肺と腎を同じ抗体が襲う―血痰から読み解くGoodpasture症候群
第100回医師国家試験 G問題 第79問
国試問題にチャレンジ
血痰をきたしやすいのはどれか。
- a.肺胞蛋白症
- b.過敏性肺炎
- c.Goodpasture症候群
- d.マイコプラズマ肺炎
- e.肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
対話形式の解説
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医学生まとめ
血痰の出血源は気道と肺胞に分けられ、気管支拡張症・肺癌・肺結核などの気道や肺実質の破壊性病変に加え、肺胞毛細血管が破綻するびまん性肺胞出血が重要な原因となります。Goodpasture症候群(抗GBM抗体病)は、糸球体基底膜と肺胞基底膜に共通するIV型コラーゲンα3鎖への自己抗体によって、びまん性肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎を起こすため、血痰と血尿が代表的な症状です。一方、肺胞蛋白症は抗GM-CSF抗体によるサーファクタントの貯留、過敏性肺炎はアレルギー性の間質・細気管支炎、マイコプラズマ肺炎は乾性咳嗽が主体の非定型肺炎、LAMは多発嚢胞と反復性気胸が主体であり、血痰の代表的な原因とはいえません。肺腎症候群ではANCA関連血管炎・抗GBM抗体病・SLEを鑑別し、腎生検の免疫染色パターンが手がかりになります。症状を病名で覚えるのではなく「どこが、どう壊れて出血するか」という病態から考える姿勢は、未知の選択肢にも対応できる力になります。
解答・解説
正解はcです
血痰とは、痰に血液が混じる状態であり、より多量の血液を喀出する場合は喀血と呼ぶ。出血源は気道(気管・気管支)または肺胞であり、代表的な原因は次のように整理できる。 ・気道の病変: 気管支拡張症、肺癌(特に中枢型)、気管支炎など ・肺実質の破壊を伴う感染症: 肺結核、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症、肺化膿症など ・血管性の病変: 肺梗塞(肺血栓塞栓症)、肺動静脈瘻、僧帽弁狭窄症などによる肺うっ血 ・びまん性肺胞出血: Goodpasture症候群(抗GBM抗体病)、顕微鏡的多発血管炎などの血管炎、全身性エリテマトーデスなど 本問の選択肢のうち、病態そのものが「肺胞の毛細血管が壊れて出血する」ことに直結するのはGoodpasture症候群である。本症では肺胞と腎糸球体の基底膜に共通する抗原に対する自己抗体が生じ、びまん性肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎を起こす。したがって血痰(喀血)と血尿が代表的な症状となる。 そのほかの選択肢は、肺胞内への物質貯留(肺胞蛋白症)、アレルギー性の間質・細気管支の炎症(過敏性肺炎)、非定型肺炎(マイコプラズマ肺炎)、嚢胞形成と気胸(LAM)が主体であり、血痰を「きたしやすい」疾患とはいえない。
選択肢考察
- ×a. 肺胞蛋白症
肺胞内にサーファクタント由来の蛋白・脂質が異常に貯留する疾患である。成人例の大部分は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体によって肺胞マクロファージのサーファクタント処理能が低下する自己免疫性である。無症状で健診の胸部画像異常から見つかることも多く、症状は緩徐に進行する労作時呼吸困難と咳が中心で、血痰は通常みられない。CTでのすりガラス影と小葉間隔壁肥厚(crazy-paving appearance)、気管支肺胞洗浄液(BALF)が米のとぎ汁様の乳白色を呈することが特徴である。治療は全肺洗浄やGM-CSF吸入療法が行われる。
- ×b. 過敏性肺炎
カビ(夏型過敏性肺炎のトリコスポロンなど)、鳥の羽毛や排泄物、農作業での有機粉塵などの抗原を繰り返し吸入することで起こる、III型およびIV型アレルギーによる間質性肺炎・細気管支炎である。急性型では抗原曝露の数時間後に発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が出現し、抗原から離れると改善する。病変の主体は間質と細気管支で、肺胞の血管壁が破綻する病態ではないため血痰は通常みられない。
- ○c. Goodpasture症候群
糸球体基底膜(GBM)と肺胞基底膜に共通して存在するIV型コラーゲンのα3鎖(非コラーゲン領域)に対する自己抗体(抗GBM抗体)が生じ、基底膜に線状に沈着してII型アレルギー機序で組織を傷害する。肺では肺胞毛細血管が障害されてびまん性肺胞出血を起こし、血痰・喀血、呼吸困難、貧血を生じる。腎では急速進行性糸球体腎炎(半月体形成性腎炎)を起こし、血尿・蛋白尿と急速な腎機能低下をきたす。喫煙や吸入刺激による肺胞基底膜の傷害が肺出血の誘因になるとされる。現在は抗GBM抗体病という名称も用いられ、治療は血漿交換、副腎皮質ステロイド、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬が中心である。
- ×d. マイコプラズマ肺炎
Mycoplasma pneumoniaeによる非定型肺炎で、学童から若年成人に多い。発熱と頑固な乾性咳嗽が特徴で、痰は少なく、聴診所見が乏しいわりに胸部X線の陰影が目立つことがある。気管支・細気管支の上皮を主に障害するが、肺組織を壊して出血させる病態ではなく、血痰は一般的な症状ではない。細胞壁をもたないためβラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系が用いられる。
- ×e. 肺リンパ脈管筋腫症〈LAM〉
平滑筋に似たLAM細胞が肺やリンパ系で増殖し、肺に多数の薄壁嚢胞を形成する疾患で、ほぼ全例が女性(主に妊娠可能年齢)に発症する。結節性硬化症に合併することもある。主な症状は緩徐に進行する労作時呼吸困難と、嚢胞破裂による反復性の気胸であり、リンパ管の障害による乳び胸水・乳び腹水や腎血管筋脂肪腫を伴うこともある。血痰がみられることもあるが頻度は高くなく、「血痰をきたしやすい」代表疾患とはいえない。治療にはmTOR阻害薬のシロリムスが用いられる。
血痰・喀血の主な原因
・感染症: 肺結核、非結核性抗酸菌症、肺アスペルギルス症(アスペルギローマ)、肺化膿症、細菌性肺炎(肺炎球菌性肺炎の鉄さび色痰、クレブシエラ肺炎の暗赤色ゼリー状痰など) ・腫瘍: 肺癌(特に扁平上皮癌などの中枢型)、気管支カルチノイド ・気道疾患: 気管支拡張症(大量喀血の原因として重要) ・循環器疾患: 肺血栓塞栓症、僧帽弁狭窄症、肺動静脈瘻 ・びまん性肺胞出血: Goodpasture症候群(抗GBM抗体病)、顕微鏡的多発血管炎(MPO-ANCA)、多発血管炎性肉芽腫症(PR3-ANCA)、全身性エリテマトーデス
肺腎症候群
肺胞出血と急速進行性糸球体腎炎が同時に起こる病態を肺腎症候群と呼ぶ。原因としては、ANCA関連血管炎(特に顕微鏡的多発血管炎)の頻度が高く、次いで抗GBM抗体病(Goodpasture症候群)、全身性エリテマトーデスなどがある。腎生検の蛍光抗体法で、抗GBM抗体病では基底膜に沿った線状のIgG沈着、ANCA関連血管炎では免疫沈着がほとんどない(pauci-immune)ことが鑑別点となる。
びまん性肺胞出血の所見
急速に広がる両側のすりガラス影・浸潤影、貧血の進行、気管支肺胞洗浄液が回収ごとに赤みを増す血性液となること、ヘモジデリン貪食マクロファージの出現などが特徴である。なお血痰を伴わずに発症する場合もある。
POINT
・Goodpasture症候群(抗GBM抗体病): IV型コラーゲンα3鎖に対する自己抗体 → びまん性肺胞出血(血痰・喀血)+急速進行性糸球体腎炎(血尿)。 ・肺腎症候群はANCA関連血管炎、抗GBM抗体病、SLEを鑑別する。 ・肺胞蛋白症: 抗GM-CSF抗体、乳白色のBALF、crazy-paving。 ・LAM: 若年〜中年女性、多発嚢胞、反復性気胸、乳び胸水。 ・マイコプラズマ肺炎、過敏性肺炎は乾性咳嗽が主体で、血痰は典型ではない。
