタント由来の蛋白・脂質が異常に貯留する疾患である。成人例の大部分は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体によって肺胞マクロファージのサーファクタント処理能が低下する自己免疫性である。無症状で健診の胸部画像異常から見つかることも多く、症状は緩徐に進行する労作時呼吸困難と咳が中心で、血痰は通常みられない。CTでのすりガラス影と小葉間隔壁肥厚(crazy-paving appearance)、気管支肺胞洗浄液(BALF)が米のとぎ汁様の乳白色を呈することが特徴である。治療は全肺洗浄やGM-CSF吸入療法が行われる。

  2. ×b.  過敏性肺炎

    カビ(夏型過敏性肺炎のトリコスポロンなど)、鳥の羽毛や排泄物、農作業での有機粉塵などの抗原を繰り返し吸入することで起こる、III型およびIV型アレルギーによる間質性肺炎・細気管支炎である。急性型では抗原曝露の数時間後に発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が出現し、抗原から離れると改善する。病変の主体は間質と細気管支で、肺胞の血管壁が破綻する病態ではないため血痰は通常みられない。

  3. ○c.  Goodpasture症候群

    糸球体基底膜(GBM)と肺胞基底膜に共通して存在するIV型コラーゲンのα3鎖(非コラーゲン領域)に対する自己抗体(抗GBM抗体)が生じ、基底膜に線状に沈着してII型アレルギー機序で組織を傷害する。肺では肺胞毛細血管が障害されてびまん性肺胞出血を起こし、血痰・喀血、呼吸困難、貧血を生じる。腎では急速進行性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)を起こし、血尿・蛋白尿と急速な腎機能低下をきたす。喫煙や吸入刺激による肺胞基底膜の傷害が肺出血の誘因になるとされる。現在は抗GBM抗体病という名称も用いられ、治療は血漿交換、副腎皮質ステロイド、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬が中心である。

  4. ×d.  マイコプラズマ肺炎

    Mycoplasma pneumoniaeによる非定型肺炎で、学童から若年成人に多い。発熱と頑固な乾性咳嗽が特徴で、痰は少なく、聴診所見が乏しいわりに胸部X線の陰影が目立つことがある。気管支・細気管支の上皮を主に障害するが、肺組織を壊して出血させる病態ではなく、血痰は一般的な症状ではない。細胞壁をもたないためβラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系が用いられる。

  5. ×e.  肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉

    平滑筋に似たLAM細胞が肺やリンパ系で増殖し、肺に多数の薄壁嚢胞を形成する疾患で、ほぼ全例が女性(主に妊娠可能年齢)に発症する。結節性硬化症に合併することもある。主な症状は緩徐に進行する労作時呼吸困難と、嚢胞破裂による反復性の気胸であり、リンパ管の障害による乳び胸水・乳び腹水や腎血管筋脂肪腫を伴うこともある。血痰がみられることもあるが頻度は高くなく、「血痰をきたしやすい」代表疾患とはいえない。治療にはmTOR阻害薬のシロリムスが用いられる。

血痰・喀血の主な原因

・感染症: 肺結核、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症(アスペルギローマ)、肺化膿症、細菌性肺炎(肺炎球菌性肺炎の鉄さび色痰、クレブシエラ肺炎の暗赤色ゼリー状痰など) ・腫瘍: 肺癌(特に扁平上皮癌などの中枢型)、気管支カルチノイド ・気道疾患: 気管支拡張症(大量喀血の原因として重要) ・循環器疾患: 肺血栓塞栓症、僧帽弁狭窄症、肺動静脈瘻 ・びまん性肺胞出血: Goodpasture症候群(抗GBM抗体病)、顕微鏡的多発血管炎(MPO-ANCA)、多発血管炎性肉芽腫症(PR3-ANCA)、全身性エリテマトーデス

肺腎症候群

肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎が同時に起こる病態を肺腎症候群と呼ぶ。原因としては、ANCA関連血管炎(特に顕微鏡的多発血管炎)の頻度が高く、次いで抗GBM抗体病(Goodpasture症候群)、全身性エリテマトーデスなどがある。腎生検の蛍光抗体法で、抗GBM抗体病では基底膜に沿った線状のIgG沈着、ANCA関連血管炎では免疫沈着がほとんどない(pauci-immune)ことが鑑別点となる。

びまん性肺胞出血の所見

急速に広がる両側のすりガラス影・浸潤影、貧血の進行、気管支肺胞洗浄液が回収ごとに赤みを増す血性液となること、ヘモジデリン貪食マクロファージの出現などが特徴である。なお血痰を伴わずに発症する場合もある。

POINT

・Goodpasture症候群(抗GBM抗体病): IV型コラーゲンα3鎖に対する自己抗体 → びまん性肺胞出血(血痰・喀血)+急速進行性糸球体腎炎(血尿)。 ・肺腎症候群はANCA関連血管炎、抗GBM抗体病、SLEを鑑別する。 ・肺胞蛋白症: 抗GM-CSF抗体、乳白色のBALF、crazy-paving。 ・LAM: 若年〜中年女性、多発嚢胞、反復性気胸、乳び胸水。 ・マイコプラズマ肺炎、過敏性肺炎は乾性咳嗽が主体で、血痰は典型ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。